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怠惰な魔女は働きたくない  作者: 綾崎オトイ
働きたくないから仕事しよう
2/7

魔女様のお仕事

 広いとは言えないアパートの一室。

 それなりに前から目は覚めていたけど、動くのがめんどくさくてごろごろと微睡んでいた。


 このまま3度寝……と思ったところでグゥというくぐもった音が響く。


「お腹減った」


 鳴いた自分の腹部を見つめてつぶやいた。


「ならば食べればいいだろう」


 私をぐるりと囲むように寝そべっていた黒い大きな獣が呆れたように口を開く。


 この黒いの。クロは狼のような姿の魔獣。首の周りにはライオンのたてがみみたいのがある。オオカとは違うらしいけどなんの魔物かとかは興味がなくて聞いてない。あれ、聞いたっけ? 忘れた。



「んー、作るのも買いに行くのもめんどくさい」


 から、いいや。と。

 体に触れる柔らかな毛をさわさわと撫でる。

 肌触りが極上で密度の高い毛はもはもはでふわふわ。

 最高な布団。


 私ラピスは一応、魔女、と呼ばれる存在である。


 魔女と呼ばれる者たちは揃って自由気ままである、と言われてるけどまあそれは事実。


 たまーに生真面目で真面目なのもいるけど基本的に自由奔放。

 それが人間を外れた魔女だから。


 ちなみに働きたくない、動きたくない、面倒なことには関わりたくない、は私のモットー。

 それは最早モットーとは言えない、というツッコミは受け付けてない。


 以前仕事を引き受けてこのアパートを借りたとき帰るのがめんどくさくなってそのまま住み着いている現在。

 今のところはまだお金にも困ってないし、ここの家賃はたまに大家さんのセスさんのお手伝いをするとチャラにしてくれる。


 まだしばらくは働かなくて良さそうー。


 クロは全く仕方の無い奴だ、と私の青い髪をはみはみとする。

 美味しいらしい。



 起きるのめんどくさいしもう1回寝ようかと思ったところで扉からノックが聞こえた。


 とりあえず無視、と扉をじっと見つめたまま息を潜める。


 もう一度聞こえるノック。


 出ようかな、と考えて、着ているものが薄手のワンピース1枚、ほぼ下着なことを思い出した。


「着替えるのめんどくさいし」


 やめよ。


「ローブそこにあるぞ」


「じゃあ着させて」


 じとっとクロの目を見つめるとのそっと立ち上がりローブを器用に咥えてきた。


 ん、と両腕を伸ばせば上からすぽりと被せてくれる。

 だぼっとしたそれは立った襟が深く目の下まで

 隠れる。

 襟の切り替えから裾までAラインなそれは腕も隠れてるけれど、縦に切込みが入っているから腕を動かせば外に出せる。

 裾の丈は膝下あたり。


「ほれ、着させてやったぞ」


「んー」


 のそのそと仕方なく起き上がりベッドに腰掛ける。


 んー、と伸びをしていれば、途絶えたノックが再開した。


 小気味いいノックが続いてその後によく通る声が。


「魔女様魔女様、お客人だよ! 開けるからね!」


 勢いよく開かれた扉からは度々世話を焼いてくれる、大家さんでもあるセスさんが顔を出していた。


 その後ろには見知らぬ青年。

 随分と顔色が悪いな、とその顔を見て思う。


 しかもあれ、この国の近衛騎士だね。

 めんどくさそうな予感。


 クロは扉が空くと当時にその身体を縮めて、私の横におすわりした。


 縮んだといっても座った状態で私の身長と同じ。

 それより小さくなると私が乗れないからね。

 小さいもふもふも可愛いけど。


「魔女様、このパン朝ごはんにしていいから話をきいておあげよ」


 セスさんが持っていた紙袋を放り投げて、ちょうど私の手元にきたそれを捕まえるとじんわりと温かかった。


 その中身は焼きたてのパン。

 しかもこれは塩気のある生地の中に惣菜が入ってるやつ。


「セスさんありがと〜! で、用件は?」


 美味しいパンを見てやる気が少しだけ出た私は立ち尽くした騎士に目をやった。


 これが魔女……とその顔に書いてある。


 まあ、私17歳の少女ですしね。

 魔女って言ったって結構普通なもの。


 それにしても実年齢より幼く見えるらしい私は頼りないのかもね。


 あんたのそれは不摂生が原因だね、とは師匠の言葉。


 だって食べるのめんどくさいし。食べ始めたらずっと食べてたいし。


 まあ騎士はどうでもいい。

 私は紙袋の中からパンを取り出してそれに噛み付いた。


 うん、美味しい。


 中にあげた鳥も入ってたからクロにもあげる。

 いい加減私の髪食べるのやめて。


「魔女殿、 殿下を! 殿下を助けていただきたい!!」


 復活したらしい騎士ががばりと勢いよく膝をつけて頭を下げる。

 声は低くてよく通る。


 襟足を刈り上げた赤茶色の短髪。

 背が高くてしっかりとした体つき。


 ばか真面目、というよりは忠誠心が強いんだろうな、ともゃもしゃパンを食べながら観察する。


 正直めんどくさい。


 けど、まあ。

 近衛騎士、だし。

 貴族でお金もってそうだし、と考えてゴクリと咀嚼したものを飲み込む。


「ねぇ、魔女に頼み事の意味知ってる?」


「もちろんだ。魔女殿が望む対価を」


 ぐ、と握りこんだ拳が見えた。


「契約成立──。その殿下のとこに連れてって」


 にまり、と私は口角をあげる。


 これで、しばらく働かなくていい!


 働かないために頑張って働いてあげる。

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