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目を開けると、見覚えがあるようなないようなハッキリと断定できない天井を見上げていた。
「えぇっと」
体を起こして見えた窓の外は、昼間だと思っていたのに夕暮れの闇の手前という暗さになっていた。
「あの子は……」
周囲を探そうと立ち上がる。
「体が寒い感覚はあるが」傷はふさがっているな。と、脇腹をなでて痛みがないことを確認する。
自分の服が着替えさせられていることを見て、扉を見つけると外に出るべくそこを向く。向いて歩き出す前に、
「フリッツ! 良かった、目を」
「おはよう? ユニーカ」
幼なじみが現れて涙ぐむので、目覚めの挨拶をする。
「喧嘩して……! その直後に、カルトの暴漢にお腹を斬られたって……」
「あ、あぁ、ごめんよ。心配させたかな、でも、もう、傷がないよ。すごいな誰が治したの? ほら、ここまでキレイに治療ってすごい難しいでしょ。痛みも全く感じない」
刺されたはずの腹の横を見せて無傷をアピールする。
「それは、王国の騎士の人が、土煙が上がったから何事かと思って街から駆けつけたって」
「そうか、あれが原因か。その、なんだ。治してくれた人にお礼を言いたいほどだな」
「うーん、誰がやったのかな? 王国の人は何故か人数も多かったし、何人か作業を分担して治癒の魔術を施してたし」
「最近の治癒魔術は分業するんだっけか? 運用は専門じゃないから、魔術の流行りとかには詳しくないからなぁ」
「それで、あの女はなに?」
その神妙な顔に息を呑んで、目をそらしてしまう。
「誘拐されてたって」
「御使いカルトに? 私も聞いたけどそれって、召喚されたんじゃ」
「エイリアンなのかもね。で、彼女はなんて言ってた?」
「……誘拐されたとしか、本当にそれだけ。王国騎士は戦いが起きた方に気を取られてるのか、あんまり質問しなかったけど、明らかに不自然よ。騎士も後日話しをききにくるって釘を差してきたし」
「そりゃ、何も言いたくないよね。異世界から呼び出したエイリアンなのか、エイリアンを呼び出すための贄なのか、それを判別は確認しないことにはね。少なくとも、僕は彼女が誘拐された以上は確認するつもりはないよ」
「いくらなんでも、まずいんじゃないの? それは」
まずい。まぁ、そうだよね。だから、真剣な話をするからこそ、彼女の目をそらすのをやめてしっかり見据えて告げる。
「それでだ。ユニーカ、頼みがある」
「なに?」
「彼女はまだ、誘拐されただけの被害者だ。だが、このままだと異世界から呼び寄せられたエイリアンかただの贄かハッキリさせられてしまう。僕はそれを確認しようとは思わない。確認するべきではないと思っている。だから、そうだな……」
ユニーカの顔が険しいものになるのを確認しつつ、思案する。
「彼女にユニーカの衣服を与えて、いま着ているものを全て燃やしてくれ。どんな未知の構造物や記号が入ってるかわからないが、それら一切の確認をせずに、だ」
「それは……えぇ、彼女がエイリアンである可能性が高いってことよね?」
「あぁ、そして、このままだと嫌でも僕らは確認してしまう。なら、確認できなくしてしまおう。ということさ」
ユニーカは顎に少しの間手を置き思案して、苦悶の顔色を見せた後、意を決したような顔で答える。
「……できない。私が手を貸せばこの村全体がエイリアンを匿った疑惑が出てしまう。元帝国民である我々にはそんな疑惑は生まれるべきではない。生まれたら生きていけない。だから、そんな馬鹿な真似を手伝うことはできない。だけど、今、ユーリは私の西の別邸で湯浴みをしている」
「ユーリ?」
「あの子の名前」
「そうなんだ」
「知らなかったの? 彼女に渡す衣服は用意するから燃やすのは全部フリッツがやりなさい」
「十二分、ありがと」
軽く会釈するとユニーカは困惑に歪んだ顔で、言いたくないであろうことを述べる。
「分かっているの? ……場合によっては、私は貴方をこの村から追い出さないとならなくなるわ。そういうことをしているって、彼女だってエイリアンだとしても幽閉されて終わり。私達が知れるのはそれだけでいいはずよ。知ったことじゃないわ」
うなずいて、部屋を出ようとする僕に、ユニーカは服の裾をつかんで静止する。
「やめたほうがいいわ。あの子はフリッツには、ジークフリート・ラコライトリーゼには助けられなかった。それだけでいいはずよ。それだけの話よ。貴方が苦労する理由はないのよ」
「そうだろうけど、さ。……ごめん、納得出来ないんだ」
「何を?」
「全部」
「なにの?」
「王国もカルトも、前の帝国の愚王も、全部、どの考えにも納得がいかないんだ」
「なら、…………どうしたいのよ」
絞り出されたその質問に僕はただ、
「異世界から来たってそれは人だよ。彼女に関しては誘拐の被害者なんだ」考えを告げた。
そうしたら、ユニーカ俯いた顔のまま一緒に部屋をでて元から用意していたようで、居間に置かれていた彼女の着替えを持ってきた。
「やめるなら今のうちよ?」
「ごめん。助けちゃったから、義務を果たすよ」
「おねがい。やめて」
その懇願の主にただ、迷惑がかからないように
「もしもその時は、そうだな。面倒だけど、放浪の旅にでも出るよ」
そうやって笑って裏切りを宣言すると、彼女は複雑な顔をしていた。明らかな嫌悪でもないけど、良くも思ってないような、でも少しだけ、嬉しそうな顔。