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政変のついて詳しく

 当初庁舎に泊まるつもりだったが、20人近くのメンバーがいきなり押しかけると寝床が足りなくなるので、騎士団所属の魔道士でない僕らは宿を品定めすることにした。

 基本的に被害者とはいえ異世界人を快くは思えないらしく一緒にいるてもお互い苦痛だろうと思ってのことだ。少し、闇討ちされるくらいに恨んでいる個人が紛れている可能性は考えたが、……彼らの中で僕を出し抜けるだけの実力がありそうなのはマノンと、ギュヌマリウスくらいだ。他のメンバーは隠蔽させた僕の魔力を眼の前で動かして威嚇しても気づかなかったし、立ち振る舞いで武術の心得の差もわかる。

 空間魔術で不意打ちされたら危険かもしれないが、闇の魔力因子を用いたものなら僕も容積拡張程度の空間にかかわる魔術を使えるのだ。対策はしている。

 宿を探そうと城塞から街に出ようとすると面倒見の良い魔道士のイヴェリーが一人ついてきた。監視のつもりか? 問答も無駄だろう。

「あんまり高い宿はとりませんよ?」

「いやいや、ここは私が払うから」

 そのような問答を始めたところ少し離れたところの馬車から降りた官僚風の服装の女が騎士を二人ひきつれてこの街の代官の銘を入れた印らしいものを見せて、恭しく書状を渡してくる。

「招待状……ですか」

 内容は至ってシンプル『連れも含めてこちらに泊まってはいかがか?』というものだ。その理由は……

「……困ったな。これでは少し説明が要る返事はその後にするので案内してくれないか?」


 ◆


 二人のことはギュヌマリウスに託し、一人領館に入り、応接間で待つというには僅かな時間でこの地域の領主が迎えてくれた。最初は代官だと思って握手して一通り挨拶をしたんだが、名乗った名前が領の名前で確認すると領主っだったというわけだ。

「いや、失礼しました。呼び出しの印が代官であったので」

 ノゼウン領主は健康的な中肉中背の壮年と老年の間くらいの中年とでも言うべき初老の白髪、しかし仕事柄か椅子に座るだけで痛みの声を漏らすほど腰が悪いようだ。

「えぇ、あなたがここに滞在すると聞いて慌てて書かせたものでありまして、もてなす準備も大急ぎで、はい」

「あぁ、それなんですけど、客人として泊めてもらうのは良いんですけど、理由がまずいですよ」

「はて、なんと書きまして」

 渡された書状を広げて少し気恥ずかしく苦笑する。

「アンドロマリーの内縁の婿ってダメですよ」

「あぁ! これは失礼しました」

 大慌てして床に膝をつこうとする領主を地面につかないように肩を持ってなだめる。

「そんな簡単に謝っちゃダメですよ! 落ち着いて、ノゼウン伯! 膝をつこうとしないでください!」

「いえ、アンドロマリー閣下の恋人にとんだ無礼を」

「違いますから、そういう関係じゃないですから」

 領主を無理やり座らせてしっかりと説明をする。

「そもそも僕はアンドロマリーと恋人関係ではありませんよ。男妾として召し抱えられたとか、そう言う噂が出てるらしいのは事実ですけど、それは虚偽なんですよ」

「なんと、いいや、それだとしたら」

「アンドロマリーにとって、たしかにほしい存在だったみたいですけど、あれはペット感覚のそういうのと友情やいろんなものがゴチャゴチャになった感情ですから、本人からそういう話は聞いたことありませんし」

「そう、なんでしょうか?」

 にしても、この領主の態度はもしや、……現時点の若さでアンドロマリーが台頭している理由と関係があるとしたら、

「それに、僕の出自では王家に並ぶだけでも不満も出るでしょう?」

「出自? いえ、聞いたことがありませんね」

 考えがまとまると、唇の端が下品に釣り上がるのを感じで隠すために思わず左手で顔の下半分を覆う。

「えぇ、帝国と王国の、いえ、今は植民地化されてプロギュス公国でしたね。そこと王国の国境沿いの田舎農家の……いわゆる帝国崩れってやつですよ」

「自分で言うのか……別に、今どきどうだっていいでしょうが」

「本当にそう思いますか?」

「まぁ、疑う気持ちはわかります。植民地へ漠然とした不満を持つ人々も多くいることも知っているので、それはなんとなく」

「本当に?」

「……あぁ、分からざるをえないんです。貴族一部はそれでかなり多くの問題を起こしたことが今の封建政治を陛下にさせて負担をかけてしまった理由の一つなので、王族の貴族嫌いを考えると相手を妾でも恋人でも取り繕ってくれえるだけマシと言える惨状ですよ」

 ……ふむ、

「すまないが、詳しく聞けますか?」

「私の個人的な評価でいいなら、旧帝国崩れでもそれは」「いえ、それではなく」

 つり上がった唇は思案のために表情はなくなり、左手は真下にさがりい足元は落ち着きがなく勝手に揺れる。反感をもっているならそれに便乗すればいいのだと、

「言ったでしょう。田舎出身だって、ここ数年の王国の中枢で起きた政変について詳しく知りたいのですが」

「知らないって、……いくら田舎でも」

「魔道研究ばかりしてたので、ほら、数年も研究してるんですよ。この見た目、不自然だとは

思いませんか?」

「……!? そうか、リスクに見合ったものじゃないとは知っているが古風な魔道士は若返りを試すと聴いたことがある」

「僕はアンドロマリーに雇われた理由、知らなかったんですか? 魔道研究員ですよ?」

 驚いて僕をまじまじと観察する領主。

「見た目は十代中盤というとことですか、それで、実年齢は聴いてもよろしくて?」好奇心の色を帯びた目を向けられるので冗談の種明かし、

「えぇ、あと数日で16歳です」

 キョトンとした顔で納得するノゼウンの領主。

「その若さで……ほう、アンドロマリー様が目をかけるということはそれほど優秀なのですか」

 冗談に残念な反応でも、コミカルなリアクタンスでもするかと思ったが真面目な顔で考察される。冗談がスベった上に考察などされては溜まったものではないので、

「自信はあります」と、虚勢を張っておく。


「事の発端は、王族でもない前王妃を陛下が処刑したことからです」

「なんで」

「はい、今の発言は訂正します。前王妃は前の宰相と手を組み、売国行為を繰り返し、その、私服を肥やしたことが発端です」

 領主は手を組んだり離してまた組んだりと膝の上で落ち着かない手のひらだ。

「それで、王妃の処刑と同じ日に前宰相の一族郎党、皆殺しにされました」

「同じ日って、一日で?」

「えぇ、冗談みたいは話ですが、当時王命を受けたコルネイユ子爵が宰相の領地へ出向き全員殺害したそうです」

「……そうか」

 コニア姉さんはそこで出てくるのか、王命? どういう立場なんだ。

「しかし、宰相を取り逃がし、逃げ延びた宰相は貴族の兵士を集めたった半月で大軍団を編成し、王都近くの高原に陣を敷きました。それも、全滅しました」

「そう」

「それも、たったひとりの騎士に地面ごと叩き潰されたそうです」

「は?」

「コルネイユ子爵、怒り狂った彼女が何らかの魔法を行使して、その場に集められた兵士は全員死亡。加担した貴族は基本的に処刑。疑いのあるものたちは子息たちを王都に勤めさせ、人質として飼い殺し……あぁ、当時の貴族の……王族に連なる方々を含めても3分の2は減り、伯爵と子爵は9割は繰り上げの男爵や代官が勤め、それから二年といったところでしょうか」

 そうか、コニア姉さんの錬気の精度なら全力で動き回ったら地殻変動が起こるって予想したことはあったが、圧縮断熱と衝撃波で辺り一帯が吹っ飛んだってことか? 叩き潰れたという表現ならその可能性が有力だろう。

 この人からは貴族が冷遇されていてもあまり不満のようなものが見えないのは、彼自身繰り上げられでもしたのかもしれないな。

「え、でも、そんなにいきなり減って問題なかったの?」

「陛下いわく、仕事ができる人間は処刑してないそうです」

 本当に売国奴だったんだ。

「国王陛下は冷酷ではありますが、話の通じるお方です。真面目に仕事をしているなら嫌いな貴族であろうと邪険にはしませんし、むやみに処刑するようなことはありません。ただ、比類なき実行力があるということと、人を選り好まれる方なのでその兵士をまとめ上げるアンドロマリー様には、やはり、御目通り叶いたいものですよ」

「そうか、……コルネリア子爵の出自ってわかっているの?」

「えぇ、コルネイユ子爵は準貴族の代々騎士を排出していた武家の出自と」

 貴族からも、その程度の認識なのか、……案外、3年前モウマドから出戻ったあとは実家と上手く付き合っていたのかもしれないな。妹ともやりとりはしているような会話はしたし、

「それ以上のことはあまり知られていませんが、一族でも異端児とされていたとか……」

「そう、か」

「なぜ、気にしてなさるので?」

「………………義兄弟の契、東の方のフィン国の昔の王朝の有名な逸話」

「えぇ、有名ですね」

「酒に血を混ぜて回し飲みするあれだ。あれを子供の頃に、コルネリアとしたんだ。それで、気になって……」

「それは…………え」

「隠すような話じゃないんだ」

「えーっと、わかりました。流布しましょう」

 当然、目を丸くする彼に適当なことを言ってはぐらかす。

「あぁ、酒じゃなくて呑み口が辛いだけのぶどうジュースだったけどね」

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