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3-3

 「ちょっと、肉は避けたいわ。あぁ、もちろん晩御飯のことね」

「え、なんで」

「生きた人肉が焼ける臭い、なんていうか……美味しそうな臭いだったから、それが受け入れられなくって思い出したくないの」

「そう、か、魚は食べていい?」

「私は食べないけど、貴方は別にどうだっていいことよ。ただ、私が食べなきゃいいだけで連想を避けたいってだけ」

「おい、あのすぐあと騒ぎにまきこまれたって!」

 宿のロビーで晩御飯の懸念を話していると、ゼフテロが駆けつけるが落ちつきを心がけて説明する。

「あぁ、変な鎧に斬りかかられた」

「死人が出たって」

「僕らは無事だ。僕らはふたりとも無事。被害も出てないよ。いや……背中が痛いだけだが僕は打ち身を」

「打ち身、逃げる時に転んだのか!?」

「え、いや」

「さっき買った刀で戦ってたわ」

 血の気の引いたユーリは微妙な笑顔でゼフテロに端的な説明をする。

「……戦った。そうか、まぁ、お前なら自分の身くらいは守れるよな。鎧を着て斬りかかったって暴漢は?」

「死んだよ」

「は……? 被害なしって」

「加害者だけ死んだ」

「そうか、…………何故か聞いていいのか?」

「ん、僕が斬って魔術で血液を濾過した」

「あ……やっぱり、お前が殺したのか? すまない状況があんまりこっちに伝わってなくて、詳しく説明いや、もう終わっているか」

「あぁ、もともと水から不純物を取り除く魔術を用いた、蛇とか獣の毒から血清を作るための魔術を使って男の血を塊と血清に分けて殺した。術の発動のための式は基本的に水の魔力だけで」

「いや、魔術の詳細な説明はいらない」

「そうか」

 残念に思っているとトリタが僕を怪訝そうに見る。

「殺したんですよね?」

「ん? いや、死因は鎧の奴が自分の頭を焼いて自決したことだ。僕がやったのは死を確定させただけで、死因は作っていない。だから今交流されずに宿屋に戻ってこれたんだ。別に重要なことじゃないさ」

「重要じゃない? 人を殺したのに?」

「……? 相手は通り魔だぞ」

 トリタの心底深いそうな目に、父親の影を思い出して嫌になる。この感情はなんだろう? 気分が悪い。気分が悪くなるこの感情をもったのは父さんに殴られた時以来だよ。

「……貴方、変よ」

「え、なにが」

 父と同じようなことを言うな。この女、ゼフテロはこんな女がいいのか? そうだったな。ゼフテロは僕の父さんを慕っていたもんな。だから、

「熱量がなさすぎるわ」

「熱量?」

「人を殺したのに、どうでも良さそう。いや、殺意とかそういうの全部含めた意思から熱を感じない。なんで?」

「そう言われても」

「……貴方、普通の環境で普通に育ってそれはありえないわ」

 ゼフテロと顔を見わせて苦々しい思いを感じる。普通の環境じゃないなら仕方がないね。

「あー、ゼフテロ、君から見てもどうだったかな? 僕の育ち方は」

「やっぱ、なんというか、痛々しかった。俺が村を出る時に怒鳴られたのが、気分が良さそうに見えるくらいには」

「……いまではあの待遇に誇りをもっているよ」

「は? おかしいよお前」

「父に憎悪は愛の証明だ」

「…………ヴァンさんにはどう言って村を出た?」

「なにも」

「お前、まさか、あれからもあんな状況に!?」

「静かに、ここ、一応、宿だし」

「……っ!! …………すまん」

「言いたいことはわかるけど、父さんはそれだけ母さんを愛していた証拠だから、それだけは否定するつもりはないんだ。だから、愛のための犠牲と誇りに思っている」

「なんだそれ、いや……。まぁ、なんだ、トリタ。話しづらいけど、かなり歪んだ環境だった。そういう説明で勘弁してくれ」

「すみません、そうとは知らずに不躾な」

「別にいいよ。どうも僕、結構、変みたいだし」

「だから、そうだな。……ユーリさん、フリッツのことお願いします」

 そう言ってゼフテロは頭を下げる。

「え、えっと、はい? 頑張ります」

「5日後、出発になる予定だ。出たら同行するが、それまでとその後の、いや、わかんなくてもいいや」

 周囲に視線を気にしてゼフテロは周囲に会釈して、恥ずかしげに「すみません」といい、「またあした」と、手首だけで軽く手を振って宿を後にする。

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