12-1 今更なんだ
「やっ」
「なんでシシィが?」
気さくな挨拶だ。
動きやすそうな私服の上に教授であることを示す外套をかけた煌めく栗色の髪をした女がだ。尋問が終わり、騎士たちに睨まれながらも儀礼的な挨拶をして部屋をでると待ち構えたように軽く手で礼を向けてくる。
「なんでって、ここ、私の普段の勤め先だし」
「誰?」
「セシリア・ラーランド客員教授、ね。彼女は、そうね。預言者の一団の中でグニシアと一緒に……、いる人、かな? フリッツとの関係は知らないけど」
「言葉選ばくてもいいよ。グニシアと一緒にシグフレド猊下と疎遠になってる人って言った方がわかりやすいし、いや、異世界出身者に言っても分かりづらいな」
腕がこわばる。シシィの口から異世界に関する言葉を聞いたのが初めてだから、敵意を向けられる前提で構えてしまう。
「ここに来たのは、そうだね。はい」
そう言ってカバンから2つに鞘に入った刀が渡される。
「聞き取りをここで受けてるってきいて、盗み聞くつもりで旦那が預かってたショーテル返しにきた。対策されてて全然聞こえなかったけど」
「旦那?」
「あぁ、旦那。ここの騎士科で教師をしてるの」
カチャカチャとうまくはまらないショーテルの鞘を腰の留め金に嵌めるて、「帯刀ってここじゃまずかったりは?」と聞くだけ聞くが、「ここでは剣より魔術のほうがやばいから大したことない」とだけ返される。
「異世界人に抵抗とかはないのか」
「はは、私がシグフレド猊下と喧嘩してる理由って異世界人を保護しすぎて邪魔になるって言われたからなのだけどね」
「え」
「助けすぎたって言っても3人しか保護して匿ってる数はないのになんか、殺されかけてね」
「それは……大変なんだろうけど、それはそうでしょうね」
「とっても殺されかけたのは私じゃなくて彼の娘なんだけどね」
「は?」
「弟子が預かり知らぬところで同じような思想に目覚めるとか、もうこれは運命ってやつなのかな? はは、感じない?」
「えっと、なんて言えば」
気軽に触れていい話題なのかユーリをちらっと視線を送ったが、特に反応はなし。なんというか暇そうだ。
「弟子といえば、そうだ。言うのを忘れてた。弟子にそのショーテルを魔術的な強化させたから、だいぶ折れづらくなったと思うよ」
「僕に魔剣は使えませんよ」
「しってるよー。別に魔剣に打ち直したとかではまったくないから、そもそも最初から魔剣として作るのはともかく、元からある剣を魔剣にするなんてことは実際にできるのかな? まぁ、いいわ。外側に大きく円曲してる峰に魔術補助の刻印を掘らせたわ」
半分抜いて確認すると刀の背にびっしりと図形が刻まれている。
「どんな効果があるんで?」
「より繊細に魔術を使いやすくなる。具体的に言うと生成した魔力因子の細かい動きを補助して構成式通りの配置を組みやすくする」
「それだけ?」
「うん。それだけ、まぁ図形を書くときに定規が増えたようなものだし、あんまり効果がなかったとしても損はないよ。錬気したときに影響を受けやすくなるから使ってて折れにくくなる効果だけは担保できているから無価値でもないわ」
視線を下げ目線を同じ高さにして僕の後ろの彼女を見る。
「と、なると君がユーリちゃんか」
「えっと、はい」
「よろしくねー」
「あぁ、はい……あ」
シシィが差し出した手に握手をためらうと、その手を引っ込め顎に当てただでさえご機嫌な僕の師匠は更にごきげんになる。
「いいよいいよ。取って食おうって訳じゃないけど、エイリアンもコンクエスタ―も区別をつけずに異世界から来たなら全員取って食おうみたいな人は多いから、警戒は正しい判断よ。どうせまた会うことになる。その時に信頼は勝ち取るつもりで、今日は顔合わせってねっ」
あるき出し、何も考えずに一緒にあるいてしまい。4人で同じ方向に話しながら進む。
「エイリアンと、なに、コンク……え?」
「ん、あぁそうだ。異世界人を、呼び分けてるんだ」
上機嫌のはずがその機嫌は一瞬にして陰る。
「自分の意志に関係なくこっちにきた異世界出身者をエイリアン、自分の意志で来た人をコンクエスタ―って呼んでるの。まぁ、普通に暮らしてたら理解できない概念だし、みんなまるで区別できてないせいで……、ね」
「待って。自分の意志ってことは私のいた世界からこっちに自分で来ている人がいるの?」
また機嫌を治すような強がってるのかと思うほど上下する機嫌、さっきのが通り雨だっただけだといいんだが。
「……私は少し違う可能性があると思っているけどね。預言者シグフレドという男は。そう認識しているな」
「じゃあ、帰る手段があるの!?」
……そうか、そうなるか。
「わからない。少なくとも彼らとの交渉はすべて失敗している。なにせ、言語が通じないんだ」
「……あ、そうか」
なにに納得したんだ? ユーリ、
「そういえば、この世界に来てから明らかに知らなかった言語を自然に使える状態になっているのは召喚する技術になにかしていると……」
「えぇ、そうね。言語を拡張する儀式魔術の一種なのだけど、あれ、母国語を習得していない幼児に行使するにはコスパが悪いけど。もとから未知の言語を覚えている異世界人に使うには安上がりなのよね」
そういえば、言語増設って儀式でできるんだったな。
「まぁ、それでも儀式で消費する供物揃えるのにはお金が掛かるんだけどね」などと笑って目をそらす。
だが、コンクエスターと交渉する手段さえ用意できるなら、ユーリを託すことも選択肢に入れることもあるか……? ユーリを返すための考慮の一案に置いておこう。
「うげ、エイリアン」
横から、前に切りかかってっきた騎士の男が声をだした。
だれかこっちに歩いてきてるのは分かってたが、会いたくなかった。
「…………」
「…………」
お互い何も言わずにすれ違って彼はアンドロマリーの部屋にノックして僕らはシシィと同じ方向にあるき出す。
お互い、関わらないほうが安全だろう。
「こっちにくる? くるなら作業がうるさいかも知れないけど気にしないでね」
シシィが入った部屋に案内され「やってるー?」などど、屋台に言うような気軽さで声をかけ中の人は気のない相槌と「やってるぜ。テスト採点」という返事を受け取る。別にうるさいような作業はしていないようだ。
「あ、彼、私の旦那。クラウス」
「久しぶり」
「どうも、先日は……その勝手に逃げ出して」
「こんにちは」
「どうも」
「以外だな。怒ると思ってた」
「なんで?」
「結界作っといて外部からの侵入を考えてなかったのは俺の不備だからな。申し訳なかった」
そう言って頭を下げる。困惑して、こちらも下げ返してしまう。
「あぁ、えぇ、そういう考え方することも……、できなくないですけどね」
「彼女が、私の弟子、マノン・デュノワ。あなたよりひとつ歳上で正式に騎士になっているわ。ユーリちゃんとは同い年になるかな、あれ、でも異世界と年齢の単位って……もしかしら違うかもしれないけど、数字上は同い年ね」
「…………」
作業台で黙々となにか紙束とアクセサリーを交互に観察して道具でなにか確認する作業をしている。道具とアクセサリーを置いて、一言。
「師匠の見立ては当たってたぞ」
そうして、厚手のミトン越しに箱にアクセサリー……リングネックレスかな? を、入れて机にしまい。鍵をかう。
「…………」
「え、無言?」
そのこっちをハッキリ見据えて不満げに何も言わない態度にユーリが思わず声をだす。
マノンは顎に手を当て押し黙る。
「…………」なにか考えて、「言うことはないな」と言い切る。
「そう」これにはユーリも微妙な反応をするばかりだ。
「……いや、一つあった。聞いていいのか?」
「どうぞ」
「コルネイユ爵はなにを?」
「えへへ」
言葉にすらなっていない声を漏らして、僕の腕を抱きしめた。
「……!」
「貴女…………お、いや、え、違っ、誰? いや、コルネイユ爵…………なんだ」
マノンは目を見開いて驚き。なにか言葉を探して、絞り出す。
「男に媚びるような顔……あの女ができるわけがないっ! お前、何者だ!!」
そう言って、立ち上がり戦闘を構える。
「いや、失礼だな。私にも心許せる相手はいる」
「いるわけがないっ!!」
「それは普通に酷い。友人と信頼できる相手しか居ない場所で気が緩むこともあるさ」
シシィを見て囁くように聞く。
「偽物、ですよね?」
「本物だよ。ここらへん、二年間見ることがなかったけど子供の頃から変わってないことが知れて安心した。たった今な」
「……? 子供の頃の私を知っているのか」
本気か、事情あって隠してたんじゃないのか。
「しっかり覚えているよ。シシィは、昔からあの村でよく世話になったね。あそこで君に緑の魔術を教えられたのは」
「…………あの魔術のお姉さん、セシリア」
「あぁ、懐かしい言い方だね」
そういって、シシィは笑い出す。
「どうりで、どうりで、はは、話がうまくできないわけだ」
「あ、いや」
「シシィ?」
「私の名前と顔が一致してなかったんだな!」
「あぁ、すまない。同じ人とは……」
シシィが漏らすような笑いを終えると、コルネリアは思いついたような顔で適当な発言をする。
「じゃあ、そうだな。ここらでデビューってやつでもしようかね。キャラ作り的な」
気取ったような演技で僕を引っ張ってソファに一緒に座らせる。
「そうか! ……つまり、コルネイユ爵が普段淡白な反応はキャラ作りだったのか」
「……いや」
息から力を抜き細いことを言ってうなだれる。
「ごめん……無理だ。あれも素だから」
「じゃあどういうつもりで、何を言い出してたんだ?」
「……えっと」
僕にじゃれているのか、僕の胸に顔を隠してワチャワチャうねる。
「え、なに? なんなんだよ」
「二人で、話したいことがあるんだ。ユーリ、ここで待っててくれるか?」
「いきなり? はい。じゃあ、いいですか?」
「いい? クラウス」
「別にいいんじゃないかな? 居るくらいなら」
身をあげ、真面目な顔をして立ち上がる。
「じゃあ、一旦離れます」
いつの間にかテーブルに置いていたカバンから3つのバスケット、一つだけやけに大きいものを小さい方を一つ重ね。もう一方の小さい方を「これ、昼食にして」と、ユーリに差し出し、僕を連れ出す。
引っ張られるその腕の感覚が、酷く懐かしくて、




