6-2
割れるような爆音、大きな風の流れが巻き起こってレンガの面が崩壊し、気がつくと宿前の数名のカルト兵士と私とトリタははじき出されていた。
「しまっ!」
いきなり起きた衝撃波に状況を飲めずにいると見知らぬ騎士風の装束の男性がカルトを何かで殴る。
なにか棒のようなソレの先にあるものでカルト兵士を絡め取って拘束してしまう。
「アンドロマリー様、町中で魔術を用いて隠れ、暴行を行う悪漢の取締は完了しました」
「ありがとう。探すのはいいけど、封印破って捕まえるのには手が足りなくてね。貴方が暇そうにしてて助かったわ」
「待機を命じられたので、待機していたのですが」
呆然として、私とトリタが絡め取られていないことに気づき、立ち上がる途中の私は中腰姿勢で無害を意味するように手を挙げる。
カルトの兵士たちは仮面越しに口の奥になにか詰められたのか、言葉を言えそうにない。
「なにそれ?」
「抵抗しない……つもりで、手を上げてる」
「なるほど、でも、まぁ、私と彼は特別なんで外から結構見れてたから大丈夫よ」
よくわかないが、トリタを振り返ると武器を持たずに佇んでいたが苦々しい顔をしていた。
「ぅわ」
声を漏らしているが、何が嫌なのだろう。焦っている?
かなり距離を取っていた野次馬を飛び越えてゼフテロがトリタの間に割って入る。遅れて、フリッツが人混みをわって飛び出し
「ユーリ!」
「フリッツ!」
手をひらひらと振りアピールする。
「ぅへ」
と嫌そうな声を漏らして、私と騎士風の男女二人組に近づく。
そうだ。この騎士風の女性の方、さっきの不審者だ……。なんか、笑顔だし
「やぁ!」
「うぅ」
「いつものことだが、アンドロマリー様に不敬ではないか?」
「ギュヌマリウス!」
「え、はい」
「命令だ。口をはさむな」
「御意……」
騎士風の男は女に傅く。
「アンドロマリーだ。これでも、このヴァロヴィング王国の王位継承権を持っている」
「……え、そんな立場で?」
「まぁ、そうなるよな……」
「私としては君には同じ席についてもらいたいものだが、今は、なんとか連絡手段を確保したいといった程度で済ませよう。今君に旅をしている理由があるなら、その理由を満たす助力はするし、その傭兵たちにも十分な違約金を払えるだけの金銭は支払おう。それで、えーっと、君はユーリと言ったね」
……どうするべきだ。私はなんと答えるべきだ。無言で頷き、言葉を思案していると
「ユーリ、異世界から召喚されたんだって」
トリタの無遠慮な言葉が飛ぶ。
万事休す、そう思ったときには騎士風の男が迫って私に剣を振り抜いていた。
「浅い!」
視界を覆ったそれが盾になるのを見て騎士風の男はそう叫んで、もう一度剣を振り抜こうとする。が、熱を感じるとともに風切り音を出して割ってはいったゼフテロが騎士風の男の剣を肉厚な大剣で抑えて、ケリを入れて女のほうへ飛ばす。
私に転がってくる縦になったソレが私のもとへ落ちて、叫んで――――――
「――――――フリッツ!!」
アンドロマリーは、困惑しながら騎士風の男を避けて、間に割って入るゼフテロに困惑する。
「え……!」
「なんでだ!」
ふたりとも、困惑しかしていない。トリタは続ける。
「真偽の程はそこに転がっている仮面共に聞けば良いよ。そいつらがユーリを襲った理由で、ユーリはそれを肯定した」
どうしたら、なんで、トリタ。
「『帝国の影』。相手にとって不足なし、いくぞ」
「こんなところでかよ!」
ギュヌマリウスが臨戦態勢をとると、アンドロマリーは一瞥で黙らせる。
「……やめろっていうんですか!?」
「命令しようか?」
「なぜです!? あの反応、困惑している『影』はともかくエイリアンとその男は、事実を認識していたでしょう!」
「……だろうね」
「なら、別に問題ないでしょう! エイリアンを殺して咎められてちゃ世話ないですよ」
なんだそれ。
「……かもね」
「なら邪魔しないでください。俺なら、視界に捉えてさえいれば『帝国の影』と恐れられる、ゼフテロ・フォルトゥーナにも」
「おいおい、本気で野次馬に囲まれてんのに殺し合うってのかよっ!」
「やめろ」
怒りに満ちた顔、ギュヌマリウスはその目に蛇に睨まれた蛙のように押し黙る。その目は、私に向く。なんで、私が異世界から、連れて来られて……どうするれば、怖い。
「なにを」
わたしにできることはほとんど何もなかった。だから、胸から血を流すフリッツに覆いかぶさるだけ。それしか……。
聞こえる。フリッツの声にならない息、吹き出すように胸から漏れる音。呼吸もままならないそんな状態なのに、私を押して、逃がそうとする。そんなことをされたら、都合のいい夢を信じるしかないじゃない。
「アンドロマリー様!」
「ギュヌマリウス、命令よ。やめろ……。ごめんなさいね、私の同僚が先走ってしまって」
ギュヌマリウスを無視して、アンドロマリーはゼフテロに声をかける。見ると、跪いて頭を下げている。
「なんだ、あんた。謝罪……か? 殺しにかかって謝って終わるとおもってんのかよ」
「そうね、そうあるべきではないとはお思っているわ。だけど、貴方は私の経歴を知っているなら、ここで私と戦いたくないはずよ」
ゼフテロは臨戦態勢を崩さない。
「治療させて、彼に死なれたくない」
「信じて良いんだな?」
首を縦に落とすアンドロマリー、沈黙の後、ゼフテロがフリッツの治療を許す頷き、
「わかった。その男は近づけるな。あんたもユーリに攻撃するな」
「ありがとう。命令よ。ギュヌマリウス、人混みまで後ろに下がって」
かがむ、王女は私にゼフテロ程度までしか聞こえない程度で声をかける。
「治療するから、離れて、いや、はなれなくて良い。上体だけ起こして傷が癒えるところをみていて」
王女が魔術を使い、いくつか光の点が蛍火のように消えてはついてをしてフリッツの斬り傷を癒やし、呼吸を正常に近づける。
「はぁ、ぐぁ、はぁ」
「まだしゃべらないで! 胸がふさがっただけで、まだ気管支が」
「ユーリを、殺さないで……」
なんだ。この人、こんな状況で、
「お願いだ。僕がほしいなら、殺したら。ぐぅあ…………ッ恨む」
「約束しよう。ユーリくんの命を奪わないことを約束する。ただし、君の身柄とともに拘束することは免れない」
「それでいい……すまない」
「おい、それって」
「はぁ、……違約金。手形で、荷物に入れているから、……もっていってくれ」
「お前は……はぁ、契約を破棄するって?」
「あぁ」
「閣下さん、フリッツのこと悪いようにしないよな?」
「少なくとも私は良いようにするつもりだった。この回答でどうだろうか?」
「……この状況じゃ、満足だ」
そういって、ゼフテロはその場を去った。




