カムイの巫女
そろそろ第二章も終わりです。
『カムイ、自然の掟は弱肉強食。我らより弱い者と共存することはできぬ。そなたらの代表と我らの代表の決闘で勝てば共存の意を飲もうではないか』
「ユメ。……ということらしい」
アストリットがこちらを向いて言う。
そなたらの代表、とはもう紹介してしまった以上、ユメしかいないだろう。
『なお、我らの代表はここにはおらぬ。コンサドカムイの巫女故、狩りには出ていないのだ』
巫女、つまり女か。ユメは少し安心した。正直、こんな弓の名手揃いの手練れの男の相手など、ヒロイやヨルなどの他のメンバーに任せたい。
相手が女でしかも巫女ならおそらく伝承に聞くシャーマンかなにかだろう。対魔法戦なら自信がある。願わくば足腰の立たないお婆ちゃんであればいいのだが。
『実は、我らの巫女はもうすぐ代替わりの予定なのだ。今の巫女は老齢でな。もう長くない。生あるうちに次代の巫女を選ばねばならぬのだ。一か月後、我らの新しい巫女を選別する儀式が執り行われる。そこなユメなる娘にもその儀式に参加してもらうぞ』
「えっ、なんでそうなるのよ? 一対一で勝てばいいって言ったじゃない!?」
『平時であればな。だが、今老いた巫女を決闘の場に立たせるわけにはいかん』
アストリットの通訳でユメはカムイの民の代表に文句を言ったが、話は勝手に進んでいく。
『巫女の選別方法は戦い! 候補者入り乱れての戦うのだ! それで生き残った者がコンサドカムイの民を治める巫女になる。ユメとやら、お前が我らの巫女になれば最も丸く収まるのではないか?』
「収まらないわよっ! よしんば勝ててもなんでこんな北のド田舎の島で巫女なんかやって一生を過ごさないといけないのよ!?」
『巫女の言葉は絶対だからな。もし巫女がナパジェイとやらから来た支配者に従えと言えば我らは従う。巫女の行動にも制限はない。冒険者も続けたければ続けよ』
「なによそのふわっとしたシステム」
「ユメ、もう腹くくれよ。途中でもし負けたら負けたで新しい巫女に改めて喧嘩売ればいいんだからよ」
ヒロイが無責任にそんなことを言う。
「それに巫女になれればこの島のカムイの民、全員お前の家来だぜ。大手を振って天上帝に謁見できるだろ」
ヨルも自分が巫女になる可能性はないからか、勝手なことを言ってきた。
「そ、そうだわ、アストリット! アストリットが巫女選抜試合に出てよ! 自然に祝福されてるんでしょ? わたしにはカムイの民を率いる資格なんてないわ」
「自然の掟は弱肉強食。ユメは私に勝ってる。それに私は大陸の民、ナパジェイには国民登録してないわ」
「そ、そんなぁ~……、オトメちゃん? ハジキちゃん? スイちゃんでもいいから誰か助けてよお……」
「申し訳ございません。ここは皆さんの言う通りになさるのがよろしいかと……」
「……私、真っ向勝負に向いてないし、銃使うから自然の巫女なんてガラじゃない」
「大丈夫、ユメお姉ちゃんなら負けないよ!」
みんな優しいんだか冷たいんだか分からない反応だった。
『……話は決まったようだな。さっきも言った通り、儀式は一か月後、ここより北東にあるカムイコタンの地で開かれる。敗北は死だ。そのつもりで準備しろ。そうだ、カムイコタンには今から案内してやろう。場所が分からなくては来られないだろうからな』
カムイの民の勝手な言い分をアストリットが念話で伝えてくる。
「うう……、みんな、試合前に手持ちの宝石全部渡しといてよね」
ユメは観念してぽつりとつぶやいた。
師匠から禁じられた宝石飲みもまたやらないといけないかもしれない。なんせ、今回は負けたら殺されるのだ。手段は選んでいられない。
なんかとんでもない展開になってしまった。
世界観補足説明
カムイコタン:そのまんま、アイヌ語で「神が住む地」。現実には北海道の旭川にある。




