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本格的フロンティア開始なるか

 ツーコンは、ハジキのかすかな声にポケットをまさぐりながら答えた。


「二番目……、このジャイアントクラブだな。修理に少し時間がかかる。おや、もう吾輩の手持ちで最強の実験体は君たちに倒されてしまっていたか」


 白衣のポケットからすでに動かなくなっている蟹を取り出してツーコンはつぶやく。


 ユメはそれを聞いて内心ホッと胸を撫で下ろした。


 あの蟹より強いのがぞろぞろあの洋館の中にいるなんて考えたくもない。


「しかたない。『対話』に応じよう。あのゾーエウルフはいずれ返してくれたまえよ」


 ロケウをいずれ返せと言われて、「誰が返すか」と思ったがとりあえず黙っておいた。


 しかし、あの羽狼、そんなに強いのならあのスターホールの城の番犬――狼なのに番犬というのも変だが――にぴったりではないだろうか。


 あの城がツーコンに常に見張られるのは困るが。


 さておき、ユメたちが見てもガラクタだらけに見える洋館の中に通され、見た目にそぐわない筋力で食堂らしい部屋にテーブルと椅子を運んできたツーコンに促されてユメたちはテーブルに着いた。


「さて、実験体以外と接するのは帝都以来でね。会話がうまくできる自信がない」


 ツーコンはまずそんなことを言った。


「あなたも帝都に?」


「うむ。吾輩は元は軍お抱えの研究者だった。それが色々と難癖をつけられて辞めた末に自由に研究をさせてもらえる地を探し回ってここに落ち着いたのだよ」


 きっと、ナパジェイの軍でさえ眉を顰めるような非人道的な実験を繰り返してクビになったのだろう。


 しかし、こんなのがゾーエの北伐を阻んでいたとは。一獲千金を夢見てゾーエの地へ旅立った冒険者の多くはこのツーコンの実験体にされて脳味噌をくり抜かれてしまったのだろう。なんと哀れなことだろうか。


「ねえ、その実験ってもう少し人道に反しない範囲でできないの?」


「人道……?」


「そう、ヒューマニズム。人の命を弄ぶんじゃなくて、新しい機械でも発明するとか、新薬を調合するとか、そういう他人の役に立つ方向で研究できないわけ? せっかく技術力はあるみたいだしさ」


「吾輩は生物学専門なのだ。機械のことはわからん」


「じゃあゾーエの新しい生き物やモンスターの研究でもしてたら?」


「そうそう、いきなり人体実験じゃなくてまずはネズミを使うとか、もう少し他人に迷惑をかけないやり方はなかったのかよ?」


「吾輩にそんなことを言ったのは君たちが初めてだ……。うむ……、新薬の開発、それなら知的好奇心を満たせそうだ」


「それじゃわたしたちが薬草を取ってきてあげる。それを……そうね、スターホールの城にいるネズミにでも飲ませて効果を確かめてから少しづつ大きい動物に変えていっていずれは人間に飲ませられるものを作ればいいのよ。いいえ、薬草採取は雑用たちにでもやらせようかしら」


「スターホールの城……、ああ、あのゾーエウルフのいる城か。いいだろう。使えそうな機材をまとめたらすぐに出発しよう」


「決断早いなオイ!?」


 ヨルがツッコむ。


 よかった、これでなんとかこのツーコンの凶行も止めさせることができるだろう。


 そして、ロケウは死ぬほど嫌がっていたが、スターホールの城にまた一人?新たな住人が増えたところで、ユメたちの北伐は少し進んだ。


 言うことを聞かせた手前、数日は森に生えている見たことのない草やキノコを色々とツーコンに持って行ってやった。


 すると、少なくともしばらくは変な薬を作ろうとしていたが、それを人間に投与する気はなくなったらしく、雑用たちに捕まえさせた城のネズミやその辺で捕まえたリスや釣った魚などで実験していた。


 それというのも、あまり変なことをやろうとすると、ロケウが黙っていないので、ツーコンもある程度おとなしくなったのである。


 どうやら、ロケウは創造主すら制御できないほど強い生き物になってしまったらしく、彼を怖れてさえいる様だった。


 ロケウは問答無用でツーコンを殺したいみたいだったが、ユメが「利用価値のあるうちは生かしておきたい」と説得して殺すのは待ってもらった。


 とはいえ、いつか殺すのは決定事項の様だが。


 特に、スイがアンデッドと人間のハーフという素性を聞いて、「ぜひ解剖させてくれ!」とか言ったときは本当に噛み殺しそうな程怒っていた。


 このように、ロケウは仇たるマッドサイエンティストに悪行を働かなくさせてくれたユメたちに恩を感じているらしい。


 さて、脅威も取り除かれた今、とうとう本当の北伐の始まりだ。

世界観補足説明

ゾーエウルフ:現実世界では絶滅しているエゾオオカミのこと。この世界ではモンスター化してまだ野生にいっぱいいるという設定です

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