第1話 黒衣の王
第1話投稿しました!!
2話目も早めに投稿しようと思います!
「おぉ!! 我らが黒衣の王よ!! 我らの忠誠をお受け取りください!! そして、願わくば我らが願いを叶えたまえ!!」
どうしてこうなった。
昨日はゲームのイベント周回に精根尽き果てそのまま眠ったはずだ。
しかし目を覚ましたらどうだ?
どこか西洋風で大きな部屋の壁際の立派な椅子に座らされていた。
意味がわからない、ここはどこだ?
目の間にいる黒いローブを纏う胡散臭いお爺さんは誰だ?
後ろで跪くお爺さんと同じようなローブを纏う人達は誰だ?
様々な疑問が飛び交う脳で、辛うじて答えることが出来たのは、
「えっと、その、こんにちは?」
挨拶だった。
何年ぶりだろうか、人と会話したのは。
この挨拶以外に人と喋ったのは、ゲーム中の俺の部屋にノックして話しかけてきた母親にうるさいと怒鳴った時以来だろうか。
「おぉお! 王よ!! 見て下され!! ここに居る全ての者が貴方様の信者にございます! 何なりとお使い下され!」
「お、おう。で、あんた誰? なに? 新手の宗教勧誘か?」
「わたくしめは黒の法衣教団の司教を務めさせていただいております、アルカイデ、でございます」
「そうか、アルカイデか、よろしく頼む。で、何だその黒の法衣教団ってのは」
胡散臭い、つかなんなんだ黒衣の王って。
俺が来てるジャージの事を言ってんのか?
まず信者って事は俺が神様? そんな徳を積んだ覚えは無いぞ。
そこからアルカイデからこの世界についての事を色々と聞いた。
まとめると、まずここはレイン王国って所らしい。
この国は異教徒狩りが頻繁に行われているらしく、黒の法衣教団もその異教徒狩りに狙われているとか、でも今いる屋敷には魔法がかけられていて異教徒狩りに見つからないようになっている。
俺が今呼ばれている黒衣の王は、黒の法衣教団の主神で、あらゆる人間の汚い欲望を好んで食べており、その欲望を食べる為に信者の願いを何でも叶える事が出来る魔法を持っているとか。
で、目の前の信者達は俺の魔法を求めてここにいると。
ネットでよく見る異世界転移って奴か? それも俺が神様として?
最高じゃねぇか。
別に死んだとか可哀想だったとか神様の手違いとかじゃないみたいだ。身に憶えが無い。
それなのにこの立場、好都合過ぎる。
転移前の世界になんの未練も無い、この力をフルに使って世界を支配してやろうじゃ無いか!
「……ふっふふふふははハハハハ! いいだろう! よくわかった! 何十年も眠りついていたからよく分からんことが多いがお前達の気持ち、受け取った!! この黒衣の王である俺がお前達の願い、叶えてやろう!!」
自分でもビックリするような大きな声で臭いセリフを吐く。
「王よ!!! 有難き幸せにございますぅ!! 我々貴方様に身も心も捧げまするぅ!!」
アルカイデは目を輝かせ、恍惚とした表情でこちらを見つめて跪く。
「我らが主よ!! どうかこの老骨の今生の願い、かなえてもらえませぬか!?」
アルカイデが跪く後ろから、アルカイデよりも歳をとっているように見えるお爺さんが目の前で跪く。
「なんだ? 言ってみろ」
「わしはそろそろ病により死ぬと、医師さまからいわれてしまいました。わしはその前にりんごが食べたいのです」
「勝手に食べればいいじゃないか、何だりんごを出してほしいのか?」
「いえ、そうではありません。わしは数年前から味を感じる事が出来ないのです。今、りんごを食べたとしてもあの甘美な味を感じる事が出来無い、我らが主よ。どうかわしに味というものを蘇らせて欲しいのです……」
味覚か、なるほどな。
で、問題が一つある。どうやって願いを叶えればいい?
「わかった。その願い、叶えてやろう」
口では偉そうな事を言っているが、全く持って魔法の使い方がわからない。
チラッとアルカイデを見て、助けを求める。
アルカイデはこちらの視線に気付いたのか、ニッコリと人の良さそうな笑みを浮かべる。
違う、そうじゃない、おじさんの笑顔は要らないんだ。
伝わってくれ……くそう、仕方ない。
「アルカイデよ、何年も眠っていたから魔法の使い方を憶えていない、教えてくれ」
「わかりました王よ。まずは──」
結局俺は魔法の使い方を教えてもらった。
何やら体内に流れる魔力を感覚で掴む事が大切らしく、それが出来たら後はイメージしたらその通りになるらしい。
えらくアバウトだ、勘弁して欲しい。
言われた通り目を瞑り、体内に流れる魔力を感じ取る。
血液とは別に何かが流れているのがわかる。
これが魔力というものか?
俺は手を老人に向ける。
イメージするのは目の前の老人がりんごを食べる姿、味。
すると体内から何かが抜ける感覚がした。
「おお……これは……!! 味がする!!」
目を開けると目の前の老人は口からダラダラと涎を垂らしながら嬉しそうに唸っている。
戻ったのか?
俺はもう一度目を瞑りりんごを掌の上に想像する。
また先程の何かが抜けるような感覚がすると、掌にはりんごが乗っていた。
「ほらっ。喰えよ」
りんごを老人に渡す。
「あぁ……主よ、感謝致します……」
老人はりんごにかぶりつく。
「甘い、甘い……!! 主よ、ありがとうございます……! ありがとうございます!!」
老人は感謝しながらりんごを貪っている。
良かった、無事成功したみたいだ。
フフッ……最高じゃないかこの魔法。
さぁ! どう活用してやろうか!
そんな事を考えていると、
「主よ!! 次は俺の願いを!!」
「いや!! 私の願いを!!」
「神よ!!」
「我らが王よ!!」
部屋の中が先程の光景を目にして騒ぎ始める。
まずいなどうする?
「アルカイデ、なんとかしてくれ」
「はっ、我らが王よ。鎮まれ!! 良いか、お主らはなんの為にここにいる!! 我らが王に仕える為では無いのか!? それに──」
アルカイデが彼らの事をなんとかおさめ、一人づつ順番にという事になった。
〜〜〜〜〜
「王よ! 私の娘の病気を治して下さい!」
「わかりました、ホイどうぞ」
「おお!! ありがとうございます!! この恩は必ず!」
「お願いします! 魔物に喰われた僕の脚を治して下さい!」
「はいはい、どうぞ治りました」
「あぁ!! この身体貴方様捧げます!!」
疲れた。
相当な人数の願いを叶えたが、どっと疲れた。
人の願いを聞いてみて驚いた事がある。
汚い願いが一切ない。
全ては他人の為や自分ではどうにもならない事の願いばかりだ。
お金や地位、女が欲しいなどの願いが一切無い。
ちなみに今例に上げたのは、もし俺が願いを叶えてくれると言われたら頼むであろう願いだ。
もしかしたらこの世界で俺が一番黒衣の王に好かれるのかもしれない。
「王よ、次の信者です」
「わかったよ」
扉が開かれ今度は大きなローブをまとい、顔をフードで隠した小柄な人が入って来た。
そいつはフードを取る。
俺は、そいつの素顔に見惚れてしまった。
白髪の髪を持ち、向こうの世界ではお目にかかる事が出来無いような、怖いくらい顔の整った少女だった。
「王よ、私の願いを聞いてはくれませんか?」
「あ、あぁ、聞くよ。でもその前に、聞きたい事がある」
「なんでしょうか?」
「君は俺の事をどう思っている?」
「尊きお方、我ら持たざる者達を救済して下さる慈悲深きお方でございます」
「そうか……なら、一つ命令してもいいか?」
「なんなりと」
「服を脱げ」
「……なるほど、わかりました」
俺は何を言っているんだ?
馬鹿か? こんな少女の裸を見てどうする?
いつ俺はロリコンになった?
目の前の少女はスルスルとローブを脱ぎ捨てる。
目が離せない、犯罪者じゃないか。
でも、こんな事はあの世界では絶対に出来無い。
それにこんなに俺の事を慕ってくれる女の子が今まで生きてきた人生の中でいない。
そして、目の前の少女は身に着けた物を全て床に落とす。
胸の高まりと下半身の高まりが抑えれない。
据え膳という奴だ、いくしかない!
俺は彼女に近付く、しかし、ある事に気が付く。
彼女の肌が、白いという事に。
白人とか比にならないレベルで肌が白い、それに、いたる所に軽い火傷の跡がある。
「流石は我らが主、私の願いがわかるとは。私の願いは──」
「この肌の病気を治して欲しいのです」
俺はこの言葉を聞いた時、本能でわかった。
俺にはこの肌は治せない、と。