無視して、直面する空虚な現実
「あー、そっか、そうだよね」
くろぐろと煙を放つ彼女が向く崩れた壁の縁の向こうから、それを発射した彼女が呆然としたまま、僕と目が合って、震えだす。
「違っ、私は」
僕と目が合った彼女がなにを言い出してもどうだっていいのか、胸を貫かれたユーリがその貫いている真っ白の水晶の結晶を掴んで手が焼け焦げて煙を放ちながら、その結晶を抜いて穴を開ける。その穴の向こうに、交差させたシャノンの手が怯えたように震えている。
「シャノンちゃんもビッグファイブ相当の、地殻操作の異能力者だったね」
「いや、……やだ、私は、……ただ」
「一矢報いたと思ったんだけどね。これまでか……ね? ここまで胸が熱いと、痛みすら、なにもないのね。ただ、息がとても軽薄で……冷たい」
「ユーリ……」
僕がほうけているせいで、ユーリはシャノンに振り返らずに僕に手を伸ばして、ゆっくりと歩みを進める。
「フリッツ…………」
「無理だ! 歩くな、今治療を……! 魔術で」
その脚が崩れる前にしがみついてくれたその腕を抱えて胸に広がる焼き焦げた傷を魔術で、癒そうにも、ひどい火傷が再生魔術の阻害と、本人の体力に依存する治癒魔術の療法を阻害する。
「ありがとう。フリッツのこと、愛してる」
「まて、まてまてまて待て、まだ死ぬな。死ぬんじゃない!」
顔が急速に青くなる。そりゃ、即死していないのが不思議な怪我なんだから、顔に血液も回らないだろうさ。だとしたって、こんなの!
「時間は……貴方達の勝利よ。ごめんなさい……アレクシウスさん……貴方達には恨み言以外何も言いたくは……。あの渦、シャノンの水晶で埋めれば、…………きっとあの金属の虫も水銀もある程度は一掃できるわ」
「なにをいまさら、お前は……こっちの世界を……」
「ごめん、だれか、そばにいるのよね?」
「あぁ、いるぞ! 僕がいるぞ! ここに、腕の中に!」
「……ユーリ、なんでこんな極端な真似をして、そんなことを、言うの」
呆然としたままのシャノンの問いかけに、困ったような顔で微笑んでくれる。
「やっぱり、……、世界に痛みしか遺らないとしても、終わって欲しくても……苦しんで滅んで欲しくは無いから……」
「なにそれ……ッ!」
「シャノン、ありがと……やっぱり、貴方と出会えたことは、私に……」
この腕の中で、彼女は力尽きる。僕は必死に治療した……。
◆ ◆
異文化の建築様式にできるだけ意識を割かないようにして、抱えたユーリの遺体だけを見て、他のなにもを無視して、直面する胸の穴と死という現実にどうしようもなく空虚な感情を募らせて、シャノンとまとめた話を気絶から目を覚ました彼に告げる。
「………………あぁ……うん。……悪いとは思いますけど、彼女の遺体は貰っていきます。文句は、もう聞けません」
「ごめん、アレクシウス。目を覚ましてそうそうお願いをすることになって、あれを全部埋めるために、もう一度あの渦を通って、向こうの世界に引き返す…………。今度は、迎えにきてね」
「あぁ……そうだな。仕方がないだろう」
不満げで満身創痍な彼に、余力を残している僕らに文句をいう気力はないのか、本当にそういった情緒的な判断に理解がある文化のか、どうだっていいけど、僕らは帰還する。
「えっと、私が行っても大丈夫かな? 戦力とかは」
「無理だと行っても行くんだろう? いや、止めはしないさ。必要なことだからな。その女が死んだことで四枚羽の炎の巨人も活動を停止したと聞いた。早急に対応できるようになる前に帰ってきてくれさえすれば誰も文句も言えないし、多少遅れても俺が必要だと言っておくよ」
帰還だけなら、僕が魔術を使うことはない。既に使われた魔術を発動するだけで、なんとかなる。魔力の量の都合でついてこなかったクラーラが元のの世界にいれば、最悪、一日経ってに引き戻すみたいな手段も僕の魔力が残っていたならあることにはある。
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