苦悶の表情で
夕暮れ前に到着するとの先触れの通知が早馬で届いたので、都市部から送られたの多くに職員に予定の変更を告げ、あとけ掲示板に記す
「計画より早く移動? あぁ、セキュリティのために時間ずらしてんのか」
そんな反応で皮肉めいた苦笑を漏らすが、到着する視察予定の方が『高貴な方』以上の情報は僕の権限では伝えるとまずいため、職員には明日の朝方の予定が今日の夕になったという、お迎えの準備の前倒しを告げているだけで雑な連絡をしているのに、皆キビキビ仕事を畳み、用意された自分の対応を構えてそれぞれの場所と、高貴な方用の来賓用コテージと村の入口を中心に構える。
計12人になった異世界人、エイリアンたちのケアのためにスケジュールの変更と埋め合わせに室内で暇しないようなカードを使った簡単な遊びの準備をして、平謝りしておく。
「誰か、くるんですね?」
「あぁ、うちの国のおえらいさんがね。最近忙しいし、仕事するふりして……こっちに隠れていたほうがいいかもな」
「サボり? フリッツもそういうのするんだ」
「なにその評価? ユーリの中の僕はいったいどうなってんの、手厳しいのかな? それとも買いかぶっているのやら。サボり……ではないとは言えないけど、適材適所の問題だよ。僕は本来別に外交官ってわけじゃないただの魔道の研究をして食ってきたいだけの武芸者だし」
「ねぇ、その」
「実際魔術関連で結構貯金は入っているのだから食ってけているとは言えるけど」
「…………フリッツ」
ユーリの真剣でありながら怯えるような不安定な眼差しに僕は一拍、驚いて一瞬息を呑むが、ただ、親愛なる友として聞き返す。
「……なに?」
「前にこの施設でフリッツを襲った男について、説明しないといけないことがあるの」
「あー、うん……それは向こうの世界に関する情報かい?」
「えぇ、だけど、あなた達も知らないといけない危険性の話よ! あいつは」「黙って!!」
強い語調で友人に静止を促し、怒りにもにか口元のおそれが歯を浮かせるのが自分の中でも感じている。周囲の外国と現地職員の注目を引いたことを確認して、声を響かせるように皆に、ユーリにも、他のエイリアンにも、職員の皆様にも伝えるために演説のような一方的で独りよがりな声で話す。
「あぁ、ごめん、話したいことがあるなら、他の国の監査官も集めて聞いてあげる。そうしなくてはならないんだ! だから、うん。どうせ半ば接待をサボるような委任をするつもりだったし、ちょっとだけ待ってくれ、すぐに各国の審議役を呼んでくるからな!」
「……ごめん、気を使わせて」
「いいんだよ。それが仕事なんだから、だけど聞くべき内容かどうかの判断は僕の仕事じゃない。契約のもとに各国で共同で進めるべき事業だ。一人ではしない。それだけは譲れないんだ。これは君たちを護るために必要不可欠な条件なんだけど、分かりづらいことは分かってる」
押し黙って、なにかユーリが言おうとしたのを感じたのだから、言われないために確認を、
「いいね?」
「……っ! はい」
「ありがとね」
バツの悪さを感じながら僕は各国の文官と騎士を呼び、研究専用の遮音性の高いレンガ造りの建屋で話をきく準備を整える。
準備自体は順調だったが、アンドロマリーへの対応を全て本国からきた文官に任せることになったけど、彼らにとっても気に入られるチャンスだろう。僕はこっちの仕事を優先する事にして棒に振ったチャンスでアピールすることにした。
◆ ◆
――――――――――――。そう言われても、どう判断すれば、
「あぁ、教会騎士団……連邦の一部のものはその存在を認識はしている。だが、爆弾と同等の魔法の存在は……未知、だったと思う。私達の上位者や秘匿にした一部が居ないとは言えないけど、どう、だろうか? どうかね? ルヴィデイル君、キミは分かるかい?」
「いえ、……そういう、技術開発に関わりそうな諜報は箝口令が……」
「箝口令の管理に関しては誰に聞けばいいと思う?」
「その、そういう異世界に関する箝口令は管理を分散させて、誰も理解できないようにしているので……心当たりは一部しか」
「だそうですよ!」
連邦の年をとった魔道師先生は微妙な反応だ。そんな微妙な反応で助手に聞いて受け流す。それを周囲の各国の担当者で目線を一通り交差させて、一応、他に確認することを探して促す。
「ありがとうございます。カンジ博士、で、その爆弾について注意すべき情報は?」
「……どうやら彼らにとっても簡単に持ち運べるものではなく、ある程度規模の大きいマシンを持ち運ぶ必要があるようでね。急いでマシンを破壊すれば壊血病を誘発する毒を散布される程度の被害で済む。そういった毒も、腕の言い緑属性の魔術師なら治せないような即死性の高い毒じゃない。だが、治療しなければ苦しみつつ細胞が崩れ、毛髪が全て抜けた後骨が溶けたように崩れて言って死ぬ。そういう毒だ」
助手がのデイルさんが説明してくれる。
「そうとうヤバい毒みたいですが、治療法は確立されているものなんですか?」
「まぁ、そんな珍しいものじゃない。循環器系の免疫治療の一種で済む。君も奇跡の子の体質なのだから、幼少期は世話になったことがあるはずだろ?」
「……どう、でしょう?」
最近まで使わなかったから余命宣告を受けていたが、あの時預言者が僕に刺して熱を出したやつがその魔術だったのかな? いや、そもそも僕が奇跡の子って共通認識なのかよ。
「今も五体満足の体なら使ったさ、そういった免疫不全が起こりやすい体の幼児期の予防医療として、緑の魔術を学んだからと言って……だれでも使えるものじゃないが、腕の良い者なら学べば良い、その程度の高い難易度だよ」
「普及している程度は?」
補足してくれる彼の上司たるカンジ博士が治療法の程度を聞くと困ったように眉を寄せる。
「私は使えるが、……デイルくん? どうかな」
「私も使えますが、子供の頃、地元から治療を受けに行った友人が、大きな街に一ヶ月に一度、往復に二日かけて通わないとならないという話をしていた記憶があります。感覚で、町医者が数件ある大きな街でも、一人使える人がいたら運が良いという認識をしていますが、他国ではどうでしょう? わかりかねます」
聞くと、手をあげた方にどうぞと、手を向けるとあら事の多い国の軍人が答えてくれる。
「そうか連邦はそういったところか、我々、共和国は街に一人いるかどうかの達人の領域、と、認識している。我々は緑の魔術を重宝する国是であるため、あまり参考になりませんが、そう、治療手段そのもの珍しいものではないでしょう。問題は爆弾よりも、爆弾に準ずる基準です」
と、そのまま軍人のおっさんは話の流れを引き戻し、ユーリの説明から、補足を求める。
「エイリアン・ユーリ、君の言う《ビッグ5》の知る限りの基準を、別の言い方で聞かせてもらえるか? 核爆弾などという存在は我々の世界には存在しないため、その説明は求めるつもりは毛頭ないが、『世界を滅ぼすほどの威力』と言っても程度がやや、抽象的でね。世界も、滅ぼすも、曖昧な言葉でね」
「はい。そうですね。ビッグ5は……私達の居た世界『地球』に住む全ての生物種の95%を消滅させかねないほどの出力を持つ、すなわち、世界を滅ぼし、神が創世記をやり直すほどのラッキーが起きないと全ての生物が絶滅されかねないほどの異能力を持つ、いえ、あなた達のいう魔法を持つ個人のことを言います」
「全ての生物を根絶させる威力、という意味で良いかい?」
「はい」
「あぁ、皆様は、いや、我々はこれを……真に受けるべきだろうか?」
おっさん軍人は首をかしげて、周囲に問う。他の国の動きに合わせて対応を決めたいようだ。
「前回、襲撃した彼、アレクシウス・ゼンダウソンがその中で最も危険な『魔法』を持つ存在です」
反応に困る。他がわからないのに、一番がどうとか
「…………対応した聖騎士さんなら……わかりませんか」
苦悶の表情で聖騎士のおじさんに聞いてみるが、おじさんは驚いたような反応をして自分が話に関わるつもりなんてないなんてことを露見させてしまう。
「えっ!? 俺、あぁ、えっと」
「ちょっと……アナタ」
夫婦であるらしい、同僚の聖騎士の女性に横目で視られて、薄く笑ってごまかして、考えを浮かべる。
「うーん、俺と比べてそこまで強いとまでは……、でも時々自滅を気にしてるような動きをしていたし、俺らの言う天属性の魔術じゃないと再現できないようなことしてるらしいが……」
唸って、考えた結果、こちらも苦悶の顔色で答える。
「うーん、そうか? いや、そこまで強いか? 逃げられた俺が言うべきじゃないが、あんまり余裕なかったぞ?」
周囲は安心したような反応になるが、
おかしい。ユーリと聖騎士のおじさんだけは苦悶を解かない。なぜ、答えに納得していない。
この集会の中で提示された情報は全て機密性の高い情報として扱われつつも、優先度はそこまで高くない評価として各国の本国へ送付される手続きになっている。判断されたのだ。
だが、どうなんだろう。これは、
あの二人の、望んだ答えを出せない苦痛というか、あらかじめ答えを知っているのに、どうしても答えとし違う解しか出せない時の、何を間違っているのか分からないような表情にどうしても、不穏な何かを感じてしまう。
僕は……、いや、そうだ。クラーラに聞いてみよう。彼女はこの場のことを秘匿にしつつ、アンドロマリーの応対を任せたからここにはいないが、アレクシウスの対応もしたし異世界の危険性に関して預言者からなにか、教わっているかも……いや、なにか知っていたらいいな。くらいの心構えで聞くべきか。
ユーリをエイリアン宿舎に送ったら、できるだけ早く聞くべきか。いや、どうせ重要性は……、どうかな? それを、知っているから預言者シグフレドは預言者を名乗ってマシン廃絶を訴えているのでは?




