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アストリットの秘密

お待たせしてすみません。

第3章は書きながら投稿になるのでスローペース維持になると思いますがお付き合い頂ければ幸いです。

 ユメたちは二年ぶりにゾーエから帝都キョトーに戻ることになった。


 実は、キョトーからはすでに結構な数の軍を含む政府関係者がリモーアまでは来ており、彼らに話をしたら馬車でキョトーまでは送ってもらえることになった。

 さすがに最上位魔法のワープやテレポートを使えるほどの術士は来ていなかったらしく、馬車での移動になる。


 御者や軍の人々からの称賛を受け、女子力バスターズとアストリットは照れたが、悪い気はしなかった。


 なにせ、ゾーエの先住民族であるカムイの民の代表たる巫女になってきたのだ。


 出会えたカムイの民には全員からナパジェイの民になったと認めてもらえたし、手放しで褒められるのも無理はない。


 さておき、馬車の道中で、やっとアストリットとのんびり話せる時間を作れたユメは、どうして彼女が大陸からナパジェイのような辺境、それも呪われし島などと呼ばれるこの列島にやってきたのかを訊いた。


 エルフが冒険者をしている理由、出身地、精霊召喚、さらには自然の民との精神感応による会話能力など、彼女には未だに謎が多すぎる。


 アストリットはまず自分が普通のエルフではなく、生まれつき自然との感応能力が高すぎる異端児であったことを明かした。


「人間でも周りと違う子供はのけ者にされるでしょう? ナパジェイではそうでもないのかもしれないけど」

「たしかに大陸では忌み子を意図的に決めて差別をさせてきたらしいわね。わたしは生まれも育ちもナパジェイだからよく分からないけど」


 ユメにはそういった感覚は分からなかったが、ヒロイ、ヨル、オトメ、ハジキにはよく分かったらしい。


 スイは孤児院の子供たちに自分がアンデッドのリッチの子供であることを隠していなかったようだが、ナパジェイだからか、軋轢は生じなかったらしい。


 むしろ、親がいるのに孤児院にいて周りの子供たちからつまはじきにされてなかったこと自体がスイの明るい性格のなせるものだろう。


 話はアストリットに戻って……。


 ある日、アストリットは生まれ持った強大な力を使って世界を冒険してみたいと育て親である集落の長老に言ったとのこと。


 エルフとは閉鎖的な種族なので、普通は生まれ育った森の集落で約四百年の一生を終えるのらしいが、幸か不幸かアストリットは普通の子供ではなかった。


 そして、生まれ育った、大陸西部の歴史ある国、ド・クウィッツの暗い森を旅立ち、ひたすら何十年も東を目指したらしい。


 欧州を抜け、黄金の道(シルクロード)を辿り、ネテルシシを抜けアリコの港からナパジェイの港町ガサキに辿り着いたとのこと。


 生まれつき変わり者であるアストリットははみ出し者の楽園、ナパジェイなら居場所があるのではないかと思ってまずは帝都に行き軍で冒険者登録しようとしたら受付の勘違いでゾーエ北伐選考試合に出ることになってしまった……、と。


 ちなみに年齢を尋ねてみたら六十七歳という人間にしては老人な、エルフにしては若輩な返事が返ってきた。


 ユメたちも、旅立ってから二年経っているので揃って二歳歳をとっている訳であるものの、出会ったときは六十五歳だった訳だ。


「へえ、結構なババアだったんだな。初めて会った時はガキだと思ったのが懐かしいぜ」


 ヨルがあまりに無遠慮に口を挟む。


「それはいくら何でも、失礼じゃない!? ヨルちゃん!」


「いいのよ、人間の感覚で言えばもう年寄りって自覚はあるわ。その代わりあと三百年は生きるわけだしね」


 老人扱いされてもアストリットは気にした様子はなかった。


「けど、冒険者なんていつ死んでもおかしくない職業だぜ? アタイらが一人も欠けずにこうやって凱旋できてるのはかなり運がいいことなんだって分かってるのかよ」


 パーティの中で一番死線をくぐっているヒロイがからかうように言う。


「そうね。旅中に臨時で組んだパーティが私以外全滅したこともあるわ」


 だから、仲間の死には慣れてるつもり、と過ぎ去った過去を振り返るように天を仰ぎながらアストリットは返した。


「私だけはウッドフォークで身を守ることで生き延びたのよ。あなたたちと組んでるときも常に自分の安全を最優先してたわ」


 それは嘘だとユメにはなぜかわかった。アストリットはユメたちと一緒に戦うときもウッドフォークで皆を守ってくれた。先程ヒロイが言ったようにアストリットがいなかったら今ここに全員は揃っていなかっただろう。


 そのあたりを指摘するとアストリットは、


「それは誰がいなくても同じことだったでしょ。強いて言えばあなたの指示に従っただけ。だから皆が欠けずに来られたのはユメのおかげじゃない」


 珍しく照れたようにそっぽを向いてそう言った。

 ユメは直感する。彼女は、今まで本当に仲間というものを持ったことがなかったのではないかと。


 もし、自分たちがアストリットの初めての仲間になれたのだとしたら、それは心の底から嬉しいことだと思うのだった。


 ああ、どうしてパーティは六人までしか組めないのだろう?


 女子力バスターズに空きがあれば、迷わずユメはアストリットを七人目の仲間に誘うのに。

世界観補足


地名の由来

アリコの港:韓国、コリアの逆さ読み。大陸の東端の半島にある港町。ここまで来ればナパジェイまで船ですぐです。

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