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6-1 都合のいい夢

 なぜ、こうも必死に逃げているのか? けたたましい人々の往来を端に、トリタの先導を前にどこかへ促される。

 思えば、この世界に連れてこられて一ヶ月、促されてばかりだ。なんとかしたいのに自分では何一つままならない、フリッツは何が目的なのか、何がしたくて私を助けようとするのか?

 彼の目つきや態度から色恋やそういった下心があると思って、早い段階で夜をともにしようとしたが、拒絶の対応を彼が示したことによりそういった感情ではないことは判っている。

 ならば本当に聖人じみた慈善行為の一環で私を助けているのだろうか? いや、それは都合が良すぎる考えだ。いくらなんでも、それは考えるべきではない。

 ならば、最初に私を召喚した組織とつながりがないだけで、異世界からさらった人に何かをさせたいのだろうか? もし、そうだとしら私は頃合いを見て……、フリッツからも逃げなくてはならない。だが、彼の必死な顔で私に魔術を教えてきたあの顔を、できれば裏切りたくないから、都合のいい夢をみたくなる。


 トリタの走る速度が徐々に常歩に下がり立ち止まる。

「もどってきた」

 この街についたときの宿だ。

「ありがとう、これで一安心かな?」

「どう、かな。あの人は権力者だから、合流してからの話し合いによっては王国側に引き返すことになる」

「え、あの、ごめんなさい、なんで逃げたかもハッキリしないんだけど」

「ごめん、私も依頼主からの要望だからとしか、フリッツさんに後で聞くと良いかな」

 喧騒を背に宿の扉にトリタが手をかけると、耳鳴りのような音が聞こえたような気がした。

「え」

 自分の耳がおかしくなったのかと勘違いするような甲高い耳鳴りは自分が感嘆の声を上げた瞬間鳴り止んだ。

 違う、急に静かになったのだ。何が起こっている?

「トラップ……! いや、どこに」

 振り返ると人々がいたはずの往来はレンガ造りの広間に、いや、地面以外の5方向をレンガ造りの壁で覆われた広めの空きスペースに変わっていた。瞬間移動? ワープさせられた?

 突き除けるような低い破裂音が聞こえ、正面を向き直ると口の広い宿の扉だけはもとのままそこからフルフェイスの鉄仮面に、ローブを着込んだ何者かがトリタに大剣を突き立てていた。

「うるぁ!」

 トリタが声を上げると位置的にトリタに刺さっていたように見えた大剣は上方向へ投げるように押し戻され、明らかにトリタの位置を貫通するほどの長さの大剣が男の大上段に現れた。

 トリタが半袖で何もつけてないはずの手元から何かを投げつけながら、後ろに飛んで私に密着するほどの真正面の位置で今まで持っていなかった剣を手首に現れたなにか黒い塊のような何かから引っ張り出すように持ち出す。

「おや、貴方も空間操作が得意でしたか? おかしいな、天や力の属性因子は持ってないと聞いておりましたが」

 鉄仮面が声から男性とわかった時にトリタは剣を投げた。

 回転しながら飛ぶ長剣は男との間の虚空で止まり、置物のように静止する。それを男は防御態勢で構えていたので大きく生まれたすきを突いてトリタは私を抱えて広間の空間へ弾けるような跳躍し、私が目を回す間もなく距離を取る。

 男が距離を詰めようとすると、長剣からドロのような暗いものが沸き立ち泥から短剣が鉄仮面に向かって発射される。

「へぇ、珍しい技を使いなさるのですね」

 発射された短剣がまばたきの間にトリタの左右から飛来しているが当たることなく虚空で静止し暗色を自ら湧き出し、蒸発するようにドロとともに消える。

「いい熱量ね」

 虚空で静止していた剣が黒く粘り気のある黒い煙につつまれ消えるとトリタの手元に煙と共に現れる。

「顔は見えないけどその目、鉄仮面の間から見えるその表情、所作、立ち振る舞い、なかなかのそれを持っているわ。それは正しい殺意とも言えるわね」

「熱量?」

「人を殺すのには熱意がいるでしょう?」

「それも、そうですね。私にも大願がある」

 しみじみと思いを噛みしめるように鉄仮面の男は一歩、こちらへ進む。

「いきなり罠にかけて、何様? 私たちに用事ですか?」

「……貴女に用は無いのですが」

「出会い頭に斬りつけてくる通り魔の言い分じゃないわ」

「邪魔するのなら、そうですね。潰されてください」

 密閉された空間の天井のレンガがトリタに向かって伸びる。トリタは私を蹴り飛ばす。転がった視線にも天井から伸びるレンガのその先を身を起こして見ると、トリタはそこにおらず、その先の鉄仮面の男に飛びかかっていた。

 仮面へ二振りの剣の振り下ろされた一方が当たる前に、土面の下方向から地形が伸びてトリタの体が打ち上げられる。

「っ痛ぇ」

 鉄仮面の男が構えた剣を振り下ろし、無防備なトリタの頭に叩きつけ、すんでのそれを頭を避けて肩で受けてしまう。

「ぐぅ」

 剣を当てた男の方がうなり、トリタは無反応で男の腹をける。

「錬気がなってないじゃない!」

 肩口を斬られたはずのトリタは服にすり傷一つつかずに、転がる男に威勢のいい声を上げながら膝蹴りを浴びせ、足元近くに落ちた大剣を斜め後ろに蹴り飛ばしけ男から遠ざける。

「どうした? 罠にかけておいてこれで終わりってことはないな? さぁ、きなさい」

 よろよろと立ち上がる鉄仮面の男にトリタは威嚇しながら剣の一本を黒い煙で消失させて、一本の剣を両手で構える。

「本当に君に用はないんですがね」

「なら、帰ればいいんだ!」

「そうも行きませんよ。御使い様を連れ戻さねばなりませんから」

「御使い?」

 一瞬、トリタが私を向いて男へ向き直る。

「ユーリのことか?」

「えぇ、彼女は我々が神のもとより降臨させていただいた御使いの一柱、我らが帝国を救済してくださる天使なのですよ」

 バレた。バレたら不味いらしいが、……どうなる。

「……あぁ、そういう」

 トリタは苦笑するばかりだ。

「えぇ、今は属国に身をやつしていても君も帝国の臣民ならば、帝国の救済は優先すべき課題であろう?」

「ユーリをわざわざ異世界から召喚したってこと? 新たに」

「舞い降りてくださったのだよ。神の意志が、彼女を我々に配給してくださったのだ!」

 男の恍惚とした声色に私は最上級の吐き気を感じた。

「そんなわけがないだろ……」

 気持ちの悪い主張に私は言葉を漏らしてしまう。

「人を誘拐しといて来てもらったとか責任転嫁も」私が言い切る前に何かが吹き飛ぶような炸裂音が鳴り響いた。

 炸裂音がしたと思ったら、視線を動かしたわけでもないのにトリタは視界から少し外れ、男の肩口に剣を突き立てながら壁際のレンガに男を叩きつけていた。

「状況をややこしくするなよ売国奴」

 憎しみがこもった声で鉄仮面の肩を切り裂き、流血が流れだし男は呻く。呻きながらも鉄仮面の男は嬉しそうだ。呻きが笑っているように、

「ぐぁあっあっああぁあ! 売国奴かぁ! そう見えてしまいますよね! 愚民どもには!」

「お前らが帝国を異世界人に売らなければ誰も戦争で死ななかった。違うのか!?」

「ぐふは、ぐはは、これだから……愚民は、愚民なのだよ。戦争は遅かれ早かれ起きてた。そのための最善を取り続けねばならぬ貴族の思いもまるで汲み取れぬ親不孝者共めが」

「愚帝が馬鹿やらなければ最悪な形で後を引くこともなかっただろうが、無能貴族」

 怒りにまかせえて肩口の傷を足でえぐり、仮面の男から絶叫を浴びる。

「ぐああぇぇえ! うぐあぁあぐっがぁ、やめろぉ……」

「トドメは、まぁ、いいかここの空間の出方は分かっているし」

 トリタが血塗れの男をなぶって汚れた靴底を土で拭いていると、私の周囲が盛り上がり地面から生えるように現れた盛り土の穴から、血まみれで転がっている鉄仮面の男とは別の鉄仮面とローブで身を覆った何人かの兵士が私を囲う。

「ふぅ、はは、お前に用事はないって先輩も言っているだろう。武器を捨てろ、できねば」

 兵士の一人が短刀を私の首元に添える。肩口を斬られた鉄仮面が流れる血すら忘れて身じろぎして顔をしかめる。明らかな動揺だ。

「ハッタリだ」

「いいえ、本気です。俺にとって任務より先輩のほうが優先っていうことですよ。……先輩、何もせずにこちらへ」

 血を垂れ流し鉄仮面がゆっくり立ち上がりうめきを漏らしながら、こちらへ走ってくる。

「もう一度いう。武器を捨てろ」

 何もせずに立ったままのトリタは考えて剣を足元に捨てて、蹴って距離を置く。

「動くなよ」

 兵士が釘をさすような言葉で私に突きつけた短刀を振れるように位置を少し動かす。

「形勢逆転だな!」

「息巻いてるのはいいけど、私に彼女を守る義務ってあるのかしら?」

 やる気のないトリタの息遣いにゾッとする。何だ、目はなんだ。

「なにを?」

「いや、私って傭兵の随行者であって傭兵ってわけじゃないし、別にエイリアンを守る義務もないなって、武器捨ててから気づいたんだよね」

 黒い泥が虚空から湧き上がり泥から這い出た刀がトリタの手に添えられる。

「人質になってないと?」

「割りと」

 そうだ。あれは、知っている。物を見る目だ。

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