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預言者

 敬愛する預言者シグフレドはここより南、異世界人により不毛の地とされた『朽ちた大陸』が緑豊かだった頃の滝を描いた風景画の模写をしながら、その少し置いた男性は唸っていた。

「どうなさいました?」

「ん? なに、この画を書いた人物の繊細な色使いを真似をするのにな、なかなかうまくいかないもので、試行錯誤を、またやり直すべきかと悩んでな」

「そう、ですか? ですが、それではまた書きかけで終わってしまそうですね」

「あぁ、そう、だな」

 話を逸らすように、壮年の預言者は本題に入る。

「では、待たせて悪かったな、アンドロマリー。旧帝都へのマシン襲来の件で大変だったようだが、無事で何よりだ。グニシアの様子はどうだった?」

「変わりませんね。セシリア・ラーランドを利用してなにか働きかけをしようとしている様子はありますけど、実際になにか行動を起こすということではなさそうです。前回の報告からで実際に行った行動は、帝国の影と呼び声高いゼフテロ・フォルトゥーナと接触してなにか手紙のやり取りをした程度です」

「手紙……内容はわかるか?」

「こちらで探った限りいつも通り、王政への非難と植民地の自治政府擁立への呼びかけですね。ですが、他に無いとも言い切れないので、影の行動に用心に越したことはないかと」

「そっかぁ……いやだが、悪いことばかりじゃなかった。影と帝国まで行動をともにしていた彼、お前の部下になったんだろ?」

「ジークフリートですね」

「あぁ、彼」

「全然言うことを聞いてくれませんけどね」

 自嘲と彼への呆れが混ざった苦笑を漏らしてしまう。

「そうか、彼の様子はクラーラから聞いてある程度は知っている。……近々会うつもりだが、大丈夫かな?」

「大丈夫でしょうけど、……知っているんですか? 彼のこと、親が信奉者だとか言ってましたから、名前も似てますし子供の頃に会っているとか」

 預言者は少し困った顔で、立ち上がり水場に移動して手を洗う。

「いや、……会ったことはないはずだが、もしかしたら従兄弟かそこあたり、もっと遠いかもしれないが、血縁かもしれないって……断定できないな」

「血縁、ですか」

「わからんがな」

「血縁だからジークフリートもシグフレド様やクラーラと同じ奇跡の子だったのでしょうか?」

 手を洗い終わると、戸棚から茶菓子を取り出して適当に皿に並べる。

「すまない。それは今の人類には判別できないな。判断するには情報が案外少なすぎるし、直接的な遺伝はしないとされている。例えば、親から子に遺伝した例は見つかっていないし、双子のクラーラとカルラで奇跡の子の因子を得たのはクラーラだけだったりと、ね」

「わからないとしても、同年代の同類が新たに見つかったことは私にとっては嬉しいことこの上ないですけどね」

「あぁ、だったら、だからこそ、敵対することのないように注意してくれ、あと、クラーラの件……すまん、茶葉の位置がわからない」

 茶菓子だけ並べた皿を二枚、椅子の間に置いて一方を自分で口にする。

「えぇ、わかっていますよ。最悪の展開が起きた場合。私が……全霊をもって対処します」

「あぁ、ありがとう。気をつけてくれよ。お前はともかく、クラーラや、今回見つかったジークフリートも完全に想定の外。いや、この場合は予言した内容の外側の出来事……といったところか。全てが上手くは進んでいないということを、忘れないでくれ」

 シグフレド様は手で食べるように促すので、私も茶菓子を口にする。

「進むべき予言の進路の調整にはグニシアが必要不可欠だが、あいつ、今は、反抗期というものでな」

 敬愛する預言者は娘の話を人並な親のような態度で悩むのだ。

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