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波風

「それで? ジークフリード、エイリアンのあの娘との関係は進んだかい?」

「アンドロマリー……表向きには僕はアンタの愛人ってことにさせられているんだから、人の前でそういう下世話な話はするべきじゃないよ」

応接室、というわけでもない高貴な者の側仕えや執政官、騎士が距離を置いて控えてる。窓を越えた向こうに異世界から誘拐されたみんなと育てた花畑の丘が見える開けたスペースで、少し酸っぱい紅茶を飲んでこの味が好みじゃないと想いつつ二杯目を少なめに注いで貰って会釈する。

「堂々と不貞を流布するような女が不貞を許さないとでも思うのか? 一応、設定上は私は男でも女でも好みの相手は愛人にして抱えるような王族だぞ? それが、相手が浮名を流すのを推奨しないというのは卑怯だとおもわないのかな?」

「処女のくせによく言うとは思っているけど……その設定は事実でしょ」

「なぜ私の操を知っている?」

「そりゃ、さ……お前、アンタ、そういうの無理だろ?」

「……違うな。貴様は確信していた。故に『決めつけ』という自供の前に返事を迷った。……そうか、そういえば透視の類の術が得意なんだったな?」

「正解!」

 指を真上に刺して、おどけた笑顔を取る。実際に術のことを言われて嬉しくなる。

「水源とかを調べる術の応用でね。一応生物学的に処女かを見極められても、処女じゃないっていうのは判別不可能ではあるが、……すまん、下世話な詮索への返事にしても、下世話が過ぎる話になってしまった」

「いいんじゃないかな? そのかわりに、君のことを処女になつくという空想上の聖獣、ユニコーンの生まれ変わりだと信じさせてもらうけどね」

「ひっひーん」

「もっと迫真にできる?」

「ヒヒ! イーンっ!!」

 ニヤけ面でいったら迫真を要求されたの、椅子から離れて(いなな)き立ち上がる馬の模倣を全力でする遊びをしたら、かなり引かれた顔で言葉に困ってたので椅子に座って、最初のニヤけ面にもどす。

「なんか、ダメだった?」

「本当にやるとは、冗談のつもりだった。ごめん」

「ほら、一応貴女偉い人だから、こういう事する喜ぶかと思って」

「そういう愚者がいるのは否定しないが……、一応権力者に偏見は持ってるんだね」

「いや? 権力者じゃない、アンドロマリーの下品な部分しか見せられてないから、本当にそういうのが好きそうに見えただけだよ。僕の前でアンタが下品じゃなかったとこがあるか?」

「は? そんなことないだろ」

「思い返してみるといい。そういう部分以外のアンドロマリーの姿を僕は視たことないよ」

「そんな…………、そういや? ……お金で行動を縛る行いって下品かない?」

「結構、下品だと想います」

「あぁああ! うん、これからは友人として気のいい部分を見せる努力をするよ! だから、あぁ、すまなかったね」

「それでも助けられているから、この態度ですよ」

「……その、え? なにの態度が?」

「本来なら僕は貴女に(へりくだ)るような対象ですが、貴女は僕やクラーラに特殊な意識を向けているようなので、他のまえた限りは砕けた態度……対等でいるのは難しいですが、できるだけ慇懃無礼で対等な友人を心がけることが僕なりの感謝の形ですよ」

「ジークフリードも難儀な性格だね」

「帝国崩れの騎士の家系でしたから、何もなければ忠誠も……向ける相手がいましたから」

「そっか、私達と同じだな……ん? そう考えると、私の知っている我々6人中4人が誰かに忠誠心を持っていることになるな、奇跡の子の性質か? いや、そういう環境で生まれ易い? それとも、生存率……? 不思議だね。奇跡の子は誰かに忠義心をいだきたくなるらしい」

「またその体質の話? 遺伝的な条件の発露が精神に影響するのは珍しくもないし、統一した要素の一つくらいでいいんじゃないですか?」

「うーん、だが、奇跡の子はほぼ遺伝しないからなぁ。君と私で子供を作ったところで、私が自分の子供を同族と認識するような希望的な観測はしたくないから、奇跡の子以外と深い仲になれる君とクラーラの間で子供を産んでもらって、子供を愛でる二人を愛でるために子供を養子に迎えた方が楽だと思うんだ」

「いきなり知らない計画を暴露しないでくださいよ。冷静になってください? それ、結構、いや、かなり、気持ちの悪い発言してますよ。計画するのは良いけど本人に言っちゃ人としておしまいですよ」

 照れ隠しのつもりか、顔を赤らめて紅茶を唇に嗜む。

「自覚はあるさ、だがな……私はそうでもしないと遺産でいろいろと問題がだな。私の感覚が私は人じゃないと言うからそれが一番楽で」

「……」

 本当とは思ってないので、疑いの眼差しを送って態度とする。

「安心したまえ、君とクラーラの子供なら誰でも良い。エイリアンの彼女との間の子供でも愛せる自信はあるよ」

「そこまで打算で愛したら、一周回って本物の無償の愛になってるんじゃないです?」

「愛とはなんだろうな?」「愛せる理由があると思えた上で愛していると思っていること」

「即答かい……つまり、『愛』の本質は思い込みということを言いたいのかな?」

「そりゃ、家族とか、同族意識でも愛せる理由になるって思えないと愛せないよ」

「そうか、ならば私も君の定義する愛を持って思い込めているという。ことでいいんだよね?」

「それはそうだが。はい、感じたことを言葉として表現できるかが人らしさの一つみたいなものだし、『そんなものじゃない』とは誰にも言わせないよ」

「はは、それは、頼もしい」

「あくまで、『僕の定義する愛』を否定したやつをぶん殴るだけです。だから、貴女の同族意識は理由を理解できませんでしたけど、間違いなく僕の知っている愛情ですよ」



 控えの騎士が入れ替わったのみ視て、本当にそれが理由かは分からないけど、騎士の移り変わりを眺めたと思っていたらアンドロマリーから話を切り出される。

「あぁ、それと今後の予定だが、数日ここに滞在した後に君の登城を案内することになっている。書籍と資産、前にそこの学術都市で提示した魔術の褒賞関連で手続きが必要になったらしい」

「登城? いきなりなにを、いや、それってここを空けろってことか?」

「あぁ、これは王命だから拒否権はないよ。と言っても、理由があれば拒否もできはなくはないけど、あぁ、安心してくれたまえギュヌマリウスをここに置いていくから、彼はあれでも私の部下では最も信用できる戦力なんだ」

 は? よりにもよって、ギュヌマリウスだと!

「なんにも安心できる要素がないじゃないですか! あの人、エイリアンを抹殺したい側の人間だろっ! ダメだろ! そんなの」

「彼は、……そうだね。初めて会った時のことをそう解釈してしまったか、いや、違うんだ。彼はエイリアンは無条件で危険と誤解して慌ててたんだ。彼なりに私を護るための判断で、無知故に蛮行で……」

「そんなことを言われても信用できる部分と信用を失った部分は別! アイツがエイリアンを殺そうとしない保証や、誰かにそそのかされない保証はない」

 騎士の方を視て苦笑される。

「本人もいる場所でよく言えるね」

「聴かせてんだ! 根に持っていることくらい言わせてもらう。嘘だ! 居たことに気づいてないよ!」

「……困ったな。この保養地の管理長を……どうしようか」

 …………信用。託せそうなのは、クラーラ……いや、

「聖騎士を代理に、今はクラウス? クロヴィスとか呼ばれていたあのおっさんを代理にしてその代理補佐をギュヌマリウスに任せたい。経理関連の権限はギュヌマリウスでいいが、防衛、警備に関してはあのおっさんの方がよっぽど信頼できる」

「メディテュラニス連邦の天弓とか呼ばれれいる聖騎士の男か……たしかに、彼より実力を担保できるものはいないが、よく信頼できるね。名前もよくわからない『彼』を」

「偽名名乗りまくるとかあからさまに『なにかある』って言ってるみたいで胡散臭いから丁寧に身辺調査しんだ。結果はどうだ。なんもないって確信できるだけの素行を確認できたんだ」

「素行、そうか、信頼を得るには普段の行動が重要だね。私に足りないものだ」

「警備関連は『彼』に、委任を打診していいか?」

「そうだね……受けるかな? あの聖騎士の方」

「……どうだろうか? まぁ、うん。確認したら次の案を考えたら良い。それだけ、ギュヌマリウスには」

「命令には忠実な男なんだけどね。君を斬った過失はまだ拭えないか」

「実力や忠義は信用しているよ。だが、根に持っているだけだ。すまないとは思えるだけの無茶を言っている自覚はある。アイツにだけは思わないけど」

 本人を向いてそこに居ないようなことを言ってみるが、目をつぶって知りませんよ? みたいなことを言いたそうな顔で黙ったまま微動だにしない。

「打診の申し込みを了承しよう。書類はいまから準備するから、サインを貰ってきてね」



 ◆ ◆



 契約書類を読み上げる奥さんの解説を聞き終わると、聖騎士のおっさんは頬を指でかく

「え、それは俺に任せてもいい仕事なのか? 他に」「了承するわ!」

「え、勝手に」

「了承しなさい。クロヴィス! 貴方はただでさえ政務に関わらないから議会から嫌煙されているのだから、他国との繋がりは大事にしなさい! これはチャンスよ。もしもの時に仕事をできるように」「わかった! わかった! そういうのはいいから」

 クロヴィスと呼ばれた聖騎士のおっさんを婿にとったらしいフェルメイアさんはかなり乗り気で、旦那に仕事をさせようとしているみたいだ。

「我が夫を用立ててくださり感謝至極申し上げます。ジークフリード管理長」

「うん、彼が一番強いから、警備関連は後からきた役人よりしばらく仕事してくれた聖騎士さんの方が波風が抑えられそうだと思ってね」

 ギュヌマリウスが代理になった時に波風を起こすのは僕なんだけどね。

「そう、でしたか。お疲れ様です」

 なにかあったのだなと察したと示す態度で表情だけでいたわられた。違うんだけどね。

「そうは言っても俺に人員の管理とかまともにできないぞ!」

「そのために私から副官をつけているのでしょう? 貴方の仕事は副官の管理とその実力による警備なの……ですよね!」

「えぇ、その点、連邦の皆様は我々が見抜けなかったタニス王国の反逆者の取り締まりに着実な実績を出されておいでで、警らに関しては私どもよりも優れている証明は済んでいるでしょう。あとは相互監視の理念においても協力的で定期監査も自由に入らさてくれていますから」

「旦那と優秀なる部下たちへの正統なる評価、我が感謝でこの身も痛み入ります」

 旦那に『優秀なる』がかからない言い回しにするあたり、聖騎士のおっさんへの仕事に対する評価が伺えるが……。

「それでなんですが、サインをもらいたのですが、聖騎士さんの正式な書類での名前って」

「『ルイス』だ」

「え?」

「書類にサインをするときは『ルイス=カンビオン・ディープシー』の名義を使っているよ。一応名前が多い自覚はあるが、便宜上の本名もある」

 最悪もう一人の聖騎士の奥さんのフェルメイアさんに委任する形にしようかとも思っていたが、一応、名前はあるらしい。

「えぇ、同期の聖騎士はみんな彼をクロヴィスと呼んでいるけど、書類のサインはルイスで合っているわ」

「そうなんですか。ありがとうございます。これで、僕が出発したあとの保護を任させれます」



 ◆



 鎧を装備した騎士とスーツを着用した執政官に案内され、執務室にノックすると入室を促されたので入って開口一番に成果を口にして扉を閉める。 

「サイン、もらえたよ」

 書類をもっていないもう片方の後ろ手で扉を閉める前に、室内に声をかけた数人の中の相手がアンドロマリーではなく、本人はその正面の机越しに座っていることに気づく。クラーラと、ユーリとシャノン!? 何のようがあって……、

「……この話はこれで終わりだ。どの道、私達も勝手についていく許可は貰っているんだ。邪魔はしないよ」

 苦々しい想いがあるのかアンドロマリーは眉間に指をあてて、

「わかった。本当は嬉しい限りなんだけどね」と苦しげに漏らす。

「ユーリ? シャノン? クラーラと一緒にアンドロマリーになにを」

 困ったように笑ってごまかすシャノンと、ユーリのその

「え?」

 泣きそうな目でこっちを振り返った。そのはずなのに、底の抜けたような深い慈愛を感じさせるような、この感覚はなんだ? しかし、一瞬で笑顔で手を手首だけで軽く振るおどけたような上機嫌ユーリの姿が見えたから、

「いや、気のせいか?」

「ごめん、フリッツ、私も登城についていくわ」

「え?」


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