決戦直前
結局、ヒロイが一番遅く戻ってきて、女子力バスターズは一週間ほど後に再び魅惑の乾酪亭に揃った。
いや、正確には女子力バスターズにアストリットを加えた七人だ。
その一週間の間に軍の代表が北伐の報酬の宝石を「魅惑の乾酪亭」に持ってきたので、ユメはできるだけ高級な宝石を錬成しておいた。
自分でも驚いたが、いつの間にか母でさえできなかったSS級の宝石を錬成できるようになっていた。
そして、「決してギリギリまで使わないこと」を約束して自分以外の六人にもSS級の宝石を飲みやすく丸く削って渡しておいた。
ヒロイはともかく、宝石を飲んで竜の力を得るのは本当に最後の手段だ。
しかし、そうまでしてもあのトータル・モータル・エルダードラゴン、トモエに勝てる保証はなかった。
まず、ドラゴンとしての姿を晒しているのを見たことすらないのだ。
「何回でも挑んでいいと言われたわ。まずは戦場視察のつもりで試してみてもいいはずよ」
「この、じいちゃんが打った刀、あのトモエ……に通じるのかな」
ヒロイが、出会ったときから使っている愛刀を見ながらつぶやく。
「スラムにいるときはこんな人生になるなんて想像もしてなかったぜ」
ヨルが自分の胸元の忌み子の烙印をなぞり、独り言つ。
「天上帝陛下、あなたはどうしてこの差別のない国を作ったのでしょう?」
オトメがぽつりと口にした。それはまるで唯一神に問いかけているようであった。
「……トータル・モータル・エルダードラゴンを討伐するための軍隊には銃士も組み込まれていたというわ。つまり、銃の力は竜にも通じるはず」
一番長い台詞を発したのは、意外にもハジキだった。
「スイの、わたしの『冒険者になる』って夢、もう叶ってる。でも冒険はまだ終わってないの」
スイが普段より大人びた声で言った。そういえばもう声変わりの時期だろうか。
「それにしてもとんでもないことに巻き込んでくれたものね」
唯一女子力バスターズでないアストリットが諦めがちにそうぼやく。
しかし、彼女と共に戦えることは嬉しく思う。
「行くわよ」
皆の言葉に対するユメの返事は短かった。
しかし、それでも全員が大きくうなづいた。
巨塔を覆う壁まで七人で歩き、門番に「天上帝に謁見に来た」とはっきり言ってやる。
話は通っていたのか、門番はさして驚くでもなく、「ご武運を」とだけ返して通してくれた。
みなは巨塔の中に入り、長い螺旋階段を上っていく。
途中、スイの両親、リッチのクォーツとその妻、師匠たるクリスのいる部屋を通った。
「死なないでね」
クリスはただそれだけを言う。
「もっちろん!」
実子で、幼いスイだけはそんな反応をするかと思ったが、彼女は母の方をちらりと見るだけで何も返さなかった。やはり緊張しているのだろうか。それとも、精一杯背伸びをして見せているのだろうか。
やがて、階段が途切れる。
途切れた先には大きな奥開きの門があり、否が応でもその奥が天上帝のいる場所だと分かった。
ユメは言葉もなく、門に手をかける。開けるのに力は要らなかった。
門を開けた先は広い空間になっている。なるほど、ここならドラゴンが戦ってもその動きを阻害されてることはないだろう。
その広い空間に居たのは二人。
一人は想像していた通りの人物だった。
妙齢の女性の姿を取り、いつも怪しげな言動でこちらを煙に巻くチャイナドレスの、正体はトータル・モータル・エルダードラゴン、トモエ。
もう一人は、どこかの国の民族衣装のような服を着た黒髪ロングヘアの少女だった。年齢は十を数えたかどうかというところか。
少女の方が口を開く。
「ねえトモエ、ウチも観戦しててもいいよね?」
まさか、この少女こそが天上帝だというのだろうか?
世界観補足説明
巨塔の高さ:ざっくり東京タワーくらいのイメージで書いてます。




