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見えない

 なにやら学舎として扱われる砦内で行き来がうるさくなる。バタバタと走るその中の一人、騎士風でなく文官風の制服を着た男性がギュヌマリウスに駆けより

「緊急事態です。帝国の件で」

 僕を見て口ごもるった説明をする。言いづらそうなのだから機密事項なのだろう。

「研究員建屋に行っているよ」

 文官風の男は会釈してギュヌマリウスと何処かへ行く。


 何人もの騎士が慌ただしく動き、さっきまで目にしていた士官候補生たちがまったく出歩かなくなったあたりで、慌ただしさなど興味なさそうな涼しい顔でその二人は歩いていた。すれ違う前に目が合った。道を開けて横を通ろうとするが、

「あのエイリアンを守りなさい」

「なに?」

 クラーラといったか、多弁で野性的な姉の方がなんか含みをもたせたことを言って引き止める。そのまま通ろうかとおもったが、彼女の深刻そうな顔に脚を止めてしまう。

「姉さん、なにも」

「騒動に乗じているものがいるわ。急いで西側の壁の影にすっぽり収まっている大きな倉庫に向かいなさい。私たちはエイリアンを助けることができないから」

「助け、え?」

 それ以上何も言わずに僕から顔を背ける。横に妹が面倒くさそうな呆れ顔を向け……、その意味を理解できると僕は慌てて駆け出した。



「なんだ……これ」

 煙上のソレを知覚した瞬間、素材がタンパク質性の仄かな酸性を帯びていると理解し、自分の体へ副作用を一切考慮しない浄化術を自分の呼気と肌が及ぶ三歩の距離に使う。

 霧の濃いそちらへ向かうと兵士がバタバタと倒れている。浄化した魔力越しにそこまで強い毒ではないが、吸いすぎると呼吸困難になる可能性すらある神経毒……?

 異常事態は認識しているが、僕の知ったことじゃない。霧越しに見える目的の倉庫へ一直線に倒れる兵士をまたいででもまっすぐと、……多い。さっきよりも、

 転がる兵士の数もその煙の濃度も! 倉庫へ向かって、

 毒の霧がガス状でなく、細かい水滴による煙のような性質だったから壁うらの存在の知覚を魔術で試したが見づらくやめた。扉の裏に控えていたなら脚が切断されるように

「水鋸」

 魔力を水の属性因子に変換し、高速回転する水の円盤を下向けに投げる。

 煩わしい囀りを下記ならず円形の水が壁を切断し、投げたついでに三辺にも切り込みを削り入れ、円盤は霧散する。

 世界の全てを恨むような不快な音が消えるが、なんの反応もないので切り込んだ壁を風の魔法で殴るような無色の爆発を叩きつける。

「煩いなぁ。もう」

 そんな事を言った少し年上くらいの青年の足元に何人か転がって、その中に僕にとって麗しいユーリの姿があった。

「お前がやったのか?」

 彼の奥へ氷の魔力、手元に水の魔力を集めてまた不快極まりなく囀る円盤を形成する。

「そりゃぁねぇ、でもあれ、なんで君、動けるの?」

 青年へ目掛けて水の円盤を投げる。当たる前に青年は剣を抜き、なにか魔術を使って熱波を帯びた球体を生じ円盤を霧散させる。

「水の魔術師に毒が効くものか」

「はは、乱暴言うものだね。っぐ!」

 余裕ぶったものの円盤の音で撹乱された彼の背中に氷で作った返しの付けた杭が打ち込まれる。

 魔力で錬気を編み込み身体強化した四肢を使って、一歩地を這うようなジャンプで肉薄し、ショーテルの一本で剣を抑え、もう一方で首を狙う。

 首を刈る前に抑えていた剣から熱を帯びた塊が打ち出され、頭を狙われる。避けられそうにないので氷の魔力にようる外付けの隔角を肩から上にまとって暴力する。

 魔術の練度の差か氷は溶かされなかったが、飛び出した質量に体を弾かれて首に刀が届ききらない。

「がぁ、あ、攻撃向きじゃない水使いって言っておいて本当は氷使いなんじゃないか」

 飛び出した質量を操り、氷の杭を抜いた返しのせいで余計な痛みを味わっているだろうに、剣から湧き出るその塊は自由自在に形を変え、形を変えるたびに熱を帯びる。

「鋼……いや、この毒は金属毒じゃない。少なくとも鋼の元の……土と炎以外に緑と、水の属性はそれなり使えるだろう。お前も」

「あー、嫌だな。所見でネタバレとか」

 足元の床から熱を帯びた塊が飛び出してくる。水と闇の術で魔力に触れた小さな塊は逸れて外れる。なのでそのまま突撃して氷の魔術でまとった隙間だらけの鎧のような、昆虫を模した外骨格で補助した拳で青年を殴る。ショーテルで斬るつもりだったが、拳しか当たらなかった。

 途中、術で外れきらなかった鉄の玉が勢いよく当たったが、錬気してさえいれば耐えられる熱量でもなく。急いで外骨格からかやした指で摘み、体から抜く。

 これ、たぶん金属毒とかあるよな? 視線は男から外さない。

「く、君、私を」

 立ち上がろうとしたので、殺しに行く。

 ショーテルを掲げて切り抜く前に、大量の液体を湧き出す。なにか、かなり強い毒の魔術だ。だが、無視してよし。

「誰とっ!」

 僕の肌まで三歩の距離に入ったその毒は動物毒だ、水と塊に分配される。

 毒液の中に入ってしまったがあと二歩、腕が届けばこの青年は死ぬ。――――爆発。

 毒液を燃料に着火させた。

 耳鳴りがする。視界が曇る。氷の魔術が壊れた。

 見えた。逃げる男が、圧力で耳と目がやられただけだ。水分を含有する物質は僕の目が潰れても僕には見るための魔術がある。

 ショーテル越しに円盤を投げて男を殺そうとする。やったこいつ、きづいてない。殺した……!

 勝利を確信しダメだ! 円盤は回転を失い、ただの水鉄砲になってしまう。青年が屈んだせいで軌道上にユーリが入ってしまった。

 水を浴びた男は僕の無事を悟り、あろうことかユーリを抱え込んで手元なにか魔力を送る。

(逃がすか)

 耳が潰れて言葉にならない叫びをつぶやいて青年に斬りかかるが、なにか見えないもので防がれる。

(剣が、見えない)

 なにか術儀式をやっているのはうっすら見えるのに、剣の位置も剣から打ち出される金属片も知覚することも叶わずに打ち付けられる。

 感覚の外の方で、人間らしき水分がいくつか動く。

(足音も、聞こえない)

 錬気の差があるとはいえ、何度も攻撃されては全てを防げない。

(上半身の胸辺りがなんか、すごい痛い)

 感覚が鈍るなか、ショーテルをユーリに当たらないように上向きに振り回してまったく当たらない。

(……手になにが?)

 防御すらされずショーテルが当たらない。いや、圧覚がわからない。手のひらにショーテルを感じない。

 気づいた時に、胸に強烈な熱を奥の方まで感じると、平衡感覚が回転を感じなにも見えなくなる。

 ……うっすらと、みえてきた。今僕は地面に転がっている。

 奥でだれか倒れた。消えた……え、僕はいま。

 魔術?

 自分が気を失ったかと思ったが違う。予め持っていた贄を使って儀式魔術を完了し、空間移動したんだ。

 徐々に見えていき、戻っていく感覚から胸の焼けるような熱さを理解して傷を自認した。

「そんなこと」

 周囲を見渡すが、居ない。

「ユーリ……」

 見当たらない。すぐそこで気絶していたはずのユーリの姿が、

「……嘘、で」

 居ない。どこ? 意識を取り戻したか? 無事か?

 周辺に転がる士官候補生は……生きている。どこらへんだ。

 姿が見えない。


 ◆


 ユーリは先程の男に誘拐されたのであった。

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