洋館脱出
三上はこの事態にどう対処しようかと思考をフル回転させていた、
まさか、自分を応援する為に参加した支持者に対しこの様な行いをするとは...
この場を大人しくやり過ごしてから、警察署に駆け込むのが正解なのか?
それとも、この場で暴れパーティ出席者達を巻き込み混乱させた後、脱出するのが得策なのか?
状況は 刻一刻と変化している、素早い判断が必要なのだ、
しかも選択を誤ると自分の生死にも繋がる状況がこの間一分にも満たない
束の間の間に展開されていたのだ、
三上の体は野生の衝動に抗う事無く、一番近くに居る黒服の男の後ろに移動すると、
首を絞めに入った、首絞めを決めたのだ!
「ぐっ!」
全力を出し一気に両腕を絞ると「グキッ」と言う音が聞え、黒服からの抵抗が無くなった、
落ちたか。
三上がそう判断を下すと、集まっている支持者達の中に紛れ込み、
その中を移動、今度は先程、独裁党幹部だと名乗っていた陳と言う人物を目で探し出す、
この間、黒服達も黙ってはいない、混乱している支持者達を押し退け、
三上を探そうと動いて居る、こうなると一番重要そうな人物を確保し、
脱出を図るしか手は無い三上の本能がそう突き動かしたのだ。
猛獣の様な荒々しい気を放ち、人間離れした嗅覚で陳を見付けると、一気に詰め寄り
陳龍敬氏を確保した!
壁を背にし片腕を陳の首に回し引きずる様に移動する
ジリ、ジリ、と奥の通路がある方へと移動して行く、
一番近くにくっ付いて来る人物が中国語で何かを話しかけている、
三上には何を話してるのか理解出来なかったが、その人物が陳に対して喋っている事だけは
理解出来たのだ、
「何だ、何を話してる?」
三上がそう言葉に出した、その間も中国語が飛び交っている、その言葉の中に、
Secretaryと言う言葉を聴き取り、この人物が陳の秘書だと言う事が理解出来たのだ、
陳がその男が胸に抱える小型のアタッシュケースに目をやっている事に気が付くと、
ピンと来た三上は、首に回していた腕に最大級の力を加え陳を落とす、
気を失った陳は、力無くだら~んと下に崩れ落ちたのだ、
陳を放した三上は目の前の男が持っていた
アタッシュケースを奪い奥の部屋へとつっ走ったのだ!
バババババッ バババババッ バババババッ
後ろからはサブマシンガンの銃声が鳴り響いていた、
しかし三上には振り向く余裕も無く、必死のパッチで奥へと走り抜けて行った.....
ダッダッダッダッダッ ダッダッダッダッ はぁはぁはぁ はぁはぁ
先の分からぬ場所だったが行ける所まで必死に走り抜けて来た、
すると 目に入って来たのだ、
それに意識が向くと思考が追いつき、地下へ降りる通路だと言う事が分った。
躊躇する事無くその地下通路に飛び込むと、
アタッシュケースを下に放り投げ
両サイドのパイプを握る、その手の力を緩め手を滑らせ一気に下まで降りて行く...
「アチチチチチ!」
下に着く頃には手の皮がざっくり擦り剥けていた、痛みに堪えながらアタッシュケースを拾うと
必死の面持ちで先に進んで行く、
人一人が普通に通れる位の通路は薄暗く視認性は精々3m程だろう、そこを必死に走り抜けて行く...
通路内は、大勢の叫び声がこだましていたが、後ろの事に意識を向ける余裕は無かった、
どんどん先へと進むと、扉が見えて来た、何処か別の出口の様だ、音を立てずに近付き、
木製扉のノブをそっと回した、 そして扉を押してみた、
「動かない、引きか?」
今度は扉を引いて見た、すると扉が動き出し中の明かりが木漏れ日の様に通路を刺して来た、
しかし
「誰? 手を挙げて出て来なさい!!」
中からそんな声が掛かって来たのだ、
「ぜぃ ぜぃ はぁ はぁ 」 今の三上はかなり焦っていた、しかも全力疾走して此処まで逃げて
来た所なのだ、まだ頭も良く回って無い、咄嗟の判断から後ろからの追撃の方が危険だと察知し、
左手にアタッシュケースを抱えながら両手を小さめに上げ扉を全開にして中へ入った、
「あなたは!」
すると 拳銃で威嚇する女が見えたのだ、
脳の処理が追い付くとそいつが誰か分かった、先程、俺に見られた事を感じ取ると、
何者かと追及して来た紺色のドレスを着た女だったのだ。
「また会ったな、でも今はとてもヤバイ、直ぐ此処を逃げないと大勢後ろからやって来るぞ。」
三上の話が終わる前に、紺色のドレスを着たこの女は動き出した、
「逃げるわよ、命が惜しいのなら付いてらっしゃい。」
それだけ言うと小部屋に在ったハシゴを身軽な動作で登り始めたのだ、
何も言わず三上もそれに続く...
ハシゴを上ると、ここも部屋の中だ、周囲を見ると数人の黒服が血を流し倒れていた、
どうやらあの女がやった様だ、女は何も言わずこの部屋を通り過ぎて行く、
三上もその後を追いかける、 「くそっ、この俺が女のケツを拝む羽目に成るとは...」
そう思いつつ進んで行くと、また銃声が聞えて来たのだ、
壁越しに伏せながら音のする方面を探る女に、
「どうだ?」
女は俺を見て、銃を手にクイクイとジェスチャーして来た、
三上にはこのジェスチャーの意味が分からない
「こいつ何が言いたいんだ?」 そんな感情を持ちながら、ま、いいかと、
この先の状況に意識を集中し、
アタッシュケースを前に突き出しながら一気に突進を始めた、
すると
「ちょっと、何、馬鹿やってるのよ!」
その行為にビックリした様に、言葉を発してきたのだ。
既に勢い良く突進していた三上はその言葉を無視して、一気に音がする方向へと向かって行く、
止まらない三上に、こう成っては仕方ないと、ドレスの裾を破いて短くし、
動きを良くして紺色ドレスの女も援護する形で動き出した。
三上が躍り出た場所では、8名もの黒服が何者かと銃撃戦を繰り広げていたのだ、
突然現れた三上の方を見た数名の黒服達が、三上に対し銃を向けこう言って来た。
「何者だ! 両手を上げうつ伏せに成れ!」
そう叫んで来た、三上はアタッシュケースを前に突き出したまま突っ込んで来た勢いで
黒服の一人に突進してしまったのだ、 その敵対的行為に他の黒服達が拳銃を発射、
ぶつかり合い、もみ合う三上の後ろで銃声が飛び交っている、必死の三上はアタッシュケースの角を
揉み合う黒服の眉間に何度か叩き付けた、するとその黒服は動かなく成り顔全体が血だらけに成っていた、
それを見た三上は、
「うはっ、ごめん。」
咄嗟にそう口走り、起き上がる
三上を狙って撃つ黒服達の額を今度はあの女が撃つ銃弾が突き抜け倒れ込んで行く...
「下がれ、狙われてるぞ!」
黒服達の怒声が響き合う、 必死の三上は何か無いかと探しながら動いていた、すると
知った声が聞えて来たのだ。
「三上さんこっちでやんす!」
この声は壷井だ、壷井の声に反応し、物に隠れながら近付いた、
「壷井か、どう成ってる?」
「へい、あいつ等は三船をガードしてやんした警視庁のSP達でやんす、
おいらは、三船を追って忍び込んだだけ何でやすが、
そんなおいらに平気で銃を撃って来たんでやんすよ、何かおかしい奴等なんでやんす。」
「日本の警察が、洋館に忍び込んだだけで発砲だと!
そんな事ある筈ない。」
「しかし現にあっしは 撃たれたでやんす。」
そう言うと壷井は銃弾で撃たれた脇腹を見せたのだ、
ドクドクと、血が出て来て居る、このままグズグズしているのは不味い事が分った。
「話は後だ、直ぐに此処を脱出しよう。」
三上は撃たれている壷井の事を気にかけ、そう言うと、行動に移した、
あちらで撃ち合いをしているあの女の方を見てアイコンタクトを送る
そして壷井に「付いて来れるか?」
「この位、大丈夫でやんすよ。」
壷井の言葉を受けると、三上は残っているsp達の後ろに回り込む...
残りのSPは3名と成っていた、あの女の銃の腕前は警視庁SPより上だったのだ、
銃撃に気を取られてる隙を突き距離を縮める事に成功すると、三上は迷わずSPの一人の首を
閉めに掛かった、それに気付いたSPの一人が三上に銃口を向ける、
しかし今度はそいつに壷井が突進、得意のブチかましを受けると、そいつは
高く吹っ飛ばされ地面に叩きつけられたのだ、そこをすかさず、あの女が仕留めた。
ズギュン!
絞めが入り、SPが落ちると、最後の一人となったSPが後ろを振り返り逃げに転じたのだ、
するとそいつにも容赦する事無くあの女が後ろから頭を撃ち抜いたのだ、それを見た三上は!
「おいっ、奴は逃げてたんだぞ!」
そう怒鳴りつけた、しかし女は平然とした顔で。
「いい加減、目覚めなさい、
この状況で、甘い事言ってると皆死ぬわよ。」
そう答えて来た、三上はこの議論は無駄だと悟り、さっさとこの場を離れる事にした。
壷井が入って来たと言う西門の方へ向かったのだ、
門には数名の警備員が配置されているだけで、
ガードらしい黒服の存在は見当たらなかった、
だから三上は躊躇する事無く門を潜ろうと普通に歩き出したのだ、
門の出口付近まで来ると、警備員が声をかけて来た。
「お疲れ様でございます、今夜は終了でございますか。」
そんな事を話して来たので、調子を合わせ
「ええ、一般の話は終りました、後はVIPの方達だけの話なんでしょう。」
適当な事を言ったが、警備員の人は、
「なるほど、VIPの方達はまだ掛かかる様ですね。」
既に23時に近かったので、一般警備員の感覚なら
そろそろ終わって良い時間だと思ったのだろう。
そうこうして、西門を出る事に成功すると、
壷井の具合もあるし三名で歩くのも目立つ
そう考えた三上は、壷井と女を暗闇に潜ませ、一人で車を取りに向かったのだ。
15分近く掛かったが、何とか二人の所まで戻る事が出来た、
今はレガシィGTで、知り合いの医者の元へ車を走らせている所だった。
「壷井、今回はすまなかった、こんなに危険な仕事に成るとは思ってもみなかったんだ。」
「そんな事、謝らなくて良いでやんす、今までにもやばい仕事は何度も経験してるでやんす。」
「そうか、腹の具合はどうだ?」
「この位、平気でやんすよ。」
「そうか、流石壷井の腹だな、分厚い脂肪が弾を防いでくれたんだな。」
「酷いな三上さん、分厚い脂肪じゃ無く、分厚い筋肉でやんす。」
ははは、そんな軽口叩けるなら心配は要らんな。
壷井の具合も銃で撃たれたにしては、良さそうだったので安心した三上は、
次の手を打って措く事にした、スマホを取り出し知り合いに電話を掛けたのだ、
その知り合いとは、ジャーナリストなら事件が起こると、警察発表を得る為
担当者とは顔見知りに成る機会もある、東京都でも比較的事件の多い千代田区にある
警察署に三上の知り合いも居たのだ。
「あ、もしもし、夜分すまん嵐山」
「何だ三上か、 こんな遅く何かあったのか?」
「さっき飛んでもない出来事に参加しちまってなぁ、信じられんかも知らんが
取りあえず直ぐに、目黒で敦森衆議院議員が開いたパーティ会場
デカイ洋館だ、そこで大量殺戮が発生したのを間近で見たんだ、邪魔が入るだろうが
出来るだけ早く現場を押さえて調べてくれ、とにかく早くだ!」
「なんだそりゃあ、おい三上、お前、酔ってんじゃないよな!」
「馬鹿、俺は酔ってねぇよ、音だけなら証拠もあるんだからな、
ちょっと待ってろ、音を聞かせてやんよ。」
三上は、パーティ会場に入る前からレコーダーを回していた、
ジャーナリストなら当たり前の事なのだ。
懐から超小型のボイスレコーダーを取り出し、再生を始める...
音の中から、最初の銃撃が始まった辺りに成ると、
「おい、聞いてるか嵐山!」
「おう、早くしてくれ。」
「今から聞かせる。」
そう言うと、ボイスレコーダーをスマホの上に措いたのだ、
暫くたってから、スマホを持ち上げ
「どうだ嵐山、音は聞こえたか?」
「ああ、多くの者の悲鳴や、マシンガンを撃った様な音が聞えたぞ。
「そう聞えたんなら、向かうよな嵐山!」
「ん~ 目黒だと俺の管轄外なんだがなぁ、こんな夜中だし、
取りあえず俺一人で様子を見てみようか。」
「馬鹿野郎、相手はサブマシンガンを平気で撃って来る野郎達なんだぞ、
一人で向かったら殺されに行くようなもんだ。」
「おい三上、俺は警視庁に所属してんだぞ、その俺がルールを無視して
大勢の警察官をそう言う現場に派遣出来ると思ってるのか?
法治国家日本では、人を動かすには正規の手続きが必要なんだぞ。」
「は~ そんな事言ってたら遅いんだよ、さっさと現場を押さえんと
敵さんは証拠をぜ~んぶ隠滅しちまうぜ、
仕方ねぇな、準備出来てからでも取りあえず調べてみてくれ。」
「分かった、約束しよう。」
そこで通話は途切れた、
やっぱ今の日本は、規制が強過ぎて全てが後手後手になっちまう、
切羽詰まった時に何も出来ない国なんだなぁと改めて現実を思い知らされたのだ。
暫くの間、誰も何も喋らず、三上は淡々と車を走らせていた、既に
23時半を回っていたので、交通量も少なく、スイスイと車を走らせる事が出来ていた...
車の移動を続ける最中、後ろの女は一言も言葉を発しなかった、
三上も気には成ってはいたが、自分の方から喋りかけると、
この女に負けた様な気がするので、何も喋り掛けず車の運転に集中したのだ。
そうこうしてると、通称ドクと言う三上の知り合いの医者の元へと辿り着いた。
「ここだ。」
そう言い、車を駐車、三上が車から降りると、後から二人も降りる。
「付いて来い」 二人にそう言い
三上は、ぼろっちいビルの中に入って行く、後から二人も付いて来る、
スナックやラウンジばかりが入った小さな雑居ビルの一室に着くと
突然三上がドアを叩き出したのだ、今の時刻は、真夜中の0時を回っている、
時間的に診察時間では無かったのだがお構いなく
ドンッ ドンッ ドンッ
かなりきつくドンドンと叩いた、すると 中から誰かの声が聞えて来た。
「何じゃ、何じゃ 夜中に騒がしい、一体何処のアホゥじゃ。」
そう文句を言い、扉を開け出て来てくれたのだ。
「すまんドク、緊急事態だ、頼む、今直ぐ壷井を診てやってくれ!」
夜中に突然やって来て、診てくれとか、通常なら無茶苦茶な事だったが、
暗がりからドクと呼ばれ、誰だかわかると。
「なんじゃ刃か、また何かやらかしたのか?
まぁ良い、さっさと診察室へ連れて行け。」
そう言って、診察の段取りに入ってくれたのだ、壷井を診察室にあるベッドに横たわらせると、
三上はその場から離れ待合室へとやって来た、ベンチシートには、あの女が先に座っていた...
それを視認した三上は、先に座られた事でもう座る気は無く成ったので立ったままの体勢で
まだ何者かも分からないこの女に喋り掛けたのだ。
「一体、あんたは何者なんだ?」
三上の問いに、目の前の女は、微笑しながら口を開く...
「あら、やっと言葉を掛けて貰えたようね、
てっきり言葉も掛けたくない程、嫌われちゃったのかと思っちゃったわ。」
そんな事を口に出して来た、 三上は。
「何で俺がお前を嫌う?」
「だって、あなたから怒りの波動を感じるもの。」
「ばっか、俺が怒っていたのは、奴等が無抵抗の支持者達を惨殺したからだ。」
「な~んだ、てっきり黒服を後ろから撃った事を
根に持って怒ってるんだと思っちゃたじゃない。」
「んっ、黒服は元々俺達を撃って来た奴等だぞ、しかも状況が悪く成り逃げただけだろう、
そんな奴の事など気にしないぞ。」
「だって、撃った後、怒鳴ってたから、 意外にクールだったのね。」
「うぉっほん、所で最初の問いに戻るが、お前、何者なんだ?」
「いいわ教えてあげる、でもこの話は記事に書いては駄目、
書いたら今夜の事を知る者達、全て私が皆殺しにするわよ。」
淡々とした口調で、そんなとんでもない事を口に出したのだ、
三上はちょっとだけ考えた振りをした。
「分かった、お前の事を記事に書く事は止めて措こう。」
こう言ったのだ。
「ok 良いわ信用しましよう。」
そう言うと、この女は、喋り始めた。
この女は、地下組織【ABBA】に所属する工作員だと言って来た、
『【ABBA】と言う組織は1960年代に政府のやり方に不満を持つ各界の大物等により、
表の政府では出来ない事を普通にやれる組織として作り出された、
現在は影の日本政府として機能している組織の名称』
あのパーティに潜り込んだのは、
独裁党が欲している日本人の遺伝子データ、それを収集する携帯遺伝子検査機valorのキーコードと
収集したデータを保存してるとされる小型PCの本体を奪い取る、または完全に破壊する事が目的だった
と言う事を話してくれたのだ。
「地下組織【ABBA】か、長年ジャーナリストをしていて、ちったぁ世間の事にも長けていると
思ってたんだが、そんな組織、今まで聞いた事も無かったぞ。」
「当たり前よ、私達の組織は影に潜んでるから価値があるのよ、
あなた程度のジャーナリストに知られてる様じゃあ、とっくに潰されてるわね。」
「くっ、 俺程度だと! ほんと嫌味な女だぜ、可愛くない!」
「あなたに可愛いと思われ無くて良かったぁ♫」
むかっ むかっ と腹は立つが、取りあえず名を聞く事にした、
何時までもこの女とか紺色ドレスの女では、呼びにくい...
「ふむ、所でお前の名は? 何て呼べばいいんだ。」
「へ~ 名前で呼びたいんだぁ♪」
「馬鹿野郎、普通、何時までもお前とか言えんだろう。」
「良いわ、命のやり取りを共有した仲だしね、
私の名は、朝比奈カオル。」
「カオルか。」
「何、苗字吹き飛ばして呼んでんのよ、なれなれしい!
朝比奈カオルさんと呼びなさい。」
「ばっか、短い名で呼ぶ方が親しみやすいんだぞ。」
「あんたと、親しむなんてしなくて良いのよ!」
「ふんっ! 」 「はんっ!」
そんなお子ちゃまなやり取りをしていたが、手術が終わった様で、ドクが診察室から出て来た。
それに気付いた三上は、ドクに近付き話を聞いたのだ。
「どうだドク、壷井の腹は?」
「心配ない、鍛えられた脂肪に阻まれたのか傷は深く無かった、弾も簡単に取り出せたわい。」
「鍛えられた脂肪って、そんなの聞いた事も無いぞ、しかし流石だなドク、助かったぜ。」
そうお礼を述べると、三上は壷井を連れ出せるか問うた。
「ドク、もう壷井を連れ出しても構わないのか?」 するとドクが怪訝な顔をして
「アホか、今 治療を施したばかりなんじゃぞ、明日まで寝かして措け!」
「分かった、じゃあドク壷井を頼む、俺は今夜は事務所に帰る、
また明日の昼までには迎えに来るよ。」
そう告げると、仕方が無いので、三上はカオルを連れ外に出た、
車の前までやって来て、
「俺は事務所に帰るがお前はどうする? その【ABBA】と言う組織に帰るのか?」
「そうね、あんたの事務所ってのを見るのも悪く無いわ。」
「ほ~、逃げられねぇ様に、俺のねぐらまで調査して措こうと言うんだな。」
「馬鹿ねぇ、あんたなんか調査しても何の価値も無いわ、
ちょっとだけ気に成る事があるから付いて行くのよ。」
「ふ~ん、 まぁ良い、来るんなら乗れカオル!」
ガチャ、カオルはドアを開け助手席に乗り込んだ、 すると プワ~ンと
カオルの鼻を不快にさせる匂いが漂って来たのだ、
最初乗り込んだ時も臭かった筈なのだが、あの時は死の危険から逃れた直後だった、
気が張っていた為か、そんなに匂いの事は気に成らなかったのだろう
しかし今は体にもかなりの余裕が出来ていた為か、意識が嗅覚に向いてるのかもしれない、
車の中は取れないタバコの匂いが染み付いていて
しっかりとカオルの衣服にも匂いがしみ込んで行く...
「ちょ 臭いわねぇ、せめてファブリーズ位、用意しておきなさいよ。」
「先程は黙って乗ってただろう、今更何言い出してんだ?」
「だって匂うんだもん、ほんと臭っさ~い!」
「ははは、お前に俺の匂いを染み込ませてやろう♪」
三上は嬉しそうにそう言った、やっとこの女に一矢報いた瞬間だったのだ。
そんなこんなで、虎ノ門にある三上の事務所に戻って来た、
三上は、独裁党幹部、陳の秘書が所持していた小型アタッシュケースをソファに向け乱雑に
放り投げると、運んで来た灯油をストーブに入れ、火をつけた、
それからシャワーを浴びにシャワー室へ入って行った、
残された朝比奈カオルは、散らかった部屋を見ながら、座れる場所を見付ける、
だが、この場で座れる場所なんて、三上のソファしか見当たらなかったのだ。
雑に放り投げられたアタッシュケースを床に措き、ヒョコンと座って三上を待つカオル、
およそ、ヒットマンの役割も熟す自分が何故、今、目的の物が目の前にあると言うのに
こんな事をしてるのかと思いに更けながら何故か悪く無い気分で三上を待っていたのだ。
三上がシャワー室から出て来て服を着た、昼間でも寒いこの部屋だったが、
今は他人が居て、ストーブの火も付いていた、やはり一人で居るより暖かく感じている。
「ふ~、今夜は冷や汗ダラダラだったから、さっぱりしたぜ、
どうだカオル、お前も使うか?」
「遠慮しとくわ、それより話があるのよ。」
「そいつの事だろう、で、どうする積もりなんだ?」
「分かってて、雑に扱ってたの?」
「そうだ、それを放り投げた時のカオルの顔が見たくてな。」
「ふ~ん、あれでバレちゃったのね。」
「いや、カオルが一緒に事務所に来ると言った時からだ、 おかしいだろお前が
事務所まで付いて来る何て、何か用事があれば別なんだが。」
「そっか、そうだよね、 まっ良いわ、私の目的はこのアタッシュケースよ、
このケースの中身に用があるのよ。」
「遺伝子データって言ってた奴か?」
「そう、これの中身は多分、小型PCで、携帯遺伝子検査機、valorから送られたデータも
これの中に保存されてる筈、だからこのアタッシュケースはあなたに渡せないのよ。」
「渡せないって、俺が分捕って来たもんなんだけどなぁ、
まぁでも良いぞカオル、お前にくれてやろう、
その代わりその中の俺のデータは処分してくれよ。」
一瞬殺気だったカオルだったが、三上がそう言うと、殺気を引っ込め。
「分かったわ、あなたの遺伝子データは消して措く事をお約束します、その代わり
このアタッシュケースは私が頂きます、これでいいのね。」
「ああ、良いぞ。」
そう言うと、もう外に出ようと動き出したのだ、 それを見て三上が。
「おいおい、現金な奴だなぁ、用が済んだらさっさと行くのかよ、
お茶位、飲んで行かねぇのか?」
そんな風に言うと、カオルは立ち止まり、
「そうね、お茶位飲んで行くわよ。」
久し振りの来客だったのだが、
二人は一つしかないソファに座り、茶を飲んだのだが、二人の距離が近過ぎた為、
直ぐに喧嘩が始まりカオルは事務所を後にした・・・