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それも可能性

 「しくじった」

 連邦で聖騎士をしているおじさんが連絡手から口頭で受けた説明で苦々しく思うと頭を掻く。

「じゃあ俺はどうするんだ? 一応……これでも騎士を仕事で名乗っている以上、指令が下っているならそれに従うつもりはある。だが、命令の破棄というなら確認しなければならないことも多い」

 若輩の兵である僕が渡した手紙を見て独り言を吐き捨てて苦悶の標高を浮かべる。

「あの、与太話かもしれませんが、私めは筆頭聖騎士のおじさんが待機してくれる前提で手紙を渡されました」

 受け取った書類の内容をなにかと不安になるような考えも持たざるを得ないが、

「そうか、ありがとう。本国と違って俺はこの流刑ち……保養地に人員を割いて首を突っ込むより人員をある程度引き戻して、関わらないふりを取るべきだと思うが、止む得ないか、意味はないと思うが意見書だけは用意するから、返事の護送を頼むよ」

「はい!」

「じゃあ、ポルカスくん頼んだよ。俺はここの責任者に釘を刺しておくよ」

 自分たちに割り当てられた兵舎を下り、表口で副官になにか軽く声をかけて聖騎士のおじさんは歩いていった。

 おじさん。一応今はクラウスと名乗っているそうだが、数日前はマリウス、数ヶ月前にあったときはルイーザと何故か女性名だったし。急に仕事場で会うと「今の自分に名前は無い」などと言い出す。一応法律上の本名に当たる名前はあるし公称としいてみんな知っているのだが、聖騎士のおじさんは、かつて自分が行ったその名を与えた偉い人への不義を悔いて、本名で呼ばれても「自分はその名ではない」と宣うことを誓っているそうだ。

 なので、僕らのような若輩の連絡手を務める一兵卒からしてみたら、呼び方の困るので正面では本名でなく「聖騎士のおじさん」という表現を使って会話する。

 やや不躾な表現だが、おじさんの武勇伝が実感の伴わない年の離れた若造であることが上手く作用したのか、おじさんに名前を覚えて貰っていて目をかけてもらえている。本人が言うには『貧民育ちだからあんまり偉ぶっても疲れるからそんな仕事は同僚に任せている』そうだが、


 ◆ 


 ――――――、連邦国からの駐屯兵増員の知らせ。しかし、これは随分、数が多すぎる。

 何人か書類作業をする執政官の机に囲まれた応接机に向き合って、安物の茶と無駄に高価な茶菓子に手をつけずお互い持ち寄った書類の確認を終えて会話を始める。

「大部隊……これを3つの分隊に割り当ててここに駐屯って、そちらの本国は王国と戦争でもする気ですか?」

 言わざるを得ない苦言に、僕は言うべきではなかったのではないか? と、顔を見て色を伺う。それでも、不安は喧嘩っ早い話を組み立ててしまう。

「まぁ、そういう反応になるよな。だが、それは違う」

「違うって言っても、軍隊をこんな数持ってきてそんなつもりは微塵もありません。は、通りませんよ。無理です。いくらなんでも通るには……」

「それはそうだろうが。確かに……そう、俺に本国の意向は断言はできないし、そうでないと願っているだけかもしれないが。それは否定しない。主力の大半は議会下の軍でなく教会下の対マシン・御使い信仰用に編成された騎士団だから、十中八九戦意は無いだろう。むしろ、誠心誠意の協力の意図であってほしい、なにせ」

 本当に困って答えに詰まる聖騎士のおっさんに苛立ちすら感じてしまうのは、本当はよくない感情の発露なんだろうけど。

「なんですか?」

「いやなに、教会が勝手に侵攻なんてしたらただでさえ仲の悪い議会下の軍隊と内戦になりかねない。そんな馬鹿なことはしない。それをなんとか説明したいのだが」

「だったらなんでこんな大部隊を! 王国があんたらの内情まで汲んでそう思うと思っているのか」

 いかんいかん、声が荒らげてしまう。

「……これは秘密にできない、話だが。おそらく議会は俺を国防に回す気なんだろう。それに大丈夫さ。我々が総力戦を挑んでもコルネリア嬢がいる限り王国には勝てない」

「? よくわからないが、あんたは帰るってことか」

「まだ断定できないがね。本当にこんな戦力を持ってくるなら俺を引き下げないと交戦の意志があるって流石に思われるだろ。俺が帰ったら総合的には戦力は減るのだから、という言い訳ができるんじゃないか? って話だな」

「…………」

 この人が戦ってるとこ結局見なかったけど、爆発音が軽く小突くくらいの異常な量の連打で出してたけど、そこまで強いのか。

「安心しろ、いくらなんでも俺はコルネリア嬢よりは弱い。だからこそ、俺と彼女が戦争したくないなら戦争は成り立つ事はなくなるくらい、俺は連邦国では最強で彼女は王国で最強だ」

 コルネリアの現実離れした強さは知っているが……、その技術の大半は膂力だけで構成されているというのに一人で一国の判断を左右するほどの戦闘力があるかと言うと……、

「そんなになの?」

「俺はこの大陸で5番目に強い」

「一と二が預言者とコルネリアなら、四番目と三番目は?」

 いや、預言者を圧倒していたしコルネリアが一位なのか?

「他はタニスの王妃と……頭のおかしい盗賊の頭かな。……コルネリア嬢とタニスの王妃はどっちが強いのかは流石にわかんねーけど、預言者が大陸で3番目に強い」

「そう、なのか、あれが三番で、上がコニア姉さんなら……聖騎士さんは釣り合いとして引かないとだめだろうって考えなのか?」

 苦笑してうなずかれる。

「そういうわけだ。この人数を揃えても俺一人ほどの戦力にはならない。だが、戦闘以外なら確実に俺がいるより駐屯する予定の聖騎士隊の方が役に立つ場合の方が多い。数は力で、力は使いようなんだからな」

 だが、苦笑は止まない。

「そうは言ってもどう、言い訳をしたところで、十中八九王国の担当者と俺たちは揉めるだろうから君がなんとかしてくれ。仕事だからな。ジークフリードくん頼むよ……俺はおそらく帰るから」

 苦笑じゃなくて少し嬉しそう?

「えっと、あぁ、まずは……そうだな。アンドロマリーに直接手紙を送ればいいのかな?」

「大丈夫よ。そこらへんは私がその担当者だから」

 同じ部屋で書類仕事をしていた執政官の隣の机から立ち上がったクラーラが立ち上がり、言葉を挟む。

「君がかい? クラーラくん」

「えぇ、アンドロマリーから直接受け取っているのよ? 名目は確か、『エイリアン保養地の地方軍を除く王国軍対応に関する全権委任状』って名義でのやつをね」

「教導会の預言者の側近の君がかい?」

 見せびらかすように突き出した紙の一番上の名義を読み上げ表明した彼女への疑問を口にしたやや長い沈黙が流れる。

「今の私はアンドロマリーヴァロヴィング王国軍総帥閣下のもとで使いっ走りをさせてもらっているわ」

「あいつの信奉者のとこか」

「あいつ? クラーラ、これって、あ、えっと」

 え、預言者シグフレドってその表現通り、宗教要素のある組織のトップなんじゃあ、信者にそんな態度をしたら!

「慌てなくて大丈夫よ。ジークフリード、私が怒ったりしないから、

「え、大丈夫? あいつ呼び」

「誰でもってわけじゃないわ。この人は教導会立ち上げ前からシグフレド様と交流があらしくてね」

「いきなり突き刺された僕としても、不敬な呼び方をしたかったんだが……ダメそうだね」

「あぁ『あいつ』、そうだな『あいつ』。あいつは予言なんて大層な能力使った割に、真面目なだけの兄ちゃんだと思ってるんだ。昔の印象っていうのはどうしても拭えなくてね。あんたら指導者へ敬意を向けられないことは謝罪する気持ちはあるがここは私情を優先させてもらう非礼を許してもらおう」

「いえ、シグフレド様はそれをたぶん、喜んでたから私から言うことはないわね。それに、貴方が非礼をどうこうとか、自分でなんとかできるわけ無いじゃない」

「だからいつも優秀な副官をつけて貰っている」

 うやうやしい礼から適当に頭をあげて聖騎士は満足げにうなずく。

「で、どうして預言者の懐にあるべき双剣の一振りが王国のもとに? 愛想でもつかされたか?」

 蒸し返しやがった!?

「それは……うん……、ねっ……あぁ、……――――――……ひんっ!」

「え、なんで泣くんだ!?」

 ギリギリまでこらえて頭を頭上に上げたっていうのに涙が溢れる。

「その、……そうだ! クラーラは、その、ゼフテロに両脚を切断されてクビになったんだ」

「ゼフテロ……? 誰だ? まぁいい、預言者とことを構えるとかそいつは何者なんだ?」

「本人が言うには市民運動の活動家」

「で、両脚は緑の術で治療済みで、なぜ戻れない。あいつは双子も子供のように可愛がっていたはずだ」

「それは……」

 決壊したように溢れ出した涙を腕でこすりると、クラーラは顔を覆うようにしゃがむ。

「私が……! っ私に覚悟があれば、せめて……迷わないなら! 一緒にいれたのにっ……」

「それってどういうことだ」

「人を殺せなかった。私には人を殺すことができないからこれから先、足手まといになるからアンドロマリーに渡しておくって……」

「殺せなかった?」

「人を殺せないならこれから身を守ることすらできないって……!」

 おっさんが黙る。明らかに険しい顔でなにか、

「おかしい。……準備のための準備ならわかるが、それでも」

「え? 聖騎士さんどうし」

「あぁ、………………俺はシグフレドの最終的な目標実現のための手段を知っていて、俺たちの国はそこらへん技術協力しているんだ。これは別に秘密とかではないが大して有名な話ではなく……、あぁ、わからんのだ。あいつの計画が開始しても人から身を守らないとならない状況がよくわからん。シグフレドはなにを想定して足手まといなんて……?」

 険しい顔のまま、手ぬぐいを取り出し彼女の涙を抑えると、背な顔を押して部屋から出ていこうと扉へ歩く。

「ほら、泣き止め、こんど俺と一緒に話を聞きに行こう。あいつは本当の理由を隠しているみたいだから、きっとなにか……」

「うぅ……ごめんなさい」

「いいんだ。だが、今は王国の職についているんだな、連邦で会ったら顔を出すように言って、……そうだな。その時は、お前の父親を五回殴らせてもらう」

 部屋を出る前に聖騎士のおっさんに質問する。

「で、その最終目標って?」

 質問しただけで、なんでもないことのように説明をしてくれた。

「別に? 秘匿されちゃいない。絵空事のような計画だ。この世界で作られたマシンとマシン工場、北アメリカ大陸に残る大量の水銀を座標指定の無い異世界のどこでもない異空間に放り投げる計画だ」

「え、それって! 喚送っ」

「んん? 確かに、お前の計画している喚送の魔導の理論とほぼ同じ内容だったかもしれん。ただ、俺らの計画では座標内の金属の塊を無差別に指定する仕様だから、実際の式は大きく異なるわけだが」

「……その式って見せてもらうことはできるの?」

「連邦から来ている研究者に聞いてみたら良いんじゃないかな? 目的は違うとはいえ、研究しているものは同じだし案外、ジークフリードが計画した喚送実験の計画と儀式魔術の式の情報共有とかしたらいいんじゃないか? 俺は式を記した魔導書を持ってないが、……仮に持ってても理解できるような内容じゃないし。それに理解したところで実現性の低い理論だから誰も困らんさ」

「そうか……! 仕事終わらせたら、聞きに行くよ」



 ◆



 場所を変え、窓先に走る背中を確認すると、風景を説明するだけの意味のない感想が口から漏れ流される。

「ジークフリードは早速ノートを抱えて出ていったみたいだね」

「えぇ」

「聞きたいのだが、シグフレドと彼、ジークフリードはどういう関係だ。知ってるか?」

「えっと、見たままよ」

 泣き止んだクラーラの表現の曖昧さになにか、不特定性を感じさせられてしまう。

「そうか、……兄弟、いや、父子か? じゃなくてもかなり近い血縁者か」

「え!? いやいや、違うわよ」

「違う? にしては見た目が何もかも同じすぎるが」

 暗い麻色の髪、少し焼けた肌、痩せ型で背も平均より僅かに低い小柄でありながら、不敵さその目の輝きから感じさせるくせに、臆病さを漏らす妙な声色。まるで、などではなく、僕が初めてシグフレドと会った時の過去の生き写しそのままだ。それなのだから、

「見て分からない? シグフレド様本人よ。言うなれば、若い頃のシグフレド様とか、過去の預言者、預言者になる前のシグフレド様って言ったらいいかしら?」

「……ん?」

「わかりませんか、……同一人物というか、シグフレド様の予言を回避しすぎた結果見失っていたかつてシグフレド様と同じ過去を持っていたはずだった人よ」

「…………? ごめん、わからん。いや、分からなくはないが、何を言っているんだ?」

「だから、シグフレド様は昔、未来から過去に戻って未来の情報を『予言』と表現して教導会を立ち上げてマシンによる終末を回避し続けて」

「いやいやいやいや! 未来から過去にって、え、じゃあシグフレドってアイツ! 20年くらい前から……そうか、あー、うん。なんとなくわかった。流石に冗談だろ。それ」

「でも、顔が同じよ」

「似ているだけじゃ?」

「骨格からなにまで同じよ」

「そんなの見て分からないな。そもそも、未来からの云々ってマジなの? シグフレドに確認した?」

「ジークフリードがいるってことは、シグフレド様は未来人なのか確認したら、変な顔でうなずかれたわ」

「そうか、そうだろうな」

 ジークフリードは予言が『未来の自分の体験の話』だったっていうのは、どうしてもバレたくない話だったんじゃないか? だとしたら、あんなに可愛がってたクラーラを教導会からも距離を離した理由は……。いや、

「……考えてみたが違うな。ジークフリードはシグフレドにはならない。なにせ……」

「なんで?」

 それを僕が今から説明するんだよ!

「どう考えても性格が違いすぎる。今でこそ悟ったように振る舞ったり落ち着いた物腰で応対できるが、それは年を取って落ち着いたからだ。グニシアと二人きりで旅をしていた頃は、教導会を立ち上げる前にな、俺が住んでた港町では……いや、やっぱり違うんだ」

 言い方を少し考えて、組み立てながら話を続ける。

「余裕が無かったせいかもしれないが、かなり優柔不断なところがあった。今もそういった人間らしい要素はかなり多く含んでいるが奴のように、ジークフリードのように即断即決なんてものは最も縁遠い、良く言えば一本芯が通っているとも言えなくもないが、あれは……」

「なに?」

 少し言い過ぎたか、不機嫌にしてしまいそうだから、シグフレドの人格の話はここらで

「ジークフリードの足りないものだけで作った……鏡のような……、なぁ、お前から見てそんなにシグフレドの坊やとお前らの親父さんはそっくりなのか?」

「え、えぇ! 鼻や目の周りの骨の形とか、みんながなんで瓜二つなのがわからないのか不思議なくらい同じ形よ!」

「…………お前って、人の顔を覚えるのって得意だったりする?」

「えぇ、仕事柄密偵とかはよくやったから」

「俺でも知っているから昔の姿に瓜二つとしか……」

 考える。なぜ、こいつは骨格レベルで判別しているんだ? 奇跡の子同士の共鳴的な要素もあったはずだが、それがどういう感覚なのか生まれつきなんて奇跡の子の要素を持ってるタニスの王妃くらいしか知らない感覚だからな。

 ん? そうだ! 奇跡の子の性質って、過剰な成長性を基にした適応能力と引き換えに生まれつきの虚弱体質になるという要素と、知的、肉体的学習能力の低さのかわりに肉体的な衰えが全く訪れない植物的な限りない成長能力だったよな。なら、仮に

「そうだった! お前も奇跡の子なんだったならさ、人の顔を識別する練習とかってした?」

「それが……? そりゃ、密偵をしていたらその仕事が顔を見分ける訓練にもなるし……」

「意図せず鍛えられすぎたんだよ! その訓練で識別能力がな。奇跡の子の性質なら説明はつく!」

「それじゃあ、私の言うことを信じてくれるのね!」

「可能性はある。だが、もっと最悪な可能性を確認したい」

「最悪な……? なにがあるの」

 もし、骨格レベルで似ているのではなく遺伝子が同じものなのだとしたら……、それが意図してそうなった可能性も、

「やつが人造人間である可能性だ。王国内でのジークフリードの出生に関わる情報を調べることを頼めるか? 俺は、あいつの細胞サンプルを適当な理由をつけて回収して王国の捜査官に頼んでシグフレドとの遺伝子上の同一性を確認する」

「そんなことって、……いや、たしかに、ありえなくは……ない。彼の父はシグフレド様の信奉者だとジークフリードが自分の口で言っていわ」

「……あくまで可能性だ。否定できればいいが、否定できないとどちらか分からないという状況になると俺は考えるとする」

「てっきり彼は分岐した過去のシグフレド様なのかと」

「可能性だ。不確定な内にお前がそう思うことは自由だ。だがそれはそれで確認して、他の可能性を排除することもどうしても必要なことだ。……俺はシグフレドにこの情報でどうするか反応を確認する。それが終わるまで、今ここで出たいくつかの考察は内密にしておけ。もしかしたらシグフレドにとって触れてほしくない苦痛の可能性がある。もし、やつの逆鱗に触れる内容だったとしたらお前が切られた本当の理由が見えてくる」

「ぇ!? それって」

「それも可能性だ。可能性に過ぎないからこそあらゆる情報を集めるぞ。それ次第ではできる対応も変わる」

「つまり、ジークフリードに対する調査を、私はシグフレド様の過去の姿と仮定して、貴方はクローンと仮定してあらゆる可能性を調べるということね」

「あぁ、……王国内での動きはアンドロマリーに手を借りると良い。不審な点が出ないならそだけで十分だ」



 ◆


「クーングンデさん?」

 かけてきた若い派遣メイドの年長のお姉さんが水筒と包をもってかけてきた。

「ジークフリード様、お昼の薬を飲み忘れてますよ」

「あぁ、ごめん……」

「お水をどうぞ」

「ありがと」

 舌の奥の方の載せた粉ぐずりを水で流してできるだけ味を感じないように喉を通して腹へ溜める。

「あなたの力になれてなによりです」

「ねぇ、ちょっと聞いて良い?」

「なんでしょうか?」

「『義賊コロン』ってなに?」

「えっと?」

「あんたが僕がその義賊なんじゃないか? って思っているみたいな話を聞いたけど、たぶん違うと思うから確認しようかなって」

 実験用の土を晒した窪地を取り囲む草原で研究者に見られながら、他愛もない話をしておく。

 今は召喚関係の式を話すには人目のある場所ではあまりできないものなので、約束だけしてエイリアンの持つ魔法を分析して新しい魔術の開発にご執心で、連邦から来た彼も、王国の研究者もオリエントの研究者も楽しそうに、魔法を魔導理論に落とし込む努力をしている。

「あの、あたなは6年前に私達を、マフィアの拠点を殲滅したあとに救出してセシリア様の下へ送り届けてくれましたよね」

 それは、心当たりが

「あぁ、やったな。確かに、そんなこと、あの時はあまりに治安が酷かったから、一部時効とはいえ虐殺したって話なはずだけど。……もしもの際は、アンドロマリーに泣きつかないとどうしもようもないくらいバレたくない話だったなぁ」

「そんな! 申し訳ありませんっ、まさか」「いや、いいよ」

 イガイガする昔のあの感情を懐かしむ、

「あの行動が間違ってるとは思ってないし」

「……あの時の囚われていた女の一人です。私はアタナに助けられたことを感謝しています。今でも心から感謝の想いを抱かさせて貰っています」

「うん……で、『義賊コロン』ってなんでそんな名前なのか知ってる?」

「犯行声明に『死因:』って書いてから悪事を綴っていたじゃないですか!」

 涼しい風に聞かれても良いのか? と汗が柔らかく拭われる。

「そうだったかな。本気でムカついたから……なんで殺したかできるだけ書いてたのは覚えているけど……文頭はそんなのだったっけ?」

「はいっ!」

「そうだったっけ? そうだったな。うん、そうだった気がしてきた。じゃあなんで『義賊』なの? 侵入はともかくなにか盗んだ覚えは無いけど」

「えっ!? …………いや、マフィアや人攫いを討伐して回るので、正義のために悪を討つ、『襲う人』というニュアンスの義賊の『賊』だったのかと。辻斬り扱いしても、盗賊だと思っている人はいないので」

「そうか。そういう意味ね」

「でも、いえ、……すみません。私達の前で普通に金貨盗んで渡してましたよね?」

「……そうだっけ? そうだった。そういえば、医者に渡すときマフィアから奪った金押し付けて頼んでたんだった」

「流石です」

 どうしよう。あのあと身内にバレて殺され父さんに殺されかけてマフィア狩りを辞めて閉じ込められてたからあんまり良い思い出じゃなかったんだけど……。

 無駄じゃなかったんだな。

 クーングンデさんの未来は守れたなら、あの時の僕の行動は正しかったと証明されたんだ。きっと、僕を起こったお父さんは間違ってたんだ。って……、

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