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怠惰な魔女は働きたくない  作者: 綾崎オトイ
働きたくないから仕事しよう
7/7

黒い獣

 私じゃない場所から立ちこめる黒い気配。


 私のすぐそばに居た獣から、殺気なのか魔力の塊なのかよく分からないけど、そういうものがぶわりと立ちこめる。


 気づいた時には騎士が転がっていた。


 耳元でグルルルという低い唸り声が聞こえる。

 ほんと、なんで怒ってるんだろうね、この黒いのは。


「小物風情が、俺のモノに気安く触れるな」


 獣はいつだって自由で羨ましい。獣っていうか人外、なのかな、括るなら。

 私のところに来た時も、その後も、今も。


 私はクロの物じゃないよ。

 ついでに言うとクロも私の物じゃない。


 騎士は流石に丸腰では対応しきれなかったのか受け身だけ取って剣呑な気配を滲ませている。


 ねえ、喧嘩するの? ここで? 私の空間で?


 どっちがどうなろうとどうでもいいけど。


 私の寝床が荒らされるのは嫌。

 今日の私の幸せ気分と極上ふかふか空間壊すのは許さない。


 飛びかかろうとしたクロが身を低くして、僅かに軋んだクッションベッド。


 クロが飛び上がるその瞬間に、私はそれを掴んで引っ張った。


「ぐぁッ……」


 くぐもった唸り声をあげたクロがの身体が縮んで頭上から降ってくる。

 そのもこもこの毛玉を受け止めて腕に抱え込んで顎を乗せた。


「ラピス……、何をする……。俺の尾が千切れるだろう……」


 キャウンともふもふ尻尾を抱え込んだクロが私に抗議してくるけど、そんなことは知らない。


 私は尻尾を掴んだだけ。


 クロが勢いよく飛び出たからちぎれそうになっただけで、私は何も悪くない。


 ていうか多分クロのは取れてもまた生えてくるから。

 そしたら私は取れた尻尾を枕にしよう。


 そう思ってクロの尻尾に視線を向けたら「……やらんぞ」って更に身体に隠された。なんでよ。


「そこに転がってる騎士も。なんか勘違いしてるんじゃない?」


「勘違い……とは」


 それなりの勢いで吹っ飛んだように見えた騎士はピンピンしてるらしくすぐに体制を整えた。

 クロを気にしながらクッションベッドの端に膝を着いて私を見上げてくる。


「これはね、私の正当な報酬なわけ。そもそも魔女をどこかに縛りつけようなんて、そういう魂胆は意味が無いから」


「それは、どういう意味だろうか」


 困った表情を作る騎士には、私はただの、魔女という力を持った少女に見えてる。きっとあそこに居た王様にとっても。


 でも、私はこれでも魔女なわけで。


 魔女の怒りを買わないように、あわよくば手中に収められるように、ってね。


 真面目に見えて腹黒騎士。よくあるパターンだよね。


「めんどくさいからやらないけどさ、魔女は気に入らなければ国ひとつ滅ぼすよ。私にだって難しくはない。抱きたいなら抱いてもいいけど、騎士の好みでもないでしょ」


 私は右手を上げて、ゆるく宙をかき混ぜた。


 騎士の前髪がふわりと浮いてさらさらと落ちていく。


 零れたワインの染みを浮かせて、倒れたグラスを起こして、飛んでったツマミの皿を元に戻した。

 ちなみに、ツマミだけは飛んでく瞬間に手を加えたから中身は無事。

 美味しいものは死守。これ大事。


 ついでに乱れた皺も整えて、窓を開いて部屋の中を空気が1周。入ってきた空気が窓から出ていったところでパタンと窓の戸を戻した。


 さっきからクロが私の腕をガジガジ噛んでるけど、まあ多めに見てあげよう。痛くはないし。


 美味しいワインはまだ入ってるし、入口付近の棚に美味しそうなブランデーが入ってるのも見えてる。


「ねぇ、騎士。私は色気より食い気なの。私を籠絡したいのなら……」


 あそこにある高級ブランデーを持ってきなさい。


 美味しそうなお酒がわたしを待っている。

 あれは昔師匠がお気に入りだったのをいつも勝手に拝借してた銘柄。

 久しぶりに飲む懐かしいお酒。



「それは、申し訳なかった。魔女殿、クロ殿。お詫びにはならないが王都で今人気の店のショコラも持ってこさせよう」


 表面だけは納得した様子で騎士がお酒を取りに行く。その後ろ姿を見た。


「いつもそうして魔法を使えばいいだろうに。人間なんかの手など借りずに」


「魔法使うのすらめんどくさいの。クロが私の身の回りの世話ぜーんぶしてくれるなら誰にも触らせないけど」


「俺は召使いじゃない」


「似たようなもんでしょ」


 拗ねたクロがまた私の髪をガジガジ齧るから、なんかそこだけ短くなってる気がする。

 そのうち禿げそう。


「あ、騎士。クロ用に浅めの器もよろしく」


 クロの耳がピクリと動く。

 お酒、嫌いじゃないもんね。


「酒を……? いや、用意しよう」


 騎士が疑問を口にする前にもう1回よろしく〜と手を振れば、何も言わずに頷いて外の使用人に声をかけに行った。


 これぞ、自堕落生活。

 お貴族様を顎で使う。

 ってなんか普通の魔女っぽいけど。


 騎士がお酒と食べ物を手に戻ってくるのを期待して、騎士は別にいらないから侍女長が持ってきてくれたらそれでいいんだけど、私はクロを抱いたままゴロゴロと転がった。

⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆

行き当たりばったりのグダグダ小説を読んでくれてる皆様、ありがとうございますm(_ _)m

魔女がゴロゴロしてるだけの話ですが、評価などポチッとしてもらえると嬉しいです

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