脚でも削げば
本当に済まないと思っていはいるんだ。という旨の謝罪を何度か繰り返し、
「だがね。僕には避けられない戦いだったんだ。あいつの発言や振る舞いにはどうしようもなく……気分が悪くなるし、殺意もあったと知られれば殺すしか……ないんだ。あぁ、今から引き返して殺しに」
「やめなさい!」
ドン引きしているユーリとなにか薄ら笑いを浮かべて困っているマノンの3人で茂みを駆け抜ける。ユーリは状況をよく理解していないシャノンを背中に抱えているというのにかなり余裕があるようで、僕がかなりギリギリな速度で錬気を用いた歩法で駆け抜けていために枝に何度か引っかかるというのに、彼女はかすりすらせずにシャクシャクと駆け抜ける。
「なんでそんな極端なの!?」
「わからない。あいつの目がなんか」
「ユーリさん、これくらいにしておいて……結果論以外のなんでもないけど。あながち、いや、行動自体は間違いってわけでもないからさ」
「はぁ?」
ごめんよ。ユーリ、そんなに怒らないで
「戦力を分断する口実……なのかしらね。ギュヌマリウスからしたら」
「ん? なんかあったのかな? そうだ。今のうちに渡しておくものがこの瓶。ちょっと汚いけど我慢して」
2つ、空の瓶と透明な液体が入った指ほどの大きさの小瓶を取り出し、その片方をマノンに渡して片方の瓶の蓋を開ける。
「なに、これ?」
「僕の体液、中身が乾かない限り魔術で探すことができる」
そう言って空き瓶の口近くに舌を垂らして唾液を落として蓋を閉める。そのガラスの冷たさの先に生あたたかを感じる瓶をシャノンを背負うユーリの鞄に押し入れて進行方向に向き直る。
「血でも良いんだけど、唾液が一番楽だ。もしもはぐれたときはこれあれば探せるんだ」
「そう、なの?」
「どんな魔術使っているんだよ」
◆
「あー、いるよ。止まって、停止!」
歩みを止めて進行方向を見て、向こうもこちらが止まったのを認識したのか、姿の見えない位置の茂みの奥で姿勢をやや低くして構えを取る。
「魔力の塊だね。水系統も結構あるからこの位置でわかるけど、……っ構えて!!」
光が見えた。なら十分だ。
氷の魔力で作った外骨格を闇の魔力で肉づけした隙間だらけの鎧をまとい、隙間から噴出される闇の魔力による熱と圧力の消失効果により飛んできた光源が僕の肩にあたって、外骨格の一部が溶ける。
「熱っ! ぐ、そこ!」
光源が飛んできた位置に高速回転する水の円盤を曲線を描いて抜いたショーテルの先から射出して、その座標へ斬りかかる。
到着前に広い範囲の光源の網にかかり蒸発して霧散する。
「ユーリ! シャノンを連れて王都ヘ向かえ! 合流はあとで考える!」
「私もたたか」
「ダメだ、それじゃ逃げれない!」
言いかけるユーリの申しげを斬って捨て、別方向へ駆けていくユーリを視界の端に捉えながら、氷と闇の消費される魔力の量を増やしてバチバチと煩い光源の網に突撃して二振り通常の刀身と反対方向へ大きく反り返ったショーテルで斬りかかる。
女だ。見覚えのある、なんならさっきまで会っていた顔とよく似ている女性だが、表情が違いすぎる。
「へぇ、そっちを先に送る。まぁ、そうだよね。いまそんな状況じゃないし」
どうなっているんだ? 刀が当たらない。
「あぁ? 誰だお前、どっちだ。カルラじゃない方か?」
「えぇ、そう、じゃない方よ。私はカルラの姉。クラーラ」
「そうか、くたばれ!」
蹴りを飛ばすと、当てようとする直前に足が縮こまってたたまれる。風の術で間に爆発を起こして距離をなんとか離すがこれでやっと防御態勢に当たる片腕を動かせた。
「やっぱそうよね。キュンツェンドルフ大王と争わないためだけに身を隠した一族の騎士だ。エイデルハルトを自分で殺すし、キュンツェンドルフの血を守ろうともしますよね?」
「エイデルハルト?」
「貴方が必死で儀式を邪魔した亡国の皇子のことよ。……ごめんなさい。貴方も帝国民も、いや、王国だってあんなものを帝国の王位継承者などと認めはないわね。あんなゴミ」
火傷は結構抑えられてるが、これは電撃だろう。筋肉を無理やり収縮させられているのか?
「我々はあの子を殺さなくてはならないの。恨みはないんだけど、ごめんなさい。仕事なの」
ダメだ。ユーリを狙うのならここで殺す。帝国式暗闘術奥義『離レ水ノ月』――――! 僕の心の奥で構えられた暗闘術の第四の奥義を……奥義とは名ばかりの格闘技を補佐する目的の魔術を使用して地面の複数の魔力を送る。
「え?」
左右両面から隆起する地面から現れた氷の塊に反応した彼女は正面にいる僕を向いて魔力の光熱を放出する。そこにはなにもない空気だけを熱する。
ガチャガチャと氷に挟めれたその女は自信満々といった態度なのか、氷を爆破した中心から歩いて近寄ってくる。
「……いま、なにを?」
そういった時、彼女は膝から崩れるように転ぶ。いや、転ばされたのだ。平衡感覚を僕の術で錯覚させ、急勾配に居ると錯覚することで平地にいると足場の認識が歪みくずれる。
「……降参してくれるか?」
有効打がない。錬気もそうだが、ソレとは別に熱と光の伴うエネルギーをすり抜けた上で僕の攻撃が届くとは……ね。
「え、嫌だけど。え、私はなにをされてるの? うまく立てない」
そう言いつつ、ありったけの魔力を生成した腕をこちらへ突き出している。
「魔術だよ」
端的に、返答を間違わないように気をつけなければ、すきを見て地面に生成した魔力仕掛けの火薬を着火できれば逃げやすいのだが、
「……魔術、ねぇ。いろいろなガードを通り抜けて幻覚や催眠術を掛けられたかと思ったけど感覚が違い過ぎる。本当になにをされているんだ?」
「そうだな。……聴覚に干渉する幻術の一種かな? 応用として、その耳の奥にある三半規管を歪ませるみたいな、ね」嘘だけど。
「そう……マノン、あなたいつまで」
彼女の頭蓋が僕から側面方向へ動く、マノンが回り込んでいたか? これはチャンスだ。着火するより脚を裂けば速い!
氷の外骨格により保護とともに引っ張られて動く四肢を錬気で堅牢に固め、闇の術で熱や圧力への対策に加え、電圧への対策を加えた身体で女に近づく。脚でも削げば逃げられるだろう。
爆発? いや、一瞬にして発生した圧力、圧縮された大気が熱を帯びて闇の保護など威力で貫通して僕の腹をずたずたに潰そうとしてくる。手からこぼれ落ちるショーテルに生成した分が殆ど消えた闇がひっついた隙間だらけの虫の関節のような氷の外骨格が崩れていく。
「え、なんで!」
なぜか困惑するクラーラが起き上がりにマノンの蹴りが顎に叩き込まれる。
「う、ぁが!?」
吹き飛ぶ彼女から発せられる圧縮熱が止まり、僕の身体から焦げた匂いともに生臭い赤色が漏れ出す。
「おい、大丈夫か!? 逃げるか迷ってたらなんか殺し合いよって!」
腕に大量の氷の魔力を生成して剣を抜き構える。
「これは私の問題だ! 無関係なアンタは逃げろ!」
「無関係? よく言うね。君も」
口から漏れる血を袖で拭ってクラーラは何でもないようにマノンに向く。僕も戦わなくては、そう思っても肢体は動かない。なにも喋れない。胸が裂けたように熱い。
「あ? 私のほうが狙いだったんだろうが!」
「まぁ、そうだけど」
僕の攻撃が通らなかったクラーラの周囲の圧力を無視して斬りかかるマノンに爆発的な熱を放つ大気を纏った拳が打ち合う。
「お前は、キュンツェンドルフ大王の血を絶やしたんだろ? ……シシィと預言者がそれだけのことでいつも揉めてたもんな」
「重要なことなんだ。すまないともおもっている」
「だったら、逃してくれないか?」
「すまない。できないんだ。できなければ、私は……いいや、任務なんだごめん」
武器と拳のぶつかり合いだというのに研ぎ澄まされた錬気と爆発してると錯覚するほどの風因子の魔力を纏った拳が対等にぶつかり合う。氷の魔力は圧倒的な熱を放つ大気圧に対して溶けることもなくクラーラに細々とした破片になって突撃する。
格の違う闘いに圧縮熱と冷気に気圧されてただでさえ動けない身体は貫けれたように痛む。胸は少し裂けているが呼吸器には異常がない。痛むが喋られる。何度も何度も、相手に当たった攻撃を耐えられて二人は間合いを取る。
「くっキュンツェンドルフの血筋って……、は、ぁ、マノンがかの先帝の子女なのか……?」
「確信がなかったかしら? えぇ、そうよ」
「確信も何も、そいつ本当になにも知らなかったぞ」
「え…………それは、えぇ」
クラーラは動揺するが、もう、
「いや、いま知ったんだ。僕じゃ確認もできないな」
嫌そうな顔をされた。
水の魔力因子を使った痛み止めで無理やり動ける身体を鞭打ちショーテルを拾って向き直る。クラーラの明らかな狼狽に、マノンは蹴りを入れ剣を差し込む、剣の攻撃が通り腕に刺さる。追撃をかまそうとすると、熱をもった水が水蒸気となって視界を白で埋める。
熱い。呼吸が苦しい。できない。呼吸しようとするほど焼けて痛い。
◆
「ぁぁ……」息ができない。熱を持った霧で周囲が見えない。……いくらか意識を失っていたか? 水蒸気の熱がややぬるく感じる。
マノンは意識を失っているの? 真横で転がっていて動かない。
「いや、いや……その……いや……」
うめくような声を口から漏らす少女が目の前で剣を両手で構えてうろたえている。
「カルラ……?」
「違う!」
彼女は興奮して剣を振り下ろすが、その鋒は僕の頭を大きくそらして地面へたたきつけられて、彼女が僕にそっ地面に這うと耳打ちを始める。
「……逃げて、殺したくないの。マノンも死んでない」
「え」
「おねがいします。おねがいします」
事情があるのか……?




