自然の力
「これだけ火があれば……」
アストリットがユメの背後で呟く。
「顕現せよ! イフリート! かの敵を焼き尽くせ!」
トモエが吐いた炎のブレスを媒介にアストリットが炎の精霊を召喚する。
二本足で立つ人型をした炎、としか形容できないものが生み出され、トモエ目がけて炎を放つ。
ドラゴンの姿のトモエは一瞬逡巡したかのように見えたが、カッと目を光らせるとその炎をかき消してしまった。まるでその目が宝石のような光を放ったのを見て、ユメはトモエが今までに食った宝石の力を使ったのだと直感した。
「イフリート! 炎の刃を!」
『ハッ』
このイフリートはどうやらこないだの水の精霊ウンディーネみたいに一回こっきりではなく、トモエが吐いた炎のブレスのおかげでまだ攻撃できるようで、高密度の炎でできた刃状の薄い塊が飛んでいき、ドラゴンの皮膚を切り裂いた。
「グッ」
ザシュ、という手ごたえと共に、ドラゴンの鼻先に傷が入る。そして、出血した。
初めてダメージが通った!
血が流れている! ならば倒せる。
イフリートは先程の小さな傷一つを入れただけで消えてしまった。それほどに先程の一撃での消耗が大きかったということか。
「ユメ! 光輝剣を二本くれ!」
ヨルが戻ってきてウォールの中に入るとユメに叫ぶ。自分の剣ではドラゴンの皮膚を斬れないと判断してのことだろう。
パァン! パァン!
ユメがヨルに光輝剣を発動させている間にアストリットの精霊がつけた傷目がけてハジキが発砲する。
一発は前脚で防がれてしまったものの、もう一発は傷に奥深く刺さった。
「グヌッ」
たとえドラゴンの皮膚といえど、なにか、魔法的な力なら傷はつく。出血もする。血が出るなら殺せるはずだ。さらに傷口にならダメージも追い打ちできる。しかし、鋼の武器や弾丸では無傷の肌には弾かれてしまう。
ならばユメが取るべき戦術は、
「飛翔!」
風の魔法で空を飛び、S級の宝石を六色用意する。
ミックス・ブラスト。
これなら効くはず。
しかし、トモエは信じられない策に出た。
なんと先ほど前脚で叩き落としたヒロイを掴み上げ、こちらに向けたのだ。これでは下手をすればヒロイに当たってしまう。
「なっ、卑怯よ!」
「戦いに卑怯も正道もない。勝利か敗北があるのみ」
女の姿でおどけていたトモエの面影は何処にもない。ただ、こちらに勝つためだけにありとあらゆる手を使う魔物がそこにはいた。
「わたしたちの仲間を馬鹿にしないで!」
スイが叫ぶ。そして、詠唱していた土の魔法を完成させた。
「グラビテーション!」
なんとヒロイごと重力波に叩き込んだ。
「ぐああああああああ!」
ヒロイが苦悶の声を上げながら、両腕に力を入れる。それで無理矢理にトモエの握力を引き剥がしていき、手の中から脱出する。
「アタイ一人が足手まといになってるわけにはいかねえんだよおおおお!」
ヒロイが高重力落下の勢いそのままにトモエの脚目がけて口からブレスを吐き、焦げ付いたところに愛刀を刺し込む。
「今だ! ユメ!」
これでミックス・ブラストをぶち込む隙ができた。
(あれ? 宝石が要らない……?)
そのとき、ユメは奇妙な感覚に捉われた。
カムイの巫女になった影響か、炎と光の力は太陽から、水の力は海から、風の力は塔の外の周りの大気から、土の力は遠く離れた地面から、闇は光のドームの外の暗闇から、それぞれ得られている気がする。
先ほど光輝剣を出したときは宝石が必要だったのだが……、今回は要らない。
そんな不思議な確信を持って、六色のS級クラスのミックス・ブラストをトモエの口の中目がけて撃ち込む!
いや、それはもうすでにミックス・ブラストではなかった。
伝説の、母が語ってくれた、自然の力を借りた精霊召喚だ。
ただ、それをユメが今は自分が使いやすいように火、水、風、土、光、闇の六属性に変換しているに過ぎない。
「血が出るなら殺せるはずだ」は映画「プレデター」の有名なセリフからです。




