表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/104

奇妙な共闘

 ユメは状況がうまく掴めなかったが、予想するに、この三人はヨル捕縛の依頼を受けて返り討ちにあった冒険者パーティ、といったところだろう。


 そして、自分たちだけじゃ勝てないから用心棒として食人鬼(オーガ)を連れてきたのだ。

 

 まったく、プライドもへったくれもない。


「そいつはうちの仲間を殺しちまったんでな。詫び入れさせるために犯して殺してから『先生』に食わせることにした」


 人間の癖にモンスターである食人鬼を「先生」呼ばわりだ。


 まあ、ナパジェイでは「力」さえ示せれば生きていけるので、この食人鬼も食人鬼の中でもそれなりの腕利きなのだろう。


 はて、どうしたものやら。


 無論素直に、「はい、どうぞ」と渡してしまうと依頼は失敗になる。


 かといって、ヨルと戦い、消耗した今の自分たち二人だけでこの冒険者三人と、食人鬼一匹に勝てるだろうか?


「もが、もがもが、もが」


 と、近くでそんな声が聞こえた。


 猿轡を噛まされたヨルが発したものだ。


 縛られた脚を必死で伸ばしたり曲げたりしている。


 これは、どういう意図だろうか?


 自分のことなど放って置いてさっさと逃げろという意味だろうか。


 それとも縛っているのを解けと言っているのだろうか。


 ユメは試しにヨルの猿轡を取ってみた。ヒロイは前の冒険者たちをけん制し、ユメを止める様子はない。


「ばっきゃろ! さっさと行けってんだよ! あいつらが用があるのはあたしだ、てめえらは尻尾巻いて逃げ出せば助かるだろうが!」


 やはり、ヨルは自分たちに逃げ出せといっていたらしい。


「ここは『()()()()』のナパジェイだ。あたしは今までやってきたことの責任を取る! 邪魔すんじゃねえ」


「『()()()()』……」


 ユメはヨルの言った言葉を繰り返した。


 そして、ヒロイの方に向き直った。


「あんだよ」


「ね……、この娘を放して、この場を切り抜けない?」


「せっかく捕まえたのに、渡しちまうのか?」


「そうじゃないよ。二対四なら勝ち目は薄くても、三対四なら勝率は上がると思わない?」


 ユメは次は、ヨルの方を向く。


「ヨルちゃん、って言ったっけ。その拘束解くから、あの連中倒すの手伝ってくれない?」


「ああ?」


 普通に考えたら常識外れな提案だった。


 しかし、ヨルは獰猛に笑ってみせた。


「あたしを解放して、また剣を渡すってのか?」


「うん」


「あたしはすぐとんずらこくかもしれねえぜ?」


「いいよ、そのときはわたしの()()()()


「仮にあたしが味方してもあの食人鬼に勝てるとは限らねえ、そうなったらてめえも犯されて食われちまうぞ」


「だろうね。でも、これが今一番勝率が高いの」


 そこで、ヒロイが口を挟む。


「あの冒険者どもはともかく、食人鬼は長い時間止められねえぞ。さっさと決めろ」


「そっちの竜人までその気かよ。ついさっきまで殺しあってたんだぞあたしら」


 そう言っている間にユメは腰のナイフでもうヨルの上半身の拘束は解いていた。


「ええい、なんか知らねえが、てめえら、かかれ!」


 冒険者連中が痺れを切らして襲い掛かってくる。その段平をヒロイの刀が受け止めた。


 後ろの食人鬼はまだ動かないままだ。


「ほらよ、食人鬼さん、最初のエサだ」


 一人目を切り伏せ、しっぽで食人鬼のほうへ突き飛ばすヒロイ。


 彼女の言う通りだ。「人肉が食えれば満足」などという倫理観のモンスターに、人間に対する仲間意識などあるまい。


 しかし。


「こいつら、()()()


 驚いたことに、食人鬼は冒険者を受け止め、食いもせず安全に寝転がした。


「びっくりだ。こいつ律儀に人間からの報酬分の仕事しようとしてるぜ」


 ヒロイが残り二人の剣を受け止めながら、戦慄している。


「おい、剣を寄越せ」


 上半身は自由になったヨルがユメに言う。ユメは抜き身のショートソードを渡してやった。

 そして、次の瞬間、ヨルは自分の足を拘束していた物乞いのズボンを切り裂くと、刹那の間にヒロイが相手をしていた冒険者の胸を刺し貫いた。


「はやっ……」


 ユメはあまりの速度に驚く暇もなかった。これは冒険者で言えばヒロイと同じ苦無級、あるいはもっと上の小刀級か脇差級以上かもしれない。


「もう一本も投げろ」


「いや、必要ない」


 ヨルが空いた左手でユメから剣を受け取ろうとしている隙に、ヒロイは刀でもう一人の冒険者の胴を輪切りにした。


 並大抵の腕力でできることではないが、やはり、ヨル同様ヒロイの剣の腕も普通ではない。


 ユメは一応ヨルに従ってもう一本のショートソードの方も放っていた。


「よっしゃ、これで残りはデカぶつだけだ」


 ユメが投げた剣を左手で器用に逆手で受け取ると、ヨルはそう言った。


「って、一緒に戦ってくれるの?」


「別に、あたしはあたしの客の相手をしてるだけさ」


 雇い主が全員斬られ、食人鬼はどうするのかと思いきや、次の行動は全く予想だにしないものだった。


()()()、一人まだ生きてる。アースリィ・ヒーリング!」


 なんと、あの食人鬼、魔法を使って最初にヒロイが斬りつけた雇い主の冒険者を回復したのである。


 その精神性にも驚かされたが、特にユメは食人鬼が回復魔法を行使したことにも唖然としてしまった。それも、比較的効果の大きい土属性の回復魔法をである。


 食人鬼が戦うときは基本的にその巨大な体躯を使って素手で戦い、まして人間を相手にするときは殺してから食らうことを前提にしているのでまず胴を引きちぎってはらわたを引きずり出す。


 食人鬼とはそういう生き物だ。それが、金で雇われた、という理由で死にかけている人間を生かしたのである。


「えらいこっちゃ。ヒロイちゃん、次にあの冒険者のおっさんを斬るときは一撃で仕留めて」


「簡単に言うなこら。アタイは殺す気で斬ったさ」


「ま、ここはあたしが見本を見せる必要があるみたいだね」


 そこへ、ショートソード二本を構えたヨルが前へ出てヒロイと並んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ