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怠惰な魔女は働きたくない  作者: 綾崎オトイ
働きたくないから仕事しよう
4/7

騎士のお家に居候

 

「半年私を養ってちょーだい」


「は?」


 騎士が間の抜けた顔で口から空気を漏らす。


「私、働きたくないの。貴方、貴族でしょ? 大きなお屋敷で身の回りのことぜーんぶやってもらって、私は怠惰に引きこもっていたいの。のんびりとね」


「それはどういう……」


「どういうって、そんなの言葉通り。別に迷惑をかけるつもりはないの。衣食住を提供してくれれば私は勝手にだらだらする。あ、たまにお世話に呼ぶかもしれないけど。お風呂とか入れて欲しい。自分で洗うのめんどくさいから。たまには欲しいもの買ってくれたらもっと嬉しい」


「つまり私の家に、居候したいと……いう……?」


 居候。まあ、そんなとこ。

 完璧お客様待遇の居候。

 素敵な響きだわ。うん。


「そういうこと。もちろん社交なんてしないし、お客さん対応もなし。半年間はあなたたちからの頼み事もなしね。聞いてあげない。さあ、1日あげるから、私の部屋、作っておいて。私のために尽くしてねぇ……ふぁ……眠い」


 ちょっと動くと眠いよね。

 ふかふかソファだし。


 迎えに来るまで寝てるから〜。


 そう言って私はソファに身を沈めた。

 唖然としてる国のトップたちの空気なんて知らないよ。

 とりあえずなんでもいいから私の報酬よろしくね。


 さあ、いい夢が見られますように。



 ☆☆☆


 ゆらゆらとゆれる感覚で意識が覚醒した。


 ん、と目を開ければ目の前には顔。

 あー……、と、そうそう、騎士の顔。

 ついでに頬にはクロの手がふにふにと当たってた。


「魔女殿、ちょうど良かった」


 いつのまにか騎士に抱き上げられたまま、馬車を降りるところだった。


 いつのまに馬車に乗った?

 全然記憶にないんだけど?


 思ったより爆睡してたらしい。


 クロは騎士に抱えられた私の胸の上に乗ってた。


 馬車を降りたところには大きなお屋敷。

 すでに玄関の目の前にいて、静かに降ろされた地面は大理石の階段。


 数段上がったところにある大きな両開きの扉が開かれればエントランスにずらりと並んだ使用人がいた。


 若すぎるメイドなんかはほとんどいない。

 王宮内はそういうミーハーみたいなのが行儀見習いみたいなのが多そうだからね、こっちで正解。


 落ち着いて洗練された使用人たちが頭を下げて歓迎してくれる。


「なんか、思ったよりちゃんとしてくれてる」


 ぽつりと呟いてすぐ横にいた騎士の顔を見上げればにこりと微笑まれた。


「魔女殿は殿下の恩人だ。もともとこの命を賭ける気でいた。だからこの家もこの身も暫く魔女殿の好きに使ってくれて構わない。全力で応えよう」


 ……真面目か?


 まあ、いいけど。


 騎士が目配せをすると1人の侍女と1人の執事が前に出た。


「魔女様、お部屋までご案内致します」


「その後ご夕食のご用意をしておりますので本日は広間でのお食事にお付き合いくださいませ」


 明日からは好きに食事をしていいと。

 つまりそういうこと。

 なかなか優秀な対応で私は機嫌がいいから1日くらいお貴族様の食事に付き合ってあげよう。


 つまりマナーのある晩餐ね。

 私はこれでもやればできる子。


「魔女殿、私も着替えをしてお待ちしている」


 手を取られて指先にキス。


 うん、まあ、貴公子ってそういうものだけどね。

 なんか……なぁ……?

 違くない? 考えてること。


 まあでもとりあえずは寝床の確認と美味しいご飯。


 私は侍女が手を引いてくれるままに屋敷の奥に進んだ。


 広い屋敷は歩くのがなかなかめんどくさい。

 あとで転移用の魔法陣その辺に書いていいかな? いいよね?


 屋敷の最奥、ではなくほどほどの距離にある大きな部屋が私の部屋らしい。


 入ってすぐの大きな部屋には真ん丸なふかふかなベッドというかクッションというか、なんとも言えないものが鎮座している。


 なにあれ素敵。


 もふもふでもこもこで縦にも横にも広い。

 ごろごろしても落ちないしでっかめのクロが寝ても余裕ありそう。


「こちらが応接間でございます。そちらの扉が浴室、あちらの扉が遊戯室と図書室、そして奥の扉が寝室になります。遊戯室と図書室は部屋付き小さなものですが、屋敷の物もご自由に使って頂いて構いません」


 なんでそんな揃ってるの?この部屋。

 本当は誰の部屋?

 まさか屋敷まで改装、なんてこんな短時間ではできないし。


 なんて考えより奥の寝室が気になる。

 あのもふもふもすごいけど、別にちゃんと寝室があるのはよきなので褒めてあげよう。


「開けていい? 寝室」


 いいよね? 私のだもんね?


「もちろんでございます」


 わぁ、こっちももふもふふかふか。


 天蓋付きのベッド。

 柔らかなクッションがたくさんあって、寝室は広すぎない。

 ほどよい狭さというか、落ち着く広さ。


 とりあえず綺麗に整えられたベッドの上にダイブした。


 シーツがぐじゃぐしゃになるけど、ご飯食べてる間にこれも整えてくれるんでしょう?

 なんて素晴らしい自堕落生活!


 明らかにお行儀悪いこれにも何も言われない。


 この落ち着いた侍女はエルゼ……エリーゼ……? エリザベス? だっけ?


 侍女長でいいか。

 役職があると名前覚えなくていいから便利便利。


 一通りばぶばぶぴょんぴょんごろごろする間何も言わなかった侍女長は私が満足した頃に声をかけてきた。


「お召し物はどうなさいますか?」


「私に合うサイズのドレスがここにある?」


 まあ普段なら着替えたりなんてしないんだけど。


「寸分の狂いなく魔女様のサイズで仕上がっております。そちらの衣装部屋からお好きなものを」


 なんで?

 寸分の狂いもないのは変じゃない?


 私でさえサイズ知らないけどお貴族様は魔女よりすごかった。


 まあ、なんでもいいや。

 今日はお貴族様の晩餐に付き合ってあげることにしたからね。


「てきとーなの着せて」


「かしこまりました」


 侍女長が2回手を叩くと音もなく侍女が数名増えた。

 私もそんな魔術は使えないけど、何これ侍女長の召喚獣? それなら納得する。


 まあ、わたしも性別的には女だし、着飾るのも可愛くなるのも嫌いじゃない。

 ただ自分で整えるのは面倒だよねってだけで。

 だからされるがまま、しかも手馴れてるから素早く着替えさせられて髪もセットされて化粧されてくのは苦ではない。


 全自動。最高。


 瞬きする度にどこか変わってる。


 すごい。


 鏡に映る自分を見て思わずぱちぱちと手を叩いた。


 普段は下着かローブ姿ばっかりだからとても新鮮。

 毎日は絶対やだけどね。

 重いし窮屈だし疲れる。


「魔女様、素敵です」


「お綺麗です」


「女神のようですわ」


「お似合いですわ。元が違います物ね」


 ひたすら賞賛してくれる侍女たち。

 こうも褒められるとちょっとやる気がわいてくるよね。

 さすが、褒め方もお上手。


 うんうん、久しぶりに気分がいいし私まともな生活してる。すごい。えらい。


 歩きながらも褒めたたえてくれる侍女たちと一緒に、私は広間に案内された。


気が向きましたら評価とかぽちっとしてもらえると嬉しいです

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