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プロローグ4

 3月22日、ニューヨークのマンハッタンに位置するそのビルは、たった一人の異能力者により占拠された。彼女に対処するためにどれほどの者が散ったか、どれほどの者が死んだか。

 それだというのに、無駄死にした彼らは誰一人として、国際的軍縮会議の場にいた誰一人、逃がすことに失敗した。

 誰も、席から離れることは叶わなかった。

 誰も、彼女の宣言を遮ることもままならなかった。

 誰も、放送を止めるとこを判断できなかった。

 対処を決定する各部門にも異能力者やそれにする類する潜在的な能力が備わっている人間がいたならせめて、彼女の演説を世界中に放送することにはならなかっただろう。だが、その中に決していないものだから、彼女に抵抗できる者はことごとく挑み、命を捨ててゆく。

 意味も判らない敵。

 意味も無い抵抗。

 彼女の宣言を後の世は『アポカリプス宣言』と呼ぶこととなる。

 


(以下は、アポカリプス宣言よ呼ばれる放送内容である)


「かつて人は、飢饉を恐れた」

 登壇したアジア系の女はどこの様式にも微妙に異なる洋風の神官のような衣服を纏って見渡す。

「力ある者たちが知恵を絞り続け、人はその歴史の中で農法という引き金を確立した」

 彼女の主張に誰もが刺激しないように押し黙る。

「賢者の引き金は人は飢饉という名の魔王を撃ち殺し、その姿を忘れてしまった」

 本当に嬉しそうに感動しているように、演技がかった振る舞いで自分の身を抱きしめる。

「魔王を撃ち殺した賢者たちは愚者となり、その次に起きた人口爆発により人はまた、次世代と共に食料危機と呼ばれる魔王をまたもや生み出した」

 腕を壇の上に添えて、彼女は微笑む。

「人が増え、大地は手狭になり、文化の境界線が曖昧になるほど、連絡手段は発達していった。そしていつしか世界が一つに繋がり、人は皆同じ人間だと人は気づいてしまった」

 彼女を攻撃しようとしたのか、銃声が鳴るがまるででたらめな方向に辺り、野太い悲鳴が議場のカメラの裏から漏れ聞こえる。

「人は人間を識ったときその内心を自分でも知らずに慄いたのでしょうね? 痛みになるほどの恐怖だったのか? は、今となっては誰も知らないでしょうが……」

 カメラの裏で爆音と断末魔が聞こえる。後の時代の資料によると、異能力者の特殊部隊が同士討ちで全滅されたとされる。

「人が皆同じ人間だと呼ぶのなら人は誰を敵と定めればいいのだろうか? どこの悪魔を狩らねばならないのか? 正義には悪が無くてはならないぞ! ってね。愚かな人々は敵を探して仲間の中から少し違う者を見つけ、仲間はずれとして差別を始めた」

 演説の声が砕けた平常の会話のような声色になって、皮肉めいた表情を女は見せる。

「賢者たちがもたらした化学農法という希望は、飢饉という名の魔王を殺したが、魔王の死により肥えた大地に人が増えすぎてしまった末路には……痛みの伴う魔王しか残らなかったようだなぁ」

 態度が悪くなる。怒り、そういう態度を表しているように

「これが中世の差別と近代の差別の違いだろうかねぇ? 違う者の中から敵を見出すのではなく、同じ者の中から敵を見出すこと、それが差別なのだと人が気づいたときには……、もう。ね」

 小声で「手遅れだったんじゃないかな?」と口ごもる。

「永い永い、たった数世紀の時間の中でいつの間にか、差別を恐れる者たちは皆いなくなり、差別廃絶を訴える差別主義者と、差別が当たり前となった非差別主義者しか残らなかった」

 彼女の声は怒りに満ちる。絶叫と成り変わる。

「しかし、我々は生きていた! 居なくなったりなどしていない! 首輪を掛けられ、無闇に殺され、いなくなったら別の家畜へ取り替えるだけの生きる価値の無い消耗品! そうだ! 我々異能力者はここにいた!」

 一呼吸おいて、絶叫を忌々しげな声に整える。

「しかし、無理なのだ。抵抗する意志すら起き上がらない……ビッグファイブが人類の側に立つ限り、異能力者は痛みしか知らずに死んでゆく。反逆など不可能。それが永遠に続くかと思われていた今日というこの時点で、私は宣言しよう!」


「……異能力者は世界を支配するべきでは無い」


「支配したところで力を持つ者の上下と、犠牲の矛先が変わるだけだ」

 半笑いで続ける。カメラが揺れる。

「ならば! 痛みの伴うその全てにトドメを刺そう! これは神との契約である!! 傷む同胞たちのために私はこの手をもって、人類のその全ての人々へ介錯を果たすこと! 痛みしか残らないこの世界を、今日! 絶望からの解放を懇願する!」

 このタイミングで世界中に巨大な鋼の虫が現れ、水銀の雨が振ったことが記録される。

「神の答えはシンプルだったさ!」

 その女は最も肝心な情報を一息にまとめる。

「核の光によって楽園を滅ぼそうとした原罪を抱えし人類は楽園に戻る権利を剥奪すると、そのためになら、ケルビムの炎で我々を滅ぼすことを認めようとおっしゃられたのだなぁ!!」

 国際連合本部ビルをまたぐように72枚の羽をもった肉でなく炎でできた体の巨人が観測される。


「幸福なる生きとし生ける全ての者へお願いがある。楽園追放の日をせめて、痛み無く全てを失うことを願う」



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