検問に向かって
みちほどは順調に進むばかりだ。
距離にしてキャンプをあと3回挟み夜は停止すると考えた場合、あと2日と半日もすれば王都で明後日の夕方にはつくだろうという距離だ。
もう無いものだとばかり思っていた検問が山沿いの谷ではられていた。
「えぇ、聞くとマシンが現れ移動して回って居いるそうで、被害を抑えるために出没中の時点で人払いをですね。こうやって今張っている検問も昨日も一昨日も何度も配置換えがありまして、道順は予想できない状況ですね」
マシン、異界よりもたらされた未知の金属生命体。詳しく知っているものは少ないが、僕は一度見たことがある。その際は水鋸以外の全て技が通らずに死にかけた相手だ。
「迂回ルートは、……ここらへんの地理に詳しい? 地図のここで合ってるか?」
ギュヌマリウスが質問すると兵士はキビキビと敬礼をこなし、受け答えてギュヌマリウス
がにこやかに礼を言って敬礼したあと、渋い顔で他の馬車の馭者と話し合って言葉に詰まる。
「そういえばだけど」
懐かしく思うような地面に降り立ち様子をただ見ていたら、後ろに居たシシィの弟子に話しかけられて存在を認識していなかったわけでもないのに驚いて身を跳ねるように揺らしてしまう。
「驚くことはないだろう。私が前に魔法陣を彫った剣だけど」
「このショーテルのことか、うん、マノンがなんかしてくれたおかげで水の魔力が式により従順になったような……そうだな、無駄が減って使いやすくなったよ」
「あぁ、なら埋め直さなくても良さそうだな。だが、前にその逆向きのサーベルを研いでるところを見たときに少し思っただが……いやなんだ、変な研ぎ方をしてたような」
「ん、あぁ、手入れはあんまり上手くない自覚はあるけど」
腰に掛けたショーテルの片一本を鞘の留具を外して胸辺りまで持ち上げて丁寧に抜く。
「なんか、研いではいるんだけど、切れ味が落ちてきてるような」
「ん? あぁ、なんだこれは」
呆れ気味な彼女の反応に答えをわかっているようなものを感じたので
「ごめん、なにがダメなのかわからないんだ。どこを直せば良いのか教えてもらえないかな?」
「研ぎすぎた」
「え?」
「研ぎすぎたバカ、こんなもん」
「えーっと、研ぎすぎ?」
面倒そうにマノンは問題点を考察する。
「手入れに何使ってるんだよサーベルってのは斧みたいに叩いて割る武器じゃないから研げば研ぐだけ斬れるってもんじゃなくて……あぁ? わかったぞ。これ、大剣の研ぎ方をサーベルにやってるんだな」
「えーっと」
「刀っていうものはある程度切れ味を落とさないと柔らかいものを切れないんだ。マシンみたいな金属の塊みたいななのとか、大岩とかそういうのを錬気で固めて斬るならそれでいいが、いや……お前のその体で普通に動けるなら……」
「そうか、じゃあ、少しザラザラさせるといいってこと? それってどうやれば」
「うーん、だが、お前にそれは要らないかもな」
少し考えて、一拍の沈黙のあとにまとめられる。
「その研ぎ方は肉より柔らかいものを斬るには腕力が必要になるってことだ。まぁ、仮想敵が錬気したお前と競り合える相手なら、錬気で間合いを伸ばしすだろうし刀で直接斬ろうとする必要がなさそうだ」
苦笑いを禁じる自らを維持なんてできないな。そんな言われ方をしたら、流石に僕でも
「くはは、錬気を刀にまとわせて間合いを伸ばすみたいな芸当、できないよ?」
「……できないのか?」
「あぁ、いくらなんでもね」
「へぇ、似たようなことはしているのにな」
「似たようなこと? いつしたっけ」
「お前、その死にたいの身体を錬気でむりやり、糸人形みたいな手法で動かしてるんだろ?」
「なんだそれ、はは」
「見ての……」
知らない流言を聞き吹き出しそうにしていると深刻な顔で見られて、腕を触られる。
「失礼」
掴まれた途端、体中から力が抜け立てなくなる。驚きの声をあげようとしたが息もままならず、苦しい。視界がぐらつく、膝から落ちる。腕を掴まれた形で吊り上げて支えられる。
「ァっ…………!」
「おい! 貴女なにをして」
「あ、いや、まさかこんな」
彼女の手が離されると呼吸ができるようになり、溺れたような息遣いで咳が喉から垂れ流され体に力が入る。四つん這いでひとしきり咳き込んだあとは自力っで立ち上がる。
激高するユーリがマノンとの間に割ってはいって臨戦態勢を取る。そのほかに、ギュヌマリウスを含めた魔道士たちが周囲を囲い、何事かと見極めるような目で据えた目を並べ、何人かは腰の剣に手を添えている。
そして、彼女の言葉の意味を理解した。
「ゲホ、ハァ、ハッ! は、……はぁー、あー。え……いまのって、もしかしなくても錬気の阻害をしただけ……で?」
「すまない。……本当にすまない。まさか、錬気の身体強化が弱るだけで死にかけるような状態とは思っていなかったんだ」
青ざめるマノンが両手を広げているのに掴みかかるユーリを僕は間に差し込むように手で静止を示し、一つの会話をおぼろげながらに思い出す。
「そういえば、……アンドロマリーから適切な処置をしないと余命半年を切っているって言われてたんだった」
フラフラになる姿を、『そこまで死にそうなのか?』とギュヌマリウスにドン引きされつつも、ユーリとそれに追従するシャノンに馬車に引き込まれ、ユーリに半ば強制的に寝袋へ拘束され発話できないシャノンが背中を撫でてくれる。暑苦しいまでに暖かくされる。
ユーリはもうすでに炎の魔術で周辺の気温を上げる程度の微細な調整ができるまでに習熟しており、「本当に大丈夫?」とか「どこか苦しくないか?」と本気で心配される。
なんか、末梢が冷たいまま全然暖かくならないし、『え、僕の体ってそんな死にかけだったの?』と初めて認識して、完全なる未知への無関心が漠然とした恐怖へ変わる。
「え、僕は死ぬのか?」
「嫌! フリッツ、死なないで」
そう言って寝袋越しに抱きかかえられて拘束はより堅牢になる。息苦しいから、ちょっと優しく抱えてほしいのに、その心配に思う必死さに愛を感じてしまう。
「さっきはすまなかった。まさか、いや、まて治療処置をしにきたのであって」
「……フリッツをこんなにして、信じられないわ」
馬車の中に上がるマノンになぐりかかるんじゃないかというほど眉間にシワを寄せ、僕を抱きしめる拘束を緩め抜いた腕に彼女から見えない位置に握りこぶしをつくるユーリを、不穏に思い慌ててしまう。
「いや、いいんだ。彼女のやった行為は極めてこそいるが魔術的な……武道で言うところの、単純な『崩し』の技術だ。こんなことになるとは僕もわからなかったんだ。あんまり責めないで」
慌てて止める僕にため息を吐いて、納めてくれるのかユーリは握りこぶしを解いて膝に置く。
「フリッツがそう言うなら」
「寛容で助かる。これは詫びとかにならないが……、緑の術を使う。ユーリはそのまま温度を維持しろ。寝袋から出す」
「自分で出るよ……うん、あっれ」
寝袋の紐が……あれ、ほどけない。
「うまく、指が」
「見せろ」
代わりにほどいてくれるのかと思ったら緑の魔力を用いた魔術で血行促進を促す。
「指が熱くなってきた」
「シンプルだが最も肝心な術だな」
「そうだな。僕もシシィから緑の術を教わったときはこれの反復練習を嫌になるまでやらされたよ」
「ちょっと、聞いて良い?」
「なんだ?」
「緑の術って、なに?」
「あ?」
不服そうなユーリからの質問に、『そんな常識を聞いてどうするんだ』と雑な対応をしたマノンにユーリが殴りかかるんじゃないかと思って、慌てて説明を始める。
「あぁ、緑の術っていうのは正確に言うと、土の魔力属性因子を使った術なんだけどそれを少し変化させると、生命活動にかかわる術を使うのに適した魔力属性因子になって、緑の因子に変化するんだけど、それを魔力から生成できると、その治療や菌糸とか……パンの発酵とかを操作する魔術をつかえて、その名前だね」
「あぁ、そういや異世界出身なんだっけ? そりゃ、知らないか」
マノンが勝手に意味を理解して納得するので、毒気のなさに気づく。
「興味ないの?」
「あんまり」
「それはよかった」
心から、
馬車の天幕内の空間に登るギュヌマリウスは不安そうに訪ねてくる。
「やあ、ジークフリート、調子はどうだ」
「お陰様で、ほら、もう治った」
「治ったって……根本的な問題はお前が治療を放ぽっているからだろう?」
「いやー、その、マノンの緑の魔術のお陰で、えーっと、治療の専門なのかな? はは、おかげですでに元気だよ」
ギュヌマリウスは聞くと安堵なのかにやけて頭をかく。
「……それは良かった。デュノワも俺と同じで騎士道精神に頭をやられているクチだからな。同志が褒められて俺も嬉しいよ」
「お前とは方向性が違うだろうが……色々」
目をそらすマノン、どういう関係なのかよくわからないけど、まぁいいか。ギュヌマリウスは今後の予定を軽く説明を始めた。
「――――でな、とりあえず、一日以上は近くで待機する。近くに集落もあるが、距離が微妙に遠いから今日中に解除されなけらばキャンプですませることで話はまとまったからそのつもりで」
「またか」
「まぁ、訓練を受けた騎士じゃないお前にはキャンプはシンドいかもしれないが、本当に体が不調なら言ってっくれよ。集落に向かうその選択肢が無いわけでもないから」
……あまり、迷惑はかけたくないが、
「その時はちゃんと言うよ。死なれるとお前も困るもんな。まぁ、ユーリとシャノンが謎に楽しんでるから、僕だけ辛くなってるだけで、いやキャンプなんて……訓練しなければこれ普通だからね。ん? 土砂崩れか」
視界のより先に魔術で少し天気を見るついでに、木々の地すべりを感じ取る。
「まぁ、普通だがな。土砂崩れ? なんでだ」
「水源とか探す魔術だよ。検問の奥から地面が滑っているのかな、木が土ごと落ちて」
ギュヌマリウスとユーリはほぼ同時に身に力が入る。
「おま」
「まず」
僕の前面を抱えるユーリが腕を飛ばすように離し馬車から飛び降り、背中の剣に手を添えて検問に向かって走っていったギュヌマリウスを追って恐るべき加速で駆け出す。
◆
異能力、この世界では魔法と呼ばれる私の能力によって本来届かない範囲まで届いた私の視界はその列車や金太郎飴にような金属の蛇を見つける。
まだ、本来の視界に居ないそれは地すべりを起こしながら蛇行してこちらへ迫る。
「伏せろ! くる!」
先に再前衛についたギュヌマリウスさんが通行止の兵士に声をかけ、噛みしめるような息とともり背中から外した大ぶりの剣を振ると、木々で見えない位置にあるはずに連結したマルタのようなかたまりに電撃が這って進む。
その丸太は……先頭の動きを少し抑えたが後ろの塊が押し出して先頭はすのまま進まされ側面から逆向きに生えた鱗のような突起から弾丸が発射される。
「それは! 着弾しないっ!」
電撃で禿げ上がった途中の森に落ちた鱗から発射された弾は爆炎を巻き起こし地形を焼払う。
「榴弾!? なら」
更に鱗のような隆起が丸太から並び、榴弾の発射が予告されたようなものだ。
「詰まれ」その弾丸は、弾づまりを起こし、自爆する。
マルタの表面が自爆によりめくり上がる。それと同時に、榴弾が後ろの馬車に向いて発射される。
「まずいっ」弾づまりへ未来を結べたのに、榴弾の発射を禁止できなかった……!!
「大丈夫だ!」
高く空を隠すほどに覆われた電撃の帯が半円上に進路を塞ぎ榴弾を爆散させる。
そのまま迫ってくる丸太本体へ、ギュヌマリウスは大振りな縦に切り上げて頭を潰す。
後列の丸太は連結を解除して広報へ下がったあとに8方に分かれ谷間を詰めるように面で制圧してこちらへ突撃を始める。
「はやい」
「だが、熱で爆発できるなら」
手元に炎を魔術で作り、私の能力はその判定を書き換える。
「この炎は、その爆発物全てへ、あたっている」
距離をとって囲ったマルタの列車は光を上げてしまい。あまりにうるさいというのに、その眩しさで爆音すら気にならない光で視界が一瞬なくなった。




