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Intro。彼の全盛期その2A

 邸宅の修理や掃除をしながら大人たちが真剣に話し合う内容は「疎開先をいまからでも変更するべきではないか?」といった話だ。話しながら作業を続け、代理案や改善案はでるが結局のところ『警備を三交代制で絶やさないようにするべきだ』のみが採用されて話はまとまる。

 その後に来た同郷の同士も加わると同じような意見を一通り出して、結局警備のために同郷から融通できるなら人員を割くように手紙を出して終わった。

 実際にできる選択肢が少なくとも、この街へユニーカを送るのは最善……と言えるかは怪しいが何もしないよりはずっとマシな判断なのだから仕方がない。

「やっと着いた」

 弟分と、その父である武術の先生に会釈して、作業を一時中止し足場から飛び降りで、軍でを手の上から作業着のポケットの中に移動させる。

 それを見て、表情が柔らかくなる二人に待ってましたと楽しげに笑いかける。

「おう、やっと着いたな」

「あぁ、やっとついたよ」

「予定より遅かったね」

「あー」

 気まずそうに父であるヴァンさんが視線を逸らすと申し訳無さそうにジークフリードが頭を下げる。

「途中何度か熱を出してしまって」

「? 誰が」

「僕が、そのせいで迷惑をかけてしまったよ」

「そう、か、ジークフリードは、もう大丈夫なんですか?」

 途中からその父へ向いて聞いてみるがうなずいてくれる。

「大丈夫だ。旅に、不測はままあるものでもある。子供がそう気にするものじゃない」

「えぇ、ごめんなさい。お父さん」

「若いんだ。謝るな」

「ご、ありが、いや、……申し訳ない」

 やはり謝るしか無いジークフリードに、ヴァンさんは何も言えず、背中を押して室内に移動しようとするので玄関と手洗い場をまず紹介した。

「……ジーク、その、どうする?」

 十年も一緒に生きた俺から見てこの親子は壊れている。総断言できる。だが、修復不可能と断言したくない程度には父と子のどちらとも交流がある。濁る。

「…………父さんはどうしたい?」

 両者に優しくしたい。両方へ肩入れしたい。その柔らかな想いはそれだけで俺の目を濁らせて、判断を曇らせる。

「ヴァンさんもフリッツも疲れただろう。向こう車から荷物を下ろすのは俺がやっておく。用意された部屋割りと、いや、シャワーの場所が先か、着替えは荷物の中かな? 風呂の場所をさっきのトイレの手前の……そう、そこ。風呂と、食事どっちにする? まだいくらか体調が悪いなら部屋で寝てからっていうのも手だが」

 それでも俺は、ヴァンデルヴルグ先生とジークフリードのどちらにも幸せになってほしいから、手洗い場、衣類の洗い場、トイレ、風呂と水回りの場所を教えるとヴァンさんは先に食事を取ると言い出した。

「父さんが先に食事するなら、僕は風呂に入ってから食事をとるよ」

 こいつ……。

「あぁ、わかった。ゆっくり入ると良い」

「うん……」

「ジークフリードは体調はもういいのか?」

「うん、少しだるい程度だけど、歩いてきたからね」


 ◆


 少し荷降ろし作業をして、壁の修理のための中断と切り上げ、汗を流そうと風呂に向かうと、まだ大して時間がかかってないからか、ヴァンさんはまだ食事をしていて、風呂場ではジークフリードは温まった体で髪を洗い始めていた。

 隣で俺が体を洗っている場面で、ジークフリードは髪を洗う作業を適当にしてやめようとしたのだから手直しをする。

「そうか、おいまて、髪はもうちょっと丁寧に洗え、泡をたてて爪はたてずにあらうんだ」

「もういいでしょ」

「いいでしょじゃないんだ。泡を残すとフケの原因にもなるのだから」

「あー、はいはい」

 年下らしくジークフリード。なんだかんだ、こいつ興味ないこと以外には適当なんだよな。

 それになんというか、もう手遅れかもしれないことはおおよそ理解しているんだ。だけど、改善の傾向があることは知っているから……、この親子のことは。



◆ ◆



 やったやった……。やっちまった! いや、今さらなにをだ!

 なにが後悔なんてするものか、俺には養わないといけない妻と娘がいるんだ。食ってくためならなんだってやるって決めただろ? いまさら、

「初仕事ご苦労さん! いやー、どうだった? ここまで落ちた気持ちは」

 柄の悪い大剣を担いだ男が気さくに声をかけてくる。……あまりに、顔に出てしまっていたのか。こいつなりに気を掛けてくれているんだろうな。こいつもこいつで、昔は騎士をしていたというのに、ここまでよく、俺たちは堕ちたものだ。

「あぁ、思ったより、何ともない」

「だろうね。生きてくのに必死なんだ。これくらい」

 ゴロツキが何人もたむろす酒場。と言っているだけの体裁で整えたマフィアの事務所で酒を一息に煽り喉を紛らわす。

「ははは、言い飲みっぷり!」

 こいつは、既に回っているのか上機嫌にも見える。なんだ、気を掛けることなどなんてことはない。ただ機嫌がいいだけか。

 深夜も回って、今頃、


 …………ガラリ。

合い言葉も無しに、必要な手順を無遠慮にすっ飛して開かれた扉を見ると子供がいた。おいおい、死にたいのかよ?

「やべっ! 鍵を」

「なーにやってんだい」

 入り口の男が鍵を確認して、締め直しているとせせら笑いがそこらから漂い、隣の元騎士が馬鹿にするような笑顔で子供に近寄る。

「ぼうや? こんなところに夜遅く、子供が一人でいたら、攫われちゃうよ? 悪いおじさんに……さぁぇ」

 声が不格好な笛のように音を変え、首が落ちる。

「なっー!」

 その瞬間、周囲にいた元騎士のゴロツキが刀を取り、少年に吸い寄せられるように飛びかかると、5人ほど……ヌルリとただ避けたかと思うと、一瞬にしてその全員の四肢が5本切り取られる。首も四肢も区別せず、胴体から外れたのだ。

「ああああああああ!? ああああああ!」

 声にならない絶叫が鳴り響くが、一瞬で息絶える。現実感が薄い風景が目の前に写る。

 いや、斬られたんだよな? 血が全く飛び散っていない。いや、それに、ガキが手にした獲物は……万年筆? 万年筆でなぎ払ったというのか!?

「あぁ!」

 窓際を見ると窓から逃げようとしたのか、窓に乗り出したマフィアの構成員が、泥のように暗い肌色になって死んでいる。

「なにが! どうあっ」

 半狂乱で何人か斬り込むと、ガキに届く前に剣は止まり、身動き一つとれず。万年筆で首筋を一突き、ただ、それだけで顔面が紫色に変わり白目を剥き泡を吹いて、子供が通り抜けると膝から崩れる。

「何なんだよ! なんなんだよ! お前!」

 言った男に向き直り、ガキは笑って述べる。

「貴方は、昼、女性と男性を二人ずつ殺しました」

「え?」

 「知ってますよ」と、デタラメを言って口に人さし指を添えて、秘密を話すような楽しそうな笑顔はまるでかみ殺せていない。

「貴方は、ついさっき、人の眠っている家に放火しました」

「貴方は、子供を今日だけで5人ほど殺しました」

 ガキは俺を一瞥、

「貴方は今日だけで3人幼児を誘拐しました」

 なぜ、知っている……? 俺は初めて人さらいをしたのに、まだ報酬だってもらったことは

 ここの元締めに向き直る。

「お、俺ぁ生まれてこの方人殺しなんて一度も、してないんだ。はは、部下が勝手にやってるんでさぁ。俺は見逃して」

「その毒液から手を離してから言って貰いたいモノだけどね。お前は麻薬を流通させているだろう。苦しんで死んでもらうよ」

 元締めが香水を拭きかけるような瓶で、魔導師の顔にめがけて瓶を噴射させるが、その液体は何も無い空中を漂っていた。漂う毒液は一粒の宝珠や、ブドウの一粒のように纏まり魔導師の伸ばされた舌先で止まり、一口で飲み込まれる。

「毒、そういうの、効かないんだ。魔導師は特に、知ってる毒に影響を受けるなんてことはありえられないんだ」

「ぇ、ぇへあ、あんた、高名な魔導師かなんかで? 金ならある。このシマをから手を引く、だからみのがしてくれやしませんか? 若作りの魔術には入用もあるだろう? なぁ」

「なぜだい?」

「何でもします。ですから、どうか命だけはっ!!」

「なぜゴミ掃除の伺い立てを、ホコリカスにしないとならないのだ?」

 僅かな抵抗のあと、万年筆をかすめてほとんど欠損のない擦り傷のような傷を手の甲につけられた元締めは悶え苦しみ始める。

「あぎゃあ!? うあぶぉえああおおぎゃあああ!?」

 肥えた大人の醜悪ながら赤子と変わらない意味を失ったようなうめき声。それは耳を煩わせて魔導師の賛美歌かのように魔導師は上機嫌に、そこらへのゴロツキに斬りつけ始める。

 縦横無尽に壁を張って斬り掛かる。まるで煙を掴むことは出来ないように子供のような魔導師には届かない。剣、槌、毒液、爆弾、雷の魔術、冷気の魔術、それらは何一つガキに届かず。次々と斬られていく。

 そこら中で、死んでいく。逃げだそうにも扉の外は異形の壁に飲まれて死ぬ。どうすることもない虫籠のなかで、俺達は鳥に啄まれるウジ虫のように駆除されていく。

 5分くらいも経っていないだろう。元締めの絶叫も枯れ、静寂だけが五月蝿く鳴り響く。

 全滅だ。俺は死んだ振りをした床で目を伏せている。どうか、どうか気づかないで。どうか、神よ。

「しまった。みんな血を固めちゃった。汚れなくていいとはいえ、流れてる血が残ってる死体がないかな」

 ザクザクと土を掘るような音が聞こえる。薄めを開けると万年筆を死体に順番に刺していく幼い子供の姿が見えた。

 ザクリザクリ、「うーん、無いかな?」

 ブスブスジャキジャキ、「べつに無くてもいいかな?」

 ザクザクと突き刺す死体はぐるりと部屋を回って音は俺に近づく、

「お、これは良さそうだ」

 身をよじり、翻した体を魔導師に向ける。

 今! 俺を刺そうとしていた! 抵抗しよともおもったが、無理だ! 勝てるわけが無い! こんな化け物!! なら、

「ひぁ、その。初犯なんだ」

「え……と?」

「子供を誘拐したのは今日が初めてなんだ!」

「それで?」

「だから、ほら、金だって受け取ってない……そうだ、妻と娘を養うために仕方が無くっ!」

「え、お前、え?」

 魔道師は困惑して、自分の口元に手を置いて少し考え、離し、言葉をまとめる。

「お前、それ、お前が攫った子供の親に言えるのか?」

 魔導師が恐ろしい目をしている。ここまで、ゴミクズを見て遊んでいた子供が、本気で不快な虫を見て踏み潰そうとするような怒り。

「生きるために! 仕方が無かったんだよぉ! 帝国が崩壊して騎士しかやってなかった俺は稼ぐ手段なんて限られてて、妻と娘の食い扶持を詰めながら何とかこうにかやってこうとしていたところだったんだよ! 魔が差したっていうか、本当はこんなことしたくないんだよ。ほら、事情があったんだよ! 分かるよな、な!」

 ため息がうるさいほどの静寂を切り裂き、静かな怒気が場でけたたましく耳鳴りになって、警鐘をかき鳴らす。

「……今日は、もうね。ずいぶんと、さぁ……殺して回ったが、そんな卑怯な事を言ったのは君が初めてだ。安心しろ。……君が誘拐した子供は助かってる。……火種。借りるよ」

 カウンターの灰皿から一本吸いかけのタバコを拾ったその魔道士の手元から燻った篝火のように黒い煙が舞う。

「そ、そうか、なら、未遂って事で! なんと……か」

 魔導師から色が消えた。いや、姿が見えない。形も消えて輪郭も分からない水に垂らした絵の具が虚像になったようにぼやける。

「例えば、そうだね。君が犯人でありそのせいでアンタの妻子がいま隣人に棒で殴られてるのが今、僕の目には見えている。見えるんですよ。僕はそういう失せ人を探すことの専門家だ」

「え……?」

「当然だろう? あり得ない訳がない。被害者が救われたら、加害者は判明する。それがこんな……情状酌量の余地も無い卑怯者なら、人は石を投げる。あわよくば死んでくれないかな? と石を投げる。それが人間に残された野性的な部分、外敵を排除するための群れの行いだ。分かるな? お前のせいでアンタの奥さんと娘は死ぬかもしれない」

「ぁっちっ……や、そんなつもりじゃ」

「つもりがあったら他人の人生はどうでもいいと? そんなわけないよ。理由はどうあれ人を殺したらそれは人殺しだ。人さらいが人殺しになるってわからないほど世間知らずでもないでしょう? 子供じゃないんだから」

「そんないったらぁ! お前だって! 俺達の人生……人殺しじゃないか!」

「人殺し? それは人間を殺した人へ宛てる罵倒だ。僕が殺した中に人と言えるようなまともな人間がいたら良いけどね……でも、良いことだろう? 君達の人生が今終わることで多くの人々は幸せになる。不幸が消えるということだ。君達を生んだ母親達の地獄で償う罪も軽くなることだろう。君達は死ぬだけで世界に貢献できるなんて最低な人生だったんでしょう? 生まれてきてこんな死に様って恥ずかしくないの?」

「ぁ……え」

 生まれから、人生から今まで生きていた全てを否定されているのに俺に感じられるのただ一つの、

「感じてるのかい? これを」

「なにを……?」

「今、お前に入れた薬」

「入れた……?」

「そこまで、麻痺してたのか。まぁいい。ここで売ってた麻薬を適当にオマエの血液に刺したから、もうすぐ、に一切の痛みを感じなくなるだろう」

「…………ぁえ」

 多幸感。それしか感じない。恐怖も苦しみも無い。ただ、なにも、

「せめて貴方が確実に地獄に落ちるよう。苦しまずに死んでください」

 魔導師は俺から抜いた万年筆の血文字で俺に見えるようにカウンターの下板に書き記す。

【死因:人さらい。まやく売り買い。人身ばいばい。放火。人斬り。どくさつ……

 子供のような字が書き切られるよりズッと先に、たぶん。俺は地獄に落ちた。



 ◆



「人殺しは楽しいな」

 何も考えずに呟いた自分の声に驚いて周囲を見渡す。……辺り一帯、血の海だ。生存者は地下から既に脱出しているはずだから誰にも聞かれていないはず。だけど、

「嘘だ。そんなわけないだろ」

 誰も居ないことを願う。

「生きているんだろう? 笑っちゃうよな。そんなゴミを掃除することを人殺しなんて」

 生き残ったやつは居ない。居るはずがない。いたとしても誘導のための発言って思ってもらえるように独り言を言わないと!

「ふはは、死因をここに書いておくよ。君たちが僕に目をつけられた理由一覧だ」

 死体を魔術でよく確認する。血液が流れている死体は残っておらず、皆死後硬直の開始を確認した。

「……なんだ、死んだフリしてたんじゃないのか」

 良かった。誰にも、聞かれてなかった。僕の本心。

 狂っている。狂っていく。自分より弱い悪党を殺すことを、敵を殺すことを、害獣を駆除することを、楽しいと……楽しいとだけ、嫌だ。楽しいなんて思いたくない。なのに、人を殺すことが楽しいんだ。 



 ◆



 静まった邸宅に侵入し、付着した血も処理したとは言えフードの付いたロングコートを作業着扱いで用具入れに隠して側面玄関からこっそり居間に入るとそこでなにかカップに入れて飲んでいたゼフテロに見つかる。

「外でなにしてた?」

「うん、トイレ行ったら自分の部屋がどこか忘れちゃって、起こすのも何だし、どうしようか悩んで少し体を動かして空を見てた」

「そうか、今日は夜も晴れているからな、だが、もう二回も寝た部屋だろ? まだ覚えられないか?」

「あぁ、うん、見分けがつかなくって」

 シンクに移り空だったカップを洗い始めて、ゼフテロはうなずく。

「確かにそうか、後で扉に名札でもつけようかな」

「そうしてくれたら助かる」

「なぁ、その臭いはなんだ?」

「臭い?」

「あぁ、嗅いだことがない臭いだ。いい匂いではない。なんというか、すっぱいような、だが、なにか違う」

「あー、ちょっと汚れちゃったかもね」

 ……まずい、汚れは確認したはずだが死体の臭いが移ったか?

「寝る前に寝間着に着替えておけよ」

 ゼフテロは気づかなかった、なんとか。



 ◆ ◆ ◆



「おきろー。おい、起きろ! フリッツ」

 旅の疲れも溜まっているのだろう。到着してから夜更かししてるわけでもないのにジークフリードは朝遅くまで上手く起きれない。だから、同じ部屋を割り当てられた俺が

「起こしてるんだろう」

「うわっ!」

 布団をひっぺがして天窓を開き外気を取り入れる。

「うぅ、寒い」

「あぁ、そうか? ほら、顔拭いてこい」

「うーん、別によくない? ここに居ても出歩くこともないし」

「なんか、なんかあるかもしれないだろ」

「人に会うとも思えないし素振りくらいしかすることないんじゃないかな」

「あ? なら、街に行って出歩いてでもくれば良いんじゃないか? 流石に10歳のお前にまでいろいろ手伝わせようとはしてないみたいだ。数字の話だ。強いのは知ってんだから、いざという時だけは頼りにしてるだろうって、自由時間使って散歩でもしてな」

 不愉快そうにジークフリードは睨むような、ただ目を細めたように首を斜めに傾ける。

「本気で言っている? いいや、まさか、ゼフテロ、アンタはこの旧帝都の惨状を見てないのか?」

「惨状?」

「あぁ、そうか」

 ジークフリードの不機嫌な顔は納得したように晴れると縦にうなずいでいまいましげに言う。

「知らないんだね。その、ずっと壁と塀の補修してたからかな、お陰でもうずいぶんきれいになったからいいんだけど、そうだな。……外は獣の狩り場みたいな場所だよ」

「ちょっと意味がわからないな。街が獣の狩り場?」

「買い出しにでも着いていくと良い。あの街、大通りでさえ……」

 口ごもる。

「なんだ?」

「見ると早いよ」

 それで渋々ながら朝の支度を始めたジークフリードは朝食を取ると素振りと魔力属性因子を多量生成する体力を使うトレーニングをしたら、疲れたのか木陰で眠って後から到着した同年代の子供を迎えて建物を案内して、昼食を食べ始めていた。

 その頃に食料を買い出しするために俺は買い出しの荷物持ちに頼まれて、



◆ ◆ ◆



 伝承に伝え聞く死神は骸骨がローブを被った姿をしていると広く言われている。そうともすれば、眼前に来たるそれは死神といえるだろうか? 少なくとも、数十人の門番たちはそれを見て死神のようと認識した。

 瞬きのような一瞬で黒い幕が張られる。音もなく、魔力も感じさせず、光も失っちゃいない癖に空が、道路から先の景色が、塀より先の隣の壁も、それらが見えなくなったその暗幕から、存在しない隙間を縫ってすり抜けたようにその死神は、

 ローブを羽織った子供が心臓であるように、肋骨で守った人よりやや大きな白く、霧を纏った骸骨が腕を広げる。

「なんだ、お前!」

 雷撃と風による画一化された魔術の一斉放火に、息もつかせず火炎放射と爆発する火種を照射させ、骸骨は煙に隠れる。

 しかし、気にもとめずゆっくりと歩き。骸骨が真正面に手を広げると。屋敷へ密着するように黒い色が幕となって張り付いて屋敷の形そのままで封じ込めた。

「ちょっと、少ないね」

 死神の少年は用心棒たちを見て、がっかりしたようだ。

「ここは特に強いひとが居るって聞いたからできるだけ最後にしたんだけど」

 死神の手には万年筆が握られている。

「ダメだね」

 万年筆を横一文字に振り払うと数人が植木や物置小屋と一緒に切断される。

「あ!」

「見えなかったんだ?」

 なにが起きたかわからず死んだ。数名の死体が腹の臓物を撒き散らして吹き出した血と中身が生存者の横に転がり、切られた小屋より大きな氷の塊が死神へむかって打ち付けられるが、氷は外側のどくろに届くと溶けて消えて行く。それはまるで、

「吸収だ! こいつ、ガワの骨は氷でできてやがる!!」

 向かった数人が骸骨の振った左腕にあたって崩れるようにその体を破壊される。そこには流木が砕け散ったような死体だけが残った。その中で、一つ、人の形を保ち、体を反らしながら腕を受け流しそのまま死神に向かって炎をまとった双剣を振るう魔剣士がいた。

 その突撃は反応された骸骨の右腕へ向かって、ぶつかり合って骸骨を形作る氷を溶かさんとするが、その炎はきえずとも骸骨には微塵も通用せず、魔剣士は骨をもした氷の手のひらに握りしめられ、腕を折られ二振りの剣を取りこぼす。

「すごいなーこれに触られても耐えますか」

 上半身だけのドクロの肋骨に守られる子供がそう宣うと、手の中のゴロツキは握りつぶされ血と人の粗挽き肉になる。こぼれら剣から沸き立っていた炎はその命と共に消え失せる。

 握りつぶしたその瞬間、死神の本体たる骸骨の肋骨の中に立つ子供は粗挽き肉に目を移した。その隙を好機と見た二名が地面を抉るほどの脚力で、風を切るように死神の腕の下、肋骨へ肉迫し掲げた右腕の下と正面に迫る。

 右腕の下の剣士は肋骨の隙間を縫って突き刺さんと剣を真正面に突き出すが、肋骨の隙間に毛細血管のような網目状の氷が現れ剣を絡みとり僅かな身じろぎで剣を奪い振り上げた腕の肘が剣士を頭蓋から潰す。

 対して、正面から斬り掛かった槍使いは最大限威力が乗る位置で大上段から地面を割るほどの切っ先を振り下ろすが、子供の万年筆の尖端に引っかけられただけで槍は折れ、肋骨の中から出てきた子供に腹を割かれ、不思議なことに血は吹き出すこと無く、切り傷が枯れたミイラのように黒々と萎んでいた。

「粒ぞろいってのはほんとうだったのかな?」

 骸骨の肘についた血液は枯れ落ち葉のようにくしゃくしゃに崩れて吹けば消えていき、肋骨を拡げてまたローブを羽織った子供を護るように覆い被さる。

 正面の腹を割かれた男は肌が紫色になり、その血液が固まったようにみるみると黒くなる。

「すこし、ぼやけるな。君だね」

 子供は目を伏せ、骸骨の背骨から新たな腕の骨が生えてきて、斜め後ろの細やかな茂みを殴り、こすり、3度も太く巨大化した骨組みの手のひらを叩きつける。

「錯視とか、そういう術はむしろ、専門なんだ。こうやって戦うよりもよっぽどね」

 背骨から生えた腕が抜け、独立した腕として這って周り。生き残った兵士を潰してゆく。その周囲には近づくだけで凍えてから、枯れ木のようなミイラにされ命を奪う膨大な闇の魔力因子が漏れ出して逃げ惑うゴロツキたちを摘み取ってゆく。

 何人かのゴロツキは破れかぶれでも僅かな可能性にかけて死神に迫るが拡げられた巨大な骸骨の腕の中、胸に近づき武器を奮う前に、肌は枯れ黒炭のような色合いに細まり、ミイラになって息絶える。

 2人か3人、死神に辿り着いても闇の魔力で消耗させられた体では、骸骨の胸から出てきた子供の早業に一突きで首を折られる。


「外はこんなものかな」

 死神の目には闇の魔力で移動を禁じた屋敷の中で動くことの出来る液体の位置が理解できる。

 張られた闇の幕は屋敷の外と中だけでなく、地上階と地下をも分断して、8人いる人質になり得る被害者の近くにいるゴロツキの人数が2人であることを確認させる。

 地上階は1人除いて全滅。魔術で作った勝手に動く氷の骨格標本に摑まれてその生命力を止められ、1人残して他は全員死んだようだ。


 地上階と庭を分断する暗幕を消す。

 黒一色でピッタリ覆われていた邸宅が色を取り戻してその中から現れた男に子供は告げる。

「オマエは……僕の練習相手になりそうだ」

「死神……?」

「そうか、オマエだと僕程度でも神に見えるのか」

迫る男へ掴みかかる氷の骸骨。

 溢れ出る闇の魔術も耐えきり両腕を中程で切断し、男は僕が居る肋骨へ迫り、ずいぶんと肉厚で長い石碑のような大剣を振り絞って、僕に斬りかかる。

 肋骨に仕組んだ魔術も魔術仕掛けの肋骨そのものも貫通して、僕へ届いた大剣は僕をかすり、攻撃のすきを見せたようだったが、恐るべき速度どで地面を蹴り、エグリ土を飛ばしながら、後ろへ飛翔するように下がる。

 錬気の制度から服にすら付着しない土に怯んだようなふりをして魔術で糸を張り、トラップを仕掛けようとするが見切られたのか炎の術を数発放って魔術製の糸を焼いて、肉すら引き裂く糸の使用を禁じる。

 むかつくので風を高速回転させる風で作った(のこぎり)の術で、金属をひっかくような不快な音で威嚇しながら、男の後ろに闇と氷の魔力を送って人と何ら変わらない大きさと形の骨格表をんを作る。

 風をしかめっ面で魔力を込めた剣で叩いて打ち消すと、後ろから迫った骸骨に反応して炎の術で魔術その物事消しさる。

 肋骨からでてきた僕は万年筆一つで男に肉迫して、斬ろうかと思ったが男が結構反応できているから前に地面から砂利の混じった土塊を生成し高速回転する柱ほど太いヤスリを打ち出し、男と僕の間に高速回転させながら発生させ、男の上段からの振り下ろしを妨害しながら、腹を狙って切りつけようとしが、後ろに飛ぶように引きながら蹴り上げてカウンターを狙ったので脚にささっと切りつけて、両腕を修復した氷の魔術でできた巨大な上半身だけの骸骨が男に掴みかかる。

 男は対応して火炎で骸骨の大半を溶かすが、膝を付き、僕に切りつけられて地面へつく膝の色は薄ら青い黒色へ変色していた。

「は、ああああ! ぐあぁ!」

「はい、僕の勝ちですね。楽しかったですよ」

「なにを、したぁ!」

「はい、切りつけたそこ、水の魔術ではよくある浄化術の一種なんですけどね。本来は水の中の不純物を水の底へ貯める術なんですが、それを使って貴方の血液を血餅と血清に分ける術を体に回しました。その、傷口から」

「……! ……そう、か」

 殻口まで紫色になって体の殆どの血液が変色を始めた男は怒りに満ちたまま力をなくし倒れる。

「……自分より弱い相手ばかり、……こんなになんで」



 ◆



 入り口近くに死体が一つ、獲物が一人。獲物は僕をみてなにか言おうとしたから、血が飛ばないように凝固させる浄化術を使いながら首を割いた。

 まるで割れるように万年筆で切れた首を一瞥し、男が座っていたテーブルにあった鍵束を握ってその先の血液が流れている反応がある地下階段の先へ降りる。

「……誰」

 満身創痍。といった状態のお姉さんが檻の中から声をかけてきたので、なんと言えばいいか少し迷って適切な表現を思いつき、『ひと仕事おわらせたんですよ』とアピールのためにコートの内側にしまった封筒の束をちらりと見せびらかす。

「『賊』だよ。ここのゴロツキ共といろいろあって、抗争した『賊』」

「賊……私達をどうするの?」

 どうも、できれば逃したい。

 鍵束を順番に入れようと2、3本試したが面倒になったので水流を高速回転させて切断する水鋸(みずのこ)の術をつかって、(かんぬき)を四箇所切断して外す。

「……! 味方なの?」

「うん、欲しい物以外はいらないよ。賊だし」

 檻の順番に甲高い音を立てて、もう一つ閂を外して、最初のお姉さんが居た部屋の2人、後の部屋の5人が出てこないから不思議に思うと手錠と鎖に繋がれていることに気づいて、それぞれ鎖を切って、手錠は鍵の形から鍵束の中の小さい方の鍵のどれかだと思うから、危険だし、自分で解いてもらいたくなった。

「鍵、これの中にあるはずだから、探して」

「あの」

 幼い。立てるだけといったほど幼い子どもがボロボロの服で必死に僕のローブみたいなコートの裾を引っ張ってなにかを訴える。

「待ってね。順番だから、もうすぐこんな錠は」

 首を横振る。

 見ると手錠と肌の隣接するそこは血が滲んでいるというのにそれ以上のことがあると言わんばかりに引っ張って、僕を導く。その先には全身がただれてちまみての男が両腕をそれぞれ壁に貼り付けられて拘束されていた。

「……生きてる。生きてるが、これは」

 ……僕にどうしろと。……いま、なら。

 この場で強奪した封筒の一つに魔術で作ったインクで万年筆にひらさせ、文字を記す。

 次にもう既に無い暗幕の外にある死体の横から金貨をいくつか拾って袋ごとお姉さんに渡す。

「この封筒を、外れにある森の手前の豪邸に住んでいる魔道師に渡して、今、帰っているから、それでだめなら、どこかの医者にこのお金で頼んでお兄さんもみんなも治療してあげて、郊外の魔術師にはこの封筒の中は、この封筒に書いた条件を飲まないなら渡さないで、すぐに僕が会いに行くって伝えて」

「え? え!」

「頼むっ!」

 僕には流石に直接彼女の下へ行くには時間がない。一度帰ってからアリバイ工作をしてからでないとこれらの人殺しがバレてしまう。

「頼みます!」

「わかった」

 僕はそれを聞いたらすぐさまその場を後にして、邸宅の庭と外界を仕切る暗幕の魔術を解除して、大急ぎで疎開先のユニーカの別荘に戻る。

 封筒にはこう書いておいた。


『親愛なる師匠シシィへ、貴方の弟子より』

『前に欲しがっていたやすりとのこぎりをあげます』

『彼らを助けてください』


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