それぞれの帰郷
「まず、今から塔を登ってあなたに挑戦するというのは遠慮させてください。いくらなんでもいきなりすぎます」
「そうよねえ」
「皆も異論はないわよね」
ユメがヨル、ヒロイ、オトメ、ハジキ、スイの顔を順に見ていくと五人とも賛成のようだった。
「あ、アストリットちゃんも一緒にかかってきて構わないわよ」
そこで、トモエは意外なことを言った。
「は……?」
アストリットが素っ頓狂な声を上げる。
「陛下がゾーエ討伐パーティ選考試合決勝戦を見ていて、その方が面白そうだろうからって」
「で、でもパーティは六人で一組……」
「それは冒険者のルール。今はナパジェイの皇帝が自分が楽しむためのルールを決めているのよ。ついでに言えば、生きてる限り何回挑戦してもいいわよ」
とにかく、これで七対一になった。有利にはなったが、いいのだろうか?
「わ、分かりました。それじゃ遠慮なく七人がかりで何度でもいかせてもらいます。それから、わたしたちはこれからそれぞれの会いたい人のところへ帰りたいんですけど。許してもらえるんでしょうか?」
「もちろんよぉ、挑むタイミングはそちらに任せるわ」
よかった。
これで宝石錬成などの時間は稼げる。
「そういうことだから、今日は解散! わたしは『魅惑の乾酪亭』に帰るけど、会っておきたい人がいる人は会っておいて」
ちなみにユメは自分が両親に誇れる冒険者になるまでは故郷に帰らないと決めている。だから、今の帰る先は『魅惑の乾酪亭』なのだ。
「おいおい、死亡フラグみたいなこというなよ。ま、アタイは久しぶりにじいちゃんばあちゃんの顔見に帰るけどな」
ヒロイがユメの言葉を受けてそう言った。
「スイは、わたしはパパとママに会ってくるね」
スイが言って巨塔の中に入って行ってしまう。
そうだった。彼女の両親はこの巨塔の中で執務をしているのだった。
それにしても自分のことを名前で呼ぶのは子供っぽいと気が付いたようで最近は一人称を「わたし」に切り替え始めたようだ。
「……じゃあ私は久しぶりにウェッソンの店に」
「うん、ハジキちゃん、ウェッソンさんにもよろしく」
ユメは歩いて行くハジキの背にそう声をかける。
オトメも声を上げた。
「あの、わたくしはアシズリ司祭に挨拶したく……」
「もちろん。早く行ってきなよ」
「あたしは宿に帰るぜ。スラムになんか帰ってやる義理はねえ」
ヨルはユメと一緒に『魅惑の乾酪亭』に帰るつもりのようだ。
アストリットも同じらしい。
「あのチーズ料理、もう一回食べたい」
「どーかん!」
そして、ユメ、ヨル、アストリットの三人は『魅惑の乾酪亭』に二年ぶりに凱旋した。
キィ、と懐かしいウェスタンドアをくぐると、がらん、とした空気が漂ってくる。
「いらっしゃ……、ユメ! ヨル! 帰ってきてくれたのか!」
相変わらずの樽体型の亭主はユメたちの姿を認めると、カウンターを乗り越えん勢いでこちらに走ってきた。
「まさか、お前たち三人しか生き残らなかった、訳じゃないよな?」
「他の皆も全員無事よ。家族の顔を見に行っただけ。それにしてもなによこの閑散ぶりは」
「お前らがいてくれた間は結構客も冒険者も来てくれてたんだ。だけど北伐に行ってからだんだん足が離れちまってよお……」
亭主は床に膝をついておいおいと泣き始めた。
「この宿、食事はすごく美味しいのに、なんでそんなに人気が無いの?」
「俺が聞きてえよ、そんなこと。それより再会を祝って一杯やるだろ? すぐに食事も用意するぜ」
「全員揃ってなくてごめんね。そのうち皆帰って来ると思うから」
その夜、久しぶりに『魅惑の乾酪亭』のチーズ料理と酒に舌鼓を打ち、懐かしいベッドで眠った。このベッドも一時期は自分以外の冒険者が使っていたのだろうか。
補足兼宣伝
ユメの両親および故郷:拙作「ある差別なき国の伝説の魔法少女の前日譚 その血はいかにして絶えなかったか」で詳しく書いています。




