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下手すぎる

 ドレスコードはどうなっているんだよ。

「どうかしたかしら? ジークフリート、この場は私がホストなのよ。メニューにあるものは好きに頼むと良い。私の交際費から支出されるもの」

「身体が弱くてね」

 支店に行くだけで案内された旅のときに使用した荷台のような馬車とは違う4,5人入れば座席が無くなる豪奢な馬車。

 そこから送られた場所は旅していたそのままの服装では明らかに場違いな高級飲食店だ。入ったその先、広く誰も居ないホールの厨房に寄った真ん中辺り。案内されたテーブルの真正面にはカルラがメニュー表を見ながらギャルソンの男性になにか話しかけていた。今日は姉と一緒にいないらしい。

「貴方もなにか頼むといいわ」

 ギャルソンにしは歳も食って大人しげだが装飾もつけているしメートルというか、立場あるウエイターな気がして、なんか気圧されそうになるから嫌に思う。

「最近、食が細いんだ。長旅に身体が耐えてくれないらしい」

「そうだった。そうだったわね。仮定とはいえ一応奇跡の子の可能性が高いんっだった。貴方は、なら病弱なのも自然なことかしら」

 そういって手で招いたウエイターに注文を追加する。

「弱っている人でも食べやすい粥を彼に頼める?」

「わかりました」

 歳の食ったウエイターが下がったのを見た時の恭しい態度から、彼女自身立場はあるというわけか。

「軌跡の子ってなんだよ」

「知らないの? いや、普通知らないよね。いや、だけど知らずによくいままで死ななかったわね」

 前菜が彼女の前に配置されフォークとナイフでゆっくりと食べる。

「ん、まぁ、田舎に住んでいたからかな。大して感染症みたいな病気はしなかったから」

 僕の前にも湯気の立ち上るいい香りのお粥が並び、スプーンで口に含もうとするが思った以上の熱さに、すこし待つことにした。

「そうか、運がいい。……そうね。軌跡の子は体質の名前で、基本的に生まれつき病弱なんだ。だけど、学習能力が普通の人間よりたか、いや、学習能力とは少し違って、学習速度自体は普通の人間と同じで病弱というだけなんだけど……学習した結果が、特に魔力の生成が、うーん、かなり違うのよ」

「じゃあ何が違うんだ?」

「なんかと言うべきかな」

 少し言いよどむと、言葉をまとめたように絞りだす。

「成長限界がないの。特定の分野以外に関して、無限に魔力が増えて、無限に細かく動かせるように、努力がそのまま実力にならないことがない体質、といえばいいかしら」

「だとしたら、僕は奇跡の子じゃなさそうだな」

「そう、なの? アンドロマリーと姉さんが奇跡の子に違いない天の属性を持つ軌跡の子に違いないって言っていたけどなんでそう思うの」

「天の属性? まぁ使えるけど、だがそれは外れだ。僕は」

「奇跡の子同士はなんか、お互いを見分けるための感覚でも発達するんじゃないかしら? 姉さんやアンドロマリーになんか違和感を感じるような感覚はなかった?」

「無いよそんなの、それに……炎の魔力の生成だけどうしてもできないんだ。どんなに頑張ってもだから成長し続けるっていうのとは違うだろ」

「それは……」

 なにか言われる前にまくし立ててしまう。否定的な言葉を聞きたくないから、自分で否定してダメな点を認めるのだ。

「正直恥ずかしくは思っているんだ。火種を灯すときに子供でも誰でも誰かの手を借りるの」

「あの、そうね。それ、姉さんもなのよ。姉さんも天の属性に類する軌跡の子だから、炎と鋼の属性の魔術は絶対につかえないの」

 知らない話だな。彼女の前に出てくるよくわからない次の前菜をふた息ほどで咀嚼するカルラの咀嚼が止まるのをみて質問を投げる。

「なんで?」

「軌跡の子は……生まれつき特に育ちやすい属性と生成できない属性があるの。姉さんも天の属性に必要な水と風の生成は秀でているのに炎と光、鋼はつかえないの、それに、アンドロマリーも、というかヴァロヴィングの王家にたまに生まれる雷の属性の軌跡の子も土と氷と緑を使えないもの」

「え? 緑をつかないって? アンドロマリー、彼女は治療の魔術を使って」

「あの子、緑の魔力を必要としないいろいろな治療手段を使っているのよ」

「あるのか」

「マイナーだけどね」

 知らない魚とパンの挟み揚げを食べているのみて、食が細いせいで揚げ物をみるだけで胸が焼ける感覚を覚えつつ、話を促す。

「で、商談は?」

「せっかちね」

「どうも褒め言葉として解釈させてもらうよ。一応実物と、その見本は持ってきたけど、これあんたが期待するほどすごい作品じゃないよ」

「えぇ、その場合でも前金は払う約束をするわ」

「ん、じゃあ、どういう契約?」

 革袋から四角い石の塊と獣の皮でカバーた短刀を机の上に置く。すると離れていた後ろに控えていたスーツの男性がいくつかの書類をカルラに渡して、その中から契約書を僕に差し出す。

「これが小切手よ。契約成立しだい。私すとするわ。そこに控えてもらっているのはさっき出た銀行の店長だから、すぐに口座でも作ってもらいなさい。換金もすぐよ」

「……なんだ。この、……これ、汚い金じゃないよね?」

 彼女の手から向けられた桁を間違って多く表記したような小切手の額面と、契約書の下側に記された数字が一致したことからそんな反応もしてしまう。

「えへぇ、流石にそれは私が自由にできるお金から払っているわ。教導会の活動資金から払うことになるのは、少し時間がかかるし額もすぐ決まるものでもないから、これは完全な私の独断であり、ポケットマネーよ」

 あからさまな同様をごまかすような笑みに僕の心のなかで警戒の鐘はけたたましく鳴り響く。

「あら、不満?」

「なんの裏があるんだ?」

「んぇ? なんのことかな」

 だが、この額にこの反応。知らなければ、……どうだろうか、知ったらどのみち受け取ることはできないだろう。

「なにがあるかは聞かないほうがいいかな」

 カバーから離した短剣を黒い長方形の塊に置いて、契約書の要求内容から、判断に必要であるだろう説明を始める。

「この短剣そのものはそこらへんの市場で買った剣だ。たぶん、あんたがほしい要素が入っているのはこれだ」

「黒曜石?」

「そうだな。材料は、黒曜石だった」

 そう言って、黒い長方形を指で小突く。

「これを使うとどうなるの? どうなったことで鋼をバターのように切り分けるナイフが作れるの?」

「……これ自体は、極端に刃が研がれ、あまりの鋭さから摩擦までも鈍り人肉どころか木の枝一本切り取ることもかなわない尖すぎるための鈍らになる」

「ナマクラ?」

「しかも刃こぼれしやすくもなる。そのナマクラ状態では有機物などの……硬度が低く靭性の高いものはこれで研いだ刀をいくら当てても斬れない。斬ろうとすると、刃こぼれするようになる。そこを錬気を延長させることによる保護で刃こぼれしないように注意すれば、硬いものほど切りやすくなるんっだ」

「そういえば、コルネリアが得意な錬気で衣服を汚れなくるあの技ね。同門だったものね」

「たしかに、同じようにたくさんの帝国崩れの老兵から武術を学んだ。だが、旧帝国、今の公国では錬気の対象を衣服から武器まで延長させることで長持ちさせる技が普及していた」

「それで強固になるのね……!」

 首を横に振り、座席に座り直す。

「そんなことはない。せいぜい刃こぼれか、血の付着を抑えて錆びるのを遅らせるのが限界だ。だが、この砥石を使ったナイフにはその限りではないというだけだ」

「そう、使い方は、こう?」

「あぁ、そうだ。普通の砥石と変わらない。ただし、一般的な砥石の五倍は手間をかける必要がある。全然砥げない」

 ためしにテーブルの上でナイフをなでて渋い顔をしたカルラをみて、もう一度聞く。

「で、これに金を払う価値があると思うのか? 製法も含めた額とはいえ、要らないだろ」

「もちろんあるわ。へぇ、興味深いわ。なんでこうなる……? でも、いいのよ。これは研究開発費への報酬なのだから、言っていたでしょ?」

「契約書には書いているが言ったのはいま初めて聞いたな。だとしても高いし裏もありそうだが」

 無言、いよいよごまかさなくなってきた。この女、腹芸みたいなのは苦手なのか? だとしたら、この商談が独断っていうのは本当なんだろうな。

「えぇ、じゃあ、前金を払ったから説明は私達の方の専門家を呼んでからでいいわ」

「あぁ良いよ。それって、シシィのことだろ? それなら」「彼女は!」

 言葉を遮って、ハッと我に返って取り繕った照れた顔で必死に説明する。

「彼女は、その、預言者の同胞でもシグフレド様じゃなくてグニシア様の部下だから、私達と連絡手段を同じものを使っていないわ」

「はぁ、権力闘争でも?」

「いえ、目的意識が微妙に違ってね。隠すようなことじゃないけど、セシリアはシグフレド様の言う事聞くことはないから」

「シシィってそういや仕事は王国の魔道士って言っていたな……ん? じゃあ、そのグニシアって」「あらゆる肯定も否定もしないわ。彼女は預言者シグフレドの娘と言うだけしか発言は禁じられている」

 感情を消した事務的な発言。いきなり表情から感情が消えるのは感情が荒立っていると言っているようなものだぞ。

「そうか、それは失礼」

「すまないわね。私の立場では」

 苦しそうにしているが、本当にこういうやり取りが苦手なんだろうな。スプーンを取ってぬるくなった食事を口に運ぶ。

「これくらい、冷えたほうが食べやすいな」

「え?」

「おかゆのことだよ」

「そう、ね。食も太くなるように、治療は早めにやっておきなさい」

「……着いたら、そのことでアンドロマリーに怒られるだろうな」

「あぁ……あの姉さんのストーカー」

 ため息をはくと忌忌しげなつぶやきで気になることを言ってくる。

「ストーカー?」

「あの人、貴方とクラーラ姉さんに偏執的な同族意識を持っているのよ。感じているでしょ? 貴方が自分の愛人なんて噂流してさ。」

「あれ、本人が流してたのか」

「アプローチのつもりなのか、なんなのかしら。でも例えば、姉さんになにかあってもあの人なら預かってくれそうね」

 お粥を食べきり、スプーンを置いていると気づかないタイミングで皿が下がっていた。

「『なにか』って?」

「……たとえば、ね。負傷もするでしょう」

 それもそうか、戦闘が仕事……いや、この女の仕事ってなんなんだろ?

「例えば、か。じゃあ例えば僕が一旦、契約を置いて王都に入ってから半年くらい考える時間がほしいって言ったら、どうする?」

「そうね」

 悩む、この女。すまし顔しながらごまかすのが下手すぎる。

「困るわ。とても、それをすぐに欲しいもの」

「……まぁ、いいか。じゃあ契約書の続きを読ませてもらえるか? 時間がかかる」

「えぇ、ありがとう」

 契約内容を読み進めるが、なんか、ところどころ大雑把だ。これ、騙そうとすれば騙せるが、彼女の信頼を失っても損しか無いしそんなことはしないが、本当に急遽作った契約書なんだっろう。

「そうね。特典として、……貴方が危険な状況にあったとき、私が助けられそうなら助けるわ。製法を聞く前に死なれると、とても困るもの」

「それはありがたい。もしもの際の気休めにもらっておくよ」

「へぇ、じゃあもらってくれたお礼に私の腹づもりでも明かすとしよう」

「んぁ?」

 ……なぜいきなり?

「貴方に預かって欲しい人を私から送ることがある。結果的には、貴方の目的の手伝いもしましょう」

「ん? エイリアンの保護のことか……そうだな」

「この契約で得た資産を使ってもいいわ。ほしいなら人の居ない土地だって用意してあげる。私ってそういう物件を探すのが得意なのよ。魔道の研究を続けるなら資金はいくらあっても足りないでしょうし、貴方がやりたい慈善事業には……僅かな土地と戦力が必要でしょうから」

「戦力? なんで」

「預言者様が異世界人を嫌っているからよ。それはシグフレド様が何もしなくても、見ず知らずの誰かに殺されるには十分な理由よ。……説明はこれでいいかしら?」

「……あぁ、今は、ギュヌマリウスに頼んでここにきてはいるが、もう少し注意したほうがいいか」

「でも、そうね。警告はしておくわ。ジェネジオからは全力で逃げて」

 なんの警告? 自分の浅慮に背筋が凍る感覚を覚えながら、深刻な顔でだれかの名前を警告する。

「ジェネジオ? 人名か、話の流れを考えると、あんたの同僚かなにかか?」

「えぇ、そういうこと。我々の同胞。シグフレド様の部下って考えておいて。だけど、彼とは決して戦おうとしないで時間を稼ぐなり、逃げるなり、なんとかして」

 こんな警告をされては、ユーリたちのもとへすぐに帰りたくなった。

「……理由は?」

「無い、わ」

「そう」

 説明できないってことか。

 契約の確認を終え、話し合いを少し交わし、世情の情報交換をしようとするがお互い微妙に疎かったので会話も弾まない。

「じゃあ、契約書の締結といきましょうか、店長頼むわ?」

「はい。長いな、書くだけでも少し、時間がかかる」

 確認のための指紋を貼るタイプの署名の書類に色々と記す。

「あら、今日だったの」

「ん? あぁ、そうだな。今日で16歳になる。ってかあんた同い年だったんだ」

 生年月日だけで世情のあれこれより和やかな会話をできるものだ。

「ならお酒でも頼もうかしら? 私も飲んだことないけど、初めての飲酒はどうかしら?」

「うーん、それはやめておく、法律では今日から飲めるようだが、生まれた月の樽を地元にキープしてるんだ。それを飲むまでは他の酒は飲まないことにしてる」

「そう、いい趣味ね」

 それでなんとか会話ははずんで、あんまりお腹も減らなかったしすぐに帰りたいのに3皿よくわからない料理を半ばむりやり提供されて、なんとか食べて帰った。味の良し悪しは詳しくはないが、流石にプロの仕事であるおかげか食べやすかった。


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