宿命のライバル
昼食を終え、終えたと思ったんだ。
「しばらく、忙しくなるから」
義姉の手元の皿からケーキを口へ注ぐように押し込まれ激甚の苦痛を感じるだけで頷くばかりの些細な共同も、気分の悪い病人らしい精一杯の乾坤となって消費される。吐きそう。
「王城からしばらく長く離れられない。それで今日は打ち合わせをしていたから、即座に出ることができなくて、グニシアの手を借りることになった」
「まぁ、それは運……なんだろ……場合と、いうか、もういらない。ケーキ食べたくない」
「そうだといいけど……ダメだ。少なくとも1ホール分は食べなきゃ、血糖値が」
「下がっているところにいきなりそんな糖の塊を押し込まれたらおかしくなるよ……。それに1ホールとか本気で言っているの? 気持ち悪い。万全の状態で失血がまったくなくても無理だよ…………。いや、辛いって意味で」
「……無理なの? たった1ホールを」
「普段の運動量が違うんだよ……。いや、量のことか? そういや、好き嫌いは治った?」
「なん、なんの、ことかな?」
「食べ物のことだよ。コルネリアはまだ、選り好みでもしているの?」
義姉がまだ偏食を治していないことをつついて話題でも変えてやろうかと、必死でケーキから逃げようと、精神攻撃も考慮して思案していると、わざわざ二人きりにされた病室にノックがなり、コルネリアが促すと少しばかり前に部屋を出ていったウーナレクディアが儀礼的な所作の伴う挨拶を済ませ、後ろの人物の入室を促す。
「ユーリ、無事だったんだ……あぁ、良かった」
部屋に入る数名の人物の影と共に僕は心からの安堵に震えて、駆け寄る彼女とともに涙ぐむ。
「フリッツ! ……ぁ、傷……」
「あぁ、包帯、これは目立つよね。ある程度までは魔術で治療できたみたいなんだけどね。身体の衰弱があったせいで傷をしばらくは自然治癒に任せないとダメらしい」
「そう……」
「大丈夫、最近失血のし過ぎでいろんな治療を同時にしないといけなくなっただけで、……うん大丈夫ではないけど、死ぬってことは無いと思うよ?」
コツリ。と、コルネリアを押しのけてまで僕に迫ったユーリは指の関節を額に押し当てわかりやすく痛いが傷つかないように指をねじる。
「バカ、なんで他人事なの」
「そうだ。ユーリ、言ってやれ」
あっさり位置を譲ってユーリを僕に近づけさせたのは違和感を感じたが、コルネリアはユーリをかなり信頼しているような雰囲気がある。
(見殺しにしようとしたくせに)
「そうは言っても、殺し合いの結果で後遺症が残るだけで済むのは運が良いことに違いないのだし」
「運がいい? それは貴方じゃなく、貴方に……っ、ごめんなさい」
胸の奥の方で渦巻く攻撃的な感情を押し付けて適当なことを言っていると、ウーナレクディアと連れ立ってシャノンがベット際まできて彼女になにか促されると、シャノンは口を開く。
「こんにちは、おかげんいかがですか」
「!? シャノン」
驚いた。異界より召喚された儀式の不全により言語機能の伝達が困難とばかり、
「喋られるように」
「あぁ、えぇ、儀式魔術は私の専門ですから、アンドロマリー様に命じられ処置しておきましたよ。えぇ、私の仕事です」
ウーナレクディアが自慢げに胸を張ってアピールする。
「どうも、ありがとうございます」
「ありがとう。助かるが、これって法律的には大丈夫なのか?」
「えぇ、問題ないわ。通訳の術は手間がかかるし、専門的な儀式魔術だから分かりづらいけど、異世界からの移動関連とは一切関係のない術だから」
「そうなのか? そうかも、いや、でも、どうなんだろ」
「組み込まれて同時にやってた儀式が儀式だけにかなりグレーゾーンな要素は確かにあったけども、私が行ったのは機能不全を起こしていた術を再構築して会話可能にする術よ。禁書として管理すらされれいないわ」
「そう、なの?」
儀式魔術はある程度知識はあるが、どうもそれを扱う法律に関してはいまいち知らない部分が多いから実際に使うことがなかったからと、自分の浅学さに虚脱感を覚えてだんだん投げやりな気分になりそうだが、これから儀式の解析もしないとならないから……、勉強することが多そうだと、嘆息が漏れ出てしまう。
「といっても今回行った処置は完璧ではないわ。もう少し別の処置が後ですることになるかと、アンドロマリー様とも話し合って最低限の意思の疎通にはこれでできるし、まずは応急処置ということで、次は儀式に使う準備の材料が揃ったらまたアンドロマリー様に招集される予定です」
「準備、なにが必要なんだ? いつ揃う」
顎にて指を当て、ウーナレクディアは品目を頭に思い浮かべてか、
「うーん、儀式魔術に一般的によく使う銅や獣の骨は揃っているので足りないと思われるのは葡萄の果実ですかね」
「葡萄?」
「果汁、ワインになるまえのぶどうジュースを使うんですよ。魔力に返還する儀式の供物に、式を使った術が専門でしたっけ?」
「あぁ、僕の専門だな」
「なら、すごいわかりにくいかもしれません。葡萄ジュースじゃないとだめな理由」
葡萄ジュース……少し昔の思い出を思う。同じことを思ったようでコルネリアと目が会い、お互いに歯が浮いたような笑顔になって、それを見て今その瞬間まで説明していたウーナレクディアがの顔が歯をはみ締めて痛みを堪えるようなものになる。
「っ、収穫の時期がきたら連絡します。ので、……アンドロマリー様が、手を回すと……おっしゃられていた。ので予想より、早めになる可能性もあるのですから……、時期は言わないでおきます」
なんで苦しそうな顔なんだ。
なんなんだ。お前は、何故、話し合わずに諦める! 十数日前までの僕と全く同じじゃないか、ダメだ。分かっている。同じ感情で同じことを感がているから仕方がなくわかるんだ。
「ところで、お前はコルネリアを愛しているんだよね?」
「人は天使を崇拝しても愛で穢さないものです」
何故、……首を横に振っている? 違うと言わんばかりに首を縦に振らない……何故!?
「お前、なにを言ってる!?」
嘘を言うな。お前は、コニア姉さんを愛しているのだろう! 義姉弟の契を結んだ僕とは違う理由でも、血を分けた拾の姉を、
「聖職者は天使に情念はいだかないのと同じことです」
「嘘だ! 聖職者だって裏ではよろしくしてるだろうが、お前は間違いなくコルネリアを」
「黙れ!」
……何故、僕は言われて黙る。そんな堪えた顔で嘘をつく彼女は僕の
「失礼……。では、エイリアン両名はこの屋敷内から出ない限りの王都への滞在許可はアンドロマリー様より頂いておいでなので私は仕事に戻ります。なにか困ったことが屋敷内の者に、特に帯刀している執事メイド服の人になにか言ってあげてください。彼女たちは私と同じで強い相手には従順ですし武家でありながら本来の我々はヴァレットの家系なので」
まくしたてる。
逃げられる。扉へ向かいこちらに背を見せる彼女をなんとか引き止めねば、
「まて、その言い方じゃ、滞在許可を証明する書類とか書状ってどうなっている? あと、ヴァレットってなんだ?」
適当な質問を、
「ヴァレットとは帯刀を許される程度に身分を認められた使用人のことです。我々は代々武芸を重んじていました。滞在許可は私が管理しています。この屋敷の管理者としてアンドロマリー閣下より配偶者の滞在を任命された形式ですね」
「おい! ちょっとだけ、待つんだ。配偶者じゃ」
逃げるように扉を締める。
「ほら、……愛してないんでしょうね。あの子も、私のことなんて」
「……コニア姉さん、え、あれも変だったけど、なんであの内容からそう思った?」
どうでもいいような反応で強がるコルネリアの反応がいたたまれなくて、つい気が抜けてしまい、昔のような呼び方をしてしまう。
「あら、私を、姉として認め直してくれるのね」
「……いや、ダメだ」
ダメだ。差し置いては
「アンタはウーナレクディアの姉だ。彼女を差し置いて僕にアンタを姉と呼ぶその権利はない。あってはならないはずなんだよ。で、なんで愛されてないとおも」「違う! ウーナは関係ないでしょ? 貴方が義弟であるかどうかと」
「重要なことだよ。そうじゃなきゃ、全部……」
「……私は、姉でも、彼女は……それを受け入れては」
「そんなわけあるか、彼女は、……僕とそっくりだろう!? それともなんだ。僕を捨ててまで手にれたそれすら捨てるのか! その恐怖心だけで!」
そうなるのか? そう、ならないような。自分で言っていて自分の屁理屈が理解できちゃいないが、まぁ、感情論で押し切ろう。
「私は、どうしたって……『いらない子』なのよ」
「噛み合ってないだけじゃないかな?」
こいつ、…………その言葉を口にしたってことは、僕にどう思われてもいいのか? 考えてないだけだとしても、その発言は腹に据えかねる。
「フリッツは、どうして頑なに今の彼女が私を、ウーナなんてただ血が繋がっただけの妹がコルネリアを慕っていると言いたいの?」
「そりゃ、そうだね。彼女は…………」
『同じだから』そう言いかけた。そうだった。僕たちが契を結んだのは、『いらない子』と言ったコルネリアに僕が『同じだから』といった。それを理由に、それだけのか細い繋がりを絶やさなようになんとか家族として愛し合っていたんだ。だから、
「そうだな。『宿命のライバルだから』だ!」
「……そう、それは」
「同じ想いがあり、競っている宿敵だって本人から聞いたからだ!」
そこまで言っていたか、自分でも適当な発言であることは感じつつも、この感情論を押し切りたい理由がなんとなくわかってきた。
「なにが?」
「コルネリアへの愛だ」
「そんなの嘘! 世間体を保つための」
「だとしても、僕は彼女を信じる」
「なんで!?」
「敵意があった。あの目を僕は信じる」
「理解できないわ」
言っちゃダメなんだ。『同じだから』なんて大切な思い出の言葉は、だけど、彼女の敵意は間違いなく、『同じだから』向けられた感情で、僕はこの感情をどうしても指定したくないんだ。
布団の中で決意の握りこぶしと、オロオロするシャノンに笑いかけユーリにも向けて言ってしまう。
「シャノン、ユーリ、ケーキをがあるんだ。手つかずの2ホールと1ホールの3分の4、僕はもういらないから、一緒に食べよう」
謝罪の意を込めて、コルネリアが買ってきたケーキを食べてもらった。




