厄介な理由
シャワールームへの案内のに同性の異世界人のおじさんが同行して、周囲のこの国の兵士とタニス国の兵士が一人ずつ、メディテラニュスの連邦兵とオリエントの帝国兵士が2人ずつ建屋の出入りを監視する形で周囲に待機する。
これでは起きたとしても大した問題は出ないだろう。
「おはよう。フリッツ!」
「あぁ、おはよう。ん、入るか?」
執務室がある共同居住スペースの建屋へ通じる扉に手をかけるとシャノンが後ろから、やたら元気に挨拶をしてくれた。返事をして扉を開いたまま確認すると「うん、入る!」と威勢よく返すので開いたままにすると、一瞬後ろを振り返ってなにか言いかけるように停止するが、何も言わずに先に通ってくれた。
「誰か?」
「ん? あぁ、新たに保護した人がいるんだ」
「やっぱり誰かきたのね」
もう一度シャノンが窓越しに振り返った先には並ぶ兵士と休息のために車の轡から外される馬が居る。そうだな。だがそれでそう読み取れるのか?
「やっぱりって?」
「だって貴方達が言うところの『魔法』を持ってる人がきたから」
「そうか、……彼も魔法を持っているのか」
「うん」
異界から召喚されたエイリアンのうち現在確認される全員が魔法を持っているという情報がまた補強される。この情報は解析した式から読み取れたある仮説をなおさら強固なものにする。
「ねぇ」
「なに?」
「私達を返せそう?」
「許可が下りれば割りと、簡単にできる……はず、確認しないことには断定はできないけど。自信はあるし、仮説が合っている説はどんどん増えてるし、いけるとおもう」
「そう!」
「あぁ!」
「なら待つ! 待つとするわ」
「そうだな、お楽しみ」
「……なんで?」
「なぜ、そこで首をかしげる」
「ははは、たのしい要素ないなって」
「あぁ、そうか。期待はしてくれよ」
「うん。してる」
「あぁ」
なにか、雑な言い回しになるが感性が近いのかこれが話しやすいのだ。特別気の合うような間柄ではないが、コルネリア姉さんやユーリより接して気が楽な相手ではある。
周辺で軽食を取っていた異世界人の少年が会釈したので、こちらも笑顔と会釈を返す。
「えっと、新たに誰か保護されたんですか?」
「あぁ、いまシャワーを浴びで、……そうだ。大急ぎで食事を用意しなくては、クーングンデさっ、お姉ちゃんさん頼めますかー?」
別の幼さの残るメイドがきて、耳打ちするように「もうお姉ちゃんは作り始めてますよ」と、代わりに答えてくれる。
「あぁ、僕を呼んだのクーングンデお姉ちゃんだったもんね」
と、年下のメイドに苦笑と愛想笑いの混ざった笑顔でごまかして返すと、お辞儀して自分の仕事に戻るのか厨房へもどっていく。
◆ ◆
シャノンがユーリについていって兵士に混じって体を動かす訓練にいくと、しばらく待って彼を監視から取り次ぎ十数名分の部屋を用意している共同居住建屋のホールで食事の準備を確認する。
一応監視としては、常駐の兵士が部屋の隅で数人座っている。気にならないように私服ではあるが帯刀しているのはどうも、異世界人には怖く見えるらしく、刀を見るたびにビビられている。
目の前に並べられた温かい食事を前にじっと食事を見つめて、彼は臭いをかぐ。
「苦手な食材でも入っていた?」
「いや……」
言い辛いことか、
「気になる? 食べろといったものは僕が食べて毒見する。それでどう?」
「……じゃあ、このスープを半分」
「良いでしょう。取皿、カップをもってきてー」
すこし離れたところで控えていたお姉ちゃんさんに声をかけると短い返事と礼をして厨房へ入っていくと小さめのスープ皿とは別に別の料理が盛り付けられた盆を不満げに手に下げて、
「ジークフリートさん! あなた自分の朝食食べてないでしょ。これどうするの」
配膳されたのは、冷めた焼いた卵とハムにサラダと湯気も消え失せたスープを並べたお盆を持ってきてくれた派遣メイドのお姉ちゃんさんに
「そこに置いておいて」と適当に返すと目の前で食事する異世界人の少年が冷めた盆を指差す。
「それを食べてもいいか?」
「あんたは俺の食事を食べて、それで……」
あぁ、そういう。
「わかった。そうしよう。それで、毒を使用しない証明になるならね」
「……」
仕方がないからさ、その目で
「睨むのはいいよ。それだけの状況なのはなんとなく理解しているから、まぁ、正確に理解しているなんて口が裂けても言える状況でも身分でもないけどさ」
配膳を交換して、温かいスープを木製のスプーン越しに口に含んでゆっくりと食事を始める。
「こんなことをする事情もあるんだ。一応、2つも」
睨んだままの彼にサラダを口に挟んで説明を始めようと考える。
「我々の世界にはかつて、だいたい20年くらい前まで異世界人と交流を持っていた帝国があったんだ。そいつらがバカをやらかしてね」
一旦食事の手を止め、
「右も左もわからない異世界人から未知の技術を聞きだし、それを用いて『マシン』と呼ばれる魔法生命体を作り、『マシン』を作る『マシン』を量産し当時開拓中であった西の大陸にて軍事行動を始めた。その結果、開拓中であったその大陸は『毒と鋼の大陸』と呼ばれるようになるまで悲惨な有様になった。川に水銀が流れ土地は鉛で染まり、マシンがマシンを作ってこちらの大陸まで襲撃しに来る。どうしようもない状況になるまでね」
『毒と鋼の大陸』の簡単な説明を脅かすような口ぶりで言うが、彼は睨んだ目を一旦止め、なにか感づいたような小さな驚き顔に、
「西? まさか、北アメリカか?」
「アメリカ……? よく分から、あー、待って、説明はダメ」
「……? アメリカはアメリカだろ」
「あー、うん続けるね。それでね。異世界人から技術を聞き出した方法が、世間話の一環でただ話していたら、知ってしまったんだ。……だから、この世界ではそっちの世界の情報は取り扱えないように厳しく取り締まられるようになってね。その過程で、そっちの世界の人たちを必死で殺して回る団体とかができてね。今は宗教みたいになって大人しくしているけど、色々と、ね。それで見つけると殺そうとする人が多いんだ」
呆れた話をして食事を再開する。
「なるほど、気が立っているんだな。で、オマエは?」
咀嚼を飲み込み、何度か話した答えを返す。
「異世界人を保護して、送り返そうとしてる団体なの……かな? 僕個人としては最近、一山当ててね。その宗教みたいな団体と金のやり取りしながら王国のある有力者に気に入られて、愛人関係とってたらここの土地をもらえた」
「背景事情じゃなくてだな」
「えっと? 端折りすぎたかな」
この説明を5回以上説明していつも最後辺りに話す内容を順序を無視して説明してしまったことを今、自認してしまったかな。
「オマエはなんでこんなことをしているんだ?」
「なんでかな、偶然助けた人が異世界から召喚されたっぽいから、見捨てられなくて流れに身を任せていたら愛人の有力者からいろいろしてもらった。そんなかんじ」
「…………その、愛人ってお前、男だよな?」
睨みの目を困惑に変え、悲哀すら見える顔を向けられる。
「見てわからないか?」
「いや、分からないでもないけど、その手のおっさんから好かれてるって話を開けっ広げにするのは、食事中はちょっと」
「あぁ、相手の有力者は女性だよ。それも高貴な身分で若い女性だ」
「いやっ! すまん。へんなことを言ってしまった」
まぁ、たしかにそう思われるのは仕方がないのかな。僕の見た目とか、愛人って言い方とか
「ちなみに肉体関係も無いよ! まだね!」
「……いその話は、もう、いや、してもいいのか? でも食事中はやめろ」
「ないから!」
「無いんだな。その夜の関係は」
「あぁ! ない!」
重要なことなのでハッキリとそういう意図の愛人ではない的なアピールしておく、パンに付け合せの乳製品を挟んで貪り、納得してないような彼に続きを話す。
「それで、異世界人の召喚は禁止されてるんだが、それを勝手にやって異界から人間を呼び出すバカがまだ居るんだ。そういう奴らを我々は『カルト』って呼んでて。連れてこられた異世界人を『外来種』って呼んでる。まぁ、そういうことだ。わざわざ異世界からこっちに来てまで侵略しに来る侵略者は、まぁ、ここでは関係ないけど、そう呼んでる」
じっと僕を見る彼に心配させないように出来るだけ事実を述べる。
「送り返す算段はついてはいるんだけどね。本当は、だけど昔、そのコンクエスターと交流を取っていたクズどもの残党が暴れてるうちは許可を貰えずに……はぁ、直接関係はないんだけど厄介な理由になる敵だよ」
「敵……か」
「存在するだけで不利益につながる相手をそう呼ぶんじゃないかな。少なくとも僕はそう」
冷えた食事を食べ尽くした彼に遅れて、食べ終わらない僕を見てメイドのお姉ちゃんの方に挨拶を交わして盆を下げてもらう。
「……部屋の案内をしよう。鍵を持ってくる」
急いで残りの食事を喉に流して席を立って思い出す。
「そうだ。あんた」
「なんだ?」
「ジークフリード・ラコライトリーゼ、君は?」
「あ?」
「名前、ジークフリードって言うんだ。僕は、君の名前を聞いていないと思い出してね。報告書を書くために一応必要なんだ。まぁ、いや違うな。それとは別に」
向き直ってゆったり会釈して顔を向ける。
「はじめましてジークフリード・ラコライトリーゼです。貴方たちを送り返すまでの間の付き合いですがどうかよろしく」
テーブル越しに手を差し向けると一度迷った後、彼は握手を返してくれた。
「アレクシウス・ゼンダウソン……だ。アレクシウス」
「オーケー『アレクシウス・ゼンダウソン』ね。アレクシウス……覚えたよ」




