新たな巫女、誕生
「お、おい、ユメってあんなに強かったのか……?」
少し離れた客席から見ていたヨルがおののきながらヒロイに問う。
「あいつ、人間のくせに宝石を飲みやがったな。あのゴブリンどもとの戦いのあとからおかしいと思ってたぜ」
「宝石を飲んだ……? それはどういうことですの?」
オトメもユメを畏怖の目で見ながら訊く。
「竜ってのは宝石を食うんだ。そして食った宝石の分だけ強くなる。だが、人の身でそれをやると寿命が削れるばかりか、精神がおかしくなっちまう」
「じゃあユメお姉ちゃんは今自分の命を犠牲にして戦ってるの?」
「そうだスイ、お前に目の力を使うなって散々言いながら自分は命を削ってやがる」
『勝者、ユメ! 他の選手全員死亡により、掟に従いユメをカムイコタンの新たな巫女に据えることをここに宣言する!』
当代の巫女がその老齢に似合わぬ大きな声で宣言する。意味は分からないが大意は合っているだろう。
戦いは終わったのだ。
最も、今の巫女の台詞もアストリットが通訳してくれなければヒロイたちには何を言っているのか分からなかったが。
周りに生きている者が誰一人いなくなった時点でユメは戦いを止めていた。止めることができた。
前にS級宝石を飲んだときはもっと興奮状態が続いた気がする。
A級にしておいてよかった。しかし宝石飲みは本当にとんでもないチートだ。
そして闘技場の円石から降りると、当代の巫女の元へ歩いて行った。
「アストリット、通訳」
振り向き、アストリットに言うと、アストリットがユメの隣まで歩いてくる。
『これで今日からここのカムイの民の巫女はわたしね。コンサド島にいるカムイの民は皆ナパジェイの国民として迎え入れるわ。心配しないで、ナパジェイは差別なき国。あらゆる種族、民族を拒んだりしないわ』
『うむ、新たなる巫女よ。全ての決定権はそなたにある。そしてわらわが持つ自然から力を、そなたらのいうところの“魔法”を使う能力を授けよう』
ユメが巫女の言葉に逡巡していると、巫女は掌をユメの額に向け何やら唱える。
不思議な力が体に宿ったことが自覚された。
これでユメも自然を触媒に魔法を使えるようになったということだろうか。
そうこうしている間にアストリットが通訳してその場にいるカムイの民全員に告げる。
『カムイの民の巫女として宣言する! あなたたちはたった今よりナパジェイ帝国の臣民である!』
『新たなる巫女様の仰せの通りに!』
『仰せの通りに!』
さて、これで大きな問題が一つ、片付いた。
「なあ、ユメ。何も宝石を飲むことはなかったんじゃねえか?」
すべてに決着がついたのち、ヒロイが言ってくる。
ここはカムイコタンの巫女の寝所だ。女子力バスターズとアストリットを呼んでこれからの方針を話し合うべく集まってもらった。
「あ、ヒロイちゃん、気が付いてたのね。元々師匠から『北伐するときにどうしても必要になったときの最後の手段』として教えられていたものだし」
「あの宝石を飲んで強くなるのは誰でもできるのか?」
ヨルが興味津々で訊いてくる。
「一応ね。やったら寿命が縮むからなるべくやらないに越したことはない手段だけど。あと、宝石がうまく体に適合しないと駄目みたい」
「そううまい話はないって訳か」
「……ユメ、できれば、もうやめて」
ハジキがぽつりとそう漏らす。その瞳の端には涙が溜まっていた。
世界観補足説明
宝石飲み:作中で言っている通り竜以外の種族が行えば寿命が縮む。竜人の場合も寿命が縮むが、人間などに比べると副作用が少ない。ただしヒロイは角なしのため影響が普通の竜人より大きい。




