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SideBranch/その時に再び申し込もう

 後ろについて歩いて、荷下ろしを手伝ったかなにかのお礼でなにか説明されたんだと思う。少なくとも僕は自分ではそう覚えている思い出。

「この樽に刻んだ名前は今日手伝ってくれたお礼だよ」

「ぶどうの婆っちゃん?」

「16になったら飲んでいいから、ずうっとここにおいておくよ。この中は、このぶどうジュースと同じものが入っている。いつか……大人になった時に、楽しみにしていてくれ」

「じゃあ、そのお酒を私達が飲む初めての酒にするわ」

 僕に微笑んでくれたコルネリア姉さんの顔が今でも忘れられなくて、この約束を忘れなかったんだとも、そんな気がする。

「いいよね? フリッツ」

「うん、良いと思う」


 ◆


「ねぇ、フリッツ」

「私達、姉弟になりましょう」

 彼女とどこでそんな話をしたのか、あんまり覚えてない。広くて、雑草が生えていて、開けているけど少し小高い、遊び場のような場所だったかな?

「……この器に、血と、お酒を入れて口移しで飲むことで義兄弟の契を結ぶ文化があるんだって……アジアの大帝国の風習らしいけど、ダメ、かな?」

「いや、いいよ。それなら、コルネリアは、今から姉さんだ。そうだ。えっと……コニアとかどうかな」

「え?」

「最近、ずっと考えてたんだ。僕のことをフリッツって呼ぶなら、僕も……」

「そうね。じゃあ、私がコニア姉さんになるための儀式。これに、こうッ」

 指先をチクリと刺して皿のような浅い器に血を垂らす。

「ちょっとだけ血を混ぜて、フリッツも」

 僕の痛みも少し更に垂らす。僕らの僅かばかりの血を皿の底で混ざりあって、そこへぶどうジュースが注がれる。

「これを一緒に飲めば私達は姉弟になる。と言っても、ぶどう酒は本物じゃなくてぶどうジュースなんだけどね」

「うん」

「じゃあ、私から」

 コルネリアが三分の一ほど、呑んで渡されたので僕もできるだけ飲むが量が多い。

「あんまり、おいしくないね」

「ふふ、そうね」

 僅かに残ったその生臭さがあるぶどうジュースの残りを僕から引き取ってコルネリは飲み干した。

「私達は要らない子だから、私達は私達のお父さんから要らないってされだ。だけど、私達はお互いにお互い私達だけは必要なんだと……いいな」

「僕にはコルネリアが必要だよ」

「……そう、ね。私にも貴方は必要よ」



 ◆ ◆ ◆ ◆



 幼少期僕は『知恵遅れ』と言われ自分が馬鹿にされているのが理解できなかった。バカにされている自覚がなかったんだ。今思っても自分の当時の反応は自分でも理解しがたい。

 自分の自覚の無さを自覚し、僕が人よりも成長が遅いことを理解してより学ぶように日々を

重ねて、なんとか混ぜてもらった訓練で誰にも負けることがなくなった。

 そして、それがやはり自分の自覚の無さ故に自惚れだったのだと、あれほど研鑽した魔術の腕は後から勉強しだしたゼフテロにあっさりと追い越され。

 嫌がらせにしかならない自分でもできない難題を解かれた時の苦悶は、バレてしまったのか不安になるほど、どうしようもなく奥歯が噛み締めたお互いを離れてくれなくなった。

 剣術はいつの間にがコルネリアに越され、子供相手に魔術を教えたりしている内に、魔道研究の道を志したり、

 自分は強いのだと自分より弱い悪党を必死に探し回って殺して、殺して……、殺し回って、

 本当は、他にも道は有ったんだ。

 魔道の先生に引き取ると言われたとき、コルネリアを通じてユニーカのところの養子になるか相談されたとき、旅に出るか、迷って迷ってから……、留まることを選んだときも、


 結局、僕は何も選ばなかった。ただ、押し付けられたその全てを『楽だから』と選んだブリをして選ぶ行為を短縮して何も選ばないようにして選んだ気になっていた。

 他に行かなくても、もっと上手くやりようはあった。


「……コニア姉さん!」

「あぁ、フリッツ、おはよう。なにかしら」

 なんでもないようになんで、そんな顔が、いや、噂が間違っていたのか? いや、……そんな思いが僕の中にあったはずなんだ。

「村を出るって本当……?」

「えぇ、そうなの」

 なんで、嬉しそうにしている……?

「私、要らない子じゃなかったんだって……」

(僕は、どうなるのさ)

 声が出てこない。言いたい、事が怖くて何も言えない。

「ちょうどいい機会よ……。私、もう、フリッツとは姉と弟ではいられないと思っていたの」

「………………?」

「私達は女と男よ。家族じゃないから恋だってしちゃうし、子供だってつくれる」

(なにを、言っているんだ?)

「私は……きっと、フリッツに惚れていただけなの。だから、姉弟じゃない」


「私は王都に行って立派な騎士になる……だから」


「その時は、正式に家族になろう」


「……だめ?」

 首を、横に、振ったんだと思う。

「……そう、じゃあ。うん、私は、その時に申し」

「姉のままじゃ、ダメなの?」

「それはうん、たぶん、それじゃ納得できない」

「そう」

――

  ――

――

 たぶん、本当はもっといろんなことを話したと思う。だけど、ここから数日のことはあんまり覚えていない。思い出したくない。

 なんでだったのかも、何も、だけど、これくらいの記憶だけは、お覚えている。



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