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文句は言わない

 クラーラさんが疲れたような足取りで演技がかった泣き言でロビーに入る。

「うわーん、ジークフリードくーん、アンドロマリーの相手役を私一人に押し付けるなよー。君もちゃんと負担を分けて受け取りやがれよー」

「あぁ、うん、そろそろ帰った?」

「今日は泊まっていくよあの人」

「あ……? え、そう」

「うん。まぁ、えぇ」

 微妙な顔で目をそらし合って、双方足元の床を見つめる。

 ロビーには私達異世界人を含めて結構人がいるのだが、あんまり気にした様子もなくジークフリードしかいないかのような態度でクラーラさんはくつろぎ始めて、しゃがむように行儀の悪い姿勢で椅子に座り天井を仰ぎ見る。

「……逃げれないかぁ」

 ジークフリードがつぶやくと、忌々しげにクラーラさんは早口で愚痴を言い出し、

「あの女、いま、まぁ、なんか機密に関わるのか関わらないのかよく分からん仕事しているっぽいけど、表向きにはこっそり衛星国中を回っているみたいだけど、本当はなにかしていても、実際に何もしてないのかもなくらいの建前よ。実際、衛星国で締め付けがあったとか、粛清がどうとこ軍事関連になにかあった話は、プロギュス公国外では聞かないし、いずれにしても、時間がかなり自由に使えるみたいね。隙さえあれば旅に出るからなぁアンドロマリーのやつ」

一息で言い切る。

あまりにも苛立ちを溜め込んでいたのか、言い切ると大きく深呼吸をしてまた大きなため息を吐く。

「行け」

「え、嫌だけど」

「アンドロマリーをここに来させるな、政治的な疑義は無い方がいいだろう? わかるか? 私がここで休むからにはお前が向こうに行け、雇われている身だ。機嫌は取らなくて良いから、せめて義理は果たしとけ」

 ジークフリードは渋い顔をして「うん」「うん」と、数回頷くと

「分かったよ。聞きたい話もいくつかあったから、確認のためにも……あぁ、うん。嫌いじゃないんだけどなぁ」

「そんなもの私も同じだよ! アイツはなにもかもいきなりなんだ。出会ったときから」

「出会った時? なにかあったの? ちなみに僕はいきなり貴金属を渡して王都へ訪ねるように言われた」

「あぁ、アンドロマリーらしい。な、アイツは友好的接するためのキッカケが生れるより先に友好的に振る舞ってからキッカケと理由を作るから、あんまり仲良くしたくなくなるんだよ」

「…………それは、僕はあまり人のことを言うつもりはないが、まぁ、いいよ。アレでも僕たちに向けている同族意識は本物だ。悪いようにされたことはないんだ……ないよね?」

 言うと、ダラダラと重い足取りでジークフリードは「彼女の下へ向かうから、また後で」と私とその後ろのシャノンの目を向けて手をふると、その足取りのまま外に出る。

「なんていうか、お疲れ様です」

 シャノンに挨拶されてやっといたことに気づいたような反応でクラーラさんは軽く眉を上げてから「ん、おはよう」と手を軽く上げる挨拶で済ませる。

「ねぇ、貴女のその態度、アンドロマリーやジークフリードとそっくりよ」

「は………………っ、え……最上級の侮辱?」

「なんでそうなるの」

「いや、冗談よ。冗談…………冗談じゃないくらい衝撃は受けたけど半分は冗談よ。いや、え? なにが……え?」

「ジークフリードと貴女はアンドロマリーさんの特徴を総合して『唐突に距離を詰めてくる』と『仲間意識が不自然に強い』って言っているのよね?」

「……否定できない」

「ジークフリードはいきなり瞬間的に有効的になったわ」

「あ?」

「貴女は仲間に対して未練があるようなアピールしていると同時に身内以外に対して誰がいるか識別しようとしないと誰もいないような反応をしているわよ」

 本気で青ざめたような顔をして、額に手を当ててすこしかぶり振るような仕草をすると、「あぁ」とか「うん」とか、言葉になっていない声を漏らしたあと、苦虫を噛み潰したように言葉を探す。

「はぁ…………ぐゅぅ、……治すわ」

「……そうですか」

 周囲のクラーラさん以外のこっちの世界にいる人達の視線を確認する。クラーラさんが冗談めかしたような態度に気が緩んだその瞬間、決定的な一言を───!

「腐乱諸島で使われたのは私達の核爆弾、核弾頭よね?」

 顔から冗談めかした冷や汗すら引いて、色も何もない感情を全て覆い隠したような目で私を睨む。クラーラは言葉を一度選んだ。

 何もない。

 無地故に覆い隠した感情の高ぶりを証明する。読み取らせないための造花の如き無表情。

「……他言は?」

「確信はしてたけど、確認出たのは今が初めてよ」

 クラーラは一瞬目を伏せると上機嫌なような態度で苦笑を演じる。

「いや、一杯食わされた。じゃあ面白い話をするよ。私とアンドロマリーの出会いは……あぁ、これは言っちゃダメなこともあるんだ。……そうだな。代わりの話に……当時の、昔話を聞かせてあげる。ついてきて」

 至って楽しそうな雰囲気で歩く、まるでジークフリードと話していたときのような気軽な、理解しているのか分からないけど、シャノンも私についてきちゃう。

 通信室と看板が扉の枠に掲げられる部屋に入って四角い打点機のような装置の前で座った彼女が手に平を他の椅子に向ける。ちょうど二つ、丸椅子が空いている。

「掛けなよ」

 私が座る。シャノンは意を決したように唾を飲んで座る。

「どこで知った?」

「新聞のコラムを読んだら分かった。あれは、私達の世界の技術だ」

「………………あぁ、危険性の説明と回復のアピールのためにそういう事業には手を貸している。私も随行したことがある」

「そのコラムの内容を呼んで判別できた危険性の特徴が、我々の世界で起きたことがある被害とよく似ている」

 座るやいなや。質問する。

「へぇ、困ったな」

 へらへらと笑って別に種を一つ明かしても困ってない手品師のように頭をかく。

「いやぁ、本当に困った。へはっはは」

「困っている? いや、困るのはこれからにしてくれ」

「なんだと? なにをする気だ?」

 一瞬で臨戦態勢になったのか、こっちの世界で言う魔力をバチバチと叩きつけられるような痛みに錯覚するほどに集まって固まっているのが感じられる。

「ユーリ、貴女はなにを」

 両膝を床板につけ、両手のひらを頭の上になるように地面に貼り付けて額も床に擦り付ける。

「……なにをしている?」

「ユーリ? なにを、なにか落としたの……かな?」

 …………土下座だ。

「私の地元における最大級の懇願だ。受け入れられなくて、ここで殺されても文句は言わない。だけど、懇願だけはさせてほしい時の姿勢だ」

 言えるのは一つだけ。乱れもしない静謐な感情がそれだけを望む。

「我々が世界を滅ぼす前に、あなた達の世界を護るために今迫っている危機の説明をさせてください」

 息遣いは聞こえた。なにも返事はない。無言を肯定と仮定して私は説明を始める。

「クラーラさん、私はこの世界に迫る危険性の説明のために『核爆弾』という固有名詞を持ち出したわ。その固有名詞すら忌避されることだと言うことは理解しているつもりだけど、それより酷いものが使われようとしている。今この世界に侵入した危機の説明のために使うことを謝罪させてください」

「あー? うん、向こうの世界のそういうのは口に出したらいけないが……分かった。全部聞いてから判断するよ」

「この世界で核爆弾が使われたのは、王国の西の海の諸島で一回、それだけですか?」

「……話す前に覚悟して、内容によってはその首を撥ねないとならない。本当なら今すぐはねるべきかもしれない。だけど、少なくとも、今すぐは話が終わったら拘束だけで済ませられるわ。その前提で覚悟してから話して」

「もうしてる。この世界を我々の世界が滅ぼしてしまうくらいなら、殺されても良い。私達の世界の異能……あなた達の世界で言う魔法使いのうち、おそらく5人核爆弾でも比較にならない破壊のみが可能な能力を持ったものが居る。その中でもっとも強い力を持つアレクシウス・ゼンダウソンは最大出力で魔法を使ったら、世界の全ての生物を三回絶滅させられるほどの冷気を放出できる可能性が高い。貴女が前に戦ったあの男だ。フリッツを殺そうとしたアイツだ。……私には刺し違えてもいいなら、アイツを殺せる自信がある。覚悟もある。だから、判断を委ねるためにも」

 心から、懇願する。いま出した情報が伝わるなら殺されもいい。だから、

「貴女たちの信奉する預言者シグフレドと話させて、いや、伝えるだけでいいんです。だから、この世界に迫る危険に対する情報を提供させてください。我々の世界から、この世界を守らせて……ください」

「………………保留させてくれ、私は……いや、どうしたものか」


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