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※追記、

「このお酒、ビンに入れてもらったんだ」

「ぶどう酒? いまどこから出した」

そんなことが重要だとは思わなかったけど、記憶ほど広い場所ではないが、人の手が加わって久しく放置されていた場所の割に開けた小高い丘を見つけて、木製のジョッキを二つだけもって、ボトルの出先を言っておく。

「姉さんが高負荷の錬気で鍛えたように、僕は高負荷の空間魔術を作って魔力の質を高めてたんだ。…………それも、もうほとんど使い切っちゃって、儀式魔術に高価な魔力を込めた金属や木材の贄に、……あと果物とかもってきてもらっちゃったわけなんだけど、このボトル1本隠し持つくらいの魔力は……今なくなったよ」

 先の抜けた空気の軽く弾ける気の抜けた音を奏でて、安い木彫りのジョッキに注ぐ水音が、月明かりだけが頼りの僕らの手元で光沢をもったきらめきを煌めかせる。

「覚えているかな? 初めて飲む酒の話」

「あぁ、忘れてない。初めて飲む酒の約束。破ってしまったよ」

「……僕は守ったはずだ。あの時の約束」

「ごめん」

「それは……、いや、こんな約束。村を出ていった時点で忘れててもいいと思ったんだけど、その謝罪は、村を出ていったことに?」

「…………、わからない」

「そう。じゃあ、僕は先に謝るよ。ごめんなさい」

 頭を軽く下げて、困惑の顔が星空を背中に敷いて僕を向く。

「なにに?」

「僕はこれからクラーラと東に渡って、アヘンを濃縮して、病気でもない市民に横流しするマフィアに戦いを挑もうと思っている。だから、もう戻ってこれないかもしれないと思って」

「そう……やっぱ、変わっていないのね」

「うん、……納得いかないやつらを全員殺すのが、僕が生まれた瞬間……じゃないと思うけど、どこからかネジ曲がった悪意を善性に変える唯一の手段だと思うんだ」

 困惑が余計に変わる。

「と、言うと?」

「僕は、僕が悪と思った全員を殺さないと気がすまない。どうようもない悪党だ。だから、どこかへ行くよ」

「…………いつでも、帰ってきてね」

「……このボトルの中は、あの時の約束の樽から分けてもらったものだ」

 困惑の顔が驚きと、抑えきれない僅かな感動の色に変わる。

「入れ物は、こんなものしかないけど、貴族様には少し、ふさわしくないかな」

「えっと」

 皮肉を言っただけでなぜ返答に迷う。

「やっぱり、変わっちゃったんだね」

「そんなことは!」

 あぁ、そんな顔をさせたくないのに、

「ごめん、なじるつもりはなかったんだ。だけど」

 言い訳をしたい。しなきゃ、ごまかす言葉を、でも、僕の口から出るのは、本心ばかりだ。

「やっぱり、さみしいな」

「だったら、いかないで!」

 目をそらすためにジョッキの酒を喉に通す。

「あの時の失言はやっぱり取り消さない! 私は貴方が好きだ! 一人の女として、ジークフリート・ラコライトリーゼという男に惚れている! だから、姉と弟しての関係を……取り消そう……と、もう一度言わせて。貴方に恋をしいるって」

 ジョッキを飲み干して、彼女のジョッキが草の上で傾いて、僅かにこぼれているのをみて、やっぱりなにもかも違うことに気づく。

「ごめん。やっぱ、コルネリアはお姉ちゃんだ」

「……そう、あぁ、振られちゃったのね」

「ごめん」

「ううん、いいのよ。無駄に苦しめちゃったみたいで……私は、貴方のお姉ちゃんなら……どんなに変わってしまっても私のところに来ることを……帰りを待ってるわ」

 やっとぶどう酒を呑んでくれたお姉ちゃんに、僕は何をみるのか

「…………うん。ありがとう。これで」

 不意に、コルネリア姉さんが近づけた顔が唇が触れる前に、肩を抑えて遠ざける。その潤んだ瞳はただ寂しそうな顔色を僕の目に向ける。

「区切りがついたら、たまに顔を出す。陛下にも、こんな形でいきなり支援された事業を投げ出して『ごめんなさい』って思いがあることは伝えてほしい」

「えぇ、承ったわ」

「ありがと。このお酒……」

 思い出すのは、なにをしたかったのかわからなかった自分のここ数ヶ月の暴走。

「やっぱりあんまり美味しくないね」

「酒を呑んだら最初みんなそう言うのよ」

「そっか、今度会うときまでに、なんとか名前を上げようと思う」

「名を上げる?」

「コルネリアの弟だって胸を張れるくらい、無理だった時は……僕の負けだよ」

「なにそれ、まるで私が敵みたいな」

「そうだね……敵じゃなくて、目標だ」



 ◆ ◆ ◆ ◆

◆ ◆ ◆

 ◆ ◆



 これは歴史の狭間の更にその隅の影に埋もれた伝説。


 後世においてコルネリア・コルネイユは《まだ幼い王を擁立して貴族政治を破滅に導いた傾国の悪女》とされることもあれば、《封建政治を崩壊させた中世人最初の近代人》と評されることもあり、時には《愚かなる王に仕えながらその生涯で一度の敗北も喫することの無かった武神》と崇められることすらある。賛否の分かれる人物となる。


 彼女の仕えた王、レイ1世は【自らの国を切り分け繁栄を終わらせた愚王】と永らく誹りをうけることとなるが、ところ変われば【帝国主義を否定した偉大なる王】と崇められ、

 百年も経つ頃には、彼の国でも《かの王の治政が無ければ我が国は戦禍に呑まれていた》とか、《現代工業の産業革命前に封建政治が崩壊しなくては発展はあり得なかった》とか、異論が湧き始めることとなる。

 彼らが息を引き取るまで、確かに幸せだったことは、彼を批判する歴史家が持つ資料が保障しよう。


 レイ1世擁するヴァロヴィング王国の支援により新たに建国されたプロギュス王国最初の皇帝にして、最初の女王にして、最後の王家、マナリエラの活躍のそばには、建国の立役者ゼフテロ・フォルトゥーナと、国際的研究機関に属するグニシアの名があることも後世の人々は確認できる。


 だが歴史書のどこにも『ジークフリート・ラコライトリーゼ』の名は無いことをここに印す。

 だから、これは、歴史と歴史の隙間の影の中の隅っこで起きた……そんな場所で埋もれた。

 歴史の狭間の中に消えた伝説。



 狭間に消えた



 闇にも満たない



 影の中に挟まり



 伝えられない伝説



 本当のことは誰も知らない



 影の中の物語






◆追記、

※ジークフリート・ラコライトリーゼの名は確かに歴史書に刻まれることは無かった。

 だが、彼がまとめた旧プロギュス帝国の戦闘術をまとめた書物『帝国式暗闘術・閃闘の書』と、高名なる魔道学の書物に編纂された文書の一つ『特殊一般魔術大全』の『水鋸(ミズノコ)』や『魔道物理学』の項目の原本に、同じ名前があったことは確認されている。

 これは構成の娯楽作家が話を捏造するのに格好の材料となった。

 時に、陰謀論の話の種となり、後世で劇作家がこぞって捏造する伝説に消えるべくして消えた伝説が伝説として騙られる物語。

 その真実は誰も知らない。

 歴史の影の裏に潜んだ伝説。彼は異世界人のためになにができたのだろうか。

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