またやっちゃいました
当日までユメは開拓は控えて宝石の節約と修行に励んだ。
相手はヒロイとヨルだ。少しでも剣術の腕を上げておきたい。
田畑を耕すのは開拓民でもできたし、ツーコンの制御はロケウに任せた。
ちなみにツーコンはこの話を聞くと、「フハハハ、肉体的に強くなりたいのならドーピング薬を作ってやるぞ、副作用は保証せんがな!」などと言って喜んでいた。
ロケウがそれを聞いてまた噛み殺そうとしたことは言うまでもない。
しかし、彼がいわゆる回復薬の生成に成功していたのは事実なので、それらのうち人間が服用して安全性が確認されたものは何本か瓶を受け取っておいた。
毎日修行で切り傷だらけになって帰って来るユメにオトメは回復魔法をかけてくれようとするのだが、それらが必要ないほど、ツーコンの回復薬はよく効いた。あの狂人、やはり、悲しいかな天才は天才らしい。
ハジキは気心の知れてきた開拓民に自作の銃を渡し、野生の動物や鳥を狩ることを教えていた。スターホールの城にも鍛冶技術は浸透してきて、本島から鍛冶師も何人か招き寄せたのだ。
スイはフジさんと二人開拓に精を出しており、おかげでホクト地方はもう本島の地方都市と変わらないくらいの文明レベルになった。村もクラブバトル村以外にもいくつかでき、元留守番たちはそれぞれの村の初代村長に収まった。
開拓が順調であればあるほど、ユメの心には不安が募っていく。
もしここで自分が儀式という名の決闘で殺されでもしたらすべては水泡に帰すだろう。
そうこうしているうちに、とうとう儀式の日がやってきた。
一か月であまり上がったとは思えない剣の腕。力量の分からない他の巫女候補たち。不安はいっぱいだったが、カムイの民たちと過ごすうちにわかったこともある。
まず、カムイの民はアストリットと同じく宝石を使った魔法は使えないこと。その代わりにシャーマニズムという自然の力を使った謎の術を使うこと。
カムイコタンの地に仲間たちと共に辿り着いたユメはまず円形をした石舞台の上に並べられた。
人数はユメを入れて八人。自分以外の七名を全員を倒せば晴れてカムイの巫女だ。
極寒の地にもかかわらず薄着なゴリラみたいな毛深い女性。肌を出さない細身の女性。いかにもシャーマンと言ったいでたちの顔に呪術めいた化粧をした女性……参加者は様々だった。
祭壇らしき場所に座った今にも死にそうに見える枯れた老婆がこちらには意味の分からない言葉でなにやらつぶやくと、戦いの開始の合図が示される。
仕方ない、全員ぶっ飛ばそう。
ユメはそう決めて炎の宝石を使って自分の周りにエクスプロージョンの魔法を放った。
しかし、カムイの民たちはびくともしない。光の壁で身を守っていたり、自前の脚力で踏ん張っていたり、とにかく普通の魔法は効かないらしい。
そうこうしているうちにカムイの民の女性の一人が石槍でこちらを突き殺しにかかってきた。
他のカムイの民もまずはよそ者であるユメを集中狙いで倒すつもりのようだ。
四方から光をまとった矢が飛んでくる。狩猟民族だけあって弓の名手も参加しているらしい。
ユメは諦めた。
こんな手の内も分からない謎の部族の屈強な巫女候補たちとまともにやり合ってられるか。
掌に戦いが始まる前から握っていたA級の炎の宝石を飲み込む。
師匠も「死ぬよりマシ」ってときのために教えてくれたので、今がまさにそのときだ。
ゴブリンキングとやり合ったときは咄嗟だったので飲み込むときのことなど考えなかったが、今度のは丸く磨いて飲み込みやすくしてある。
飲み込んだ瞬間、ユメの体が熱くなる。
周りから飛んでくる矢が体に当たっても痛くもかゆくもない。
ユメはカエサル戦から再度竜の力を得た。
まずは一人、ゴリラのような体躯の巨女に飛びかかり、その頭を掴むと地面に叩きつける。
そして、安全圏から光の矢を飛ばしていたシャーマンらしき女性の元まで、文字通り飛ぶと右手を振りかぶり爪で脇腹を抉った。
自然の掟は弱肉強食。戦いで死のうがこの民族には本望だろう。
このときのユメはもうそんなことは考えていなかった。
口から火球を吐き出し、弓使いを丸焼きにすると、他の候補者たちを虐殺していく。
世界観補足説明
シャーマニズム:カムイの民が使う宝石を介さない独自の魔法。自然そのものから力を取り出し、行使する。どちらかというとアストリットが使った精霊召喚に近い。




