Intro。彼の全盛期その1
刃を潰した大振りな剣をブンブンとでたらめな力で振り回して、訓練とはいえ当たったらただで済むような重さでない剣戟を後ろ手気味に逆手に構えた鉄扇でいなして、チラチラと背中越しに見るだけで動きを見切っては最低限の動きで回避、大剣を動かしづらいタイミングで軽く弾いて妨害を繰り替えす。
その単体側に構えられたハルバードも刃は立たないように潰されてはいるのに、全く手を抜いていない無駄のない動きで払い、突き、避けられたら鎌の部分を引っ掛けようとしてもそれをもう片方の手に順手で構えた鉄扇で軌道を阻害し、背後の息を合わせて倒さんとする大剣とともにラクラクと回避して大剣がハルバードに叩きつけられてハルバードが折れる。
「あっ!」
味方の武器を破壊した同様から二歩と半歩で背後に回られた彼女に鉄扇を置くように添えられ宣言がなされる。
「はい、今回も僕の勝ち」
「ぐあああ、コニア、折れちゃったじゃないか……馬鹿力め、手のひらの皮が剥がれたかも、いや、剥がれてはないな。それくらい痛ぇ」
「ごめんなさい。完全に足を引っ張ってしまったわ」
しびれる手を振って居たがるゼフテロと申し訳無さそうに青ざめるコニアに一番年下のフリッツが二人の頭をなでて目を細める。
「大丈夫さ! ふたりとも、二人は強いよ。僕が天才なだけさ!」
頼もしいとは思うけど、彼らの表情は苦笑が漏れて木陰から立ち上がらせて駆け寄らせる。
「あなたのその態度は年長者的にはどうかとおもうけどね」
「事実でしょう!」
「事実だから困っているのよ」
諌めたほうがいいんだろうか? 私の苦笑に呆れが交じる。
「大丈夫、大丈夫、魔力そのものはゼフテロが一番多く作れるし、練気の精度はコニアの方が細かくて硬い。どっちもいつか僕でも勝てなくなるよ」
「なにその、クレバーな意見。天才なんじゃないの?」
「二人も天才だから」
「えぇ」
その自信はどうなっているんだ。村の外の世界を知らないはずなのに……、なまじ土地柄外から往来する質の高い兵士の実力を知っているから自身が天才であることを理解してしまっている。別に悪いこととは思わないが、そのとおりだからこそ扱いに困る。こんなことを9歳で言っていたらフリッツの将来が心配だ。
「あぁ、じゃあ俺らの目標はお前に余裕で立ち回れるようになることだな」
「私は……まずは一本ね」
「……そう」
興味ないのか? 武器を片付けて近くの小屋から往来して話す二人の意気込みにすごい薄い反応するね。本当は負けると微塵も思ってないんじゃないか? 少し焚き付けとくか?
「はははこれじゃ、うかうかしてたらフリッツも私の騎士の役目が奪われるかもね!」
戻ってきた二人に背伸びしてまた頭をなでようとするジークフリートの頭に手を伸ばすと、衝撃を受けたような目がうるんで私に色づく。
「僕は要らないの?」
「いや? 必要だが?」
「なら、替えないで」
「あぁ! 私のことはフリッツに守ってもらうって決めている。そうだ! 不安なら墓場まで一緒にいようぜ! なんて先人たちに誓っても良い」
「流石にそれでも足りないよ。それに僕はちょっと体が弱いから、一人じゃそれも足りない。替えないでくれるなら、いくらでも」
騎士は一人である必要はないってことか? いや、ジークフリート以外も私がなんか酷いこと言ったみたいな目で見るなよ。……いや、酷いことだったな? これは、
「だって僕はいつか……」
「そうだったわね。その時は、……土産でも期待しようかしら?」
これの返答は……、正解だったらしい。ジークフリートも笑顔になってコルネリアとゼフテロも穏やかな目の色になる。かわいいものだな。
畑を耕す元帝国騎士のご近所のお爺さんとお婆ちゃんたちと話すと市場に卸すようなものでもないが、村内で食べるような熟れた木のみをいくつか分けてもらって、ゼフテロに抱えてもらって私の自宅に戻った。
「ただいま」少し先を歩いて先に邸宅に入ったジークフリートより先に挨拶をすると、
「ただいまもどりました」王国騎士の家から帝国崩れのこの家に居候するコルネリアと、
「おじゃまします」この村では一般的な家庭に育てられたゼフテロが、それぞれ意味の異なる挨拶をして、押し黙るジークフリートをみつける。
「フリッツ? なにか……」ジークフリートに歩むコルネリアが視線の先の人物を見つけると明確な敵意を帯びた目でにらみつけ、怯えるジークフリートを近づけさせないように肩に腕を添えて自分の斜め後ろに隠す。
「お嬢様、それでは失礼させていただきます」
敵意を向けられたその男はというと、奥歯を噛み締めてそこから視線を動かして私にお辞儀した。その表情の意味を私には理解できないな。腹立たしい、
「お前久しぶりの帰宅で……自分の息子に言うことはないのか?」
ジークフリートを抱えるように男に対して半身で怒りしか読み取れないコルネリアのつぶやきに男は反応しない。
その騎士はどんな感情で息子を無視しているのか、私にはいまだにわからない。だけど、失礼には失礼を帰すのが礼儀だってことだけは知っている。
「失礼している自覚があるなら少しは申し訳無さそうにしてほしいのだけど」
言われても奥歯を噛み締め、それ以上なにも分からせてくれない表情でヴァンデルヴルグはなにも返事せずに私達の横を通って外へ出ていった。
「ユニーカ、そういう言い方は良くないぞ」
「お父様、無礼には非礼で帰すのが正しい礼儀作法ではなくて? お父様は自分の教育を良くないとおっしゃっておいでで?」
「屁理屈ばかりうまくなって……」
自分の騎士が出ていってから文句を言い出す父の態度に私は苛立ちを覚えた。
「この理屈が屁理屈というのならお父様の発言は屁ということになると言っていることになることを理解して発言してください。私はお父様の理屈を反復して言ったにすぎないのですよ? 自分を貶めるような発言は貴族でなくても商家としての、品位を下げてしまわれるかと」
「……すまない。私が悪かった」
「悪い? なにがでしょう。お父様は自分で自分の品位を貶めたことを私は諌めているに過ぎないというのになぜ私へ謝罪をするのですか? 私の発言を理解できいない証拠です。聞き流していませんか? この場面で正しい挨拶は『ありがとう』でしょう? なぜ謝罪をしたか、説明をいただけますか?」
「いや、すまん、わからない」
父さん私にあてつけをされている理由わかっていないのか? まさか、
「いや、その、怒んないでくれ、そんなに」
「……怒るな? 自分の息子の面倒も見ない男を父が擁護して怒らない子供はいませんよ? それに不満があるなら貴方は子供でなくペットか奴隷でも飼育してはいかがかと」
「奴隷ってそんな」
「それくらい歴史書を読める頭があれば分かるはずです。素直さの強要は奴隷への躾ですよ。結果、奴隷制を残した国は国民全体の知性を貶めた結果頭が悪くなって滅んだのでしょう?」
「それは、……そうかも、世界史とかはあんまり詳しくないから、自信ないけど」
ジークフリートを抱えるコルネリアごと年下の二人を抱えて私は二人の背中をそれぞれなでてアピールする。
「まるで分かっていませんね。私の愛する二人にとってあの男が嫌悪の対象である理由は分かっているでしょう? なら、私だって怒りを覚えます。フリッツ、今日もうちに居なさい。あの男がいる所に帰ることはない」
父親に向けたどうとでも解釈できる笑みで誰にも向けている言葉を吐き捨てる。
「分かるわね?」
「コニア、今日は三人一緒に寝よっか。そうね。あなた達は本当にかわいいわ」
ん? この姿勢でのこの言い方では少し足りないな。
「あ、ゼフテロのことも可愛いとおもっているのよ」
「いや、かわいいとか言われてもあんまり」
「そう、男の子でも年下の大切な人はかわいいと感じてしまうのは……あまり良くないかしら?」
怯える二人をなでながら振り向くと照れたゼフテロが木のみを抱えていた。
「良くないとは思わないけど、かっこいいとかのほうが嬉しいかな」
「そう、かっこいいと思っているわ。嘘じゃないわ」
「『嘘じゃない』ってつけたせいで嘘っぽい言い方っ」
カラカラと笑ってゼフテロはお婆ちゃんからもらった木のみをテーブルに置いて、訓練用のハルバートが折れてしまったこと言うと片手に一つずつの木のみをもって
「また明日ー」などと軽い調子で帰っていった。
晩御飯の席の前に魔法使いらしい魔法使いというべき、とんがり帽子にふわふわした質感の外套を羽織った魔術士の先生がきて、父と話を終えた後、リビングでジークフリートとなにか話していた。
「――――――――――」
「――――――――――」
たぶん、魔術の実践的な学習とかではなく魔道の研究とか実験の話をしているんだと思うけど、内容が私の耳に入っても理解できるものではないほど専門用語だらけであったため、彼女も夕食を一緒にするらしく、私は皿を人数分並べようと皿を数える。ジークフリートが
「晩御飯は家に用意したのがあるから、そっちを食べるから僕の分は要らないよ」
「ヴァンが居るのよ」
「父さんは基本的に僕になにもしないから」
外を見ると夕暮れでまだ明るいうちだが、食べてもどってくる頃には真っ暗だろう。
「十分酷いわ」
「本当になにもしないだけだから、それに今日は泊まるように誘われたことも一応言わないと」
「夜道は危ないわ」
「大丈夫」
「貴方はカンテラどころかランプ一つ自分でつけられないでしょう」
「あぁ、僕は炎の術は使えないから、でも」
口ごもったジークフリートに魔術士はカバンをあさって口を挟む、
「え、フリッツくん炎使えないの? 珍しいわね」
魔術士の先生がカバンから手に吊り下げて道具を取り出し、ジークフリートに手渡し、受け取る両手に道具を置いて両手を添える。
「こんど、雷の魔力属性を使った炎の代替術を教えよっか」
「雷も……あんまり、うまく作れない」
「ん? そう、じゃあ、水の魔力を使った雷の属性因子を代替する術と並行して……いや、やっぱり補助……ランプに人を灯すだけなら、鋼、いや土でもやりようは……――」
「あぁ、じゃあ、少し後で聞かせて、今日はここに泊まるんでしょ?」
「そうだな。……いくつか考えをまとめておくよ。楽しみにしておいてくれ、今回は魔力で動くカンテラを渡しておく。……はい、今入れた私の魔力で5時間は光り続けるはずだから、あんまり明るくないけどこれで試作品だから容赦してくれ」
「うん、ありがと、シシィ」
彼女も専門は緑とか水とか治療や農耕に関わる術と前に聞いていたが、取り出した道具を試作品と呼んだのだから、その習慣までは魔術を専門として利用する魔術士だと思っていたが、案外魔道の学徒として開発することが専門だったりするのかもしれない。
家を出ていったジークフリートを見送ると、シシィはカバンから取り出した紙束とインクを持ち出し、なにかメモのようなものを記してあーでもないこーでもないとモゴモゴとつぶやいて作業を始める。
そうして食事の用意が整ったことを伝えると「さっきのカンテラの材料買ってきたらいいか」とかなんとか呟いて作業を投げ捨てて促された席に着く。
父さんが書斎から母さまを連れて居間に戻り使いの人たちが食事を配膳し、最も地位の高い座席で母様にまず最初に前菜が置かれたところで魔術士風の服装の女性は話を始める。
「えぇ、しばらく、戸締まりに気をつけるように進言します。アルムガルド『公』」
「今の私には爵位すらないわ。ただのアルムガルドよ」
「えぇ、ではアルムガルド様、喫緊の危険として暗殺に気をつけてください」
「そう、なにかあったの?」
「ヴァンデルヴルグを借りて連れて歩きましたが……具体的な事態はまだなにも……、ですが、かなり、緊張が続いています。シュレ―ジュムを中心に教導会もアルスリヒトの後継者を自称するヴァロワを名乗る勢力も、……過剰に戦力を配置してしまっていますね。いつ火種が燃え上がるともしれないこれ、この状況にはグニシア様もおののいていますよ」
「そうか、シュレ―ジュムから山を一つと谷を2つ超えたらこの地にも……」
「えぇ、いつこのモウマドの地へ飛び火するとも分かりかねます。事態が発生した時おそらく、難民がこちらへも流れてくるでしょう……教導会から後でかかった費用を払うとは、……約束しかねますが、私の裁量では王国も動いてはくれません……流れ込んでくる難民へせめて仮設テントの備えだけでもよろしくお願いします。最悪、暴動がそのまま雪崩れ込むこともありえます」
「えぇ、忠告、痛み居るわ」
「また暗殺にも注意してください。彼らは帝国の正当なる後継者を自称しています。警戒を怠らぬように……」
言うことを言い切ったのか、魔術士はここでやっと前菜に手をつけて、口に含んだそれが言葉を阻み、何も言えない動揺が最も大きくなるタイミングで母様は感情的な質問を投げかける。
「……それで、貴女はこれが戦争になると思っているの?」
咀嚼のリズムがわずかに変わったのを見て、私の意識は隣のコニアへ移った。
「コニア、もう食べたの?」
妹分は皿をさげさせずに私の方を見て、
「同じペースでたべたい」といってくれた。
「グニシア様は、その可能性があると考えているようで」
「いいえ、預言者の娘ではなく、貴女の私見で返答を貰えるかしら?」
「なんで同じペースで食べるの?」
「先に食べてもあとに食べても相手のほうが羨ましくなっちゃうから」
「なにそれ、どうせかわらないのに」
そうして苦笑すると、私が食べ終わる直前に使用人に皿を下げてもらう。
「これは公式な意見とは受け取らないでくださいね。…………『ありえない』かと」
「『ありえない』? そうかしら」
「えぇ、ありえません。預言者シグフレドの率いる教導会の対応が過剰なのです。なにかを恐れているのでしょうけど、未来を知り得ない私達にそれがなにか理解できませんが、アルスリヒトの後継者を名乗るヴァロワも集められる主な戦力は帝国開放を訴える過激なテロリストの中で、支持母体のない木っ端な組織の集まりです。攻撃のような真似をできても、領地を勝ち取るには戦力が足りなすぎます」
「威勢の良いこと言うだけでそんなに数を集められなかったのね。あの集まり、じゃあ、貴女はなんのために調査へ? 起きないと思っている戦争を防ぐため?」
「仕事ですよ」
私達と同じようなタイミングで皿を下げ、魔術士、コニア、私と順番に次の皿の魚料理が届いて魔術士の先生はすぐに料理に手を付けずに話を続ける。
「結論が出なかっただけで……今考えられる最悪の事態がこの地に隠れ住む、『アルムガルド』と名を変えたキュンツェンドルフ大王の子孫に被害が及ぶことですから、しばらくはここに居座ろうかと王国にも伝えました。無論、事情に通じるものにです。もしも、事態が起きた際はヴァンと共にこの地を飛び立つことになりますが、それまでに増援が間に合えば良いのですが」
「えぇ、ありがとう。ですが、戦力の心配は不要よ。ほとんど老兵ばかりと言っても、彼らは達人が揃っていますから、それに……彼らがそんな行為を優先するとは思えないもの。しばらくはここでゆっくりしていくといいわ」
「ありがとうございます」
何度か皿が移動して、食事を終えたあとに歯を磨き、コルネリアとジークフリートを待っていると彼の父、ヴァンデルブルグが通され、母様にひざまずいて挨拶をして後で父さんに
「ジークフリートは、こっちにいるか?」
と質問した。
「夕食を自宅で取るって夕暮れ時に帰ったけど」
「……? こっちにはきていないが」
一瞬、意味が理解できず、慌てることさえできずにいたらコルネリアが口を開く。
「ジークフリートが……失踪したって?」
「え」
コルネリアは立ち上がり、魔術士先生へ頼む。
「明かりをたのめますか? 先生」
「えぇ、わかったわ。急ぎましょう」
「大げさじゃないか?」
私も彼の父と同じ意見だった。もう少しよく探して入れ違いになっていないか確認してから慌ててもいいんじゃ……? と、
「ヴァン、大げさでも関係ないあんたはユニーカを、村長一家を守れ。ここから離れるな」
「コニア? なんでそんな慌てて」
コルネリアの意図を理解したヴァンデルヴルグは一瞬驚き、引き締まった表情で私の脇をつかまえてで両親の下へ移動させられる。
「え、ちょっと!」
「失礼しました。いまは、注意してください……」
「は? そんなこと」
「ユニーカ!」
一喝、そして一拍。
「今は、我慢して……。みなさん地下室へ入りましょう」
僅かな言葉の間を開けて母様は私を抱えたヴァンと父様、使用人を伴って地下室の入口に向かう。
「誰だ?」
私を背中側に押しのけたフリッツの父が入り口へ向って声をかける。すると、爆発が熱を伴って玄関を吹き飛ばす。その爆熱もヴァンデルヴルグから発せられた魔術でもなんでも無い闇の魔力属性放出によって玄関より先は壊すこと、破片を飛ばすことも叶わずに魔力に当たったそこで力を失う。
「自爆しやがった!」
ヴァンの言葉を理解する前に使用人のマローさんに目を覆われ地下室への階段へ子供を抱き上げるような形で連れて行かれた。
「早く! マロー、ユニーカを連れてきて!」
「はい! ただいま!」
「俺は周辺を見る! 他に居たら厄介だ! 地下室は締めてくれっ!」
愚かにもここでやっと事態を理解した私は背中から喉元まで駆け巡るような冷や汗に襲われた。
駆け出して索敵を始めるヴァンの背中を閉じられていく上向きの扉越しに見て私は閉められる扉をむりやり潜り抜けてヴァンデルヴルグを追う。
「お嬢!? なにをっ」
扉を締める使用人の叫びを聞いても私の耳をすり抜けて無視させる。
「戻ってください! ここは危険です!」
「フリッツは!? ジークフリートはどうなったの!!」
「アレのことは諦めろ!」
「お前……っ死ね!」
護衛であるはずのヴァンデルヴルグに蹴りを入れようとしたがあっさり掴まれ転ばされる。まったく痛くなく、楽に無力化されてしまった。
「お前は自分の子供のことを」
「どうだっていいだろう!! 貴方には」
「貴様!!」
怒りに任せて殺そうにも背中を腕一本で押さえられるだけで抵抗一つできずに組み敷かれる。
「お前は! お前は、死んだ妻の代わりでも自分の息子一人愛せないクズだっ! 子供一人に分け与える感情も持ち合わせない甲斐性なしだ!」
「知っています」
いきなり周囲が輝いてなにか光源を持つ熱で周囲の草木が融けるようにくすぶってゆく。
「見えた!」
電撃をどこか一点に放ち、少し離れた急勾配の雑木林に爆発を起こすが「外した」と呟いて立ち上がって一瞬の逡巡。向かおうか、私を戻そうかその判断なら
「戻らない。フリッツを探す」
困ったヴァンデルヴルグの顔を見たらいつの間にか私は体勢を崩されて片腕でヴァンデルヴルグの横腹に担がれるように拘束されて空中を跳ねる彼と共に敵を追っていた。
「状況的に、敵の出現と関係あるでしょう。ジークフリートに……もしもの覚悟が必要なことが起きた場合の覚悟はしておいてくださいね」
私には敵の姿や痕跡がまったく感じられないが、この男には見えているらしく迷いなく茂みを進んで山小屋近くに居たコニアとシシィ先生の姿もとへたどり着く。
「やっと着たか、しばらく監視していたが出た人数は0。入っていった人数は2、窓から見えた影からだいたい6人から8人くらいいると予想している」
「なんで貴方達がこんなところに」
「……!? 連れてきたのか」
先生は私を見てヴァンを見てもう一度私を見た後に驚愕の声色でヴァンに聞く。
「一人で放置したくなかった」
「……そう」
コルネリアは敵意を剥き出しの目で山小屋をにらみ、いまいましげに発言する。
「ジークフリートが」
……! いや、そんな
「まさか」
「いや、最悪はまだだ。生きている。だが、人質として拘束されて」
「そうか」
は? ヴァンデルヴルグは迷わず敵が居るとされる山小屋に突撃し、何も考えちゃいないように扉を蹴破る。
「なにを……?」
「カス人間がっ」
「なんで!?」
残された私たちは反応遅れる私、ヴァンに追いすがるコニア、私の前に手のひらを開いて防御魔術を構える先生と、反応が分かれた。
「やめろぉっっっ!!」
扉を通ったヴァンから絶叫、乾いた炸裂音の後に何を叩きつける鈍い音。
最悪の事態を予想した私は何も考えずに駆け出して、魔術の先生に防御のための術をフォローされその善意すら鬱陶しいと思ってしまいそうになるホっど恐怖に支配されて静かになった山小屋に向った。
まず扉の先で目に映ったのは既にたどりついていたコニアがヴァンデルヴルグの胸ぐらに掴みかかって壁に押し付けている姿。
次に、おぞましい血溜まりと鉄臭さ。背中越しに頭まで吹き飛ばされてうつ伏せになった鉄臭さの元。
その後、部屋の真ん中より向こうのテーブルの反対側に頭の吹き飛んだ人だった四肢と胴体の背中を見つめるジークフリートの立ち姿があった。
「フリッツ! 無事だったのね!」
声をかけるとフリッツは慌てて鉄の棒を投げ捨ててどもった声を上げて汚れ一つ無い手を広げて制す。
「ぁあ! だ、ダメだって! こんなもの見ちゃ、……っ大丈夫? 10人と2人居た全員殺しちゃって臓物飛び散って酷いから外で待ってて」
「安心して、貴方が大丈夫なら、大丈夫」
「えぇ、泣いちゃ、そりゃ無理な人は無茶して慣れようとしなくても」
涙ぐんで指で涙を拭く私にその理由を無理してるからと誤解して慌てるフリッツを愛おしく思って、ただ生きていてくれたことへの感謝への気持ちで血と臓物の水たまりを踏みしめて彼のもとへあるていくとその途中で、怒声が響く。
「なぜ、フリッツを殺そうとしたっ!」
ヴァンデルヴルグに掴みかかるコニアが殺意に満ちた表情でそう叫ぶ。
「コ、コニア姉さん!? なにを言って」
ヴァンデルヴルグは何も言わずにただ、コニアを見つめる。
「わからないか? こいつは、お前に斬りかかろうとしたじゃないか!」
「え、いや、鞘で殴っただけじゃ」
「なぜそんなことをする必要があったんだって言っているんだ!!」
静寂、静けさの器が怒りで満たされる。
「でも、僕はこの通り、敵を全滅させて生きてるし」
「どさくさに紛れて殺されそうになってそれか? フリッツ、お前は……!」
「別に……斬りかかったとして」
「なんだ?」
ジークフリートを斬りかかろうとしたその父親が口を開いて、なんの感情も感じられない言葉を並べる。
「斬りつけたところで、あの程度じゃこいつは死なないだろう?」
「斬ろうとしたのは認めるんだな?」
胸ぐらをつかむ力が強くなるのが見てわかるのにヴァンは興味が無いように涼しい顔だ。
「あぁ、何人かは生かして情報を聞き出すべきだと思ったから、止めようとした。こいつを止めるにはそれくらいの力は必要だ」
コルネリアが殴りかかったように見えたが瞬きして開くまでの僅かな瞬間の間にコルネリアは組み敷かれて壁に叩きつけられていた。
「がぁぁ!」
「まだ君も負まかずほどではない」
「父さん!」
「済まないな。とっさで、判断が遅れてしまった」
「判断?」
私の疑問符へわざわざ答えるような口ぶりで恭しくも心の感じられない声を言葉で垂れ流す。
「ジークフリートが敵にトドメを刺す前に殴り飛ばすべききでした」
「……ジークの命よりもか?」
「大して問題でもなかったっでしょう」
私とコニアの二人がかりで殴りかかろうとして拳を振りかぶってしまった。
「まって! 大丈夫、大丈夫だったから……」
フリッツ自信が止めに入るために私の前に割って入ったので私もコルネリアも怒りの矛を収めざるを得なかった。
◆ ◆ ◆ ◆
あれから五年と数ヶ月。ジークフリートは父と暮らし、そのヴァンデルヴルグは病に倒れ、あと幾ばくという命になってもジークフリートは父の看病をして、心を痛めさえしてしまっていた。
「……せいせいする。貴方がもう少しして死んだら、フリッツはやっと自分の人生を歩むことになるのだから、やっと死んでくれたというべきかしら? それとも、今のうちに死んでくれてありがとうって賛辞の言葉を送るべきかしら?」
ベッドの上のやせ細った男は苦笑して、
『ありがとう。フリッツのこと、あとは頼む』
言ってはならない。言う権利のない言葉を言い放った。
「貴様に……っ! そんなことを言う権利が!」
枯れ木のような男はまだ笑っている。何故、喜んでいるんだ。
「はっきり言っておこう。断る。ジークフリートは好きにさせる。この村を出て放浪の旅に出たいと言えば引き止めない。帰るべき場所として送り出すつもりだ」
「……あいつは、そんなことおもうかな?」
「フリッツは昔、どこか遠くへ旅に出たいって言っていた。それが夢とも」
煮えくり返るような吐き気が胸を焼く怒りをこらえながら、ヴァンデルヴルグに憎悪を向ける。
「そうか、……面倒をかけた。いままで、ずっと。親として何もできなかった。いつからか、父親らしくなろうとしたこともあったんだけど、ジークフリートに掴みかかられてね。……今、思うと彼が私に怒りをぶつけたのはあのときだけです」
「あんたは、それを、どうしたんだ?」
「諦めた」
「さっさと死ね」
もう一秒も生きてほしくない。苦しんで死んでほしいがこいつが苦しんで死ぬとそれだけで看病するジークフリートが苦しむことになる現状が苛立たしい。
◆ ◆
「ただいま」
すこしして、ジークフリートの声が聞こえた。
「ユニーカ、ありがと、代わってくれて」
「……あぁ」
ヴァンデルヴルグの存在を知覚したくなくて扉の前に出て、水桶とタオルを抱えたジークフリートの入室とともに、部屋から離れリビングのテーブルで苛立ちのぶつけ先を考えないように気を抑える。
「なに? 父さん」
桶を持っていたせいで扉が半開きで締め切れなかったせいで隙間から声が、
「 」
「そっか、アンタが苦しまずに死んでくれたら、きっと貴方は地獄で償う罪が多くなるんでしょ」
「 」
「貴様の愛は、僕のこれまでの人生のすべてが無駄と否定することになる」
「 」
すこし、静寂が耳を煩わせると、ジークフリートは叫ぶ。
「なんで! 誰か、ユニーカ! あぁっ!!」
腰を抜かして扉まで転がるジークフリートを見て「なにごと」と慌てて駆け寄ると彼の父はナイフを喉に付きたてて死んでいた。
「あぁ、僕は……僕はなんて、もう」
ひどく錯乱するジークフリートが見つめるそのさきの突き立てられたナイフには枯れてやせ細った小枝のような手のひらが巻き付いていた。
錯乱して、呼吸すらままならない様子で四肢を不自由なようにワタワタと振り回すジークフリートを抱きしめ、目を彼からけっしてそらさないように見つめる。
「大丈夫。私がいるから」
「居ない。僕にはなにもいない」
「私は味方だから」
「味方なんて言ってもみんな僕を見捨てるんだ!」
「大丈夫。大丈夫だから」
「もう、……なにも、僕は」
「私は貴方を捨てない」
「ユニーカも裏切ってよ! そうすれば僕も」
「裏切らない!」
「僕は、…………どうすれば」
「私と一緒にいていいから」
錯乱する彼の目が私としっかりと見つめ合い。ジークフリートは目をそらす。
「もういやだ! 僕はどこにも居たくないっ!」




