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名もなき墓碑銘

最近仕事が忙し過ぎて、全然更新できませんが作品が忘れられる前にストックから上げておきます。

 まずはユメたちはツーコンが自分で建てたという黒い洋館をスターホールの城に次ぐ拠点に作り替えようと決める。


 雑用たちに森の道を整備させ、城から館への街道を作ろう。


 直進で進めればよいが、森の木を切り倒すと森の民エルフであるアストリットが来た時に怒る、と考えたのだ。


 そこでユメたちは自分たちが進んだ道を雑用たちに言って、なるべく歩きやすい道になるように脇に石を並べさせ、地面に石畳を敷かせた。


 なるべく木を切り倒さずに済むように、自然を傷つけないように。


 あの巨大蟹と戦った場所は木がズタズタになっていて道の体を成していないので小休止するための集落を作ることにした。幸い家を建てたりするための材木はそこら中に倒れている。


 アストリットは怒るかもしれないが、木を切り倒したのはユメたちではない。怒っても我慢してもらうしかないだろう。


 雑用が運んできた石を魔法で石畳に変え、集落の土にも敷いていく。


 ようやく、フロンティアめいた仕事になってきた。



 そして、作業を始めてから二週間ほどで、スターホールの城からツーコンの洋館までの道が繋がったのだった。


 ツーコンさえ変なことをしなければ森は安全そのもので、留守番も雑用たちも蟹と戦った集落での休憩を経て洋館まで来ることができるようになった。


 ただし、ツーコンの洋館の怪しげなカプセルに入っている実験動物の処理、これはユメたちの仕事だ。雑用に任せたら殺されて労働力が減ってしまう。


 ツーコン本人の言っていた脳から触手の生えた不気味な生き物、宙に浮かんだ黒いスライム状の生物、人面魚、巨大なハエ、羽の生えたヒグマ、太陽の下でも平気なアンデッド……、ちなみにみな人間の脳を移植しているという。


 さらにロケウが見聞きしている情報を監視できるらしい水晶玉のようなものもあった。ロケウが聞いていることが聞こえてくるラッパのような装置もあった。機械は苦手分野とか言ってなかっただろうか?


「……あいつ、これだけの技術力があるなら、新しい銃の開発でもさせたい」


 巨大カプセルを割って中身の哀れな気色悪い生き物を殺していると、ハジキがぽつりと漏らす。


 ツーコンは、その辺に生えている雑草やキノコから、治療効果のあるものだけを選別し、飲むと体力回復効果のある液体を作るのに夢中になっているのがその水晶玉の景色から見えた。


 本当に謎の技術力というか知識だけは持っているらしい。時折失敗して飲んだネズミが巨大化なり狂暴化して暴れ出したりするが、それに対処するのはロケウの仕事である。


 そんなわけで、少しづつツーコンの有能さが分かってきたユメたちは、洋館にあった怪しげな薬品は瓶に入れたままスターホールの城に持って行ってやることにした。


 あの蟹を縮小させたような割と画期的な薬もあるかもしれない。


 それに、適当に川などに流すと環境汚染になりかねない。


「おお、君たちは素晴らしい! 吾輩の成果物を持ってきてくれるとは! これなどいつか実験体に飲ませる日を楽しみにしていた作品だ! 効果は性て……」


「はいはい、まずはネズミで試すこと。いきなり人間に飲ませたりしたらロケウに噛ませるからね」


「うむ……、しかしネズミなどではすぐ死んでしまう上に、変化も小さいから面白みがなくてな。それに君たちのところの雑用くんたちとやらもほとんど街道の整備に向かわせているだろう? 実験体の供給が追い付いていないのだ」


「じゃああんたの洋館に住み付いていたネズミも駆除せずできるだけ捕まえさせて連れてきてあげるわ。それで我慢しなさい。どんな進化を遂げててもあんたのせいなんだから文句言わないことね」


 このように、ツーコンの扱いにもある程度慣れてきた。


 雑用たちでさぼりがちな奴には「ツーコンの助手にする」と言って脅すと元気に開拓に精を出すのであまりツーコンの研究に割いてやる人材がいないのだ。


 それより、一刻も早くツーコンの黒い洋館を新開拓拠点にできるように整備せねば。


 幸い、洋館のすぐ南の森では野鳥や、木の実、山菜がよく採れ、近くに川もあり魚も釣れたため食料には困りそうになかった。


 ツーコンが改造した変な実験体たちも、可哀想だったがあらかた駆除し、墓を建てて弔ってやる。


 脳を取り出された人間の末路は哀れなもので、頭蓋骨にぽっかり空洞を空けられて地下室にそのまま放置されていた。


 こちらの弔いはオトメが積極的にやってくれる。元々唯一神教の神官は葬儀も仕事に入っているので慣れたものである。


 雑用たちもさすがに死体を運ぶ仕事は嫌がった。オトメはそれを嫌がらず、皮袋に詰め、丁重に葬ってあげていた。


 おかげで洋館の脇の庭は墓だらけになった。墓碑銘を刻もうにも、名前が分からない者ばかりなので、ユメが石碑に


「ゾーエの開拓にその志を捧げし者たち、ここに眠る」


と彫ってやった。


 まあ、偽りではないし、後は定期的に花でも添えてやるだけだ。

世界観補足説明


この世界の墓:遺体を土に埋め、石塚を載せて名前を刻むのが一般的。キリスト教がないので十字架を立てたりはしない。

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