僕の意思表示は
この魔術に用いる構成式の解はここにきた時点でとっくに出ていた。もともと専門じゃないからって必要な情報さえ揃えられたなら頭があれば解けない式じゃなかった。簡単だからこそ、だいたい20年前の戦争からこれらの式が書かれた魔導書は極刑も認められるほどの禁書として扱われていたのだろう。
王命を受けた顔を隠した騎士から受け取った手紙の封を切り、中身の色良いとは言い難い内容を確認したあと、紙に種火をつけて灰皿で燃えたことを確認して魔術による復元対策として炭のような燃えカスを口に含んで水で喉に流す。
「どうしたものか」
腹に入った書面の内容を頭の中でヤギが反芻するように読み返すが、そうするもこうするも……書かれた内容としては『帝国解放軍の繋がりを疑われるような真似はするんじゃない』ってことだしどうするかな。
「一回送り返してなんとかなるなら簡単なんだよな」問題に、実験として一度向こうの世界に到着できるのか? 確認の申請をしたのも絡んできてしまっているのも、面倒になってくる。
「疑われるのは僕としても面倒だが」
足音とノックと
「おう、やっているかい?」
扉越しにかけられた声。3つの音を聞けば「あぁ、今は入っても大丈夫ですよ。どうぞ」
促すのみ。南の連邦国の担当者のおじさんが入ってきて軽く会釈して笑いかける。
「物資の搬入と、エイリアンの護送してきたうちの国からきた担当者が到着した。確認のためにペンをもって顔をだしてくれ」
「了解しました」
もうなんの作業もしていないのだから戸締まりと、侵入対策のトラップの儀式魔術の作動を確認して連邦のおじさんとほぼ一緒に部屋をでて扉に鍵をかける。
「戸締まりはいいんだな? じゃ、行こうか」
「はい」
一応、この人は最近交代人員で着たけど、貴族制度の無い連邦でも称号としての『聖騎士』の名で呼ばれる地位のある英雄らしい。とは言っても、気さくで話しやすい人という雰囲気はあるんだけど、それだけ余裕のある人ということなんだろう。
「あ、フリッツ! 貴方朝ごはん食べてないでしょう!」
共同スペースでくつろいでいたユーリは眠りこけるシャノンを膝からおろして僕のもとへ爪よる
「えーっと、あぁ、そうだったっけ……?」
「いや、どうだったかな、食べたような気もするし、たべてないような」
「食べてないわよ。用意されたオムレツは冷めているわ」
「え、あ、そうだっけ?」
「…………」なにも言わずに不満そうにされる。うん、まぁ、正論だな。
「ごめんなさい。配慮が足りなかった。本ばかり呼んでても良くないよね……あぁ、ごめん」
「やっっぱり、声をかけに言ったほうがいいんじゃない?」
「あの部屋はちょっと……ね」
平謝りして上着を羽織って窓際によると、建屋の外からやや遠くに見える荷台を停めている御者と会話していた仕事着の女性がこちらを見つけ、窓越しに挨拶の敬礼をして駆け寄ったお姉さんが「荷物の確認は済ませましたよ」とのメイドの業務連絡を告げて窓際から馬車へかけて戻ってゆく。
「連邦からの護送でしたよね、保護対象はたしか」
「エイリアンかい? あぁ、男性を一人」
「これで十人目か」
たった十人とはいえ、その対象の予測できない危険性からしてみると、十人もと考えるべきなのだろう。エイリアンを保護するのに村を一つ作り、管理者たる僕を監視するための常駐の兵士を複数国から送り、通いのメイドを近くの都市から送って、あとついでに何人か関係ない人がきて政治の舞台みたいなことをしている。そこまで大きな村ではないがやたら大きな芝生の面積といくつかの新築の豪邸を設置するように建築されている。
「この人数でも、それだけ大仰にしなくてはならないものだものな」
「そう、ですね」
危険性はそうだ。予想できないというのは実際は危険性がなかったとしても、関係のない人から見たらそれだけで危険極まりないものなのだ。
「危機対応といえば、聖騎士のおじさんって武器持ってないけど、聖剣って持ち歩くもんじゃないの?」
「え、なんであんなものを?」
外に出て、よく芝刈りされた横の土面の道を沿って村を囲った木の塀の開け口に向かって、何も考えなしに思ったことを聞くと、聖剣銘の入った魔剣を『あんなもの』というおじさんの態度になんか、毒気が抜かれる。
「あんなものって」
苦笑してしまうが、つられておじさんも苦笑いする。
「おっと失言かな? いやいいさ。武器なんてものは無闇矢鱈にひけらかすものでもないんだ。武器はみんな『あんなもの』さ。だが、私は威力のある聖剣は持ち歩くことはないな」
「あ、そうなんですね。いや、知り合いに勇者因子取り込んで聖剣を常に持ち歩いてるひとがいたので、聖騎士は聖剣を扱うプロフェッショナルって聴いたのでどこかに隠し持っているのかと……」
「あー、うん、一応俺も書類の形式では聖騎士隊だから聖剣を使う訓練はしてるさ。だが、聖剣は有事以外は……いや、そもそもここはな、一応そっちの王国の衛星国ってことになるから、威嚇になるような真似になることは、ね」
「聖剣ってそんなに?」
「あぁ、物によるところもあるが、基本的に危険極まりない装備だ。故に、聖剣はすべて測り難いほど恐ろしく、偉大な魔剣だ。というか持ち歩いている奴ってのは十中八九アンドロマリー軍務大臣閣下ところの付き人の、……あいつの魔剣はたしかマシンに対しての性能が重視されたはずだからな」
「……?」
「いや、ダメだな。誤解を招く表現だった。あれは最も重要な聖剣のひとつなのに」
「えっと」
「失言かと思ったんだ。すまない」
どれがだろう?
◆
ずいぶんなボロキレを着せられて……彼の顔色も悪い。若いと思うが痩せてて死にそうだとおもう。見るとヘリの大きな壺みたいな器に入ったパンと豆のサラダが手つかずだ。
「あー、ううん、自然な反応かな」
「……」
エイリアンは基本的に良い感情を持つ奴は居ないんだ。仕方がないとは言え、これじゃあね。
誘拐先から逃げ出したと思ったら服を奪われ、ボロキレを着せられ拘束されて、知らんところに運ばれたら当然の反応だ。
「やぁ、食事はとらなきゃ死ぬぞ?」
「何が入ってるかわからないものを口に入れられるものか」
「な、オマエ」
「待って」
食って掛かりそうな連邦から任務を全うしてくれた護衛を片腕を横に広げて視線を送り、困ることを表情で示す。
「よして……お願いします」
「……わかりました」
「ありがとうございます。ごさいましたも含めて、ここは引いてください」
兵士はうなずいて一歩下がってくれた。とりあえず、手つかずサラダの上の豆を口に放って数個の大粒を咀嚼する。
「そうだな。こんな仕打ちを受けたら仕方がないだろう。ど正論だとおもうよ。僕は、僕が同じ立場だったら無毒化できうる魔術を使うが、君たちのいた世界ではそういうのはなかったんだろう? いや答えるな!」
不用意な自分の質問形式の発言を慌ててただしてごましかしと毒を混ぜる意志のない表明としてパンをかじる。
「だから、そうだな。そのためにある程度のこの村の中では認めることにしてもらっている。あぁ、自由にすることをある程度ね。いくつかのルールを守るならこの村にいる限り安全だ。時間さえあれば元の世界に返すことも不可能ではない。ソレまでしのいでもらうために、そのために作ってもらった場所だ」
「……っ帰せるってのか!? 元の世界に」
「一応はたぶんね。理論上可能では……技術的にも不可能でないことも確認済みだ。だけど、実際に帰すにはその術の危険性から周辺国との合意がなくては簡単にはいかない。……といった状況だね」
「…………そうか、どういう状況を言っている?」
よく考えたら僕は植物毒も動物毒も無毒化できるからこれ食べても無害の証明にならない気もしたが、別に僕が無毒化の長けてるって言わなければいいか。
「……軍事的に悪用しない証明のための監査人を各国から呼んで。みたいなことができない程度に内紛が散発的に起きている、状況」
「そうなのか?」
「連邦は衛星国とは名ばかりの植民地支配とはまるで関係ないから、……そっちは落ち着いてるんでしたよね?」
居ると思って振り返り、下がった兵士より後ろで立っていた聖騎士のおじさんに聞くが、にがそうな顔で困った色を見せる。
「俺がここにきているってことは一部はしっかりそれだけ不安なんだと思うが?」
「あー、ごめんなさいね」
「確かに、不安なだけで諍いはまったくだがな」
「というわけらしい」とエイリアンの青年に向くがなんか不信感を隠してはないね。
「だが、そうだな。僕は返すために努力はしている。それだけは宣誓しておく。ソレ以上はなにも、証明一つできないけど」
「……」
サラダも手づかみでモシャモシャと口に頬張っていそいそと飲み込む。
「信用はしてもらわなくても結構。だが、僕の意思表示はさせてもらう」
「意思?」
「僕の目的は現在保護された9名のエイリアン、そして新たに保護された君を元の世界に帰すことだ」
――――――帰還、それ以上は望まないことにしてる。
「とりあえずお湯を浴びよう、案内する。その服よりまともな服をもってくるから」




