二人の転校生
「健ちゃん本当に覚えてないの?」
「覚えてないよ。女の親密な知り合いなんてこれまで人生でいたことないから普通は覚えているはず何だけどな。」
「というか、なんで俺の家を知ってたんだよ!誤魔化されないぞ。」
危ない危ない。この女に誤魔化されるとこだったぜ。ちなみに言ったことは本当のことである。女の知り合いがいたことすらない。わざわざ家にまで来てくれて「健ちゃん。」なんてあだ名で呼ぶほど親しい女の子なんて絶対いないと断言できる。
イト〇ヨ〇カド〇の子まあ可愛いな。目線を合わせないようにして俺の追求から逃れようとする伊藤?だっけかを観察する。王道の黒髪ロングストレート、漆を思わせるかのような艶が素晴らしい。陶器を思わせる白く透き通った肌、はっきり整った顔立ち。まさに大和撫子の理想像を体現したかのような容姿である。ストーカーだけど。
「健ちゃん。あんまり見つめられると恥ずかしいよ……」
「確かに見つめた俺も悪いかもしれないが、妙にむかつくな。こんな美人が赤面しているというのに。」
「び、美人って。健ちゃんったらもう!」
刹那、顔を赤くした伊藤さんから手の像が揺れただけにしか見えないほどの速度で俺の背中にビンタが繰り出される。もちろん右に身を捩り避けようとするが、バシーン!!伊藤さんの渾身の一撃は当然避けられるはずもなく背中にクリーンヒットした。
「痛い痛い!照れ隠しのビンタじゃなくて俺の肩の複雑骨折を狙ったビンタでしょうもうこれ。」
思わずそんなことを口に出してしまった。マジで骨折してないよな……?ペタペタと肩を触れたり肩を回してみたりするが特に問題はない。あの華奢な体のどこにこんなパワーが秘められているんだよ。女性の体って神秘的だな……流石に自分のビンタの危険性は理解しているのか伊藤さんも心配して俺のYシャツをちらりと覗いてくる。
「ごめん、つい思わず本気でビンタしちゃった!前、骨折させたから本気出さないように力をセーブしてたのに。健ちゃんが頑丈でよかった。」
「いや、伊藤さん力強すぎ!?そんでもって何にもない俺の体頑丈すぎ!?」
「健ちゃん私、"高垣"桜!イトーヨ〇カ〇ーに引っ張られすぎだよ!!」
「所で"伊藤"。なんで俺の家知ってた?」
チッ、流石に引っかかったりしないか。結構必死に自分の苗字は高垣だと説明してきたので釣られて話さないかと思ったのだが、相変わらず視線を合わせずだんまりである。怪力で美人、ストーカー。こんな幼馴染居たら絶対覚えているはずだ。癖があまりにも強すぎる。やっぱりすごい偶然で同姓同名でかつ容姿そっくりな人が居てそっちの幼馴染とかじゃないのか?そうと考えた方が自然だろう。
お、御太郎と陰夢だ。俺はいつも通り挨拶をする。
「おは……」
「「絶交だ!!!」」
「絶交早すぎ!?」
弁解を述べる隙もなく絶交を言い渡された。明確な憤怒の顔をした二人は言いたいことだけ言ってさっさと去っていく。確かに美人と隣で歩いているという状況だけ見ると絶交したくなる気持ちはわかる。だが、まったく親しくしてくる理由がわからない奴が急に俺の為だけ(恐らく)に転校してきて、教えてもない自分の家の前に待ってて付きまとってきてるんだぞ。そいつが美人だろうがなかろうが怖いだろうが!しかも、人を殺せそうな怪力である。一見リア充の仲間入りをしたように見えてもかなりヤバい状況なのだ。憐れまれる覚えはあるものの嫉妬されるいわれはないぞ!話を聞いてくれ二人とも……
*
「今日から来た、"高垣"桜です。よろしくお願いいたします。」
まるで満開の桜が咲いたかのよな笑みで周りが桜吹雪でも吹いているかのような爽快感でそう自己紹介をする高垣さんを死んだ魚のような目で見る。ですよね~~よしんば転校するとしても人数が少ないC組の方に行くと思ったけどA組来ますよね~このゴールデンウィークで転校手続きが済むってスピーディーすぎるし何かしらの権力バッグにあるんだろうな。権力でも物理でも強いとか隙ない強さだな。怖い。
「じゃあ、御太郎。お前はそこの新しい席に移動しろ。じゃあ高垣さんはそこに移動お願いします。」
え、無理矢理移動させてまで俺の隣に来るの!?微笑みかけられても怖いって!!そういえば、新しい席二つないか?俺のもう一つの隣の席は淫夢である。ま、まさかな。
「なんと、転校生は二人来ている!」
「席、二つ増えていると思ってまさかと思ったけどマジかよ」「可愛い高垣さんとカッコいい転校生とかかな」「なんでほかのクラスと人数一緒なこのクラスにくるんだろ」この二人目にはさすがにクラスが騒然としている。一人目の時も盛り上がってたけど心身喪失で聞こえてなかっただけかも。
「私は内田 翠。よろしくね、健太」
思わず種が芽吹いてしまいそうなほどの笑顔をそう言いながらこちらに向けてくる。好みのショートカットロリ巨乳奴来たコレと思ったらこれだよ……最悪だよ本当に!絶対に過去に因縁があって俺のそっくりさん目当てで来た奴だよ。俺と同姓同名でそっくりな容姿をしている割にはおモテになったんですねそっくりさん!
「じゃあ、淫夢。お前はそこの新しい席に移動しろ。じゃあ内田さんはそこに移動お願いします。」
淫夢ぅぅぅ。どうやら二人は知り合いらしく俺の席を隔ててバチバチと聞こえそうなくらい視線で火花を散らしていた。やっぱり転校初日で俺の名前知っているってことは幼馴染ではないだろうが、昔名前を知っているぐらいの親交はありそうだ。過去に交流があったらロリ巨乳好きの俺が覚えていないとは思えないんだけどな……うん、こなれた茶髪ショートに150センチあるか怪しい背に大きな胸、話しかけやすい雰囲気最高です!この学園に無理矢理ねじ込んでくる権力あるけど!!!
視線で牽制しあってはいるが、HR中ということもあり口や手は出さない方針のようである。非常に助かります。権力に屈して絶対先生注意出来ないから俺が注意しないといけなくなるもん。
「なんだアイツ」「二人も美人に囲まれやがって」とか怨嗟の声まで聞こえてきてガクブルです。絶対に俺じゃなくて俺と同姓同名でそっくりな容姿をしている奴がモテてただけで俺じゃないと思うんだよな。俺としてはただ怖いだけだし、嫉妬はやめて欲しい。だって俺じゃないんだし。