13-1 殴られる夢
「ごめん、でも、納得できなんだ」
うなだれてどこかへ運ばれる途中で、人目が減ったところで僕はやっと体に意識を巡らせて動けるまで立ち直って、コルネリアに向く。
「どっちにしたって、僕を、置いていったんだ……」
コルネリアの悲しい目を見ただけで嵐が吹き荒れるように心が乱される。
「でも、本心ではたぶん許したいんだ。だけど、もう、まだ、無理だ」
「ごめんなさい」
「さわるな!」
言ったそばから取り繕おうとして、また肩を持たれようとしたら拒絶してしまう。
「いや、ごめん、でもまだ、僕は頭の中で、纏まんないんだ。怒りと、悲しみと、不甲斐なさと、虚脱感。どうして、いや、……少し、ごめん」
自分の感情がわからない。心の雨がなにもかも見えなくしてしまう。
「少し、一人にしてくれ……これ、食べとくから」
そういって、僕の分といっていたバスケットをもらい。すぐに立ち去れず、お互い無言のまま動けなくなる。
「大丈夫、食べる。食が細くなっているのはわかるし、虚弱体質で余命宣告までされたんだから」
「あの、そうだ。つまり、私は、たぶん、恋をしているんだって」
「なんでそう思うの?」
「……結局家族と同じ感情を持てなかった。貴方とは、子供の頃から」
「あのさぁ!」
自分の感情が理解できない。コニア姉さんが言いたいことを理解したくない。……具体的なことを言えない。思い浮かぶのは曖昧なイメージばかりだ。
「それって、たぶん、愛だよ。恋じゃない」
「それって何が違うの?」
「……意味があったら恋って呼びづらいんだ」
言いたいことが自分で理解できず、唸ってでも言葉を探し、今できる答えをひとつ見つける。
「もう、姉さんとは呼べないけど」
「そう、……か」
「でも昔みたいにコニアとは呼べると思う」
悲しい反応に慌ててしまう。なんでも僕はこんなことを言って?
「だけど、すこし、落ち着かせてくれ。僕は僕が、どうしたいのか」
……まよった。少し、目線を動かしたコルネリアは一言。
「わかった」
◆ ◆
適当な芝が貼った広場のような吹き抜けのスペースにベンチが置いていあったのでそこでサンドイッチたちを咀嚼する。
食べるのが本当に辛かった。吐きそう。飲み込むのが辛い。
頭を整理したいのに食べるのがきつくてそれどころじゃない。感情がまとまらないまま三分の一も食べて食べても食べてもまったく減らない錯覚に陥る。
「貴様、捕らえられたんじゃないのか?」
誰かに話しかけられた。顔を見ても知らない人だ。たぶん、会ったことはあっても僕は認識してない。後ろに二人、似たような制服を来た生徒がいる。
「どなた?」
「私は、リューオン侯爵家のクリフだ。私のことはいい。貴様、なんで当たり前のように自由に歩いている?」
「……あぁ、解放軍との繋がりはそもそも疑われなかったよ」
「なんだと?」
怒っている。敵意だが、なんだ? 質問とかそういうのの感じから任務という感じじゃないよな。
「貴様は、そう、学院の生徒を斬り殺しただろう。貴様が窓から飛び降りる姿を私は見たんだ! なぜ、無罪放免されているんだ」
「あぁ、なるほど。あのあと君はすぐに駆けつけたってわけか」
「あぁ、そうだ」
こいつが助けられなかったってことか、
「やっぱり、死んだのか、あの二人」
「『やっぱり』ってどういうことだ!?」
「……確かに、僕が解毒してたらあの二人は助けられただろうけど、時間かかりそうだったから……ね」
「アイツらを見捨てたってことか!」
「貴様!」
後ろのやつと一緒に怒る様には呆れる以外にできることがない。助けられて当たり前という考えで兵士は向いていない。
「……僕が助ける義理はなかった。理由の説明はそれで十分だろ?」
彼には侮蔑してしまう。同時に、自分が見捨てたせいで名も知らぬ二人が死んだのだと、
「き…………っ、そうか、冷たいんだな。帝国崩れってのは」
「はぁ、アンタの責任逃れための言い訳で他人を罵倒ってさ、自分で言ってて見苦しいって思わないの?」
ユーリを救出できた以上、自分の判断は間違いなく正しかった。故に、二人、無意味に死んでしまった怒りを向けるべき方向を間違えるのは、苦言を呈することは避けされない。
「アンタが助けに向かってすぐに医療スタッフの下へ送っていたら、助からない命ではなかっただろう? それが助からなかったのは君の判断速度が遅かったか、医療スタッフの実力不足が原因と思うべきではないんじゃないか?」
「貴様っ!」
「まて、安い挑発に乗っかるな」
挑発? 後ろの男はそう言ったが、責任を全く感じていないのか、……彼らはもっと低く見積もるべきか、
「それも……そうか、お前はそういうやつなんだな」
「がっかりだよ。君たちの実力不足であの二人が死んで」
「よくも」
刀を抜かれた。
未熟、目で追える。
左腰の鞘から刀を抜ききる前に左手を引っ掛けて右手で手の甲を斜めに押し込むことで、彼の胸に刀を押し付け撫で当てる。剣に峰がない王国式の直刀であるせいで引き裂いてしまった。
「あがぁっ!!」
「抜くなよ。剣を」
地面に崩れ落ちて胸から血を流す彼が地面に倒れ込むのを見て口から出る言葉は、
「浅い」
その程度だった。殺し合いでは重要なことだ。
「お前!」
「いい加減に!」
両脇の彼の友人が激高して剣に手をかけるが、抜刀がずいぶん、
「遅い」
緩慢な動きで剣を抜いた彼らが構えを取る前に僕の両脇からショーテルを抜き出し、構える右手に切りつけ鍔ヘ目掛けて切り裂く。
悲鳴を上げながら、うずくまり、睨む彼らに呆れながら、右の彼の血がベンチに置いていたサンドイッチにかかってしまったことを見て、やや大げさに残念に振る舞う。
「しまった。食事が汚れてしまった」
刀と逆方向に円曲したショーテルの血を払い、鞘に収めてベンチに座り直す。
後ろのほうで見ていた学生が悲鳴をあげ、彼ら三人がなにか言葉を叫ぶ。




