カムイの民
洋館の厨房ではハジキが銃で狩ってきた野鳥をオトメが下ごしらえしていた。
スイはフジさんと一緒に別の方角の開拓に精を出しているらしく、不在だった。
アストリットは森のクラブバトル村に常駐している。あそこで村長たちを中心とした開拓民に森での暮らし方を教えているらしい。
ユメはまずハジキとオトメに状況を説明した。
しかし、亜人のオトメも、魔族のハジキもこんな僻地の土着民族のことなど知らないらしく、首をかしげるばかりだ。
「知ってる可能性があるとしたら、ツーコンね。一旦七人集合してからスターホールの城で作戦会議しましょう」
そして、スイが帰ってくるのを待って、クラブバトル村でアストリットを拾って、森を南下した。
その最中に、アストリットが思い出したように言う。
「それ、多分『カムイの民』だと思う」
「え、『カムイの民』?」
「自然を神と崇めるアニミズムの民族。大陸北東部にいる少数民族なんだけど、コンサド島にもいたのね。『イムカ』って言うのは神、つまり自然の祝福を受けていない人間、って意味よ」
「すっごーい! アストリットって物知り! ひょっとして言葉が分かったりする?」
「会話したことはないわ。ただ、魂同士の対話術で私ならコミュニケーションが取れると思う。ただ、金銭の概念がなくて物々交換にしか応じない民族って話だわ」
ユメは思わずアストリットを抱きしめ、叫んだ。
「アストリット! あなたが北伐に参加しててくれてよかったわ! 本当に助かった!」
「ちょっと、離しなさいよ!」
ジタバタと暴れるアストリットを抱きしめたまま、ユメは今後の方針を話す。
「じゃあ襲われた辺りまでアストリットを連れて行って、後はテレパシーででもなんでも対話してもらいましょ。こっちに敵意がないって伝わらないと話が進まないわ」
「おいおい、いちゃいちゃしてるとこ悪いが、ここから戻って今から行くのかよ?」
ヒロイが大量の矢の雨から皆を庇ってくれた傷跡を押さえながら、嫌そうに言う。
傷は道中にユメが塞いだのだが、問答無用で射かけられたので苦手意識ができてしまったらしい。
やっとアストリットを離したユメがそれを聞いて提案する。
「それはこっちも手土産を用意するため、一旦スターホール城に戻るわよ。どうしても敵対するって言うなら戦うしかないけど、会話が成り立つなら物でやり取りしてなんとか共存の機会を作りましょう」
「まあユメは変わり者に好かれるからな。それに『カムイの民』だからって差別してたらナパジェイの国是に反しちまう」
「ねー、そのカムイの民って種族としてはエルフに近いの?」
スイが好奇心旺盛にアストリットに質問する。
「いいえ、種族的にはナパジェイや大陸の人間と同じよ。ただ、考え方がなんでもかんでも自然中心なの。自然が神様で、自分たちが生きていけるのは自然から恵みを分けてもらってるから、って考えてるのよ。エルフの精霊信仰とは微妙に違うわ」
「そもそもスイ、エルフの知り合いがアストリットお姉ちゃんしかいないからなあ。お姉ちゃんのこともあんまり教えてもらってないし」
そうだ。そこで、ユメはアストリットに自身のことを色々説明してもらいたいと思っていたことを思い出した。
あれは、決勝戦直前に顔を合わせたときだったか。「一緒に北伐することになったら道々話してあげる」と約束してくれたではないか。
そういえばこうして七人揃うことすら久しぶりな気がする。
アストリットが合流してからはフロンティア事業は分業していることが多かったし、最初みたいに女子力バスターズが六人仲良くくっついていることも減った。
そこで、久しぶりにスターホールの城に戻ったらまず旧交を温めるべく、今度こそ待望の酒で乾杯する。
雑用たちや開拓民たちが森で採ってきてくれた山ブドウを踏み潰した後ツーコンが作った酵母で発酵させたワインで、である。
衛生面はあんまりよくないかもしれないが、しっかり酒として熟成されており、酔うのに差し支えはなかった。
「あとはとっつぁんの作ったチーズ料理があれば完璧だな」
ハジキがハントした野鳥の肉をかじりながらヒロイが星を見上げて言う。
「そういえばもう半年くらい帝都にも帰ってないわね……。とっつぁんやサガ、ウェッソンさんやクリス師匠たちは元気かしら?」
「……まあ、元気でやってるだろうよ」
「そういえば、あの酒場でヒロイちゃんと会って初めてパーティ組んで、スラムに行ってヨルちゃんと戦って……、オトメちゃんが加わって……、ハジキちゃんと会って……、遺跡に行って……、スイちゃんが入って……。トーナメントなんかに出ちゃって、まだ一年も前じゃないのよね。すっごく濃い時間だったわ」
ユメは柄にもなくセンチメンタルな気分になってしまった。
世界観補足説明
カムイの民:言うまでもなく、アイヌ民族がモデル。




