4-2
自分の咳き込む音で目を覚ました。
「ひどい熱」と評され、ユーリに食事を運んでもらい冷水などを宿からもらって看病してもらうことになった。
熱にうなされて体調は夕方には落ち着いたがいつの間にかゼフテロだけがその部屋に居て、二人っきりになっていた。
目を覚ましてそれに気づく。
「ユーリはどこだ!」
「トリタと一緒に街に行かせたよ。せっかくだと思ってね」
「あぁ、ありがと。昼の間面倒見てもらったからお礼を言わないとな」
「ずいぶんひどい風邪だったが、もう大丈夫なのか?」
「起きたら、意識が朦朧としてて、寝て、起きたら今普通」
「そのまま温かくし続けろよ? で、聴きたいことがあるんだが」
「なに?」
「俺が村を出た後、なにかあったのか……」
神妙な面持ち、大したことは何もないし、だいたいのことは察してるようだし、あまり話したくない。いや、話してはならない話だと思って唇が動かない。
「あの子、ユーリが口を滑らせていたが、ユニーカが引き止めて泣いていたって……どうしてモウマドで出る事になったのかも、色々気になることが多い」
「言いたくない」
「それは俺が、一番最初に村を出たからか?」
「……いや」
「じゃあ、コルネリアはどうした?」
「あぁ……」
「そんなに話したくないのか?」
「……ゼフテロと同じだ。僕のことなんてどうでも良かったみたいに、喜んで帰るべき場所に帰っていったよ」
「俺はっ、そんなつもりじゃ!」
「だったらなんで、僕だけ悲しんでいるんだ……」
悩んでやっぱり口を滑らせて、言ってしまう本心はこんな言葉ばかりになってしまう。そんなこと知っていたからできれば話したくない。質問したくなかった。溢れ出るのは仄かに怒りが混ざった暴風雨のような悲しみの疑念だ。
「君は旅立ちの荷物に悲しみを抱えたか? 抱えないよな。僕も抱えることはなかったよ。ユニーカを泣かせてしまったっていうのにね。最後にはむりやり笑顔を引き出させてまで送り出してもらってしまった」
無言。ほら、何も言えない。目をそらす。僕も君も、同じだ。同じで、自己中心的だ。
「お前の、ヴァンさんは元気か?」
「死んだよ」
一拍、
「え?」
「二ヵ月もいや、四ヶ月前に病気で死んだ」
「……! ……そうか」
「結局、最期まで、僕を許せなかったみたい」
「いや……おい、まて! お前は最期までに親父さんと話し合えたのか」
「なんで?」
「なんでって、お前」
「父さんが僕を愛さなかったのは、僕にとって救いなんだ」
ゼフテロの困惑は徐々に狼狽に変わるように、僕へ向く。
「それじゃだめだろ!」
「それでいいんだ」
「親父さんはお前に、申し訳ないと、罪悪感を感じて」
「丁重に断ったよ。父さんが僕を愛さなかったことで母さんを愛し続けたことを僕は誇りに思っている。謝罪は『僕のこれまでの人生のすべてが無駄と否定することになる』って言ったら何も言わずに死んでいった」
「それじゃ……」
「母さんの死を受けて僕に生を受けたんだ。釣り合いとしてはちょうどいい人生さ」
「出産の危険性なんてお前の知ったことじゃないだろ! その時の医者に文句言えよ! お前は生まれただけで、なんの責任も!」
「父さんも同じようなことをいってたよ。だけど、……もういいんだ。父さんはどう在っても僕を愛することができないほどに母さんを愛していた。その二人の愛の間で生まれたのだから誇りに思うのは、ね。……もう、終わったことなんだし」
「お前以外全員死んだからか? 生きてるお前にはまだ始まってすらいない話だろ! いや、今更始めることもできないかもしれないが、お前はまだ」
なにかに気づくと、ゼフテロはうつむき、食いしばるような顔で後悔する。
「すまない。俺が口を出す権利はないな」
なんだか、悲しい雰囲気になりすぎたな。なんとか前向きな話をしたい。
「だけどね。今の僕には、責任があるのだから、身勝手なことができるんだ」
「ん……それってどういう?」
「……理由なんてなんでも良いのかもしれないけど、僕は彼女を助けたから、最後まで面倒を見ることで、……時間をつぶすことで、なんていうか、言い訳がしたいんだ」
「言い訳?」
「あぁ、言い訳。うん、言い訳だな。彼女を助けるために『仕方なく村を離れているだけ』だって言い訳だね。本当に僕は自分のことしか考えられないほど、……どこかに行きたいんだ。だけど、そのユニーカを裏切るには、理由が欲しくて」
「理由? それが良いわけになるって?」
「責任っていうのは言い訳に最も適した理屈なんだよ」
大げさにぐったりうなだれるリアクションをした後に堪えた笑いを漏らすゼフテロは、悲しい話しかしてないはずなのになぜか気が晴れたようだ。
「なんだよ」
「いや、安心したよ。思ったより、前に進めてるからさ」
「進む? 向かう場所が決まっただけだ」
「それ以上望む余地もないだろうよ」
「ユニーカも旅に出るまでは自分から『好きにしろ』って言ってたのに、やっぱり心配だったのかな、旅に出ると言い出した時は泣かれたよ」
「よく考えたらそうだよな。ユニーカは結構、村を出るだけじゃ泣くような性格じゃないな」
くつくつと笑って、ゼフテロは勝手に納得する。
「俺はお前くらい凄いことをしたくてモウマドを出たんだ。だけど、実際はそんな簡単なことじゃなくて、俺は英雄には慣れない性分だったらしい。そのチャンスが来たときに俺は棒に振って戦わないことを選んでしまった」
「ゼフテロが?」
「…………できなかったんだ。お前のようには」
「は? 僕はお前に勝てなかったのに」
起き上がろうとしてしまうと両肩を優しく強い圧で押し込まれて布団に寝させ直される。
「風邪、治すためにこのまま寝てろ」
「……あぁ、わかった」
「俺はそこの机で同胞へ送る手紙書いているから」
「帝国開放の政治運動だっけ?」
「いや、もっと広い……植民地の自治権獲得を訴える地味な活動」
「捕まらないの?」
「一応、提言書という形で王国に不利益にならないような提案という形が俺たちの主張だから、独立できるような政治体制は今のどの植民地にもないからな。見てみるか?」
顔を見て感想が溢れる。
「楽しそうだな。中身は、別にいいよ」
自分の顔に手を当てて驚いた顔をするが、ゼフテロもすぐに頷いて納得したようだ。
「そうだな。頭の痛い問題を話しちゃいるし、状況も最近はあまり良くはないが、仲間がいるってことが分かっているから……だな。たぶん」
「そういうものなのか?」
「そうじゃなきゃキツいってことだ」
なるほど、




