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13-2

 彼らの指導教官が数人現れ、なんとかその場を収めようと彼らや僕ら、現場周囲にいた生徒たちに聞き取りをして頭を抱える。

「――!」「――!?」「――――っ!」

 彼女越しに向こうで三人の学生が聞くに堪えない主張をしている。

「どうしたものか」

「どうしたもこうしたも、彼らが生きているのは僕の温情でしかないんですよ?」

「なんだと?」

「刀を抜いて返り討ちにあった人間が殺されないのが手加減じゃないというのなら、貴女は手加減の仕方を知らないんでしょうね」

 ハッキリと不機嫌な表情を見せるが、それは当たり前、こちらも不満なのだ。そうされるような態度だってこっちもとるさ。

「とはいえ、どうしたものか」

「コルネリア様! 助けてください」

 片腕を斬りつけられた学生がその名を叫ぶ。コルネリア、『様』?

「コルネリア様! あいつに斬りつけられたんです。あいつ、いきなり斬りかかってきて」

 コニア姉さんは眉一つ動かさずに冷淡な表情だ。怒っている?

「腕から血が、こんな傷を」

「それ、ほんと?」

「ええ、ホントです! 間違いなく」

「刀抜いて斬りかかってきたから、斬り返しただけだよ」

 一応、怒られるのがいやだから理由だけは告げる。

「そう」

 態度は冷淡なままだ。こちらへゆっくり歩いてきて、なにかするかと持ったけど、僕ではなく女性教諭へ腕を向け質問する。

「あなたはどう見てる? 騎士科一年主任」

「現状、証言がある以上は我が生徒が攻撃して返り討ちにあったとしか……」

「ありがとう。アンナ主任」

 そう言って踵を返し来た方向へ戻るために、背中は僕を向く。……僕になにか言うためにきたわけなじゃい?

「え、コルネリア様!? 助けてくれないんですか! あんな奴の言葉を信じて」

 そう言って駆け寄りコルネリアの肩をつかもうとした騎士見習いの学生、無事だった方の腕、彼の左腕は上腕から切断された。

「お前、…………はぁ」

 冷淡な態度だったコニア姉さんの態度は崩れ、あからさまに気怠そうな感情を見せた態度を示す。その右手には構えられてすらいない短剣が、いや、中折れして円曲する前に千切れたサーベルが握られていた。

「敵対している相手に掴みかかることの意味を正しく教えたほうが良いかしら?」

「え、……ぁ」

「お前は」

 まずい! これ、下手するとコニア姉さんは僕の敵を排除するつもりできやがった! 錬気と風の魔力を思いっきり振り絞って飛び込んで割り込む。

「なに?」

「殺すのはやめとこ?」

「……分かった。手加減する」

 この言い回しってもしかして、さっき僕が言っていたことか?

「もしかして、話聞いてた?」

「最初から居た」

「どこに?」

 上の階の……どこかを指さして不満げに一言。

「そこの窓際に」

「監視してたの?」

「……気付いてるのかと」

 なぜか自嘲気味に苦笑を漏らす。

 感情がまだまとまっていないはずなのに、彼女の怒りに対する緊迫感でそれどころじゃない。これ、本気の殺意を帯びた目だろ!?

「理解できないな、殺し合いを始めた人間を見逃す理由が」

「それは、まぁ、僕も理解できないけど。たぶん、騎士になるつもりがないんでしょう。じゃなきゃ剣を握ってこんな市民みたいなことは言わないし」

「きさまぁ……ぐぁ」

 唸る腕を失った生徒を見て、コニアはため息をつく。

「武器をもった時点で……関係ないでしょ」

 血を流して転がる生徒と、顔を真っ青にしてなにか叫ぶ女性教諭。周囲の生徒たちは困惑のどよめきや僅かな悲鳴などでごちゃごちゃした雰囲気に染まる。コニアが血を流す残ったか腕を海つぶし、……本当に潰れる。

「ぎゃぅぁぁぁああああああ!!??」

 手を出してしまったことを後悔することも、ましてや恥じるつもりもない。刀を抜いて殺されなかったのだから感謝して欲しいほどだ。

 ましてやコルネリアから守っているというのに、周囲から怒声や悲鳴のさえずりが煩わしくて文句も言いたくなる。実際、今、僕が腕を出そうとしたら出す前に足を離してくれた。

「血、流して両腕潰して転がるガキに言うことじゃないと思うけどさ。剣の柄に手をかけたんだから殺されなかったことを感謝しないとダメだろう?」

 言ったあとに「こいつ、私より年上」とコルネリアが言うから、失笑をこぼしてしまった。

「あぁ、だめだ」

 混乱の騒々しさの中、何も考えることなく、いや、考えなかったこそ。まとまってしまう。

「なに?」

「殺そうとしているのを焦ってしまった。この感覚、分かったよ。家族は恨めても、嫌いになれない」

「……それって」

「コニア姉さん。でもまだ僕は、…………納得もできるわけじゃないや、くはは」

「えっと」

「義兄弟の契りってまだ有効?」

「えぇ!」

 胸の中で思い描く風景は、いつか飲んだ血とぶどうの味だった。



 ◆ ◆ ◆



 それがなんだったのか、思い出せないのだが些細なことで僕はクスリと笑ってしまった。

「笑うな!」

 父の感情任せな拳に頬を打たれて、僕の体は椅子から転げ落ち回る。

「……っ。こんなことするべきでは無いのに」

 振り上げたばかりの拳を見つめて父は反省してるようだ。だから、僕はなんでもないこととして椅子を立て直し、テーブル上に置いた本の推読を再開する。

「お前は……、こんな、父で」

「……?」

「俺に殴り返してもいい」

「なんで?」

 疑問の意味をまるで理解していない父の顔に僕は、ただ相手の立場に立って考える。

「父さんが僕を憎むのは当たり前のことじゃないんです? 僕だって見ず知らずの誰かにコルネリアを殺されたら、殺そうとするし」

「お前は……俺は」

「母さんを愛してたんでしょう? なら、母さんの死因は憎いでしょ」

「違う……俺は、カティアが命懸けで産んだお前を…………」

「憎んで下さい」

「違うんだ。おれは……!」

 また殴られた。自分で殴っておきながら父は困惑した顔で、自分が殴ったことを理解すると半狂乱になり部屋の片隅でうずくまる。

「あぁ、……! あああ!」

 僕はそれらを視界に納めながら、なんてことないことと認識するように心掛け、体と椅子を起こして読書を再開する。

 父のうめき声に折り混じる音を潰した叫びのような声を聞きながら、『父は僕を愛せないほど母を愛していた』のだと誇りに思い何も言わずに読書に戻った。


 ◆ ◆


 「うわあっ!」

 殴られる夢に驚き目を覚ましてしまう。ダラダラと流した汗で、自分の体の異常が起きたのかと困惑するが、気だるさ以外の痛みに近いものは感じない。

「フリッツ!?」

 飛び起きたのか、まとめられた髪の寝間着でかけつけたユーリが部屋に入って声をかけてくれる。ランプを持っているのかと思ったら指先から魔術で光を発して辺りを照らしている。

「……大丈夫? じゃないか、どうした。……そうか、薬の副作用か。たぶんそうかも」

「……ごめん、酷く、うなされたんだとおもう」

 夢の中身が思い出せず、本当に魘されたかも自信がない。

「そう、疲れているのもしれないわね。……しばらく、ここに座るわ」

「いいよ。大丈夫、子供じゃないんだから」

「いや、ダメ。貴方、ひどい顔をしているわ」

「……? そんなに」

「えぇ、酷く」

 自分の頬を触れてこわばっているのがわかった。

「それともなにか、水でも持ってこようかな?」

「いや、それは、大丈夫」

「…………布団に入り直して眠りなさい。目をつぶって。眠ったと思うまで、ここにいるから」

「そこまでしなくても、するほど調子悪そうか?」

「うん」

「そうか」

 目をつぶって、お互い黙って。

 聞いて欲しくなったのか、僕は言ってしまった。

「僕はさ、父を誇りに思っていたんだ」

「……いいことじゃない」

「だと思うんだ。だけど、父は、僕を見たくなかったみたいで、母さんが死んでから、少し、村長のとこで育てられたんだ。いろいろあって、一緒に暮らしたりしたけど、父はふとしたことで僕を殺そうとしてさ」

「うん……」

「母の死因が、僕を無理して産んだせいでね。生まれてくるんじゃなかったっても思ってた。だけど、コルネリアやゼフテロ、ユニーカと一緒に暮らしていく内に、みんなを愛していることに気付いて、父が僕を恨むのは、それだけ母を深く愛していたからにほかならなくて」

 一息で、二人しか居ない部屋の息遣いが耳にしみる。

「コルネリアが僕を見捨てて遠くに行って、愛がわからなくなって再開するまで本気で憎んでたのに、目の前にしたらどうしても恨みきれない。嫌いになれないんだ」

 額に温かい、指で撫でられる感覚が残る。

「それじゃあ、恨みたいの?」

「いや、どうだろ。ただ、父の気持ちがわかったから、死ぬまでに、なにかできたんじゃないかって」

「責任感が強いのね」

「そうかな、父の無様さを自分に重ねてるんだ。こういうところばかり似てしまうって」

 手を握られる。暖かな、柔らかな指が手のひらと手の甲に添えられる。

「本当にそうなら、愛の深さも遺伝したと思う。だから、その責任感を誇りに思うことはできない?」

「……ごめん、むずかしい」

「だったら、その優しさは私が勝手に誇りにおもうわ」

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