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必要はない

 「ユーリを待たせている。手早く終わらせるぞ」

「そうするのがベストだとは思っているが」

 お互いが勝つつもりでいるから、会話が成立しても意味が噛み合わない。

「さんざん武器を選びかねたお前が言うことじゃないだろう」

「ごめんごめん、二刀にするか迷ったけどやっぱ両手持ち一刀にするのが一番オーソドックスかなって」

 わざわざ迷ったふりをして選んだ二振りのダガーナイフと両手持ちでも持て余すような大剣の三本を僕は武器に選んだ。

「じゃあ、はじめていいぞ。いつでもかかってこい。圧倒してやる」

 ギャラリーの士官学生も息を呑み静けさが漂うので、ヘラヘラした態度、言ってしまえば自然体で臨む。

「いっくぞー」

 気の抜けた声のあと、大股に踏み込みギュヌマリウスまでの距離を詰め、詰め切る前に剣を振って手を滑らせる。

「おっと」

 興ざめと言った表情を見せたギュヌマリウスの鼻を明かすため、剣の柄に仕込んだそれを最低限の動作で最大級の胆力で引く。

 反応された。すっぽ抜けた大剣が軌道を変えてギュヌマリウスに突撃したというのにそれに反応して左手の盾で防ぐ。

 ギャラリーのどよめきはいきなり軌道を変えた剣に向く。彼の視線もそっちへ向いているので、腰に指した訓練用の刃を潰した短剣に指を触れ、突撃とともに彼に振り抜く。

 倒れ込むような軌道で腰を折り、剣を離さず盾を備えた左手だけでロンダートのようなバク転で距離を取り、追撃の短剣を二回回避される。右手の短剣を仕舞いその場に残った大剣を回収して片手で突き攻撃に移行する。

「はっ!」

 僕の未熟な突きを右手の剣で上向きに弾き、追撃の構えに入る予感がしたので試合になると聞いた瞬間から地面へ巡らせていた僕の魔力を用いて、闘技場の地面から土埃を巻き上げ煙幕とする。

 距離を取るとギュヌマリウスは話しかけてくる。

「へぇ、糸か。糸で大剣の軌道を変えて斬りかかるのは驚いた。あまりに細くて迫るまで全く見えなかったけど、そんな細くて丈夫な糸をいつも携帯してるのか?」

「緑の魔術、そういうのがあるんだ」

「へぇ、緑と言ったら戦場ではマイナーだが命に関わる魔術、植物を操る術かね?」

「いや、蜘蛛の糸を再現して改良する術」

「そんなのがあるか、初めて見たよ」

 言い終わると、ギュヌマリウスは驚くべき錬気の密度で一歩踏み出し、十数メールとあった僕までの距離を一瞬で詰める。

「ぐぁっ!?」

 大剣で軌道を邪魔して剣を防ごうとしたら盾で思いっきり殴られた。

 大剣を手放して左手のダガーでギュヌマリウスとルールでの勝利の相打ちを狙って背中に迫る剣を防がない軌道で眉間にダガーを叩き込む。

 ――消えた。

 斬りかかってくるかと思ったら視界から外れ、背後に気配が移った。大きく回り込んだのだ。錬気の密度による出力もさることながら細やかなこれだけの速さで大きく回り込まないだけの精度も高い。思わず、氷の魔術を使って背骨方向に棘々した外骨格をまとって防御した。

 痛い。

 衝撃は伝わってきたが防げた。刃を潰した剣を使っているのにルール的に魔法で攻撃していいのか、取り決めなかったのでよくわからないが。致死性の低い技はいいだろう。

風鋸(カゼノコ)

 物体を円形に回転させて攻撃する『丸鋸』シリーズの魔術で、最も威力の低い空気を回転させて切断する技を鳴かす。

 ――――――世界を拒む囀りに彼すらも、顔をしかめて距離を取る。

 なんと酷い風斬り音だ。世界を恨むかのような不快な風切り音が物体を回転させる以上、丸鋸には伴う、甲高いのだ。故に風でできた丸鋸の軋むような囀りはもっとも煩く不快だ。

 ギャラリーが悲鳴をあげるほどの音が響いて、距離を取ったギュヌマリウスに囀りの円盤は突撃するが、気軽に回避されて僕へ突撃する。

 さっきよりも殺意的な速度、左のダガーも右手のダガーに掛けた指も間に合いそうにない。体周辺に水と闇の魔力因子を滞留させてギュヌマリウスの剣を防ぐ。オーラに振れると水に濡れた表面の上を滑る小石かの如く剣はそれて外れる。

 面倒になったのか、ギュヌマリウスは力技の蹴りでオーラの中心を踏み抜いて、僕の腹部を叩く。

「ぐうぅ!」

 追撃、氷の外骨格を拡張して鎧とするが、それごと顎を盾で殴り飛ばし、僕を地面に転がす。

 ぐ、意識が、すぐに立ち上がろうとするが、頭にダメージが結構きたようで転がってしまう。

「驚いた。本当に強いのな。たしかにな大抵の武人より……いや、人の強さを外れる奴ら……、俺も含めたそういう達人を除くと強けりゃそりゃ、全部自分でやりたくなる気持ちはよく分かる。俺もそうだった。今もそういうとことはあるから、……ちょっとなんかな」

「ぅ……ぁ」

 なにか、言い返したい気持ちはあるが何も言語化できずにうめき声のようなものを出して島う。

「動くな、立つな、お前の負けだ。脳震盪を起こしている。お前は軽く魔術を使っても俺に負けた。俺は魔術を使うまでもなくお前に勝った。実力は俺のほうが強いことは認めてもらうぞ」

 そういって、僕に肩を貸して運び出すギュヌマリウス。

「ジークフリート……だったな? 公国とその旧帝国文化圏では珍しくない名前だが、お前の顔と一緒に覚えておこう」

 『上から目線だな』だとか、言いたい文句はいくらでもあったが、なにも言えなかった。

「ぁ……ぁ」


 ◆ ◆


 しばらく待合室のベンチに放置されると、すっと体が重いながらも立ち上がることができるようになり、気分も……ましになった。

「よ、これで、認めてくれるか? 俺が仕事をするってことを」

「…………あぁ、内容。わかるの?」

「俺、平民だけどそこら編の為政者より学はあるから」

「知らんが」

 不機嫌に言葉を返すと笑って、確認を進める。

「ま、おまえが出した申告書と、儀式のアレコレが書いてあった魔導書の内容は理解してるって保証だ。お前がアンドロマリー様に出した書類は基本的に俺は全部読んでる。一応、我が主君たるアンドロマリー様が友人にするべく招いた希少な体質の持ち主だからな」

「そうだ。ずっと聞きたかったんだが」

「うん?」

「アンドロマリーさんはなんでその『奇跡の子』……という性質にこだわっているんだ? なにか、理由でも」

「あー、それは、知り合いにさ。あ、いや、さっき会っていたあのクラーラ。名前でわかるかな、預言者の子飼いとして行動してるあの女の子、妹はそうでもなかったけど、姉のクラーラにアンドロマリーは明確な何かを感じたらしい。……お前にも」

「なにかを感じるって……え、理屈とかは?」

「ないな」

 身を起こすとベンチの下から武器を拾って板に立てかける。ダガー、さっき僕が使ったやつか?

「ないのか……特に、ありがと片付け、任せてしまってね」

「いや、あれは本能的なものっていうか、共鳴的なものだろう。アイデンティティにしたから仲間を欲したのかと思ったが、アンドロマリー様はなんか、奇跡の子がわかるんだ。厳密な基準はあるんだが、それとは別に判断できてない内に預言者の子飼いの姉妹の姉にだけ興味を示したし、アンドロマリー様が言う性質は奇跡の子には必ずあるらしい」

「……そうか、じゃあ、それ現象は魔法の一種と考えるのが自然なんだろうか」

 一度言葉に詰まったように息を吐くと、言いたくなさそうに

「まぁ、現状そういう見解だ」と、言いよどむ。

「『自分と同じ性質を探す』魔法かな?」

「わからん。アンドロマリー様が判別できるのは奇跡の子かどうかだけで、奇跡の子でない者を同種と認識できない……あまり、いい魔法現象じゃないな。あぁ、これは、まぁ、公然の事実だがあんま言いふらすなよ。デメリットの多い魔法がその御身に起きてるって、体裁が良くないからな」

「デメリット……そうか、原因不明の現象だもんな」

「あぁ、しっかりと解明された魔法なんて、それこそ魔力の仕組みくらいのもんだ、それだって人は全てを認識しているとは言い難いものだしな」

「インクが何故紙に付着するかなんて考える人間自体稀なものだ」

「いきなりなに?」

「フォローしたつもり」

 険しい顔をされた。『意味不明だ』とでも言わんばかりに、

「それを使い、御するのに全てを知ろうとする必要はないってこと」




 ◆ ◆ ◆




 本当のことを言うと私は、帰りたくないのだ。

「ひどい女」

 独り言で自分を詰ったところで、フリッツを縛り付けるために帰還の意志があるふりをする欺瞞への免罪になどららない。

「どこの世界でも変わらない」私達の扱いなんて「でも、フリッツの隣は」違うのだ。世界のどことも、

 フリッツの部屋で魔力因子を編み込み式の通りに配置する練習をしては崩していると、

「……ユーリ・サトー。ついてこい」

 若い騎士、殺意を秘めた目。

「はい」

 私は彼、いや、あと三人いた4人についていく。

 徐々に人気がない方向へ向かうのだから『やはり』としか

「ねぇ、あなた達は」

 彼らに話しかけるけど、反応もないので続きもなく押し黙る。

「……」

 大きな物置のような場所に誘導されるから「いかにも私を暗殺しようとしてます」なんて言っているようなものだって笑いそうになる。

 ガラガラと、近くで若い男が音を立てて転がる。

 私を連れてきた4人が剣を抜き、私に向ける。

「なにをした?」

 一瞬、質問の意図を理解できなかったけど、男が転がった理由を考えたらなんとなくわかった。

「なにかしたのは、彼でしょう?」

 痺れを切らした一人が私に向けて剣を突き、斬り払う。だけど、そんなのは当たらない。

「な!」

 ほか三人も剣を抜き、一人は密着た距離で斬ろうとするがあらゆる全ては外れ、距離を更につめた一人は私に触れられずバランスを崩して転んでしまう。

「魔法か!?」

「……くっ」

 おぞましいモノを見る彼らの目に懐かしく思ってしまう。

 帰るべき場所に帰ったらこんな目を向けられ続けるんだ。私には、今の私には、もう、

「そんな目で見ないでよ!!」

 こらえ難く不快だ。

「わからないってことが、そんなに怖いの!? そんなっ、どこの世界でも、みんな……」

 違う。今の私なら

「いや、わからなくもないだ。未知って、怖いよね。この世界に来たばかりの時、帰りたかったしフリッツのことも怖かった」

 だが、今の私はどうだ? わかるだろ? 帰りたくない気持ちがあるほどだ。だが、

「安心して、あなた達には私を殺せないけど、私にもあなた達を殺せない。今ここで何が起きたかを誰かに説明なんかもしないし、あなた達の無事も祈っていい。だから、そのうち、元の世界に帰るから……」

 続きの言葉が出てこない。

「なんでだ?」

 質問がわからない。

「なにが?」

「俺たちを排除しない理由なんてないだろう」

「あぁ、そう、そりゃ」

 本当は、なんでだろう。だけど、嘘はつける。

「いちいち対応していたらアンドロマリー殿下様とフリッツに余計な仕事をさせることになるから、それに」

 本音が漏れた。いきなり、

「あなた達は私と同じ気持ちだから」


 それで、そこをあとにしようとした。もう一度背中を刺そうとされたみたいだけど、それはやっぱり当たらなかった。

「ありがとう」

 私はやっぱり変えるべきだって教えてくれて、




「感謝を告げるべきた私であるぞ」

 息が、……呼吸ができない!?

「…………!」

「…………!?」

 言葉すら発せずに後ろの若い騎士たちを見ると彼らもバタバタと倒れて硬直してしまっているか、もがいているかに分かれている。

 なにが起きている?

 状況を理解する前に倉庫の扉の外から青年が現れ、…………

「ふむ、御使い様。勝手に逃げられては殺してしまいますよ」

 そんな、声が

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