プロローグ2
「彼と2人にしてくれないかい?」
その男性から感じた強大な嫌悪感は眉をしかめさせ、奥歯を噛みしめるには十分であった。なにかとか、違和感とかそういう曖昧なものではないく彼の姿、ただ小休止するだけでハッキリと感じさせられる嫌悪はどこから発せられるのか。
「えぇ、話しづらいこともあるでしょうから、人払いをさせて頂きます」
ここはアンドロマリーの用意した部屋であるはずなのに我が物顔で椅子に座り、僕を見て微笑むくらいに余裕綽々で偉そうなその、40代手前くらいの容姿の男性はティーポットを片手で担ぎ上げカップとソーサーを盆から引き出しなにも起きていないように自然に注ぐ。
壁際には掛けかけの風景画が立てられて、今少し前まで作業していたように画材が使いかけで放置されている。
彼と二人きりになる。
「座ったらどうだ?」
「……お茶、頂きます」
毒は、わからないから飲みながらいくつかの毒の無効化するための魔術をこっそり使用するために水の魔力属性因子を生成する。
「警戒するのはわかるけどさ」
苦笑するこの男から、目が離せない。若作りでもしているのか30歳は超えていると分かるのに妙に若々しく、その体躯の線の細さと女性にも見紛うほど整っているくせに男性とハッキリとわかる顔面。曖昧で気持ちの悪い見た目。
「貴方は、どちらさまで?」
「そうだね。はじめましてだもんだ……そうか、何に見える?」
なんだこいつ。
「年齢は年を取っている雰囲気はあるけど若そうにも見える。……騎士にも、貴族にも、魔道師にも、見えませんね。かといって、戦いに慣れてないとは思えないし、研究者のようにも見えない。となるど、文官かと思うべきなんでしょうけど、アンドロマリーが敬語を使う相手となると、文官ではない。しかし、そういった仕事となると彼女からして、……教師。教師だと考えるなら、風景画をかいてるのだから絵画の教師か、それは単なる趣味で、歴史や地政学の教師と見るべきか……」
「そうか、君には私が教師に見えるか。いや、間違っちゃいない表現だね。だが、研究者だよ。一応の本業は魔道師さ」
「そんなところですか」
「あぁ、そんなところ。本当は今会いにくるつもりはなかったんだけど、さ。一応、釘を指しとこうかと思って」
面倒くさそうな気配を感じる。エイリアンのことだろ、これ。
「そんな顔しないでくれよ。懐かしい顔をしてさ」
懐かしい? そうだ。この人の髪、暗い亜麻色は僕と同じ、
◆
強く、けたたましい風。向こう一面の雑木林の先に広がる水平線と石造りの塀で仕切られた天井のない……屋上? 椅子から一切移動してないというのにいきなり空間がゆがみ、カーペットから上の茶を飲んでいたテーブルごと移動した。
「ぐっあ、おえええ! ぐああ、うおえええ」
気持ち悪い。五感のすべてがグラグラと歪められたような異常な五感が認識を歪めることなくさっきの含んだばかりの茶とともに昼食の一部を胃液とともに吹き上がらせて、口の中が酸で侵される。
椅子から転げて吐瀉物を一息撒き散らし、その男性を睨むと。申し訳無さそうに頭をかく。
「空間移動は慣れてないかんじか? いや、かつての私だったのだから大丈夫かとおもったんだが」
「あ? お前は誰だよ」
空間を移動する類の術に経験が無いわけじゃないよ。今の空間転移がメチャクチャにグラグラしたんだっての。
「私は……そうだな。シグフレド、かな。世間では預言者と言われている魔法教導会総帥、預言者シグフレド……いや、フルネームで名乗ろうか。シグフレド・フュルスト・ツー・クォライトリーゼと」
「……?」
預言者シグフレドは父が信奉していた宗教的な要素を持つ研究機関の創設者の名ではあるが、なぜ、そんな大物が
「伝わらなかったかな? 君の父が帝国に居たときの家名さ」
「っ!」
「では、本題に入ろうか?」
いやいやいやいや、知らない情報がいくつか一気に出しといて話題を変えるのかよ!? フュルスト・ツーということは騎士……本当に地位ある騎士の一族だったのかよ!
「君は、エイリアンをどうするつもりだ?」
それが本題か、言うことは一つ。
「家に帰す」
「それで?」
「それ以上なにがある」
預言者は首を横に振り、『わかってないな』とでも言いたげに不満そうだ。
「本当に帰すのか? いや? そうだな。なんと言ったらいいのか、本当に、家に帰らせることができると思っているのか? 確実な方法で」
それは、当然の疑問だ。取り繕っても仕方がない。確実な手段など未だ開発されては、
「正直、わからない」
「……帰せない場合、どうするつもりだい?」
できるのは、既に明示した自分の意志の復唱。それだけの『ゼロ回答』だけだ。
「保護する」
「……ダメだ」
預言者は腰の剣に手を掛け、うんざりしているような目で、僕を見据え……推し量るように感情を消した表情でいまいましげな声を並べる。
「君が保護した彼女たちに悪意があろうとなかろうと、近寄った愚者には容易く悪用できる程度の危険性はあるのだ。異世界人とは、その知識、技術もさることながらその象徴的な存在で既に危険なのだ。私は、君をここに置き去りにして殺しに行ってもいいのだよ? コルネリア嬢の妹の邸宅だったね」
ダメだ。この男が僕を置き去りにしたとしてここがどこかわからない以上、空間転移に追いつくことができるとしても、追いかけることもできない。……だめだ。武器も持たずにこいつを空間転移される前に一撃でどうにかすることができるか? 不可能だ。なら、できる選択肢は一つ!
椅子から飛ぶようにカーペットから外れた石畳まで移動して四つん這いになって額を床に擦り付けるまでに頭を下げて懇願する。
「おねがいします。彼女たち殺さないでください。彼女たちは自分の意志で召喚されたわけではない被害者なんです! お願いします。僕がどうなってもいいから、彼女たちは……!」
「自分はどうなっても、ねぇ」
視界の端に見せびらかすように剣を地面に向けて構え、その刃先を僕の頭に向ける。シグフレドは何を考えているのか分からないが、脅す程度にはなにかさせたいのか。それともカルラとの契約の影響か、迷わず殺すというわけでない? だが、反応を誤れば僕の命はないだろう。
「今、君の首をはねたら異世界人の保護を認めよう。ただし、君が逃げたら今まで通り異世界人は皆殺しにする。私の会員たちの行動は変わらないというわけだ」
視界の隅で剣の先が石造りの床をこすり、振りかぶるようだ。……本気で殺す気ならこんな質問をするだろうか? 彼らは異世界人を保護したくないのに、僕を殺したら願いを叶えるなどというのは、どう考えたとして嘘も良いところだ。なら、いや、なにができる?
「僕の命で保証されるなら、……僕の命を捧げても、いいかもしれません」
怖い。だけど、本心だ。視界いっぱいの石畳の端の剣が僕に向けて固く、構えられた気がする。
「う、ぅああ……お願いします」
変なこれが漏れた。ごまかすように懇願する。それ以上僕にはなにもできない。懇願することいがい僕にできることなんてないのだ!
「君は、なぜ、彼女たちを守りたいんだい?」
「もう嫌なんです。……手に取った誰も、見捨てたくない」
「そうか、……」
肩が焼けたような、刺されたのだ。痛い。悶て体が転がる。ずいぶん浅く突き刺したようで血が出るだけで鋒は僕の体から離れる。
「ぐ……ぅ」
悶て身じろぎした頭が預言者と目を合わせてくるので、できることはないのでただ睨むばかりだ。
「そうだな。じゃあ」
甲高い、風を切る音。キンキンと耳に不快なその音が遠くから、
「は? あれは」
預言者が空を向くと僕を蹴り飛ばし、石造りの柵までころがした。
「ぐっ、あ」
空が引き裂かれるほど甲高い風切り音が聴覚のすべてを覆い尽くすと、衝撃波により全身が殴打されたように万遍なく叩き込まれて視界のすべてが煙と砂利で消され切る。
「な、に」
痛い。喉から肺の中まで殴打されたように痛い。息継ぎが出来ないほどじゃないが、体中。中身の血管に至るまで練気の防御を通り抜けて痛みを…………。
◆
起きた現象だけは隕石と同一の事象だ。
「『何』だっ!?」
ソレは直撃直前、無駄な錐揉みを発生させ回転でと反回転を繰り返した。その動きで異常な勢いで減速し圧縮した大気による衝撃に先を越される形で着地体勢に入ってからなにか棒状のものを飛ばした反作用で加速し衝撃波の到達とともに私のもとへたどり着き、隕石を上回るほどの威力で私を蹴り飛ばし、塔の下半分の城が瓦解した。
「貴様、蹴ったな?」
瓦礫の中にいる私に対し正確に剣が投擲され、投擲の余波で瓦礫も私も、汚染された大地の上に並び立つ雑木林のも吹き飛ばして、クレーターを発生させて私を地面に叩きつける。
「蹴ったのはそっちだろ!」
言い切って立ち上がる前に、衝撃波が全身をくまなく殴打してその衝撃波のもとの女が視覚で追えない速度でいつの間にかその場に現れて私の肩口に刺さった剣を握った。
やばい。
腕を両断されるかと思った。だが、その女は剣を抜き、酷く怒りに満ちた顔で私の腹を蹴りつけてまたクレーターを形成させ、地盤沈下を起こす。
「ジークフリードを傷つけた言い訳はそれでいいのか?」
こいつは?
突撃する女に対し、カウンターになる圧縮熱を発生させる大気を手のひらから押しだし、その中に潜めた闇の魔術による拘束と毒をひそめるが、女は回避することなく肘で受け抜いた刀を私の眉間へ突き立てる。
効いていない!
練気による防御を固めながら風の術で女を押し出しながらはねて回避を試みるが、女には微風ほどの影響すらなく、脇をかすめ私の肩口へ穴を開ける。
「断っ!」
なんとか反応できた指定したの繋がりを空間をずらす魔術によって、彼女の腕を斬り払おうとするが、見切られたのか、引き抜いていた剣を取りこぼし、一瞬の間に3発ほど爆発的な蹴りを入れられて一瞬にしてクレーターの先まで間合いを取られ、内臓に痛みがほとぼしる。
「へぇ、痛い。か、手首に少し擦り傷ができたわ」
……あ? 当たったのか、空間断絶が、それで腕が切り落とされることなくほとんど無傷なのかよ……いや、はや、これは
「お前、おかしいよ。俺が死の恐怖を感じるのは20年ぶりだ」
「そう、貴方もすごいわよ。私が痛みを感じるのは5年ぶりね」
ダメだ。こちらから仕掛けてどうにかなる相手じゃない。相手が仕掛けてくるまで耐えるんだ。ソレ以外で、爆発っ!?
「ぁ……」
正面で爆発が起きた痛みを感じたら首を閉めれ、殺しにきてやがる。
「貴方。なぜ、私のジークフリードをさらった? 傷つけた? なぜだ? 返答次第では今回は引いてやろう」
前提は手を引かず殺すことなのかよ。
「げハァッ、ハァ!」
気道を開かれ、痛みから開放された俺にその女は、余裕があるのか堂々と待ち構える。
「はぁああ、なんだ。異世界人をどうするのか、本気度を確かめようと思ってね」
「……そうか、預言者はエイリアンもコンクエスターも識別せずに異世界人は殺すべきって言ってたな。そうか、敵に回るってことかな?」
「……どうしたものか、預言にもとづいて色々替えていたら預言の外から知らないものが次々
現れてきて、もはや俺一人で判断するべきなのかも、どうにもな」
「なら、なにもするな」
女は背中を向けた。油断だろう。俺には傷つける一切の手段を持たないという慢心。いや、それはたぶん事実なのだろうが、この女そのものでなくその周囲の空間を歪め、封印することならできる!
空間を歪め、中心にいる女の実像も歪む。
「――――――」
なにか言ったようだが、判別も出来ない。すくなくともこれで半日は動けないはずだ。
「……はぁ」
ため息が出る。預言から未来を変える前はこんな女は歴史の表舞台には登場していなかったし、そろそろ王国が数件政変が起きたと思っていたのだが、……どうも状況を変えすぎて未来を知っていたところで予測もままならなくなってくた。
大部分が崩壊した城の上部に刺さるように配置されていた塔の屋上まで魔術による飛行でひとっ飛びすると、カルラがかつて俺と同じだった青年と言うにはわずかに若い少年の介抱をしていた。
◆
預言者がもどってきた。逃げようにも、体が動かない。僕の頭を自分の膝において治療を続けるカルラからも逃げられることもできない体で、なぜ逃げようなどと考えられるのか。
「シグフレド様、彼は先日報告した砥石の開発者です」
「ん? あぁ、そうか、それがどうした」
「今、死なれると困る人材であることと、マシンの根絶に確実に役立てられる人材であるとっ私は進言したはずです」
「あぁ、知っているよ」
「なら、なぜ……」
「……あぁ、いいだろう。なら、監視でも送るとしよう。クラーラの処遇も含めてお前に任せている。押し付けると良い」
なにを話している。雰囲気からカルラは僕を守ろうとして、預言者と意見が分かれている?
「わかりました。然るべく」
「と、いうわけだ。ジークフリードくん、なにか危険なことがあったら皆殺しにするってことを決して忘れることなく、仕事を」
バリバリと音を立てて硬質の塊を破砕するような音が聞こえると、
歪んだ? 何もない空間が現れて、そこから亀裂が――――――!
「お前、覚悟は良いな?」
時空の切れ目の奥から月並みな怒気を孕んだ言葉が投げかけられると、返事を待たずに薄い魔力の波が視界の半分に写ったと思うとその頃には、土煙の中から姿を見せた切れ目より前の塔は霧散。島の地形を割り進み海に届くぎりぎりまで闇深い谷が割れて裂ける。刀を振り下げたコルネリアが歪んだ時空からそこへ姿を現す。
「ぐっ」
預言者が袈裟懸けに刀傷を、圧倒的な魔力の塊の人間の形をしていることが異形とも言うべき存在に大きな刀傷が負わされたのだ。
「お前、時空歪曲をどうやって!!」
「効き目が薄かった。それだけのことだろう?」
「どうなってんだよ!」
たった一振り、下段から上段へ振り上げられたその一太刀が纏う錬気の刃が薄く空を裂く。
半壊していた塔の屋上より彼女の正面の全ての地形が谷底となり、瓦礫は亀裂に沈み、大地が割られ、闇に裂かれる。その太刀筋、一本。極太の谷間になった太刀筋へ海が流れ込み傷を埋めるかさぶたのような痛みを鎮める。
言葉を交えるとその攻撃に目で追えるはずもないその一振り、あまりに美しいその型に僕には見えないはずなのに、周囲に一切の無駄な衝撃波を起こさない完璧なその所作に目は奪われ、意識の中で視認できないほどに吹き飛ばされた預言者シグフレドへ捧げるようになにか、コルネリアは謝罪する。
「1%、ごめんなさい」
「え? ……っ!」
大地へ刻みつけた刀傷の谷間は衝撃波などではなく、ただ単純な超巨大な斬撃である。剣に纏わせて無理やり引き延ばされた間合い、軽々しく振り回すその全長数十キロにわたるであろう刃渡りが裂いた大地のその全てをその腕で斬っている事実を僕はたしかに認識している。わかるからこそ、近くにいる僕らが壁に衝撃波に巻き込まれていない事実に涙が出る。あまりに鋭く研ぎ澄ましたそのほとんどが錬気で形作った一振りが余波を消しているのだ。
「1%って?」
「間合い、かな」
驚くカルラにどういう感情なのか、抱える僕をみてコクリと会釈をすると空を向いた。
なにがあるのかと僕とカルラが向くと、空から赤い点が振ってくる。それはこちらに迫り、圧熱を纏いそれでも質量を失わずに点が面となりこちらへ堕ちてくる。
「なんで、こんな、いや!」
青ざめたカルラが軽く悲鳴をあげる。
「あのサイズはダメだ」
コルネリアは削りきった鉛筆のように刀身を失った一振りの剣を捨て、軽い呼び動作のあと、僕らを吹き飛ばしかけるような衝撃波を放ってジャンプする。僕らは余波で2人まとめて壁に打ち付けられる。
空に堕ちる隕石は遙か彼方で爆発したような衝撃音を低く、伸びやかな音を放って霧散する。
そして、作られたばかりの谷の隣で、クレーターが発生して煙を巻き上げ、塵埃は僕らの視界の距離を奪う。
◆
気を使うべき雑兵の居ない戦場など初めてと言うわけではないが、全力を出すのはいつ以来であろうか? 私が剣を使わずに拳を振るのはここ三年、禁じられていた。私自身も禁じていた。
切迫する目の前の男を狙う拳は一振りするたびに余波で大気圧が圧縮と発熱を繰り返して地形をえぐり取り、クレーターを生み地形を変形させ続ける。
それでも、この男は私が100発、芯をとらえた拳を当てても死なずに耐えている。
もはや私には怒り以上に本気で殴っても死なない存在が居ることへの興奮で抑えられなくなる。
「きらびやかだな」
先ほどから預言者の放つまばゆい装飾。あらゆる魔術による電熱も毒も爆発も私の髪一つ痛めることも叶わない哀れな慰みであった。
余裕が出来たので一度構えをとって思いっきり大地に向って拳を飛ばすと、防御した預言者の左腕が千切れ飛んだ。先程刺突が当たった腕だ。打撃に対して特に耐久があるのだろうか? 剣は割りと容易く刺さったのにこの地殻変動をついでに起こすほどの打撃はこの程度なのだ。
「アンタ……! なんなんだ、隕石を蹴って潰したり、地殻変動起こしたり」
負け惜しみでも言うのかな? マウントポジションで殴るのを一旦やめて立ち上がって自分の服についたホコリを払っておいた。
「弟を痛めつけた赤の他人に対する普遍的な、ただの憎しみですよ。人間らしいでしょう?」
「人なものか」
預言者シグフレドの胸を殺すつもりで踏みつける。死ななかったのでもう一度踏み潰す。もう一度、もう一度、もう一度……数秒間で何百と踏みつけただろうか? 地形が崩れて生まれるクレーターが海水が入ってくる谷底近くの深さになっても死なないので、声をかける。
「こうして蹴り続けたら……お前は死ねるのか?」
「どう、なんだろうな」
「それは……人と言えるのか?」
魔術が飛んだ。男の最期の抵抗か? 避けたつもりだが私の上腕部にズキリと痛みが感じられる。避けられなかった。
「そんな…………」
私の服に切れ目が入る。だが、私自身は薄皮よりその先は無傷、だが、確かに
「そうか、預言者、お前は」
コイツの攻撃は、私に届く! ……私はこんな感覚を感じることが生まれてから一度でもあっただろうか?
なんだ。この感情は、楽しい? なんでそんな感覚を
「そうか、これは、これが上手くいけば私を殺せるのだな」
そうか、これは『スリル』という感覚か? いや、何だ。感じてみれば愉快なものじゃないか、
「……」
預言者は万事休すと力無く首を横に振る。
「なんだ……終わりなのか。じゃあ、仕方が無い。試させて貰う『離レ鏡ノ花』」
光と緑の魔力で作られた棒のような光の剣を、足を除けた先の預言者の胸に突き立て、緑の魔力により預言者の体の中の生命エネルギーを搔き集め光のエネルギーに変換する術でその体細胞を焼こうとする。
「ああがががぐがぐああ…………!!」
光を放ちながら全身を焼かれてもまるで死ぬ様子のない預言者に、面倒になったので光の剣を抜き、通告だけをしておく。
「死ねないんだな。なんで、左腕だけは耐えられなかったんだろうな。それとも変換する生命力がもともと少ないのか、だが、これは困ったな。お前を殺さないと決着がつかない」
世間では神のように扱われている預言者がうつろな目でわたしを睨む。
折れてない剣が残ってればなんとか首を跳ねることはできそうだが、そこまでやるとアトス陛下に迷惑がかかりそうだ。こいつの腰にある剣を奪ったりはしない。
「そうだな。妥協しよう。もしも、お前が王国や私の大切な人達に牙を向くことがあれば、……お前の大切なもの人を全員殺す。それには、教導会全組合員全職員を含めておこう」
「……」
余力がないのか、無反応。イラつく、妥協してやったら付け入るだろこれ。
「だんまりか、なら、今回だけはカルラを殺して手を打っておこう」
「待ってくれ! ……それは」
「待つと思うのか? お前は、ジークフリードを誘拐する時、待ったのか? 信者のアンドロマリーを騙してまでいきなりやっておいてそんなことを言えるのか?」
「関係ないだろう! いまは」
殺したくなる。物理的な手段では殺せないっぽいのがきつい。
「待ったっていうなら話は聞くことはできるけど」
なにか言う気か? この男、息を吸いやがる。
「嘘ついたら今日だけでジェネジオとクラーラ、グニシアあたりまでは殺すけど」
何も言えず、吸った息をパクパクとさせた口から逃がす。顎を蹴ったが死なない。無駄に塩っけの多い土を巻き上げるだけだ。
塔の先まで跳躍してカルラに向かって歩くと、なにか感じたフリッツが腕を広げて私との間に割って入った。
「フリッツ、どいて、その娘を見せしめに殺そうとしようと思ってるんだ」
「やめてくれ」
「わかった。被害者がそれを望むなら、今回は穏便に済ませよう」
だから、そうだな。どうしようか、
「それに、カルラは僕を守ろうとして預言者と言い合っていた。酷いことをしようとすら」
「それはっ! そう、ごめんなさい!」
片膝をついて彼女の手を取り精一杯の謝意を押し向ける。
「こちらこそ、すみません。今回は、シグフレド様の行動は脅しであったとしても極端すぎました。諫めることも、正すことも出来ず。力及ばずすみませんでした」
あら、これは驚いた。
「どうかなさいました?」
「いや、えっと、ごめんなさい。貴方は預言者に意見するような立場だとは知らなくって」
「そういう面が多いのは否定しませんし、それが本分ではありますよ」
ジークフリードを抱えて東の方角へ期間のために向き直り、捨て台詞を考える。
「じゃ、預言者に伝えておいて、私の大切な人を傷つける気がないなら、敵対はしたくなからって言っていたって」
「拝承します」
「またね」
なぜ、『またね』なのか、再開する予定なんてものはないし、再開なんて無いなら無い方がいいに決まっているのに。




