フロンティア・ホクト
そういえば、ツーコンの実験体の中で、本人曰く「あのゾーエウルフやジャイアントクラブ以外では最高傑作」と言っていた不老不死のアンデッドがいた。
元冒険者をアンデッド化した者らしく、少し知能が残っていた上に、どんな傷を受けても即座に直り、太陽の光の下に出ても死なないのでツーコンは大変お気に入りだったらしい。
リッチでもヴァンパイアでもなく、単なる怪力だけが取り柄の、ただのアンデッドだ。
見た目はツギハギだらけの大男だった。顔だちは悪くないのだが、言葉も片言でしか話せないので、いまいち人間扱いしにくい。
「マスター、かわた? じゃあ新しい、マスター、誰? 俺、何、すればいい?」
「じゃあ森に行って食べられそうな物採ってきて」
「了解した」
「なんか随分パパとは違うアンデッドだね」
スイがそう感想を漏らす。
時々忘れそうになるが、スイはアンデッドと人間の子供なのである。あの理知的で政治までこなす父を見て育っていると、本来の「アー」とか「ウー」しか言えないゾンビなどの、言い方はおかしいが、普通のアンデッドはさぞ異様に映るだろう。
ツーコンはあの大柄なアンデッドにも名前を付けていなかったので、スイをマスターと認識させ、名前を付けさせてあげることにした。
子供にはこういう情操教育も重要なのだ。
「じゃあ、フジ! ナパジェイで一番高い山の名前だよ!」
「あっ、いいわね」
また「グレイトフル・デッド」とか言い出すかと思ったが割とまともな名前を付けたスイ。
「あなたの名前は今日から『フジ』さんだよ。さん付けで呼んであげる!」
「お、お、おれ、フジサン? フジさん!」
フジさんも自分の名前を気に入ったらしい。
「スイ、フジさんに名前くれた。だからスイ、お母さんで、マスター。何でも言うこと聞く!」
フジさんは、スイによく尽くし、食糧調達に、洋館の片付けに、街道の整備にと、よく働いた。
おかげでさらに一週間ほどが過ぎた頃にはツーコンの洋館を第二の拠点として次の北伐が進められる程度には状態が整った。
集落にも「クラブバトル村」などというおかしな名前が付き、木組みの家が何件か建ち、それなりに格好がついてきた。それに伴い、留守番一号を村長とし、雑用を何人か住ませて女子力バスターズがゾーエに開拓してできた初めての村になった。
念願の北伐の第一歩として、スターホールの城にみんなが揃ったある晩に、この一帯に名前を付けることを提案するユメ。
「ねえ、このあたりに地名を付けない? 本島から人がやってくるようになればこのあたりがゾーエ最初の大きな街になるわ。わたしたちで名前を付けておきましょうよ!」
「スターホール、でいいんじゃねえか?」
「それは城や港の名前でしょ。地名よ、キョトーみたいな」
「あー、今夜は星が綺麗だな……。こんな夜には酒が呑みたくなるぜ」
どうせ自分が提案してもユメには却下されると思っているのか、独り事みたいにヨルがつぶやく。
そういえば、今夜は星が特に綺麗だ。
「フハハハハハ、無学な君たちは星に名があることさえ知らないだろう」
「北極星くらいなら知ってるけど。旅するときに北が分からないと困るから」
呼ばれてもいないのに偉そうに会話に入ってきたツーコンに、ユメは返す。
「その北極星の見つけ方は知っているかね? あの柄杓の形をした星座を先に伸ばすのだ」
「北斗七星だろ。それくらい知ってるよ。アタイらがどれくらい旅してきたと思ってんだ」
「……ホクト」
ぽつりと、ハジキが呟いた。
「ハジキさん、今なんと?」
「……ここの地名、ホクトでよくない?」
「なるほど、『ホクト』か……」
「七つの星って訳ね」
そこに、聞き覚えのある声が入り込んできた。
世界観補足説明
この世界は地球が舞台なため、北極星も北極も南極もあります。




