狙われる者
三上は、ソファで朝を迎えた、昨夜の事は夢だったのかと思う程、
今朝は穏やかな朝を迎えたのだ、だが寒さだけは昨日と同じだった、
夜中につけっぱなしだったストーブの火はもう消えていたのだ、
取りあえずまた灯油を入れ火を付けてから顔を洗いに洗面へ向かった。
戻って来ると、物だらけのデスクに向かい、整頓を始めた、
三段重ねの段ボールが座る椅子から一つづつ箱をどけて着席すると、
デスクに姿を現したノートPCの電源を入れ立ち上げたのだ、
三上は指を反らせ、バキバキと指を鳴らす、すると
スイッチが入った様に真剣な表情に変わりタイプキーを打ち始めたのだ、
カチャカチャカチャカチャと素早いキーを打つ音が始まった、
こうして暫くの間、その行為が続く事に成ったのだ、
ノンストップだった、一時間近くその行為が続いたのだが、
突然ピタッとキーを打つ音が成りやんだのだ、
最後の送信キーをマウスクリックし、 PCをたたむと、
立ち上がってソファに向かいドテンと座り込む、
だら~んと、力を抜いただらしない体勢に成り胸ポケットから
煙草とライターを取り出すと、一本口に含み火を付けた、
プカ~~と深く吸い込み、プシューと煙を吐き出した。
「仕事の後の一本は格別だ。」
『昨夜、経験し見知った事を取りまとめ一本の記事にし、
人気の週刊誌出版社に記事を送ったのだ、
その記事が採用されるか? 否か?はまだ判ってはいない。』
そんな状況にも関わらず、
呑気にそんな独り言を言ったのだ、その時。
ジャジャジャジャーン ジャジャジャジャーン
突如スマホが鳴り出したのだ。
画面を見ると非通知での着信だ、一体何の電話かと思いながら
「もしもし。 」
「今から言う事を黙って良く聞け、昨夜、お前が盗んだ物の事と言えば解るな?」
突然掛かって来たスマホへの電話から、
威圧的な口調でこのような事を述べて来たのだ、
三上は!
「誰だてめぇ、何処で調べたのか知らねぇが、勝手に人の番号に変な電話掛けてくんじゃねぇ!」
そう言って着信を切ったのだ。 すると またスマホが鳴り出した。
ジャジャジャジャーン ジャジャジャジャーン
そのままプチっと着信を切ってやった。 しかしまたしても
ジャジャジャジャーン ジャジャジャジャーン
「しつけぇ!」
「この野郎、しつけぇぞ!!」
着信を受け、怒鳴ってやった、
しかし、
「な、何を怒ってるの三上さん?」
知った女性の声が聞えて来たのだ、 どうやら相手を間違えたらしい。
怒りの余り、画面を見ず相手を判断してしまったのだ。
「すまん、久遠 別の奴と間違えた様だ。」
「もう、びっくりしたぁ!」
「すまん、すまん、所で今日はどうかしたのか?」
「いえ、昨日、お茶に誘って貰ったのに行けなかったので、
お詫びに、今日は、どうかなぁ? と・・・」
昨夜から、かなりシビアな事件に首を突っ込み、気を張って居たのだが、
久遠からの、ほのぼのとした連絡にギャップがあり過ぎて、
ちょっと戸惑った三上だったが、取りあえず、
「そうだな、俺は昼から船橋に用事があるんだが、
軽くランチしながらでも良ければ、そんな感じでどうだ?」
「ええ、うそっー 私も今船橋に居るんですよ、じゃあ場所は船橋で良いのですか?」
「ははは、それはツキがあるな、じゃあ今から船橋まで行くとするか、
えっと今は10時38分か...
そうだな 11時半頃に、JR船橋駅北口でどうだ?」
「了解です、三上さん。」
こうして、だらりとした時間はあっと言う間に消え去り、外へ出る事に成ったのだ。
事務所の戸締りを済ませ、三上が車に向かう途中、そいつ等がやって来た。
事務所から歩いて1分も掛からないガレージに向かう道路の途中、
突然、白のアルファードが三上に向かって突進して来た、
気付いた三上が避ける為に右に回り込むと、
今度は黒塗りのハイラックスが突っ込んで来る! キィー
急ブレーキの音がし、タイヤが焦げる匂いと煙が立ち込めた。
「なにしやがる!」
三上は怒鳴りながらも、突進して来たハイラックスをも避けたのだ、
しかし、更にもう一台の車がやって来て残された逃げ道を塞いでしまった。
AMGメルセデスのRV車だ、降りて来たのは顔にタトゥを入れた男だ、
どう見てもカタギでは無い奴等だったのだ、その見た目から判断すると
おそらくチャイニーズマフィアなんだろう。
近付いて来ると、良く解らん中国語でまくし立てて来た、
しかし三上には中国語は理解出来なかったのだ。
「全然分らん、日本語で話せ!」
そんな事を口走ったが、ボス格の大男が車から降りて来て
三上に対し、ドスの効いた口調で命令して来た。
「Hop in!」
こいつは、天国から地獄って奴なのか、かなり不味い事に成っちまった。
ここで抵抗しても、逃げられそうに無かったのだ、落ち着いて見ると銃も持ってやがる。
三上は大人しく指示に従うしか無いと判断し、言われるままに、
車の後部座席へと乗り込んだ、すると
横に乗り込んで来た奴に布を頭から被せられ、周りが見え無く成ってしまった。
「何をする!」
「shut up。」
黙れと怒鳴られてしまった、
鼓動が激しく高鳴っていた、僅か数分の間に状況が一変、
先程までは久遠とのランチの事を考えていたのに、
今は頭に布を被せられ、知らない車に乗せられ何処とも分からない場所へと
連れて行かれている、このままだと殺される確率がかなり高いと
思われる状態にまで転落してしまったのだ。
大人しくしてた為か、何事も無く30分程が経過した頃、乗車してる車が
何処か建物の中に入って行くのが感じられたのだ、
一定間隔で上へ上へと上がって行く事が分かった、暫くすると車が停車したのだ。
「Get out」
出ろと指示され、三上は押されるままに車を降りる、顔全体に布を被せられていた為
よろよろとふら付いてしまった。
「おっと」
・・・・・・・・・また理解出来ない中国語でなんかわめいて居る、
三上には理解出来無いので、分かる単語が出るのを待っていた。
しかし、言葉では無く、後ろから小突かれて前に進まされたのだ、
暫くの間、そんな感じで建物内を移動させられる、壁にぶつかったり
転んだりしながら目的地まで連れて来られたのだ、
突然、被せられていた布を引き剥がされた、するとそこが小部屋だと言う事が分ったのだ。
頭に被せられていた布を外したと思われる、
チンピラ風の男がそのまま小部屋から出て行き、
扉をガチャンと閉め何処かへ行ってしまったのだ、
その小部屋に一人、閉じ込められた三上は。
「くっそ~ 何処だ此処は、一体俺をどうするつもりなんだ?」
冬だと言うのに、額からは汗が流れている、勿論今は2月で此処も寒い筈なのに...
しかしこの小部屋には何一つ物が無かった、
何も無い部屋に閉じ込められ暫くの間、
放置状態にされていたのだ、ここに閉じ込められてから
三上の体内時計の感覚では3時間は経ったと思われる、
JR船橋駅北口で待ち合わせしてた久遠は、今頃、怒って帰ってるだろう、
もし此処から脱出出来たら、何て謝れば良いんだろうか?
此処で命を落とす様な事に成るんだったら、 あいつを抱いて置くんだったな。
等とこんな状況にも関わらず、そんな思考も頭の中を過ぎっていた、
かなり落ち着きを取り戻しているからだろう、最初の頃とは違い、
ここはかなりの寒さだと言う事も感じ、身体的にもかなりキツい状況に追い込まれて行た。
こんな状態が続いてたのだが、やっと誰かがドアを開けようとしてる事に気が付いた、
三上は無意識に立ち上がり戦線恐々と身構えていた...
ガチャン
ドアが開くと、3名の人物がやって来た事が分った、3名の内2名は、首や手にタトゥが
見えている、チャイニーズマフィアだと言う事が分った、残った一名が何者なのかと
注視する三上を見ながら、顔立ちはアジア系、黒服にシルクハットを被り、左手にステッキを持つ
比較的小柄でスリム、年齢は50代から60代と言う所だろう、そいつが日本語で話を始めたのだ。
「ジャーナリスト三上氏ですね。」
突然の日本語だったが、意味が解る言葉を聞け、ちょっと三上は安堵する、
「ああ、俺はジャーナリストだ、名も三上で合ってる。」
「あなたにお聞きしたい事があります、昨夜、あなたが目黒のパーティで盗んで行った
アタッシュケースの事です、此方はあのケースを返して頂きたく思っておるのです。」
三上は、一瞬考えたが、ここで嘘を付いても良い事は無いと判断し、
知ってる事を率直に言葉に出したのだ。
「残念、あのアタッシュケースは所持して無いし、
何処にあるのかも、俺にはもう分らん。」
「盗んだ事は認めるのですね?」
「確かに、あのアタッシュケースを一時、手に入れる事には成った、
しかし俺はそれ程あのアタッシュケースの事を知らないし、執着もしなかった。」
「判りました、では次の質問を、今あなたが所持して無いのなら
何処で無くしたのですか? それとも誰かに渡しましたか?」
この質問には、考える所が多少あった、
あの女、朝比奈カオルの事を話して良いのかどうかと言う事だ。
カオルとの約束は記事にしないと言う事だったのだが、
此奴にそれを喋って良いのかと躊躇してしまったのだ、 すると
「どうされました? 何を躊躇されているのですか?」
思考を見透かされてしまい、元々嘘が下手な性分なので、全部白状する事にした。
「そうだな、一緒に脱出する事になった女に渡したよ、命を助けて貰った借りと、
その女が、俺が抱えてたアタッシュケースを欲しがったので、余り深く考えずに渡した。」
「その女とは、【ABBA】の工作員では?」
「偶々、あのパーティで遭遇しただけなので、良く知らんが、
銃を所持してたし、凄い銃の腕前だった事は見て知っている。」
その男が所持していたスマホを見てこう言ったのだ。
「成程、ここまでの話に嘘は無い様だね。」
三上には、どうして嘘か、本当か判るのか分からなかったが、
目の前の男に信じさせた事は理解出来た。
「さて、肝心の場所を知らない事が判った以上、もう君に用はない。」
そう言うと、この男は両サイド後ろで控えていたチャイニーズマフィアに
中国語で何か指示を送り、一人ドアの外に出て行った。
残った二人のチャイニーズマフィアが、恐ろしい顔をして
自分の方に近付いて来る...
こいつ等、俺を殺す気だ!
人を殺そうとする時の形相を始めて見たのだが、直ぐ理解が出来た。
「こんな所で殺されてたまるか!」
相手のマフィアは、ハチェットと言う鉈の様な物を右手に握り、
三上に振り下ろして来たのだ、
三上が一回転して避ける、しかし相手が続けざまにハチェットを振るって来たのだ、
一瞬、激痛が走った!
プシャ~~!!
うぐぁ~!!
三上の左腕から鮮血が飛び散ったのだ、すると近くに居たチャイニーズマフィアの
顔面に血しぶきがプシャ~と浴びせかけられたのだ、
すると手当たり次第にハチェットを振り回し始め、明後日の方向に向け突進、
必死の三上は、もう一人のチャイニーズマフィアに、
怯む事無く体当たりを噛まし、付き飛ばす、
すると、鮮血が目に入った方のチャイニーズマフィアが
振り回してたハチェットがそいつの首の辺りを切り裂いてしまったのだ、
そいつの首からは物凄い量の血が、溢れ出し崩れ落ちた、
それを見た三上は、今度はそいつが落としたハチェットを拾い上げると、
無作為にハチェットを振り回す男に向け思い切り投げ付けたのだ!!
ビチャ!
投げられたハチェットが、相手の口を突き抜けて後頭部から飛び出した、
脳汁や鮮血が溢れ出しバタッとそいつは後ろ向きに倒れる...
はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ 何とか撃退出来た三上もその場に崩れ落ちてしまった、
すごい量の鮮血が自分の腕から出てくる事態に、
死が直ぐそこまでやって来た事を感じ始める...
だが、胸の内から、まだだと言う思いが沸き起こり、
最後まで抗う力が出て来て動き始める事が出来たのだ、
死んだチャイニーズマフィアに近付くと、拾ったハチェットを使い衣服を切り裂き、
縛れる程の布を作り出した、その布を血が溢れる腕に巻き付け、思い切り縛り上げたのだ、
これで取り敢えずの応急処置には成るだろうと安堵したのだが、まだ力を抜く訳にはいかなかった、
このまま気を失うとそのままあの世に逝く事に成ってしまう、
そう思い気力の奥底からもう一度、気を振り絞り立ち上がる事に成功すると、
ふらふらの状態でドアを開け通路の壁にもたれ掛かりながらも先に進もうと足を動かしたのだ、
朦朧とする意識に活を入れながら進んで行くと、またしても奴等が出て来てしまった、
顔や首、手等見える所にもタトゥを入れ、いきった野郎達だった、
廊下を進む瀕死の俺に、そいつ等は銃口を向け撃とうとして来やがったのだ、
銃口をこちらに向けた瞬間に三上はハチェットを振りかざし突進していた、
最早、思考で行動していない、唸り声をあげ獣の様に突進し、ハチェットを振り回す、
その間、チャイニーズマフィアが撃った弾丸が、三上の肩や斬られた腕をぶち抜いていたのだ、
何発もの銃弾を浴びながら、怒り狂った様に突進、動く物体に向け振り下ろしたのだ。
現れ出て来る、チャイニーズマフィアを叩っ殺して行く...
ボロボロに成っていた体だったが、ふら付き、敵と絡み合い倒れてしまっても
まるでバーサーカーの如く立ち上がり無意識のまま
ボス格、巨体の男をも滅多切りにし倒れた後も尚殴打し続け頭部を粉砕してしまった、
頭部がぐちゃぐちゃに成り、誰かも分からない肉傀に成り下がっていた。
グウォォォ!! 獣の様な雄叫びを上げていたのだ。
この様な状態のここチャイニーズマフィアの拠点、
港区に建つ比較的古い高層ビルの8階フロアーにエレベーターに乗り、
潜入して来た者が居たのだ、【ABBA】と言う
影の日本政府だと名乗った組織に所属する工作員朝比奈カオルだ、
今回の彼女の任務は、三上が拉致されたとの情報を得た事から、
三上刃から漏れた情報の拡散阻止の為、主要な人物の殲滅が任務だった。
その中には、 敦森衆議院議員の手の者や、
中国よりと言われる✖〇党放置会系の議員と繋がっているとされる
警視庁 狭間官兵衛総監派に所属する者達がいたのだ、
そして、今回出動の原因とされる三上刃の抹殺もその中に含まれていた。
大量殺戮を想定した装備、アサルトライフルを装備し乗り込んで来たカオルの目に、
血だらけに成り死んでいる者達が映っていた。
「何があったと言うの?」
カオルは、近くの扉を開け部屋を覗き込む、
すると、そこにも血だらけの死体がゴロゴロとしていたのだ、
「これは何、刀か何かで殺りあったのかしら?」
小さな音がした、カオルはそちらに神経を向け目で追ったのだ、
すると、それがゆっくり、のそのそと動いているのが視界に入って来た。
「三上 刃」
カオルは、その光景を見た瞬間、言葉を失っていた、
三上の余りに酷い状態に、どう見ても死は近いと見て取れたのだ、
カオルはそんな三上を見て一瞬、動揺したのだが、
気を持ち直し、心の中で別れの挨拶をすますと、
まだ残ってるかもしれないターゲットを処分する為に動き出したのだ。
全身血まみれの状態、左手はだらりと垂れ下がり腕から外れかかっている、
まるでゾンビの様な状態だ、意識は既に無く、良く分からない力で
ふらふらと歩いていたのだ、 偶然やって来たエレベータに乗り、
偶然行き着いた場で降りた、一歩、もう一歩と歩みを止めず、動いていた
何かの音がこだましていた、それが何かは分らなかった、
三上は囚われていたビルの外まで出て来ていたのだ。
キィー! 一台の車が急ブレーキを掛け止まったのだ、
「こら、てめぇ何道路を歩いてやがる、死にてぇのか!」
そんな怒声があがっていたのだが、今の三上には、もう何も聞えてはいなかった、
腕は千切れ掛けに成り、銃で撃たれた彼方此方から流れ出る
血だらけの三上は、そこでバタッと力尽きたのだ。
「嘘だろおい血だらけだぞこいつ、おいお前!」
・・・・・
先生~ もっと血液を持って来い!! 胸部切開 直節心臓マッサージ、
こいつはいかん、もっと圧を上げて!!
ICU(集中治療室)の中からは激しい怒声が飛び交っていたのだ...
警察からの知らせを受け病院に到着していたのは、
まだ久遠洋子一人だった。
その久遠に、病院事務の方がやって来て話を始めた。
「あなたは、ご家族の方ですか?」
「いえ、私は以前、三上さんにお世話に成っていた者です。」
「では、ご家族か親戚の方の連絡先をご存じですか?」
「いえ、三上さんから聞いた話では、
16才の時までは祖父の元で育てられたらしく、
祖父がお亡くなりに成ってからは彼方此方をさ迷いながら暮らしてたらしいとしか。」
「分かりました、ご存じないと言う事ですね、
では、すいませんが、誰か身元引受人に成れる方をご存じありませんか?」
「それなら私が成ります、私じゃあ成れませんか?」
「いえ、成って頂けるのなら構いません、
身分を証明出来る物を何か持ってませんか?」
「運転免許証でよろしいですよね。」
「はい、それで結構です、それではここにある書類に記入して頂けますか。」
「分かりました。」
「後で、受け取りに伺います。」
事務の人は、そう言い残し別の場へ行ってしまった。
そんなこんなで、久遠洋子が入院手続きや主要な事を引き受け
やってくれていたのだ、何故彼女がこの場に居るのかと言うと、
血だらけで倒れた三上を発見した者が警察に通報した事でやって来た警察と、
大型の刃物で切り裂かれた左腕に、体中に撃ち込まれた5か所もの銃弾の跡を発見した病院が
事件性が高いと判断して警察に通報した事で、
三上の所持していたスマホから、登録された電話番号を抜き出し
調べてくれたらしく、他にも電話帳に登録された全ての番号の方達に、
連絡は行ってるらしく、一番に駆け付けたのが、久遠洋子だったと言う事だ。
久遠から遅れる事一時間、次に駆け付けて来たのは、
千代田区にある神田警察署に勤務する、嵐山警部が駆けつけてくれていた、
更に30分後には、腹に銃弾を受けドクの治療院で治療を受けていた壷井と一緒に
三上の事を、刃と呼ぶ、かなり古くからの知り合いらしい
雑居ビル内で治療院を営む医者のドクが来てくれていたのだ。
「三上刃さんのご家族様、直ぐに集中治療室へお越しください。」
タッタッタッタッタッ
ガタッ、 「三上さん、しっかり 私よ、久遠よ、三上さん!」
「奥様、此方でお話を」
「えっと、はい、何でしょう?」
「非常に言いにくいのですが、ご主人様の様態は、正直、もう」
「もう、もう駄目だとおっしゃるのですか?」
「いえ、勿論 全力は出させて頂きましたが、今生きてらっしゃるのは
人工呼吸器や血液を流し込み、機械で無理やり生かしてると言う状態でありまして、
何時までもこれを続けるのは、経済的なご負担も大きくなります、
具体的に、どれ位の期間、これを続けるお積りがあるのか
それを伺って措かなければ成らないので。」
「そんな、これを続けても回復しないとおっしゃるのですか?」
「いえ、そうは言えませんが、回復する見込みは、
極めて小さいとしか言えません。」
「では回復する可能性はあるんですね、
だったら続けて下さい絶対彼を死なせないで!」
非常に力の篭った声と眼光で先生を頷かせると、三上の元に戻り
残された右手を握り締め、久遠洋子は涙を見せ祈っていた。」
三上がこの病院に運び込まれてから2週間が過ぎていた、
何度か山場を繰り返し、死の淵をさ迷って居たのだが、今は持ち直し安定していたのだ、
三上は意識が戻るとベッドに寝かされていた、
首だけを動かし辺りを見回すと自分に沢山の医療機器が取り付けられている事に気付く、
「何だこれは、 どうなったんだ?」
三上はまだ何が起こったのか思い出せて無かったのだ、
沢山の医療機器が体に取り付けられている事を認識すると、
気持ち悪く感じ無理矢理一部を取り外してしまった、
すると警報が鳴り出して、
「ビー ビー ビー ビー ビー・・・・・ 」
ナースステーションにも警報が鳴り響き、慌てて数名のナースが駆けつけて来た!
駆けこんで来たナースの一人が、意識を取り戻した三上を見て、
慌てて、先生を呼ぶ為、ナースステーションに戻って行った、
残ったナースが、外した医療器具を調べながら、
「三上さん、 三上刃さん、ご自分の名前は解りますか?」
「ええ、俺の名は三上刃で合ってる。」
「良かった、あなたは死にかけの状態でこの病院に運び込まれたんですよ、
長い時間、意識が無かったんです。」
そんな事を話してくれていると、担当の先生がやって来て...
「おお、目覚めましたか、三上さんどうですか、気分は?」
そんな事を話しながら、外された医療器具を見て、
ナースに指示を出し、再度取り付けさせたのだ。
「一体、どう成ったんだ俺の体は。」
「慌てないで、あなたは体に5発もの銃弾を受け死にかけていたんです、
それに左腕は、大きな刃物でざっくりと切られてました、
こうして今、生きてらっしゃるのが奇跡だと言える状態だったんですよ。」
「左腕が切られていたと言ったな、
左腕の感覚が肩の下辺りから無いのはどうしてだ?」
「あなたの左腕は、私の判断で切除しました、あのまま接合したとしても、
後に腐り落ちると判断した為なのです。」
「そうか、腕を無くしたのか...」
「今は、安静になさってて下さい、意識が戻ったとは言え、
大変なお怪我をなされた状態なのですから、後、取り付けている
医療器具は勝手に外さずにお願いします三上さん。」
「鎮静剤を打って措きますので、良く眠れますよ。」
医者はそう言うと、医療器の数値を確認して
問題無いと認識すると、この場から去って行った。
次の朝、 三上が居るHCU(高度治療室)に、久遠が来てくれていた、
三上が目覚めると、病院から意識が戻った旨を知らされた久遠が、
朝一番でやって来て見守ってくれていた、
「久遠か。」
「超絶心配しましたよ三上さん!!!」
「わりぃ、かなり世話を掛けちまった様だな。」
「心配いりません、三上さんの為ですもの♪」
「ありがとう、あれから久し振りに会った途端にこんな事に成っちまって
船橋でのランチもスッポカス羽目に、面目ないよ久遠。」
「も~ らしく無いです三上さん、
早く元気に成って、私に借りを返して下さいね。」
「うむ、ホントにでけぇ借りを作っちまったよ、久遠には。」
「へへへ♫ じゃあ早速 これからは久遠なんて呼ばず
洋子さんとでも呼んで貰おうかしら。」
「えっ、マジか、でも久遠と呼ぶのは習慣だからな、今更治せるか分らんぞ。」
「それでも良いんです。」
「分かった、よ、 洋子ちゃん。」
「ぶ~ 駄目ですよ、ちゃんでは駄目 ちゃんでは!」
「く~ じゃあ 洋子さんこれからもよろしくお願いします。」
こんな事が成されていたのだが、
そこへ二人も知る、枝窪美彩がやって来たのだ。
突然やって来た枝窪に、二人は驚き、ちょっと慌てていた、
「あ~らお二人さん、お邪魔だったかしらんっ♡」
「な、何言ってんだ枝窪、突然現れたからビックリしただけだぞ。」
「枝窪さんお久しぶりです。」
ペコリと久遠は挨拶をした。
「枝窪さん博多から来られたんですかぁ。」
「そうよ、洋子ちゃん、刃の奴が目覚めたと連絡を受けたので
すっ飛んで来ちゃったわよ。」
『枝窪美彩、年齢不詳、職業は大学教授だ、専門は海洋資源系で、
安価に効率良く資源を取り出す研究をしているらしい、
しかし裏の顔を持っている、主に国内企業が関心を持つ
新しい情報を収集をしている、
三上とは学生時代ある企業が違法に外国に送ろうとしていた
精密機器を追っていた時に知り合う事と成り、
もう20年来の付き合いがある、三上の情報屋の一人だ。』
「しっかし刃、一体どんな案件に巻き込まれたら
こんな目に遭わせられるのよ?」
枝窪の問いに、久遠も関心を示し、二人がかりで問い詰められ始めた!
「ははは、最初の間は俺もこんな事に成るとは思ってもみなかったよ。」
「最初の間だけ?」
「そうだな、事の始まりは、衆議院議員 敦森の奴のパーティーに
調査しに行った事が切っ掛けだ、そこで色々な事件に巻き込まれたんだ。」
「事件って?」
「ここからは聞かない方が良い、俺の様な目に遭いたく無いならな。」
「ちょっと、これからが良いとこなんじゃない刃!」
「そうですよ刃さん、枝窪さんの言う通りです。」
二人がかりで、根掘り葉掘り聞き出そうとして来たのだ、元々嘘が下手な性分だった事で、
ほぼ全部話す事に成ってしまったのだ、勿論 【ABBA】の事は何も話はしなかった。
しかし二人は満足してた様だ、目に見えて機嫌が良いのが分ったのだ。
読んでくれた方、ありがとう。