ハロー、わたし
漫画を読んでいて、四角い枠の中で繰り広げられるナレーションに疑問を感じた人はいないだろうか?
これは誰が話しているの?とか短時間にそんなに回想できる?頭の回転早すぎん?とか
まあ、漫画の世界だしありなのだ。ありありなのだ。
さらっと読み飛ばすようなものであって、ナレーションに対してリアリティがないとか批判するのもどうかと思う。
では、現実でナレーションのようなものが突如現れたとしたら?
◇◇◇
『なによこれ?!』
「えっ なに誰?!」
”私”の身体が飛び上がり辺りをきょろきょろと見回す。
しかしそこに私の意志は介在しない。
「花月先輩、どーしたんすか?」
「……誰もいない。 なに、今の声?」
「いや、めっちゃ近くに俺いるんすけど」
『どうして身体が勝手に動いてるの??!』
「ひえっ やっぱり聞こえる! 幽霊?! この世界ではアリ系?! ゲームはなんでもあり??!」
「……先輩、やっぱ熱あるんじゃ」
先刻の顔面接近男が不躾に私のおでこへ向かって手を伸ばす。
『払いのけなさい!!!』
「えはい??!」
パシリと男の手を払い落とし、男は目を丸くして私を凝視する。
私の念が通じたのか、ようやく身体が思い通りに動いた。
幾分すっきりしたがこれは一体どうしたことか?
私の身体は伝言ゲームのように私の中にあるナニカに命令を送らなければ動かなくなってしまった。そうまるで漫画に突如介入するナレーションの如く!
『私の身体は何者かに乗っ取られてしまったのである!』
なんて。
「え、ええ?! 今のって、つまり? あなた花月なの?!」
私がすっとんきょうな声を挙げて両手で頬を抑える。
多分オーマイガーみたいなポーズをとっているのだろうが、恥ずかしいからやめてもらいたい。
「…先輩が壊れた」
無礼男は私を見ながら放心している。
状況が理解できない状態で邪魔をされるのも面倒であったし、当分そのまま置物でいて欲しい。
「花月?? ねえ花月…えっと、様?」
『なんで私が私に向かって様呼びなのよ……』
「だって、四字熟語学園の悪役令嬢だし……」
『四字熟語学園って私が入学する予定の……』
最後の記憶を思い出した。
確か高木じいさんとガーデニングをしている最中に不幸なことに植木鉢が顔面衝突したのだ。
しかし、今の状況をみるに私は四字熟語学園の制服を身にまとい、まるで既に入学して学園に通っているかのような装いをしている。
でもそれはおかしい。
私はまだ入学を控えた3月の春休みを(憂鬱ながらも)謳歌しているはずなのだから。
「あ、そこから記憶ないんだ! てことは私が入った時とタイミングが被るかも」
『私が入った? 貴方、一体何者?』
「あー、えっと」
視界が左へ右へと揺れる。
動揺しているのか、身体も少しそわそわしているように感じられた。
「転生者って……わかるかな?」