席へ促した
最初の方で僕が入ったから5人にも満たない人数で昼食を取るつもりなんだと思って出された前菜に手をつけていいのかわからず、正面のコルネリアが食べるまでナイフを触らずにいたが、大丈夫だったらしい。食べ始めた。
最初の一口を食べた辺りで扉の開閉の音と、外交官を名乗る文官の挨拶が聞こえた。
「苦労をかけた。では、楽にしたまえ」
上座に当たる王の席に座る少年が促すと礼とともに外交官は給仕を任される執事に随行して僕の隣の席に座らされる。
アンドロマリーを挟んで僕が座っているけど、僕の席はここでいいのか!?
王に最も近い上座は空席、その正面にアンドロマリー、その次のくらいに位置する上座にコルネリア、その対面に僕って……この座席は4番目に偉いっていみに、
「ねぇ、アンドロマリー。僕がこの席に座ってちゃまずいんじゃ?」
「問題ないわ」
本当かと思って国王陛下の顔を伺うと少年がにこやかに笑って……、
「いや、テーブルマナーだってあんまり自信ないよ」
「……? 見る限り問題なさそうだけど」
外交官を向くとにこやかだ。いや、せめて不思議そうな目を向けてくれよ。
追って、別の国の外交官が名乗りあげて前菜が入室した順番に運ばれてゆく。その中で促されるまでもなく外交官が僕から右側のコルネリアの隣の席に座ろうとした。
「そこは、貴方の席ではありませんよ?」
冷えた。一瞬そう感じてしまうほどの殺気がコルネリアから、
「それは失礼いたしました」
「伺い知れない。……あなたは何故この席に座るべき人間を連れてこない?」
「……あの方は外交などに関わる任を受けれおられずアトス陛下のおられる場所に」
「お前は、『自分はお使い一つもできない間抜け』と自称したいわけでもないだろう?」
外交官が簡単に頭を下げて納めて貰おうとするがコルネリアは声から漏れる怒気を全く隠さない。こっそり隣のアンドロマリーにギリギリ届くような声で確認するが、アンドロマリーは声を殺さずになんでも無いように喋る。
「アンドロマリー、これって大丈夫なの?」
「大丈夫よ。あの男の行動は、……いつも通りだから」
「外交の場ならばいざしれず、私的な場では貴様は何を言っている? 陛下とタニス国の王との関係があればこそ、貴様は……」
コルネリアが本気で説教を始めているけど、これってわざわざ恥を欠かせようとしているのか?
「本当に大丈夫なの? これ、大事じゃないの?」
「そんなことよりもジークフリート、食べるのには苦しいかもしれないけど、出される料理はできれば全部食べなさい。あなたには特別違う品を用意させて体に良い、薬になるような食材を多く入れてるから、ね」
「それで妙に量が多いのか」
「そう、それも多いのね。なら」
給仕を呼びつけアンドロマリーがなにか説明をして品目を少し減らしてくれることになった。
コルネリアは外交官に連れ立った者たちにも向けてなにか、首をかしげて説教、という体裁の、吊し上げを続ける。
「君たちの皇后へ対する無礼と、我々の国王陛下に対する侮辱は、総意であるのか?」
完食するたびにと運ばれる料理を3皿目に入り、食べやすく二口、三口で食べ切れるような油の少ない料理ばかりだが、既に空腹を感じなくなる程度には満腹感がある。
気にはなっていたが、向こう側の外交官の後ろの付き人たちがどんな反応をしたのか見逃していると、コルネリア大きくため息を吐いて呆れる。
「君たちの馬鹿な行いは君の本国に通達せずにしておく」
少し、沸き立つような息遣いが声もなく聞こえたが、
「一切、そのような無駄な真似はせずに君たちの国王、フライハルト様へ直接知らせるとしよう」
栓が締められたように息遣いがすぼまる。
「そんな! この程度のことで」
「この程度?」
大げさにため息を吐いた。コルネリアは怒りを通り越して諦めたような声で「怒らせたいのか?」と頭を片手で抱える。
「君たちが嫌う彼女がかの国王にとってどれほど重要な存在なのか理解してないから、自分たちに裁量があると勘違いするのだ。貴様らはフェリアを評価する立場になど――」
空気が抜けた風とともに、扉から声が飛ぶ。
「失礼! 遅れたよ」
一瞬、メイド服をきているのかと思ったが侍従の服装にしては不自然な肌の露出があり、給仕風のデザインの服装ってだけのよくわからない……よく見るとドレスにも見える丈の短い衣装を着たメイドのような服飾の女性が入ってきた。どこかの流行か?
「ん? なんかあったのかい」
「いや? この男が貴方に用意した席に間違えて座りそうになったので、注意してました」
「…………ぇ、……あぁ! そうか! なるほど、理解した。失礼いたしました、手違いで私に知らせがくるのが遅れてしまいましてね」
「……届かなかったのでなくて?」
「あぁ! いつものことだ」
返事に納得していないというじっとりとした目をコルネリアから向けられなららメイド服風ドレスを着た女性は見渡すように三方向へ深々と礼をして
「どうやらこの場には幾人かお初目の方々がいられるようで、タニス王、フライハルト陛下のため后、フェリア・タイタニアと申します。以後、お見知りおきを……そういうわけで、この場で無粋な真似はよしてほしいんだ。コルネリア様、『彼らは陛下に敬意を払っている』それは確かなのだから」
「……。この場では不問としましょう。プライベートな場では、外交の場で憚ることはまかり通らないこともあると注意しただけで。なにも起きてはいない……と、いうことにします」
王妃……いや、メイド服の衣装って后になんて服装させているんだよ!?
「それでいい。ありがとう。ん? 君、アンドロマリーの隣のその彼、彼女? 若い、その子」
服装に注目しすぎたか、失礼だったかもしれない!
「すみません。私の出身では見慣れないドレスでしたので、びっくりしてしまって」
「いえ、いいのよ。実際変な服装だし。これ、ドレスじゃなくて改造メイド服だから、私服よ。それより、君が話に出てた事業をするって言ってた奇跡の子だね?」
……なんで王妃が改造メイド服を着ているのかは聞いてはいけないのだろうか?
「やっぱり、あなたから見ても、彼は奇跡の子に見えるわよね。ジークフリートっていうの」
「そりゃ、奇跡の子同士ならわかるものじゃないの? ジークフリート、男か、若いうちと年を取ったあとは男も女もわからないものね」
アンドロマリーが首を横に軽く降って少しかしげる。
「彼にはわからないみたいね」
「そういうのもあるのか、いや、あるか。奇跡の子そのものがよくわからない現象だしそういうのもあるのだろうね。あとで研究でも?」
「あとで会いに行くよ」
「わかったわ」
コニア姉が腕でなにかハンドサインを送ると給仕が何人か現れ、フェリア王妃とその外交官たちを席へ促した。
「みなさま、この場はあくまで昼食を取るだけの公式な場ではありませんが、予定だけは伝えておこうかと招待させてもらいました」
少年が立ち上がり、慄然とした立ち姿で説明を始める。
「昨今、武力を持った反体制的組織による御使いと称してエイリアンを召喚する儀式の活発化
が懸念され、それが民衆へ無用な警戒を生み。治世を無視してエイリアン狩りが横行する現状への対策案をアンドロマリーより提示するようだ。では頼む」
陛下が席に座り直すと食事を中断したアンドロマリーは立ち上がり、先程僕とまとめた事業の説明を始める。
「は、では僭越ながら……、我々はエイリアンに対する危険性を理解しているため、過度な干渉を避けていましたが、その不干渉が行き過ぎたために法で命が保証されないことを誤解した多くに人々はエイリアンを見たら殺さなければならないと認識し、為政者として黙認する形で現状維持に努めてきました」
説明をするので、理解しているから聞く必要もないし知らないフリでもしようと口当たりをずいぶんとなめらかにさえらスープを口に含む。
「しかし、最近は異常にエイリアンを召喚する無法者たちが頻出するせいでその共通認識が無用な軋轢となっていると我々は認識しています。なので、我々はエイリアンの保護を開始することを決定しました。担当者には彼、ジークフリート・ラコライトリーゼを専任し、近くプロギュス公国内にそのための施設を作る予定です」
「あ、え、はい。ジークフリート・ラコライトリーゼです」
いきなり名前を言われたのであわててスプーンを置いて立ち上がって敬礼する。
「ですが、この問題は我々ヴァロヴィング王国単独で管理するには皆様にとってリスクが高い事業と考えています。なので、……近く、皆様に人員の派遣を要請します。なので、そのために事前に連絡を、と考えています」
僕の右隣の外交官が訝しげな目を僕越しに彼女へ向ける。
「……、我々に関与しろと?」
「協力はあくまで要請でありますし、人員を送らず事業に対して敵対的な立場であっても、それぞれの国内事情を踏まえるなら構いません。ですが、危険だと思うものは纏めた上でリスクは他人に押し付けたほうが楽だと考えられるなら是非に。それに、要請する人員には監査人も含まれることを明示するでしょう」
「……本国へ伝えておきましょう」
「ありがとう。今は事前連絡を通達するまで待っていてほしい」
敬礼をしたまま止まっていた僕はアンドロマリーの着席を見て、続くように席に座りスープで満腹になった。




